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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20081006-01-0101.html
「下流」自民党への嫌悪感
2008年9月29日 AERA
前回の総選挙では、無党派層の若者が自民党を支持した。
そして格差社会が幕を開けた。今回、ロスジェネは何を思う。
編集部 澤田晃宏、野口 陽
ワイドショーで「小泉純一郎の政界引退」を知った。これまで一度も選挙に行ったことがないのに、強く思った。
「もう無関心ではいられない。次の選挙には行こう」
無職の玉城勇人さん(29)は8年前から、関東自動車工業東富士工場(静岡県裾野市)で派遣社員として働いていた。その時期は、小泉政権時代とぴったり重なる。
「働き始めた当初は工場全体の2割程度だったのに、辞める頃には全体の8割が派遣か準社員になっていました」
小泉政権下の規制緩和で、労働環境が不安定な派遣社員が激増した。
玉城さんが働く工場に昨秋、新しい派遣労働者が入ってきた。玉城さんが食堂の場所を案内すると、その男性は言った。
「玉城さんは長くここで働いているんですよね? 社員にはなれるんですか?」
その男性が、秋葉原で無差別殺傷事件を起こした加藤智大容疑者だった。
「難しいけど、頑張れば何とかなるかもしれない」
と答えたが、玉城さんは8年間で、社員登用の話を持ちかけられたことはない。
時給は下がる一方
5月下旬、派遣元から一通の封書が送られてきた。6月27日付で関東自動車工業との契約が解除される。解除後1週間は寮費を負担するが、それ以降は自己負担になる。その旨、書かれていた。
「8年間働いた結果が、この紙切れ一枚か……」
封書が届いた直後の6月8日、加藤容疑者が事件を起こした。
「彼がやったことに同情はできない。でも、会社の都合で約150人の大幅な人員削減の通達があり、みんなピリピリしていた。『作業妨害してやろう』と、みんな口々に話してました」
時給は当初、1800円だったが、以後は上がるどころか下がり、辞める直前は1300円になっていた。1カ月ごとに支給された皆勤手当も、2万円から1万円に減った。
小泉改革の「痛み」に耐えた。
封書で伝えられた解雇までの「残り時間」は約1カ月。だが、就職活動をする有休もない。新たな派遣先の紹介を受けたが、
「また一から仕事を覚え、人間関係も一から作るのは辛い。もう働く気持ちにはならない。とにかく疲れた。落ち着ける地元で、地道に就職活動をしよう」
解雇の期限が迫った6月中旬、現場を指揮する上司の社員がこびるように話し始めた。
「一気に辞められると、工場のラインが回らない。1週間だけ契約を延長してくれないか?」
俺たちはロボットなのか。
「そちらのわがままに、いつまでもつき合ってられるか!」
怒りをこらえきれず、突っかかっていく人もいた。
「俺たち、本当に使い捨てみたいな扱いなんだな」
社員が去った後、同僚の漏らした言葉が、工場内に静かに響いていた。
父に壊されたギター
朝日新聞の出口調査によれば、自民党の歴史的大勝となった2005年の総選挙では全体の2割を占める無党派層のうち41%が自民党に投票した。03年の衆院選に比べると、年代別では25〜29歳、30〜34歳で、大幅に投票率を伸ばしていた。こんな労働環境を生み出した小泉政権を後押ししたのは、若者を中心とする無党派層。投票した相手に冷たく突き放されるという皮肉な結果だったのだ。
玉城さんをはじめ、工場内で選挙に行く人はいないに等しいという。だが、もう黙ってはいられない。
「アキバ事件の報道で、初めて自分たちの置かれている状況を知って、政治に初めて興味を持つ人もいた」
その一方で、建設現場でアルバイトをするケイタさん(26)のもとには、投票用紙が届いたことがない。物心つく前に母は離婚し、教育熱心な父親に、難関校への受験を強いられて育った。反発をすれば、容赦なく暴力が飛んできた。
高校1年のとき、ケイタさんはアルバイトで貯めたお金で中古のギターを買った。バンドマンになる夢があった。
だが翌日、家に帰ると、父親の手でギターは壊されていた。数え切れないほど殴られたが、初めて父親を殴った。かばんに荷物を詰め、家を飛び出した。
カチンときた学者発言
友達の家を転々とする家出生活を始め、17歳で東京にいる先輩を頼って上京した。アルバイト生活をしながら、好きなだけ音楽を聴き、再びギターを買った。バンドの一員となって、充実したフリーター生活を送っていた。
だが、寝どころにしていた先輩が女性と同棲を始めたことをきっかけに、ネットカフェで生活を始めるようになる。
小泉政権の経済閣僚として「聖域なき構造改革」を進めた経済学者の竹中平蔵氏が、ラジオ番組でネットカフェ難民について触れ、
「1日2千円払って宿を求めるのなら、月6万円近くになるので十分アパートを借りられる」
と発言したと聞き、ケイタさんは怒りを隠さなかった。
「初期費用もあるし、フリーターだと物件を借りづらい。自分のような住所不定の人もいる。想像できないのでしょう。政治家は国民の皆さまというけど、少なくともそこに僕は入ってない。たとえ選挙権があっても、アホらしくて行かない」
いま、アルバイトとバンド活動の生活を通して知り合った女性の家を転々としている。ネットカフェからは抜け出した。
今の彼女との交際は4年になり、東京都内の6万円のワンルームマンションで同棲している。携帯電話も彼女名義だ。
「ケイタは重いリュックサックみたいだね」
などと言われることもあるが、2人は真剣に結婚を考えている。家を飛び出して9年。父親に伝えようと思った。結婚するには住民票を移す必要もある。意を決して、実家に電話した。
「おかけになった電話番号は現在使われておりません」
電話越しに、無機質な電子音が聞こえた。
胃カメラを飲んだ
一方、若年層の積極的な政治参加も見られる。『蟹工船』ブームなどの影響もあり、共産党への入党者は急増中だ。党員数は約40万人だが、昨年9月から今年8月まで1年間の新規入党者は1万600人。1994年から2004年までの10年間での増加数は約4万人だから、その増加スピードは2倍以上。「中でも若者の割合が増えている」(党広報)という。
「あのまま『ハケン』を続けていたら、死んでいた」
胃が痛くて痛くて寝付けない。布団の上で体をよじるうちに、痛みと眠さで意識が遠のき、いつのまにか昏睡している。
現在、大学2年生のケンさん(21)は、そう3年前の自分を振り返る。
入学後すぐに辞めた大学に2年間のブランクを経て昨年再入学した。辞めたのは両親の離婚で学費が払えなくなったからだ。生活費と学費を稼ぐため、派遣会社数社に登録、働いていた。
立ったままの梱包作業や品卸しの仕事が多かった。朝から働いて、サービス残業は当たり前。帰宅は日付が変わった後。徹夜もしばしばで、満足に睡眠も取れない。朝は「カロリーメイト」を口に突っ込んで電車に飛び乗ったり、駅の立ち食いそばで済ませたり。晩ご飯は夜半過ぎ。仕事はきついし、生活リズムがない。胃が痛むのも必然だった。胃カメラで検査をすると、医者にこう言われた。
「19歳でここまで荒れているのは珍しいよ」
「格差作った張本人」
金のめどをつけ大学に戻ったいま、思う。
「ほんとに全部のバランスが崩れていた。三食を定時にとる人間らしい生活が、いかにいいことかがよくわかった」
政治の世界に目を向けると、悲惨な派遣社員の実態が取り上げられるようになっていた。熱心なのは共産党に思えた。
「社会の膿の一部が、ようやく出てきた」
そう思って、共感した。ケンさんは今月、共産党に入党した。
もっとも党側も、格差問題を訴えてきたことが、支持を得た一因と分析する。今年2月、衆院予算委員会で志位和夫委員長が格差問題で福田首相(当時)を追及すると、ネット上には「やるじゃないか」などという書き込みが相次いだという。
下流たちの不遇感は、政治への怒りへと昇華したのか。
9月12日、ケンさんは通りがかったJR新宿駅前で立ち止まった。自民党総裁選の候補だった麻生首相が演説をしていた。
予想通り、派遣労働者に触れて政策の間違いを認めるような発言は一つもなかった。25日には小泉元首相が政界引退を表明した。ケンさんは言う。
「格差を作った張本人。やめてくれてありがたいなぁと思いましたよ」
本誌は9月20〜22日、東京・秋葉原、渋谷、新橋の3カ所で、街頭アンケートを実施した=右のチャート。前回と今回の総選挙の支持政党を聞いた。民主党が支持者を増やしたが、自民党支持者は減っていた。
(文中カタカナ名は仮名)