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「悪役」藤井道路公団総裁の功績
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2003年10月18日
日本道路公団の藤井総裁が、石原国土交通相による「解任」を不服として聴聞会を要求しました。役人上がりの人が任免権者である大臣の「辞表提出要請」を拒否。しかも解任を不服として聴聞会を要求するなどとは、あまり聞いたことがないのですが、藤井総裁は敢然と大臣に立ち向かったのです。
悪役のスタイル
藤井さんという人は、一連の道路公団民営化をめぐるゴタゴタの中で「悪役」でした。国会における「木で鼻をくくったような」答弁といい、ニヤニヤ笑いながらの記者会見といい、悪役の要素がそろっていたのです。小泉政権が成立して以降の悪役といえば、あの鈴木宗男さんです。あの態度や物腰は、いかにも悪役のもの。国民の10人に一人が嫌っていたのではないかと思うほど、あちこちで悪口を言われました。そして結果的に汚職で逮捕されて長い間拘置所に入れられていました。今度の総選挙で復権を狙うようですが、難しいと見られています。
藤井さんはさすがに鈴木さんほどは「粗雑」ではないのでしょうが、建設省の事務次官まで務めた人で、そこまで上り詰めるだけの能力と政治力を持った人ということで、それなりに「清濁を併せ飲む」タイプなのだと思います。もともと建設省という族議員のうるさいところにいたわけですから、その政治力は相当のものだったことは間違いないでしょう。
ところが今は、改革派か守旧派かという二元論が横行しています。この白か黒かという分け方の中では、「清濁併せ飲む」タイプの人はいちばんレッテルを貼るのが難しいかもしれません。
藤井総裁の敵役、石原大臣は、ある人に言わせれば「石原家の中で最もおもしろくない子」だそうで、昔一緒に記者をやっていた人たちの中には、「記事の書けない記者」と酷評する声すらあります。でも小泉首相によって行政改革担当大臣になって以来、石原さんのイメージは相当に上がりました。改革派の旗手といった趣すらあります。
にわかには信じがたい?
この聴聞会の直前、週刊誌に藤井さんのインタビューが掲載されました。その中で藤井さんは、石原大臣は自分を辞めさせることを政治的に利用したと主張し、何も悪いことはしておらず、むしろ道路公団を政治家の圧力から守ってきたのだと語っています。そして例の「幻の財務諸表」問題でも、そんなものは私的勉強会の中で作られたものであり、公団として債務超過の財務諸表は存在しないと答弁したのはまったく正しかった、それは扇大臣も納得していたことだと語っています。
どうもこれもにわかには信じがたい話ではあります。公団が民営化の議論に対し何かと「妨害」してきたのは事実であるようだし、誰もが債務超過で公団の経営そのものが破綻していると思っていたのに公団はそうではないという書類を提出しました。かつて国鉄を民営化するときも、結局は運賃収入だけでは運営できなくなっていて、税金で債務を処理せざるを得ませんでした。でもそれまではお金が回っているようなことを言っていたのです。道路公団が税金を投入することなく、料金収入だけでやっていけるはずがないと言っては言いすぎでしょうか。ましてや9,000キロ以上の高速道路をこれからつくっても自力で運営できるなんて夢というより妄想でしょう。
善玉? 藤井総裁
それでも藤井さんが大臣に盾突いた一つの功績はあると思います。世の中のことは黒白をつけられることはあまり多くなく、だいたいがグレーゾーンにあるということをもう一度思い起こさせたことです。もしあのまま藤井さんが辞表を出していたら、彼は悪役のままだったはずです。聴聞会をやっても、藤井さんは悪役に変わりないかもしれないけど、ひょっとすると石原さんの粗雑さが表面化するかもしれません。そうなったら守旧派はすべて悪くて、改革派はすべていいというような見方にちょっと警鐘を鳴らすことになるはずです。わたしたちマスコミもちょっとえりを正して聴聞会の成り行きを見守りたいと思います。