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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20080901-01-1301.html
政治家の切り崩し方
2008年9月1日 The Commons
去年の参議院選挙以来与党が最も力を入れてきたはずの民主党分断策が初めて形となって表に出た。民主党から3人の参議院議員が離党して、2人の自民党系無所属議員と合流し、新党を立ち上げようとした。その後1人が離党を撤回したので、参議院民主党は2人減る事になった。民主党分裂は予想通りで驚くには当たらないが、注目すべきはその規模とタイミングである。与党は「これは第一弾だ」と言っているので続きがあるのだろうが、それにしても「凄み」を感じさせない「第一弾」であった。
去年の参議院選挙で野党に権力の半分を奪われた与党は、野党の言い分を取り入れて与野党協力の政権運営を行うか、あるいは権力の半分を奪い返すために野党と対立して切り崩し工作を行うか、この二つしか道はなかった。解散・総選挙で権力を奪い返す方法もあるが、参議院には解散がないため、与党は選挙で権力を奪い返す事が出来ない。従って切り崩し工作で参議院の野党陣営から17議席を引き剥がす事が唯一権力回復の道である。
与党が衆議院で三分の二以上の議席を持っていなければ、与党は再議決が出来ないから、野党とは対立せずに協力して政権運営に当たるしかなかった。ところが幸か不幸か郵政選挙で与党は三分の二を越える議席を持っていた。与党は再議決を使って野党と対決する路線を選択した。これが「ねじれ」政治の始まりである。それは同時に水面下で野党切り崩し工作に取り掛かる事を意味した。
政治家の切り崩しに使われるのは通常「買収」と「脅し」である。大義を説いて考えを変えさせた例など私は知らない。政治家にとっての死活問題は選挙である。落選は「死」を意味するから、選挙での当選を確約する事が政治家には最も魅力的だ。そのためには「選挙資金の面倒を見る」という「買収」か、「選挙区に強力な対立候補を立てるぞ」という「脅し」か、或いは「言う事を聞けばスキャンダルは出さない」と耳元で囁く事が最も効果的である。
去年の参議院選挙後、私は「与党が最も力を入れているのは野党議員一人一人のスキャンダル情報の収集である。それも本人だけでなく家族、親戚にまで範囲を広げてスキャンダルを探しているはずだ」と言ってきた。それがこれまで私の見てきた権力の常套手段だからである。スキャンダル情報を集める目的は暴露するためではない。暴露しないからこそスキャンダルは価値がある。スキャンダル情報を握っていれば誰にも知られずに政治家を動かすことが出来るのである。
1986年に衆参ダブル選挙を仕掛けた中曽根総理の党内切り崩し工作は見事だった。中曽根派以外の全派閥がダブル選挙に反対する中、中曽根総理は「脅し」と「買収」を使い分けて派閥切り崩しを行った。まずは最大派閥の竹下派をターゲットにした。竹下大蔵大臣のスキャンダルが写真週刊誌に報じられて竹下氏の姿勢が一変する。竹下氏がダブル選挙に同意するとスキャンダル報道も下火になった。次いで田中角栄氏が病に倒れて後ろ盾を失った二階堂グループが切り崩された。「選挙資金の面倒を見る」というのが口説きの決め手だった。中曽根総理の意を受けて竹下氏が盟友関係にある安倍晋太郎氏を説得し、金丸幹事長も賛成に転じて反対は宮沢派だけになった。中曽根派だけの賛成が半年も経たないうちに宮沢派だけの反対に変わった。こうして衆参ダブル選挙が実現した。
参議院選挙惨敗後の自民党は86年のダブル選挙とは比べものにならないほど逼迫した状況にある。与野党協調路線をとらずに野党切り崩しの道を選んだ以上、党を挙げて切り崩し工作に全力を傾けるだろうと、その手腕に注目していた。その結果が今回の「第一弾」である。いささか拍子抜けした。離党届を出した渡辺秀央、大江康弘の両参議院議員はかねてから反民主党的行動を取っており、いわば離党予備軍の主役である。この2人以外の議員が離党して、2人が離党していなかったら今回の離党劇には「凄み」があった。後に続く人間がまだ居る事を確信させたからである。しかし主役が先に飛び出したのでは余りに軽い。「他に居るの?」と思わせてしまう。
次にタイミングである。小沢代表の代表選出馬表明にぶつけたと言われるが、それならただの嫌がらせである。打撃にならない。臨時国会が始まれば海上給油法案など民主党分断につながる格好の材料がいくつもあり、離党がもっとインパクトを持つタイミングがあったはずである。しかしそれよりも前に仕掛けをした。仕掛けが早すぎたのか、それとも「買収」と「脅し」が効かなかったのか、姫井由美子議員は1日で離党を撤回した。
これまで与党幹部が口にしてきた民主党分断の最大のタイミングは衆議院選挙で民主党が過半数を取れなかった時である。小沢代表の責任論を浮上させ、執行部に不満を持つ勢力が批判の声を上げた時、政界再編を仕掛けるというのがシナリオだった。それまでにスキャンダルも含めて切り崩しの材料を溜め込んでいるのだろうと私は見ていた。今回の「第一弾」はその時の「受け皿」作りを狙ったのかもしれない。しかしこれでは逆に警戒され封じ込められてしまう可能性がある。
次の衆議院選挙で与党が過半数を獲得し、民主党の政権交代が実現出来なかったとしても、与党が三分の二を越える事は難しい。再議決はなくなる。参議院で否決されれば全ての法案は通らない。圧倒的に野党に有利な国会になる。そうなれば参議院の野党を切り崩す事は今より難しくなる。政権交代が出来なかったことで小沢代表の責任論が浮上したとしても、民主党が衆議院で倍以上の議席数を獲得する事は確実だ。それが民主党分裂の引き金になると考えるのは相当に無理がある。しかし与党の考えはそうではない。何か秘策でもあるのだろうか。
何があるかと考えると、やはり北朝鮮から拉致被害者を帰国させる事しか考えられない。前回のコラムでその事を書いた後、福田総理が拉致被害者の帰国を第一目標に外務省幹部にはっぱをかけているという報道があった。日本の自主的な外交努力で拉致被害者が帰国できればそれは本当に喜ばしい。しかしそのためにアメリカにお願いをし、アメリカにすがりつく事になると、また別の問題が派生する。金融不安にあえぐアメリカ経済の尻拭いをさせられかねない。それともそれでもやろうというのだろうか。
(田中良紹)