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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20080822-01-1301.html
奇妙な夏がまた来た
2008年8月25日 The Commons
去年の8月は奇妙な政治が進行していた。参議院選挙で惨敗した後だけに緊張感を持って政権運営に当たるべき総理が、自分の思い通りに臨時国会の召集が出来ず、何の指導力も見せないまま沈黙を守っていた。「改造人事に時間がかかるのは身体検査があるから」などと馬鹿げた解説が横行し、小池百合子防衛大臣(当時)だけがアメリカでこれ見よがしの派手なパフォーマンスを繰り広げていた。
その事を「弛緩国家」と題するコラムに書いた。尋常でない緩んだ政治が日本を覆っていると思ったからである。その中で、与党には(1)臨時国会の召集を意図的に遅らせ、(2)インド洋での海上給油活動を期限切れにし、(3)海上自衛隊を引き上げさせて、(4)その責任を民主党に押し付け、(5)そのことで民主党を分断する狙いがある、との見方を書いた。与党が参議院選挙惨敗から失地回復するには民主党分断以外には方法がないからである。
海上自衛隊が引き上げる際、安倍総理は国際社会に対する責任が果たせなかった事を理由に辞任表明し、そのことで民主党の小沢代表にも責任論が浮上するシナリオが練られていると私は見ていた。小沢代表のクビを取る為に安倍総理が犠牲になるシナリオである。ところがそうなる前に安倍総理が政権を投げ出し、シナリオは不発に終った。安倍総理には受け入れ難いシナリオだったのだろう。シナリオに対する反発がみんなを困らせる代表質問直前の辞任になった。
今年も8月が巡ってきた。私の目には再び奇妙な政治が映っている。去年、安倍総理は8月末に臨時国会を召集しようとした。海上給油を継続するためには再議決の時間を織り込む必要があったからである。これに反対したのは二階国対委員長ら与党である。召集は9月10日にずれ込んだ。これで海上自衛隊のインド洋からの引き上げが決定的になった。海上自衛隊は11月にいったん引き上げ、国会で法案が再議決された今年1月に再びインド洋に派遣された。従って今回の期限切れは来年の1月中旬である。
今回は時間的余裕があるというのに与党は8月末に臨時国会を召集しようとした。再議決を前提とした召集案である。与党が衆議院の数の力で国会を押し切ろうとすれば、野党は参議院の数の力で押し返すしかない。国会は対決一色になり、民主党が準備してきた自公分断策が飛び出す事になる。参議院で矢野絢也元公明党委員長や池田大作創価学会名誉会長の国会喚問が実現する可能性が出てきた。これに公明党が反応した。
公明党は再議決を前提とした海上給油法案の成立に難色を示し、臨時国会の会期をなるべく短くして国民生活に関わる国会にするよう求めた。もとより公明党が賛成しなければ再議決は成立しない。この時点で海上給油法案の継続は事実上不可能となった。民主党とも折り合える国際貢献策を考えざるを得なくなった。
前の臨時国会で海上給油に代わる国際貢献案として民主党が主張したのは、アフガニスタンにおける国連主導の治安維持活動への協力である。これに対して与党は「海上給油の方がリスクが少ない」事を理由に反対した。私は日本の自衛隊を「軍隊」だと思っているので、リスクの多少を理由にする考え方に怒りを感じた。警察官や消防士もそうだが、兵士は生命の危険を顧みずに職務を遂行する職業である。リスクのない仕事を求める軍隊は恥ずべき存在で国際的にも評価されるはずがない。
そもそも日本が行う海上給油は日本国民の税金でアメリカから買った油を無償で外国に提供する一種の経済支援である。これは冷戦後のアメリカの対日戦略に基づいている。かつての日本はアメリカに自国の安全を委ねることで、より一層の経済成長に邁進した。日米同盟が死活的に必要であった冷戦時代にはそれが可能であった。日本は軍事に金をかけず、せっせと金を貯め込んだ。しかし冷戦後は状況が一変する。アメリカは冷戦の間に日本が貯め込んだ金を吐き出させる戦略に転換した。
巨額の兵器購入や米軍再編に関わる資金協力など日米同盟が財政支出を増大させる一方で、郵政民営化に見られるように世界屈指の金融資産を狙う動きも激しくなった。今や日本は戦後に蓄積した資産を世界から狙われる最大のターゲットとなっている。かつて日本は湾岸戦争に1兆円を越える資金提供をして馬鹿にされたが、実は海上給油もなんらそれと変わらない金だけの支援なのである。当時のアメリカは日本を大国だと錯覚したから金だけの貢献を馬鹿にしたが、今では金を引き出す対象だと見下しているので海上給油は評価される。
福田総理は去年10月の大連立騒ぎで一時は「民主党の安保政策を丸呑みする」事を決断した。民主党とは接点を持てるはずなのである。ところがここに来て海上給油法案の継続にこだわりを見せ始めた。そのせいか臨時国会の日程も決まらないままの状態が続いている。これが私の目には奇妙な政治と映っている。公明党の要求に耳を貸さず、民主党との対決路線をも辞さない理由とは何なのか。それほどのリスクを犯しても余りある何かが用意されているということだ。
最近の政治の動きを見て想像されるのは、北朝鮮の拉致再調査の動きと連動している可能性である。この問題では今年秋までに再調査を終了させることで日朝の実務者同士が合意した。秋というのが何時のことかは分からないが、再調査の結果、何人かの拉致被害者が帰国すれば、支持率が低迷する福田政権にとって逆転満塁ホームランになる事は間違いない。北朝鮮との国交正常化交渉にも道が開ける事になる。北朝鮮の金正日総書記にそれを決断させるには、アメリカの全面的協力が不可欠だ。そのためにアメリカは北朝鮮のテロ指定国家解除をいったんは見送り、北朝鮮に圧力をかけていると見ておかしくない。それならば福田政権はアメリカが求める海上給油を何としても継続するだろう。
最近、山崎拓前副総裁が北京の北朝鮮大使館を訪れて非公式会談を行ったり、シェーファー駐日大使と麻生幹事長が会談している様子を見ていると私にはそのような想像が湧いてくるのである。しかしそれらは全て日本独自の外交というより、金正日総書記やブッシュ大統領など外国に全面依存する以外には実現されない。拉致問題がいくらかでも解決するのは喜ばしいが、私の想像の通りだと日本の政権が外国に頭が上がらなくなるという深刻な問題もまた起こるのである。
私の想像が真夏の夜の夢と消えるのか、それとも現実となって現れるのか、もうすぐ分かる事になる。
(田中良紹)