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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20080811-01-0101.html
「麻生・野田」総選挙の勝算
2008年8月4日 AERA
麻生氏を幹事長に、新設の消費者行政推進担当相に野田氏を抜擢した。
次期総選挙での劣勢が伝えられてはいるが、攻勢に転ずるか。
自民党の新幹事長に就いた麻生太郎氏(67)の様子からやる気が伝わってきた。8月1日夕、自民党党本部で行われた就任記者会見でのことである。
この10カ月間、麻生氏は「雌伏の時」を過ごしてきた。昨年9月に行われた自民党総裁選で福田康夫首相(72)に敗れた麻生氏は、福田首相からの入閣要請を固辞し、表舞台から姿を消した。無役となった後、麻生氏は全国を講演してまわった。
火中の栗を拾った麻生
だが、未曽有の国難と自民党を取り巻く難局が背中を押したのだという。資源高や食糧高など国民生活を直撃する世界的なインフレの波及。参院を制する民主党との国会でのねじれた力関係。福田政権の支持率の低下。
「自分の個人的な趣味、話を超えて、政治家としてこたえる義務と責任があると思っている」
そんな憂国の想いが決断を促したのだと会見で言及したが、一方で率直にこうも語った。
「火中の栗を拾うのはどうかという意見もあったし……」
支持率が低迷する福田政権の舵取り役。公明党からは「年内には解散を」とのプレッシャーもかかる。その中で麻生氏はあえて「火中の栗」を拾った。
ある自民党幹部はこう言っている。
「ポスト福田を狙う人としては、福田内閣と一蓮托生となるのによく受けたなという印象だ。存在感を示したい思いと、党を立て直したいという思いがあるのだろう」
麻生氏と若い頃からの知り合いという外交ジャーナリストの手嶋龍一さんは麻生氏を、
「頼まれたら断れない人」
と評した。
「麻生さんはいわば『旗本退屈男』。かつて宏池会では少数派閥で冷や飯を食わされ続けてきたのに、そもそもその自覚がないほどおおらか。マンガとゴルフ、ライフルなど趣味も多彩でそれ故、ねじ曲がらずに冷や飯を食い続けることができるのでしょう」
67歳のお坊ちゃんは、新聞、テレビが「今日内閣改造」と報じた8月1日早朝、山形県にいた。夫人との水入らずの夏休みで、2日前から県内の保養地を訪れていた。
洞爺湖サミット後から現実味を帯びはじめた内閣改造・党人事。着手の時期については当初「お盆明け」との見方も強かったが、あれよあれよという間に1日に繰り上がった。麻生氏は夫人を残したまま、滞在を切り上げざるを得なかった。
禅譲狙いとの見方も
朝一番の新幹線に飛び乗り午前9時半に東京駅についた麻生氏は、自宅でグレーのスーツと水色のシャツに着替え、首相公邸へ向かった。福田首相との40分間に及んだ会談で、幹事長就任を依頼された。
午後4時、麻生氏は党本部で行われた総務会で居並ぶ幹部と詰めかけた報道陣に、得意のジョークを交えて挨拶した。
「この度総裁から、改めてというのか、新しくというのか幹事長に任じられた麻生太郎です。この10カ月ねじれ国会で厳しい党運営を自民党は迫られてきました。状況は今も変わっていない。新体制ですべてうまくいくなんてありえない。全力を挙げて結党以来の危機に立ち向かっていく」
期待の声は大きい。自民党副幹事長の菅原一秀衆院議員は、
「今の自民党に一番必要なのは、ムードを変えること。笑い声を響かせて明るさが漂う麻生さんは最適だ」
と手放しのほめようだ。
ある自民党幹部は「政権の禅譲」を念頭に、幹事長ポストを引き受けたと見る。
「麻生さんも福田政権では選挙に勝てないと思っている。福田首相が解散をせず、政権を禅譲することを条件に引き受けたとも考えられる」
かくしてポスト福田にぴたりとつけたように見える麻生氏とともに、党新四役に選ばれたのは総務会長が笹川尭氏(72)、政調会長が郵政造反組だった保利耕輔氏(73)、選対委員長は古賀誠氏(67)(留任)。党総裁の福田首相を含めた5人の平均年齢は70歳だ。今回の内閣改造・党新四役の人事をみて民主党の若手議員は「シルバー布陣」と揶揄した。
小泉改革との決別
閣僚人事の注目ポイントは、財務相に就いた伊吹文明氏(70)と経済財政担当相に就いた与謝野馨氏(69)だろう。
財務省の元局長級はこの人事を聞いて開口一番こう語った。
「総理が軸足を移したということですね。いままで上げ潮派と財政再建派の間でバランスをとっていた総理が一方に軍配をあげたということでしょう。今後消費税の増税を含めた財政再建が議論されてゆくことになると思います」
永田町・霞が関ウオッチャーの間で同様の見方をする人は多い。これまで福田首相は、小泉&竹中構造改革路線に連なる「上げ潮派」と、麻生、与謝野両氏ら古い自民党の体質を引きずる「財政再建派」の二頭立ての馬車に乗っていたが、手綱を一方に切り替えたと見られている。竹中平蔵氏の腹心だった元官僚が、
「霞が関に埋蔵金が存在しないという立場の与謝野さんが就いたので、増税の方向に持っていかれるだろう。今回の顔ぶれはすっかりオールドで、ギアをバックに入れた印象だ」
と冷ややかに言えば、与謝野氏のブレーンはこう切り返す。
「上げ潮陣営は福田政権を支えるようなことをしてこなかった。総理は与謝野さん的な考え方に、実はシンパシーを強く抱いていたので、それが自然な形で出たのだと思います」
政治アナリストの伊藤惇夫さんもそうした流れを的確にとらえる。
「伊吹さんと与謝野さんの起用からは、財政を再建しようという意図が読みとれます。上げ潮派を軽視し、小泉改革との決別をしたのでしょう」
古い自民党に戻ったような福田改造内閣の「シルバー」布陣は、日本で急速に進む「老人支配型」民主主義にぴたりと照準をあわせているようにも見える。すでに日本の有権者の平均年齢は約53歳に達し、2、3年おきに1歳ずつ高くなる。民意の重心は税金を払う中堅世代の中核納税者ではなく、社会保障を受ける高齢者サイドに移っている。もはや国内政治の喫緊の課題は、年金と老人医療や介護保険である。消えた年金問題で前回の参院選で大敗したことから、近づく衆院選では最大の票田である老人層にいかにアピールするかが課題となる。
野田登用は郵政票意識
増大する社会保障費を捻出するには、特別会計など霞が関の埋蔵金だけでは足りない。
「老後を不安視するお年寄りたちに安心を保証する上で、もはや増税は避けられないという主張は受け入れられやすいのではないか」
と先の財務省元幹部は言う。
財政再建の転換が迫られる一方、総選挙が間近に迫る。切り札は人気を誇る麻生氏しかいなかった。
政調会長に保利氏、消費者行政推進担当相に野田聖子氏という郵政造反組を取り込んだのは、7月16日の民主、国民新党による党首会談が大きく影響しているようだ。民主は衆院選の公約に郵政民営化の見直しを掲げたが、党首会談には全国郵便局長会(全特)の幹部も同席していた。郵政票の争奪戦がすでに始まっているのに加え、郵政の支持団体はもはや自民からは離れた。
「すぐに手を打たないと厳しい」
自民党幹部は郵政票が流れることに危機感を抱いている。
自民にとって、郵政票の「命綱」が郵政選挙での造反組だった野田氏、保利氏だったのだ。
造反組の取りこみからも古い自民党への回帰がうかがえる。
麻生人気は虚像か
300議席を超える自民党が、不人気の福田内閣のもとで衆院選で議席を増やすことは難しい。減ることが確実ななかで、減り方をどう抑えるか。
「福田内閣であるかぎり福田vs.小沢の構図は変わらない。総理に国民的な人気がなく、これは小沢代表にかなり有利だ」
と政治評論家の森田実さんは言う。
同じく政治評論家の浅川博忠さんも、自民党のオールド回帰路線が果たして成功するのかどうか、疑問視している。
「麻生さんは、小泉さんがぶっ壊した自民党を元に戻すと言ったので、改革派からは反発を買っています。古い自民党に戻るというイメージでは、改革派から反発を受けて失敗する可能性があります」
その上で永田町で鰻登りの麻生人気にこうクギを刺した。
「麻生さんの支持率というのは虚像のようなものです。人気先行ですが、政治家としては救世主となるほどの人望がないように思えます。派閥が20人弱という事実が、まさにそれを物語っています」