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2008年6月13日 (金)
「大阪維新プログラム」への疑問
「神州の泉」主宰者の高橋博彦様、貴重な見解を公開くださいましてありがとうございました。また「植草一秀氏を応援するブログ」へのメッセージならびに同ブログ主宰者様の対応、誠にありがとうございました。また、「カナダde日本語」の美爾依様、貴重なご意見をありがとうございます。心よりお礼申し上げます。
本ブログではさまざまなテーマについて記述していますが、より良い日本社会を実現するために、現実を直視して、現実のなかに潜む巨大な悪の存在をしっかりと認識することが必要だと考えています。
私たちは社会的な存在であり、社会と無縁に生きてゆくことはできません。人の社会的関係に影響を与えるのが「情報」であり、「情報」に圧倒的影響力を持つのが「メディア」です。
望ましい社会を構築するための具体的提言はもちろん重要ですが、健全な論議を行う土壌となる言論空間のあり方を考えることは、前提条件を整える意味で重要性を持っています。
情報がどのように操作されるのか、情報操作がいかなる問題を生み出すのか。政治権力と情報操作の問題は、現代社会を考察する際に、避けることのできない重大な問題であると考えます。
本ブログで「メディア・コントロール」の問題を重視している理由はこの点にあります。個別ブログの問題について、私が意見を述べることを煩わしいと感じられる読者も多くおられると思います。しかし、それは単なる衝突、いさかいではなく、もっと根の深い問題であると考えて、私は情報を発信しています。
その記事のなかに、諸問題に対する私のメッセージを盛り込んでいます。単なる反論文章としてではなく、諸問題に対する私の考え、メッセージとしてお読みくださるようお願いいたします。
なお、6月12日付記事として「「福田首相問責決議可決報道」について」もアップしておりますのでご高覧ください。
大阪府知事に就任した橋下徹氏の財政再建への取り組みが大きく報道されている。新聞各社は世論調査を実施して、橋下知事の政策運営を支援しているように見受けられる。
素朴な日常感覚として、財政赤字の縮小を望ましいと考えるのが通常の判断である。しかし、橋下氏の財政健全化政策の支柱の一つとされる人件費抑制の手法には強い疑問を感じる。
財政赤字は言うまでもなく政府支出と政府収入の差額から生じる。財政赤字が大きくなると、予算編成の自由度が低下する。柔軟な財政運営を可能にするために、財政赤字を低水準にとどめることが望ましいと考えられている。とりわけ、地方財政の場合、財政赤字が拡大して、財政再建団体に指定されると、財政運営の自主決定権が失われる。したがって、地方政府は財政再建団体への移行を回避しようと努める。
収支を改善するためには、支出を減らすか、収入を増やすかのどちらかが必要になる。経常的に収入を拡大させる主要な方策は増税だが、増税を実現することは容易でなく、結局、一時的方策として資産売却を進める以外では、支出削減が財政収支改善の主たる方法になる。
橋本知事が6月5日に発表した「大阪維新プログラム案」では、今年度に財政再建効果1100億円を見込んだ。内訳は、一般施策245億円、建設事業75億円、人件費345億円、歳入確保435億円になっている。歳入確保策のなかには185億円の府債発行も含まれている。
財政の無駄は徹底的に削減するべきである。政府の無駄を切る意味での「小さな政府」に反対する府民はいないだろう。問題は、何が無駄で何が無駄ではないかの判断だ。橋本知事案の大きな特徴は、大型開発事業を継続しつつ、人件費を大幅に切り込んでいることだ。
府職員の人件費カットに反対する府民は少ないはずだ。行政サービスの質が変わらずに赤字だけが減ると思われるのだから、反対する理由がない。世論調査をすれば「支持する」が圧倒することは明白だ。だが、この手法には強い疑問を感じざるを得ない。
人員が余剰であるなら、人員削減を図るべきである。最小の人員で最大の行政サービスが提供されるのは理想的な姿だ。しかし、給与水準の引き下げが人件費削減の中心であるなら、単純に是認することはできない。給与水準は「価格」であって、「価格」は基本的に市場が決定するべきものだからだ。
府職員の賃金は労働市場のさまざまな要因によって決定されている。府職員に財政赤字拡大の原因があることが明白なら、懲罰的な賃金削減が正当化されるかも知れないが、大阪府の場合にその立証はなされていない。
破産企業の従業員だから、賃金カットは当たり前だとする橋下氏の主張はあまりに乱暴である。府民の支持を受けて知事に就任しているのだから、知事の言うことを聞けない職員は辞めてもらって結構と言うのも、筋が通っていない。府民は橋下氏を行政を司る職位に就けたのであって、橋下氏に独裁者としての地位を付与したのではない。
労働者の権利は相応に守られる必要がある。大阪府職員の賃金水準はこれまでの長い経緯のなかで定められてきたものであり、府知事といえども自分の裁量だけで自由に変動できる性格のものではない。労働者の賃金カットを望む財界関係者は、この手法が世論に支持される状況を大歓迎するだろう。しかし、その政策の延長上に「格差問題」の深刻化が広がることを忘れてはならない。
中期的に適正な人員を実現することを目指すのは当然で、先に述べた意味での「小さな政府」を目指すことは正しい。また、さまざまな冗費の排除を進めることも正しい。しかし、一般職員の賃金カットが優先されることは順位付けの誤りだと思う。職員の賃金カットより、天下りの禁止、天下り機関への補助金投入廃止を優先するべきである。
一般支出削減や施設売却の対象選定にあたっては、政府の役割を根本から見つめなおすことが不可欠である。35人学級廃止や警察官削減を掲げながら、強い反論が生じるとすぐに撤回するなどの行動を見ると、支出削減対象の選定が十分に吟味されたうえで示されたものでなかったことが分かる。
府職員の賃金引き下げを振りかざすより、府職員の労働の質を向上させることが急務であるとも思われる。同じ賃金の職員が提供する行政サービスの質が大幅に向上すれば、支払われる賃金のサービス当たり単価は低下するのだ。
巨大な投資プロジェクトに関しては見直しが十分に進んでいないとの指摘が多く聞かれる。財政健全化に向けての取り組みは重要であると思うが、その手法が正しい原理原則に則しておらず、安易な人気取りに依存しすぎていると感じられる。
府職員の賃金を大幅にカットする財政赤字削減策を一般府民が歓迎するのは当然で、その大衆人気をメディアが煽りたて、橋下知事を意図して支援する姿は極めて不自然だ。次期総選挙では大阪府も与野党激突の主戦場になる。政権与党の思惑が橋下氏報道の裏側にあることは疑いようがない。財政健全化に関する論議が正当に十分展開されることが強く望まれる。