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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20080527/152411/
ダビング10が行き詰まるのも著作権制度がパンクしているから
2008/05/27 09:30
竹居 智久=日経エレクトロニクス
最近,継続的に取材している会議があります。内閣官房の知的財産戦略本部が2008年4月から開催している「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」です。デジタル化やネットワーク化が進む中で,著作権や特許権といった知財制度がどうあるべきか調査,検討することを目的とするこの専門調査会の議論がとても面白いのです。
どう面白いのか。それは,「今の法律や制度をどのように微調整するべきか」を短期的な視点ではなく,デジタル化やネットワーク化によって情報流通の枠組みが大きく変わったことを前提に,問題点を根本から議論している点にあります。例えば,米国の著作権法にある「フェアユース」のような規定が新しい技術やビジネス・モデルの出現にどう寄与しているのか,「YouTube」や「ニコニコ動画」などで見られる他人の創作物を相互に利用し合いながら創作するような新しい創作形態への対応,一時的に情報を蓄積するサーバーを設置できないために「Google」のような検索サービスを国内で実現できない可能性があるといった問題への対応など,現行の著作権制度で起こっている具体的な問題点を基に,将来のあるべき姿について議論を進めています(第1回会合に関するTech-On!記事)。
この専門調査会の会長に就任した中山信弘氏(2008年3月に東京大学 法学政治学研究科・法学部 教授を退官,現在は西村あさひ法律事務所 顧問)は以前,日経エレクトロニクスのインタビューで,「現在の著作権法がパンクしてしまっているのは誰の目にも明らか」と語っていました。プロのクリエーターとプロのメディア企業との契約を想定していた著作権法が,誰もが著作権に関係するようになった現状に合わなくなっているというのです。この問題は「日本だけでなく世界中の国が困っている」(中山氏)ことであり,第1回会合で中山氏は「ここでの議論が,今後の著作権制度を考える上での根幹になる」と強い意欲を見せていました。
「ダビング10」問題も議論してほしい
先日,この専門調査会の第2回の会合があったのですが,今思うと一つだけ残念なことがあります。2008年6月末にまとめる予定の「知的財産推進計画2008」に盛り込むことを想定した「早急に対応すべき課題」に,「ダビング10」や「私的録音録画補償金制度」などの問題が入っていなかったことです注1)。
注1)第2回会合で事務局は,早急に対応すべき課題として,(1)検索サービスの適法化,(2)通信過程における一時的蓄積の法的位置付けの明確化,(3)研究開発に係る著作物の利用の円滑化,(4)コンピュータ・プログラムのリバース・エンジニアリングの適法化,という四つを提示した(第2回の議事録を掲載したWebサイト)
ここしばらく,「コピーワンス」からダビング10への変更と,私的録音録画補償金制度の見直しという二つの議論が交錯し,混乱に陥っている状況が続いています。これらの議論をそれぞれ主導してきた総務省や文化庁だけでなく,経済産業省も関わり始めたといいます(Tech-On!の関連記事)。この問題の解決のためには上記の専門調査会のような,省庁の枠を超えた場での議論を国が主導することが必要だと思うのです。早急に対応すべき課題として取り上げられなかったのは少し残念でした。
コピーワンス見直しの議論が続いていた2年前にも本欄で同様のことを書きましたが,「地上デジタル放送における視聴制御やコピー制御は何のためのものなのか」「私的複製に課す補償金の目的は何なのか」といった理念がないままでは,いくら調整しようとしても関係者が納得しないところまで来てしまったように思います(2006年3月10日のNEブログ)。こうした問題こそ,「知的財産の創造,保護及び活用のために政府が集中的かつ計画的に実施すべき施策」(知的財産基本法)を提示する役割を受け持つ知的財産戦略本部が,国としてどのような目的を持って,どのような制度にするかを考えるべきではないでしょうか。
「これまで何年間にもわたって議論してきた成果を破棄して,さらに時間をかけるのか」という反論もあると思います。しかし,私的録音録画補償金制度にしてもダビング10にしてもこれまでの議論は結局,それぞれの立場の代表者がほとんど変わらない主張を繰り返してきただけに近いように筆者は思います。例えば著作権法の研究者である法政大学 准教授の白田秀彰氏は,私的録音録画補償金について,「補償金などと言わずに,『複製機器によって従来のビジネスが脅かされている人をソフトランディングさせるための利益分配制度だ』と正直に説明すればいい」と話していました(日経エレクトロニクス2007年12月17日号のインタビュー記事)。こうした意見のように,制度の意味を適切に説明できるようにするための根本からの議論が求められている気がしてなりません。