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http://mainichi.jp/area/fukui/news/20080423ddlk18070585000c.html
支局長からの手紙:どげんかせんと、医療崩壊 /福井
蒙(もう)を啓(ひら)かれた思いがしました。20日に県自治会館(福井市西開発4)であった「医療崩壊」の問題を考える公開講座で、本田宏医師(53)の講演を聴いた感想です。講演のエッセンスは21日の福井面で紹介しましたが、この問題にもっと関心を持っていただきたいと思い、小欄でも取り上げることにしました。
本田医師は埼玉県の済生会栗橋病院副院長で、NPO法人「医療制度研究会」の副理事長も務めています。精力的な活動を支えているのは、「医療崩壊は、日本の崩壊の氷山の一角」との信念。熱いハートを持った医師ですが、ユーモアたっぷりの話しぶりに、ぐいぐい引き込まれました。
講演のタイトルは「医療体制の現実を見つめて、道路と命どっちが大切ですか」という刺激的なもの。本田医師は「道路をつくっても、その先に病院がなかったら何にもならない。(ガソリン税の暫定税率を維持し、道路建設を声高に主張する)九州の有名な知事も、どげんかせんと」と笑わせながら、半端ではない人員不足や過酷な業務内容など、医療現場の深刻な実態を訴えました。
本田医師の説明では、日本の医師の総数は約26万人。これに対しOECD(経済協力開発機構)加盟国の平均は約38万人。ただし、諸外国ではフルタイム勤務でない高齢の医師や引退した医師はカウントしていないのに、日本では医師免許を持ったすべての人をカウントし、65歳以上の医師が4万人にも上ります。このため、真にOECD平均と比較すべき数字は26万人から4万人を差し引いた22万人となり、実に16万人も不足している計算です。「将来、医師の数は余る」と思っていた私には驚きの数字でした。
また、日本は世界一の高齢化社会にもかかわらず、国民1人あたりの医療費は先進国の中で一番低い(自己負担額は世界最高!)実態も初めて知りました。国(官僚)は、近年の公共事業費の大幅削減と社会保障費の上昇を盾に医療費抑制を図っていますが、これも本田医師にかかると、「公共事業費は減ってもまだ世界一。社会補償費はOECDの平均にも満たない」と一刀両断。「国は情報操作から、今や、情報隠ぺいをしている。正しい情報を知らされなければ、(医療制度はどうあるべきかの)正しい判断はできない」と力説していました。メディアの役割の重要性にも触れられ、もっともっと掘り下げた取材・報道の必要性を痛感しました。
後期高齢者(長寿)医療制度の混乱が続いています。しかし、お上に逆らわないおとなしい国民性のゆえか、デモなどの具体的な抗議行動は起きていません。本田医師は医療現場からSOSを発しながら、経済優先で格差がどんどん広がる日本社会の現状と行く末を憂えます。講演の最後に語った言葉が印象的でした。「日本は『富国強兵』から、戦後は『富国強経』の国になった。だが、これからは『豊国幸民』の国にならなければいけない。この場合の『豊か』は、心の豊かさのことでもあります」
この日の講演の模様はDVDになります。問い合わせは光陽生協病院(0776・24・5009)の平野治和院長へ。また、昨年3月に広島市で開いた講演を広島県医師会のホームページ(ビデオコーナー)で見ることができます。【福井支局長・新土居仁昌】
hiro.niidoi@mbx.mainichi.co.jp
毎日新聞 2008年4月23日 地方版