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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20080421-01-1301.html
奇妙な政治を懸命に読む
2008年4月21日
なんとも奇妙な政治が進行している。総理大臣がこれまでの主張を覆して道路特定財源の一般財源化に言及しても、それが政府与党の正式決定とはならず、またガソリン税の暫定税率が期限切れとなって日々税収が失われているのに、政府は極めて冷静で慌てる様子もない。口では困ったと言うが必死になって打開するそぶりを見せない。4月末の再議決が既定路線のように言われ、与野党から共に「決戦」の掛け声だけは上がっているが、どこにも緊迫感が感じられない。
現在の政治は従来の常識では図れない「高等数学の世界」と言われているので、これまでの動きをもう一度整理して頭を冷やして考えてみたい。
大前提は昨年の参議院選挙の結果である。日本の政治に二つの権力が生まれ、政府与党の思い通りにはならない状況が現れた。与野党に共通した政策しか実現できない構造である。言い換えれば選挙で掲げた党独自のマニフェストは通らない。予算も関連法案が通らないと執行できない可能性がある。人体で言うと血液の流れが止まるかもしれない状態に日本はある。
その大事な予算関連法案の中で与野党の意見が対立する暫定税率が丁度今年の3月末で期限切れを迎えた。与党は暫定税率を10年間延長して道路建設を行う事が国民生活のためになるという立場。野党は暫定税率を廃止してそれを国民に還元する事が国民生活のためになるという立場である。双方が自説に固執すると血液の流れが止まることになる。
暫定税率の議論は衆議院の財務金融委員会と総務委員会で2月22日から始まった。2つの委員会にまたがるのは暫定税率による税収が国と地方にまたがるからである。そしてもうひとつ2月22日に国土交通委員会で道路財源特例法案が審議入りした。これは暫定税率分を含む道路特定財源を今後10年間道路建設に充てるための法律である。この3つの委員会で法案が通らないと政府与党の方針は実現しない。
財務金融委員会と総務委員会の法案は予算案と同じ2月29日に可決されて参議院に送られた。ところが国土交通委員会だけは法案の採決を見送った。これがこの政局を読み解くための鍵になる。つまり政府与党は暫定税率の再議決を4月29日以降と想定しながら、その税収分を道路建設に充てる法案の再議決時期をそれより先にずらしたのである。結果的に国土交通委員会の採決は3月12日となり再議決の時期は5月12日以降となった。
政府与党が本気で道路特定財源と暫定税率を維持し、10年間で1万4千キロの道路を作り続けるつもりならこんな事はしない。そこから道路族とは異なる政府の狙いを読み解かなければならない。問題は道路族と野党の主張との間でどこに着地するかである。表向き衆議院優位と言いながら実は参議院に大いなる権力を与えている日本国憲法の下では、参議院を握った野党は強気である。一方で利権に生きてきた道路族は表の勝利を求めているわけではない。敵に勝利を与えながらどれだけ骨抜きにして利権を守るかだけを考えている。だから道路特定財源の維持、暫定税率の10年延長、道路中期計画の完全履行という表の看板は交渉の道具に過ぎない。そうした中で3月27日、福田総理は平成21年度からの道路特定財源の一般財源化に言及し、野党との修正協議を求める姿勢を示した。
ところが奇妙なことに閣議決定と総務会決定という二つの機関決定はなされなかった。総理の個人的考えに過ぎないということになる。これでは野党は修正協議に応じられない。
これまでの政治の常識では暫定税率期限切れぎりぎりに党首会談がセットされ、混乱回避を大義名分に大胆な妥協が図られるのが普通だった。しかし今回はそれに見合う舞台装置が作られなかった。今回想定された大胆な妥協とは今年からの一般財源化と来年度からの暫定税率の環境税などへの移行である。それが落としどころになるというサインを双方は何度も発信している。しかし道路族との調整がつかないため機関決定が出来ない事態となった。こうして4月1日、暫定税率は期限切れとなる。
暫定税率が期限切れとなる中での第二幕が始まると、メディアはこれで4月29日以降の再議決が確定し、その直前に行われる山口2区の補欠選挙の結果が事の帰趨を決めると騒ぎ出した。これは奇妙な話である。第一に4月29日以降の再議決とは参議院で野党が法案を否決しない事が前提になる。否決をすれば与党は速やかに衆議院で再議決が出来る。仮に与党内に再議決に造反する動きがあり、かつ山口2区の補選で野党が不利な情勢であれば、野党はさっさと法案を否決して与党にボールを投げた方が得だと考えてもおかしくない。そうでなくとも参議院で4月4日に審議入りした法案を4月29日まで採決しないと3週間以上も審議することになる。衆議院では1週間で採決した法案をそんなに引き延ばすのはおかしいと批判するのがいつものメディアではないか。また暫定税率の行方を300選挙区の中の1つの選挙民に委ねるというのもまともな考えとは言えない。それなのにメディアは誰かの操作に踊らされて一斉に同じ事を言い始めた。
ガソリンの値段が下がった中での第二幕はどうなるか。日を追うごとに安い値段は既成事実化する。先に行けば行くほど再値上げに対する国民の反発は強くなる。その中で道路族の要求通りにするためには2度の再議決が必要となる。そう仕組んだのは政府与党である。野党のせいにしながらも状況を難しくしているのは実は福田政権なのである。そういう形でしか道路族を押さえる事が出来ないからだと思う。1度目の再議決をやるとどうなるか。ガソリンの再値上げで国民の怒りは爆発する。混乱も起きる。野党は問責決議案を提出して可決するかもしれない。とても2度目の再議決が出来る状況ではなくなる。
1度だけの再議決の場合、税収は確保される。しかし2度目がないから道路に使うことは出来ない。道路は一般財源の中から必要と思われるところだけを作る話になる。道路族が主張してきた道路中期計画は大幅に変更される。これは財務省にとって思い通りのシナリオである。小泉政権のように総務会を強行突破し、抵抗勢力を追い出すような手法ではないが、結果として道路族を制圧したことになる。
道路族は表向き制圧される。しかしおそらくその過程で道路を作り続ける事の確約を迫り、今度は一般財源の中からどれだけ道路に振り向けさせるか、裏の世界で力を発揮するようになる。それが保証されれば道路族も鉾を納める。これが想定される一つのシナリオである。しかし与党内の反道路族が強ければ再議決は1度目も出来ない。むしろ福田総理の提案を機関決定した上で民主党との修正協議に持ち込み、暫定税率廃止と将来の税制改正を与野党で話し合う仕組みを作ることになる。それも考えられるシナリオだと思うが、反道路族の声がいっこうに聞こえてこないのが現状である。
昔の自民党なら今頃は若手議員が徒党を組んで執行部を突き上げ、様々な動きを見せていたと思う。良くも悪くもそれが政権政党の活力だった。ところが今ではそんな光景にお目にかかる事がない。若手政治家は驚くほどにおとなしくなった。若手政治家が声を張り上げている相手は党の執行部ではない。お笑いタレントを相手にしたテレビの中だけである。おそらく世界中どこの国にも無い光景だと思う。これも奇妙な政治の流れというしかない。
(田中良紹)