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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20080331-01-0101.html
福田「ファザコン解散」説
2008年3月31日 AERA
日銀総裁もガソリン税の暫定税率延長も、ぎりぎりまで手をつけられない。
この人のやりたいことは結局、「父のやり残したこと」だとすると……。
まるで英誌「エコノミスト」に指摘された通りの展開である。福田康夫首相の指導力の欠如と、それを取り巻く日本の政治の弛緩ぶりのことである。
同誌2月23日号は「JAPAiN」(痛ましいニッポン)と題して、なぜ日本は失敗し続けるのか詳細なレポートを載せている。「期待を裏切る日本の驚くべき能力」と揶揄し、その原因は日本の政治にある、と一刀両断にしている。
党内から「KYすぎる」
それが象徴的に表れたのが、日銀総裁人事をめぐる騒動だった。世界の金融システムがサブプライム危機で揺らぐなか、日本の中央銀行総裁だけが「不在」という珍妙な状態にある。
福田首相が、元財務事務次官の武藤敏郎副総裁の昇格に失敗したとき、次善の策を用意していなかったことは、結果からみて明らかだろう。昨年暮れに内閣特別顧問に起用した奥田碩トヨタ自動車元会長ら財界人も首相の意中にあったようだが、こんな責任重大な仕事を功成り名を遂げた悠々自適の財界人が、しかも土壇場になって引き受けるわけがない。
5年にわたり総裁を務めた福井俊彦氏の任期が切れる3月19日の前日になって、2人目の候補として同じ旧大蔵事務次官出身の田波耕治国際協力銀行総裁を提示したが、武藤氏にノーを突きつけた民主党がクビを縦に振るはずはなかった。
「財務次官出身ではあれだけダメと民主党も言っているのに、どういうつもりなのか分からない。いくらなんでもKY(空気よめない)すぎる」(閣僚経験者)
と党内から疑問視する声が噴出するのも当然だ。田波氏の起用案は与野党が逆転している参院で、あっさり否決された。
日銀総裁人事だけではない。福田首相の政局への対応は、後手に回りがちだ。その場しのぎの手を打つために、後になってより大きくほころぶ原因となるケースも目立つ。
揮発油税の暫定税率は3月末でいったん期限切れを迎える。空白を避けるために衆院の3分の2勢力を用いて「つなぎ法案」を通そうとしたが、結局は議長あっせんでひっこめた。しかし、予算案と関連法案は衆院で強行採決に踏み切った――という顛末はその典型例だろう。
自民党のある派閥幹部は、
「政治経験が少なく、ぎりぎりの修羅場におかれたことが少ないから、反射神経が鈍くてすべて判断がワンテンポ遅れ、しかもずれている」
と指摘する。
GW前に再値上げ?
年度末まであと1週間。揮発油税の暫定税率は、このまま与野党の修正協議がまとまらなければいったん廃止となり、4月からガソリンの値段は下がる。
「エープリルフールと思われると困るが、順調にいけば4月1日、ガソリンと軽油の値段が下がる。3月31日に買うのは控えた方がいい」
民主党の菅直人代表代行は16日、自信たっぷりにこう語った。
もちろん与党は衆院で3分の2の勢力を持っている。だから、このまま参院が関連法案を否決しても衆院で再可決できる。あるいは参院で採決しないまま4月を迎えても、衆院を通過して60日たてば憲法の規定で再可決することができ、成立する。衆院で法案が通ったのは2月末なのだから60日後は4月末になる。
だが、行楽シーズンのゴールデンウイークを目の前にして、一度下がったガソリンの値段を上げれば国民の顰蹙をかう。
もはや八方ふさがり。
なぜここまで福田首相は追い込まれてしまったのか。
大きな理由の一つは、民主党の小沢一郎代表とのパイプがもう役に立たなくなったことだ。自民と民主の大連立構想が潰えたあとも、2人は折にふれて連絡をとっていたとみられる。日銀総裁人事でも「武藤氏を提示することで握っていた」(自民党三役経験者)といわれる。
ところが、福田首相が人事案の提示を出し渋る間に、与党は予算案の年度内採決を焦り、衆院で採決を強行してしまった。このことが火に油を注ぐ形になって、民主党内における自民党への反発が強まった。福田首相と最も理解し合っていたはずの小沢氏も、メンツをつぶされた形となり、最終的に党内をまとめる自信を喪失。さじを投げたようだ。
「先送り」に満面の笑み
いったん武藤氏が否決された後も、福田首相が財務省出身者にこだわったのも、問題をこじれさせた原因の一つだろう。ある自民党幹部は、福田首相の心情をこう解説してみせた。
「福田首相の心の根底には、東大から大蔵省に入り、主計局長を務めて政界入りした父、赳夫元首相への畏敬とコンプレックスがあるのではないか」
福田首相の相談相手の一人が、赳夫首相時代、首相官邸で机を並べた秘書官仲間だった保田博元大蔵事務次官である。保田氏は、現在田波氏が総裁を務める国際協力銀行の初代総裁でもある。
さらに、政治経験の少なさからか、ぎりぎりまで「決められない」福田首相自身の決断力の弱さも傷口を大きくする。
空港関連会社への外資規制導入問題で政府与党が大きく揺れた2月。結局先送りになったが、それまで福田首相は官邸の執務室で3度も議論した。だが、なかなか決めきれない。
結局「先送り」との中身が書かれた紙を手に、首相は、
「これでいいね。この結論に達するまで、ずいぶん時間がかかったね」
満面の笑みを浮かべて言った。
「まるで他人事。首相のリーダーシップが感じられない。どうしたい、が欠けている」(政府関係者)
最高権力者でありながら自分では何の決断も下せないところが、この首相の最大の欠点だ。
そんな首相を助けてきたのが与謝野馨前官房長官と中川秀直元自民党幹事長の2人。日銀総裁が任期切れした翌日の20日、首相官邸に2人は相次いで現れ、首相と会談した。
2人とも首相が頼りにしてきた人物のお気に入り。与謝野氏は渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長、中川氏は森喜朗元首相。それぞれ大連立仕掛け人とのパイプ役を務めてきた。
亡父もう一つの悲願
昨年末の薬害肝炎訴訟や、1月のつなぎ法案騒動のときにも、与謝野氏は官邸にやってきた。2月に首相が社会保障担当の補佐官に起用したのは、中川氏に近い伊藤達也氏だ。道路特定財源関連法案や日銀総裁人事などで知恵を授けたとみられる。
福田首相は、父の赳夫氏が目前にして首相の座を明け渡し、出席がかなわなかった日本でのサミットで、議長を務めることに執念を燃やしている。
だが、党内からは福田首相の無為無策ぶりにあきれる声があがる。助っ人がいくらがんばっても、福田首相の求心力低下に歯止めをかけるのは難しい。
「このまま支持率が低くなる一方ならば、早期にお引き取り願って、後継は麻生太郎氏に登場願う。そしてご祝儀相場の間に総選挙」
そんな内閣総辞職シナリオが、公然とささやかれる始末だ。もっとも、かくも屈辱的な退場をプライドの高い福田首相が受け入れられるとは考えにくい。
父の赳夫氏が、サミットの議長役に加え、もう一つできなかったことがある。解散総選挙だ。福田首相はついに「決断」を下すのだろうか。
編集部 秋山訓子、大鹿靖明