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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20080310-01-1301.html
日銀総裁は政局の捨て駒か
2008年3月10日 The Commons
2月29日に予算と予算関連法案を強行採決して、わざわざ国会審議の行方を不透明にした政府与党が、今度は民主党内に反対がある武藤日銀副総裁の総裁昇格人事案を示して再び民主党を挑発している。なぜかと言えば一つは3月末に道路問題で修正を図るために必要な舞台装置を作るため、もう一つは民主党の分断を図るためである。
野党との間で事を荒立てれば荒立てるほど政局は緊迫して3月末は「決戦」含みとなる。選挙を避けたい与党内に「野党の要求を受け入れて修正やむなし」が説得力を持つようになる。道路利権に群がる人たちを押さえるためにはこのようにしてぎりぎりの状況を作り出す必要がある。
もう一方で民主党執行部が人事案を受け入れれば、反対の強い民主党内がまとまらなくなり党内抗争を誘発する事が出来る。人事案を拒否すれば日銀総裁不在の状態を作り出して暫定税率廃止を迫る民主党に揺さぶりをかける材料に出来る。
本来ガソリン税の暫定税率と日銀総裁人事には何の関係もない。しかし両方とも3月末に決着を迫られる問題であることから二つは結びつけられた。誰が結びつけたかと言えば野党ではなく政府与党である。政府与党にすれば一方で緊迫した情勢を作り出しながら、他方で暫定税率を廃止させないために、与野党交渉のテーブルに乗る案件を増やした方が都合が良い。日銀総裁人事で譲歩するから道路の修正はこの程度にと言うこともできるし、野党が暫定税率で強硬姿勢を貫けば日銀総裁不在の責任は野党にあるとして国際社会から非難の声をあげさせることも出来る。
日銀総裁人事を政局に絡めることは福田政権が今国会を乗り切りのために初めから考えられていたシナリオである。ところがメディアは「日銀総裁人事を政局に絡めるな」とか「日銀総裁不在は日本経済にマイナスになる」と言って非難の矛先を政府ではなく民主党に向けている。まるで明後日のほうを向いた話で、どこを見ているのかと言いたくなるが、かくも簡単にメディアは政府与党の情報操作に乗せられている。
日銀総裁の任期は3月19日で切れるから、それまでに後任の人選を済ませなければならない。任命するのは政府だが、衆参両院の同意が必要で、決定の10日前までに国会に人事案が示されるのが慣例である。仮に任期切れぎりぎりに決めると想定すれば、政府はどんなに遅くとも3月7日には候補者の名前を国会に示さなければならない。そう思ってみていると想定どおりの事が起きた。
2月29日に衆議院で強行採決がなされ、反発した野党は参議院での予算案の審議をボイコットした。当初から野党国対は「審議拒否を1週間は続ける」と宣言していた。強行採決のちょうど1週間後が3月7日である。すると福田総理の指示でぴったり3月7日に武藤副総裁の昇格人事案が国会に示され、11日に候補者から意見聴取を行うことが決まった。これが審議拒否を続けてきた野党を審議に復帰させる材料となる。仮に11日の意見聴取を民主党が拒否して審議拒否を続ければ、日銀総裁を不在にさせた責任は100%民主党にあるということになる。だからそれ以上審議拒否を続ける事が出来ない事は民主党も初めから分かっていた。
「強行採決と審議拒否で国会は波乱含み」とメディアに報道させながら、実はここまでは絵にかいたように予定通りに国会は進んできた。あとは参議院予算委員会がいつから審議入りするかが問題である。参議院での予算審議に70時間程度が必要だとすれば、政府与党が3月31日に衆議院で予算関連法案の再議決に持ち込むためには14日以前の審議入りが不可欠である。暫定税率を廃止させないためにはどれだけ早く審議入りできるかが勝負となる。
民主党が日銀総裁不在の責任追及から免れるためには、なるべく早く人事案を拒否することが必要である。総裁任期が切れる19日までの間に時間的余裕があれば、次の候補者を決めるための時間がありながら政府が決めなかったことになり、民主党の責任ではなくなる。だから民主党は11日に意見を聴取した翌日にも衆参の本会議を開いて人事案を拒否する構えを見せている。一方の与党はなるべく本会議を後ろにずらして19日までの間の時間をなくそうとしている。民主党が拒否すればどうしても総裁不在に持ち込みたいためだ。こうして本会議開催の日程と予算委員会の審議入りの日程が絡まりあった綱引きが10日の週に始まる。
それにしても一国の中央銀行総裁人事を政局に絡めて良いのかと真面目な人は思うだろう。しかし3月末までの2週間程度総裁が不在になったからといって、それがどれほどのマイナスになるかを考えると大したことではないかもしれない。国際的には「みっともない」が、この国はもっとみっともない事を冷戦後はずっと続けてきた。アメリカのクリントン大統領時代に日本の総理は7人も交代したし、バブル崩壊後は世界で唯一10年以上も景気低迷を続けた。世界は今更驚くこともしないだろう。市場に悪い影響を与えると言う見方もあるが、市場は既に日銀総裁不在を織り込み済みではないか。
問題なのは日銀総裁人事が野党の反対を知りながら行われ、総裁不在の状態を避けようとしていないことである。仮に武藤氏が最適任であるにしても、唯一の神のような存在ではないだろう。他にも候補がいるはずだ。だから与野党の考えに隔たりがある場合、複数の候補が示されるのが当たり前だと思うのだが、そうはならずに武藤総裁案だけが示され、結果として日銀総裁が政局のための捨て駒になるかもしれなところにこの国の深刻な問題がある。
(田中良紹)