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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20080229-01-1101.html
永田町に「せんたく新党」の烈風
2008年2月29日 FACTA
小泉チルドレンも熱い視線。「超党派議員連合」の発起人は再編志向の曲者ぞろいだ。
◇
自民、民主両党の垣根を超えた新たな「超党派議員連合」が永田町を揺るがす日が迫っている。
「日本を今一度せんたく致し申候」
薩長同盟の橋渡しをし、「船中八策」で大政奉還にも貢献した幕末の志士、坂本龍馬が姉に宛てた手紙の一節だ。これにちなみ、前三重県知事の早大大学院教授・北川正恭が次期衆院選をにらんで仕掛けた新たな政治運動体「せんたく」が虎視眈々と機を窺う。
北川を代表に、宮崎県の東国原英夫、神奈川県の松沢成文ら改革派知事、民間から前東大総長・佐々木毅など総勢15人の有識者が発起人に名を連ねる「せんたく」。船出の記者会見に臨んだのは1月20日だった。
この有識者グループを基盤に、北川は「議員連合」結成にも動いた。2月3日には旗揚げ寸前まで準備を整えたが、いったん水面下に潜った。閉塞感強まる永田町の「1・20会見」へのリアクションが予想以上に大きく、混沌とする政局の流れをいま一度、見極める必要があると考えた。
議員連合の発起人は曲者ぞろいだ。自民党は消費税・社会保障改革を軸に政界再編志向を半ば公言する政調会長代理・園田博之、選挙対策を牛耳って求心力を増す「謀将」前総務相・菅義偉ら。民主党は旧・新党さきがけで園田の薫陶を受けた玄葉光一郎と枝野幸男。それに元国対委員長・野田佳彦や浅尾慶一郎ら非小沢系が中心だ。
■「第三極」を渇望するマグマ
「流行語大賞まで取った『マニフェスト(政権選択)選挙』の賞味期限が切れかけた北川が、人気抜群の東国原を担ぎ出し、『そのまんま新党』でひと暴れする腹ではないか」
政界にはさっそくこんな期待感と警戒感が交錯して広がった。知事登板からちょうど1年。圧倒的な高支持率を維持する東国原が北川の隣に座った会見の絵柄が激震を走らせた。
余震は続く。雨後の筍のように「せんたく勝手連」が動き始めた。東国原は大阪府知事選でタレント弁護士の橋下徹の応援に駆けつけた。橋下は当選するやさっそく「声がかかれば勉強させてもらいたい」と参加に名乗りを上げた。
続いて「せんたくの思いは我々とピッタリ一致する」と押しかけたのは、高知県で「元祖」改革派知事を演じた橋本大二郎と無所属の衆院議員.江田憲司のタッグだ。元首相・橋本龍太郎の秘書官だった江田が今度は異母弟の大二郎を担ぐ。かつて、元首相・細川護熙が登場した時のように既成政党と距離を置く「インディペンデント」を標榜し、無所属で衆院選に打って出る大二郎は、北川らとかねてパイプがある。
さらに自民党の平将明、山内康一ら当選1回の小泉チルドレンも「せんたく」に熱い視線を送る。郵政選挙で突風に乗って当選したチルドレンの大半は次の衆院選に勝つ自信がない。「生みの親」元首相・小泉純一郎はもはや当てにならないし、選挙にプラスになりそうな動きなら藁にもすがりたい思いで飛びつく。
「せんたく」への片思いとも言える期待と警戒の強さ。それは衆参ねじれ現象で政策決定が停滞するのをよそに、首相・福田康夫と民主党代表・小沢一郎が互いにもたれあい、ダラダラと延命を続ける今の「クリンチ政局」の行き詰まり感の裏返しだ。
福田は首相として何をやりたいのかもはっきりしない「マニフェスト不在」。衆院解散は封印してひたすら政権にしがみついている。小沢も解散に追い込む策略などもはやなく、求心力が低下。もう一度大連立工作を仕掛けるくらいしか手がない。
「せんたく」が勢いに乗って「そのまんま新党」へと発展し、政界再編の起爆剤となる動きでも出なければ、この閉塞状況になかなか風穴が開かない――。そんな「自民でも民主でもない第三極」を渇望するマグマのうねりには当の北川も戸惑うほどだ。
「せんたく」の正式名称は「地域・生活者起点で日本を洗濯(選択)する国民連合」。地方分権や地球温暖化防止など「地域・生活者起点」で政策の優先順位を洗い直す「洗濯」と、衆院選での有権者による政権「選択」でその実現を目指すという二重の意味を込めた。
北川は過去5年、政策本位のマニフェスト選挙の旗を振ってきた。軸足を置くのは政界再編よりも、2大政党間での「政権交代可能な政治」の実現だ。「せんたく」の基軸もあくまで「マニフェスト進化論」だ。
「生活をよくします」「住みやすい街にします」といった曖昧で総花的な従来の選挙公約を排し、優先順位や数値目標、財源、実行期限を明示した体系的な政策集を掲げ、有権者に選択させようというのがマニフェスト選挙。北川、佐々木らが主宰する「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)は国政選挙のたびに党首討論会や、マニフェストの事後検証などに取り組んできた。
この5年間で形だけは定着したが、内実はまだまだおざなり。騒ぐのは選挙の一瞬だけで、言葉だけ新しくなっても中身は昔と大差ない。前首相.安倍晋三の「美しい国」、福田の「希望と安心」などの抽象的なスローガンは悪い見本の典型だ。政党任せで作らせて事後検証するだけでは質の向上は望み薄で、「事前介入」に踏み込むしかないと判断した。
発起人の有識者グループには東国原、松沢のほか京都府の山田啓二、佐賀県の古川康ら改革派知事が目立つ。ローカル・マニフェストを実践する顔ぶれが地方から国政を突き上げる態勢だ。超党派議員連合の有志と連携し、今から衆院選に備えた政権公約作りを自民、民主両党の執行部に迫っていく。早い段階から 2大政党をマニフェスト選挙の土俵に追い上げて、下りられなくする狙いだ。
「政権交代可能な政治」を究極の目標とする「せんたく」は、いくら中立を標榜しても、福田や自民党執行部には敵視される。大連立の誘惑に負けた小沢にとっても「正攻法」を説く北川らは煙たい。おのずと民主党内で「政権交代原理主義者」の副代表・岡田克也を象徴とする非小沢系勢力との親和性が高くなる。議員連合の顔ぶれがそれを裏付ける。
■政局の「発火点」となるか
「せんたく」には裏の顔がいる。北川の弟分で、03年の岩手県知事選で日本最初のマニフェスト選挙を試みた総務相・増田寛也だ。今は政権の内側で分権改革の舵を取る立場。「『せんたく』は注目して見ている」と距離を置くが、実は北川と気脈を通じる。「劇薬」の東国原をあえて取り込むよう進言したのも増田。山田や古川ともツーカーで、隠れたキーパーソンだ。
永田町の大外から、選挙というインフラにマニフェストで枠をはめ、揺さぶることで政党政治を変えようとする北川独特のビジネスモデル。有識者グループと議員連合をつなぐ世話役を自任し、プレーヤーとして新党結成などに動く気は「全くない」と打ち消す。明治維新に不可欠な仕掛け人を演じたのに、新政府に参画する気はさらさらなかったという坂本龍馬に自らをダブらせる。
「せんたく」はそんな思惑を超えて政局の「発火点」(増田)となりつつある。北川が一度、ブレーキを踏んで態勢を整え直したのも、政権交代の触媒を目指すはずが、政界再編の導火線として独り歩きを始めかねない「せんたく」の起爆力と危うさに動物的カンが働いたからだ。
「政治は様々な要素で動いていく。当然、権力闘争も起きてくるだろう」
それでも求心力を高めるため、あえて政界再編の火が燃え広がる可能性も否定はしない北川。机には龍馬を生んだ高知県から届いた小さな洗濯板のオブジェを飾る。「ニッポンのせんたく」の結末は「平成の龍馬」を気負う仕掛け人にもまだ見えない。(敬称略)