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『「ロシアはどこに行くのか」副題:タンデム型デモクラシーの限界 中村逸郎 講談社現代新書』を読む
http://www.asyura2.com/08/kokusai3/msg/549.html
投稿者 Ddog 日時 2009 年 1 月 24 日 01:58:01: ZR5JcjFY1l.PQ
 

この本は、習作でしたが、ロシアとプーチン・メドベージェフの行く末を考えるには面白い一冊でした。2008年プーチンは欧米諸国に配慮し、大統領を任期満了で辞めるかたちをとりながら、任期のない実質的な最高権力者となる首相職に就任した。対外的にはロシアの政治的な進化を見せつけながら、他方でプーチンは絶大な政治権力を手に入れたのである。

プーチン・メドヴェージェフ体制の政治構造を解明すると、そしてその先に見えてくるのは、現在の二頭体制とロシアの伝統的な政治文化の整合性の問題である。本書では、新しい政治現象をテーマに据えることで、逆にロシアに古くから根ざす政治文化を浮き彫りにした。

P107
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しかし同時に、民衆のなかの自己矛盾を読みとることができる。というのも、先の世論調査の結果からわかるように、プーチン政権発足後に、汚職がより深刻化していると実感している人が多くいるからである。プーチン政権下で公務員数が急増し、結果的に汚職の蔓延を引き起こしているが、それでも汚職の撲滅をプーチンに頼る以外に方法がないのである。プーチンに期待するか、それが無理ならばあきらめるしかないという閉塞感が人びとのなかに漂っている。
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P131
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ロシア人は怠け者か
多くのロシア人が以前古も豊かな生活を享受できるようになったといっても・しょせん、その豊かさ美然資源によるところが大きい。だから、ロシア人ははたして欧米諸国の労働者並みの勤労意欲を有するまでに成長したのかどうか、この伝統的疑問が蒸しかえされるのである。逆にいえば、労働一の勤勉さが生活水準を上昇させていると錯覚するロシア人もいる。
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P136-137
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プーチンはロシアに近代的な生産設備を導入すれば、段階的に国産品が欧米諸国の製品に対抗できる競争力を獲得できるという見とおしを立てているが、多くのロシア人は身のまわりから自国製の商品が消えていることに危機感を高めている。危機感はソ連邦への郷愁にもつながる。
(略)工業製品のみならず都市部の食料品はヨーロツパ諸国から輸入されており、スーパーマーケットの棚の多くは外国製品で占められているのである。(略)
しかし問題は、先にプーチン自身が指摘したように帝政ロシア時代、そしてソ連時代から続く官僚支配の弊害に一因がある。というのも生産設備を導入するにしても、その利権を目論んで官僚たちが口を出すからである。そのよラな事象はプーチンの監視が届きにくい地方に行けば行くほど、顕著のようである。
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P140 驚く事に、ロシア太平洋側からシベリアへ抜ける道が一本も無い。P142極東部はヨーロッパロシアと分断され二つのロシアが存在している。P145特に北方領土に住むロシア人にとっては不安で深刻な問題だ。

私がこの本を読んでいて一番印象に残ったのはこの部分である。
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「息子はロシアに生まれて幸運だったと思いますか」P149-149
ロシア人のもっとも深奥な悩みはまちがいなく、ロシアに生まれてきてよかったかどうかにつきる。
広大な国土は森林と平原-川によって覆われ、人びとの住む町はまるで大海の小さな点でしかない。その悲愴さは、厳しい自然の猛威で助長される。ロシア人は若いころに遅かれ早かれ、。ロシア人として誕生したことに疑問を抱き、成人しても、さらには死の病床でも問いつづけることになる。その問いにだれかが誠実に答えてくれることもなく、そもそもそのような問いかけに真剣に応じてくれる人もいない。
それでも多くのロシア人は真剣に、ときには大粒の涙を流しながら苦悩を深める。こうしてロシア人はおそらく一生、心にトゲのように突き刺さる解決できない深遠なテーマを抱きつづけることになる。
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日本人と真逆の考え方だ。日本人に生まれて幸せだと感謝する国民には想像がつかない。
P172
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ロシア人は生きていくうえで必要な規範や指針を盛りこんだ諺をしばしば口にする。そのひとつに「悲しみ多ければ神に近し」がある。人びとは受難の時代をじっと耐え忍び、苦悩を深めたが、その苦しみが深ければ深いほど、神によって救済される日が近いと信じている。苦境に陥るなかで、ひたすらに神の出現を欲していたのであろう。
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プーチン人気はこのロシア人の考え方にある。
P185
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二頭体制
プーチンの政治支配で生じたひずみは、既存の体制内に吸収されることになる。プーチン体制を維持する一方で、その体制が生んでいる負の側面を見逃すわけにもいかず、現実的な判断として選択肢の幅は広くない。けっきょくのところ、プーチン体制の維持を前提に
いくらかの修正を加えるという隘路を突き進むしかない。こう考えると、プーチンの後継者でありながらも、かれと微妙に違う立場を表明するメドヴェージェフ大統領はプーチン支配に不信感をつのらせる人びとにとって現実的な改革者に映る。
そこで本書では、メドヴェージェフ大統領とプーチン首相が形成する支配体制を「タンデム型デモクラシー」と名づけることにする。タンデムとは日常的には二人乗り用自転車をさすことが多いが、もともとは縦並びの二頭の馬やそのように馬をつないだ馬車の意である。
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p191
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ロシアで民主主義といえば、プーチンの強権的な政治スタイルを強く響かせる「主権民主主義」に結びつけて考えられる。ロシアに必要なのは強い権力による政治的な安定であり、その目的に適合しない民主主義は切り捨てられるという議論である。ロシアを統一国家として維持することが最大の政治的な課題であり、その路線にそったひとつの政治的な手段としてならば民主主義を受け入れるというのである。
プーチンは欧米諸国と違って民主主義そのものに政治的な価値を見いだしているわけではなく、統一国家を維持するためのどこまでも手段なのである。メドヴェージェフが就任式で民主主義に言及しなかったのは、プーチンの用いる文脈で捉えられることが多いこの用語を避けたかったからだろう。
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p196-197
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衝突か、移譲か
この差異は将来的に二人のあいだのほころびを生むと予測する見かたがある。
いますぐというわけではないが、メドヴェージェフとプーチンの本格的な権力闘争に発展するのではないかという議論である。
たとえ二十年間に及ぶ個人的な信頼関係が築かれていても、かれらの側近たちが黙っていない。大統領府と政府の権限強化をめぐる権力闘争がかれらの周囲で勃発し、激しい政治闘争を展開することになると予想する。すると二人のあいだに見解の齟齬が広がり、プーチンもメドヴェージェフも自分の側近を守ることを優先する。けっきょく二人を巻きこんで権力闘争は炎上し、タンデムは崩壊することになるというのだ。
もうひとつの予測はメドヴェージェフが少しずつ権力を拡大し、将来的にひとり立ちするのではないかという見かたである。
メドヴェージェフには政治家としての経験が浅く、外交・防衛機関での勤務経験もない。かれが支配者としての政治手腕を身につけるには時間が必要であり、プーチンがいま政治権力を掌握しているのは政権移行期の政局の不安定を回避するためであるという。政局運営が軌道に乗れば、プーチンの有する実質的な政治権限は段階的にメドヴェージェフに移譲され、かれは本格的な政権を樹立することになると見る。ただこの議論では、政権移譲の時期については触れられていない。
前者の議論が現在のタンデム体制の行く末にプーチンとメドヴェージェフの激しい権力闘争を見据えているのにたいして、後者はタンデムをメドヴェージェフの本格政権への時間稼ぎと考えている。両者はタンデムの将来について真っ向から対時する見解を打ち出しているが、はたしてこの二つ、どちらが的を射ているのだろうか……。
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P216-217
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リベラルな発言を繰り返すメドヴェージェフはプーチンを支持することに疲れ、かれを突き抜けるプーチン支持者の動きを取りこむ。メドヴェージェフはロシア人の30%を占める西欧志向の人びとによって支持されているが、かれらに加えて流出するプーチン支持者を吸収しようとする。
これとは反対に、プーチンはもともとロシア独自の価値観を追求する人びとに支えられているが、同時にメドヴェージェフの西欧的な発言を嫌悪する人びとからも支持を集める。プーチン支持者にとって、欧米的なリベラリストとは優柔不断な政治姿勢をとる人のことであり、プーチンのような権力集中を志向する政治家に、かれらは魅了される。欧米の価値観を受容できない人びとが、プーチン人気を下支えする。構図的に見れば、西欧派のメドヴェージェフとスラヴ派のプーチンという表象が描かれる。
たしかに「タンデム型デモクラシー」は人びとの不満を吸収しあい、既存の政治体制を維持するための効果的な施策かもしれない。大統領の任期が切れたプーチンは首相として政界に君臨しつづけることができるという点としてもこれを卓越した方策と考えるのであろう。かれとメドヴェージェフのあいだにいくらかのスタンスの相違が明らかになっても、その乖離はタンデムの弱点にならない。むしろ逆に強さになると考えられる。二人のほどよい見解の差異が、社会の多様性を吸収する独自のデモクラシーを機能させている。
だから、かりに二人の一体感が強調されたり、その反対にかれらの見解の相違が過度に広がったりすると、二人がそれぞれに生みだす負の要素を互いに回収しあうことができなくなってしまう。プーチンとメドヴェージェフに必要なのは、微妙な距離感なのであろう。要するに「タンデム型デモクラシー」を機能させるには二人の見解の絶妙なズレこそが重要なのであり、このような政治的な戦略は意図的に編み出されているようである。
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【Ddogのプログレッシブな日々】
http://blogs.yahoo.co.jp/ddogs38/22842873.html

ユダヤや、フリーメーソンが、プーチン・メドベージェフを動かしてグルジアに戦争を仕掛けさせたなどと考える方々は、そんな陰謀論の本を読む前に、こういったまともな本をこつこつ読んでおくべきだと思う。  

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