ュネーブ時間10月30日(日本時間10月31日)、市民的および政治的権利に関する国際規約にもとづく自由権規約委員会による第五回日本政府報告書の審査の最終見解が発表されたのを受け、アムネスティ・インターナショナル日本はこれを歓迎するとともに、そこに記載された具体的な改善措置について、日本政府が直ちに必要な措置をとるよう強く呼びかける。 最終見解は10月15日と16日の委員会による審査を受け、28日と29日にわたる会議で採択されたもので、日本が今後とるべき人権保障政策のためのグランドデザインを示している。委員会は、男女平等社会の実現を目指すいくつかの方策、DV 対策法、国際刑事裁判所への加入などを積極的な側面として評価しつつ、第6パラグラフから第34パラグラフに至る29項目にわたり、日本政府に対して具体的な改善勧告をおこなっている。勧告内容は多岐にわたるとともに、1998年の前回勧告に比べても極めて具体的かつ詳細にわたっており、実現可能性が高い。日本政府は、こうした勧告を速やかに受け入れ、ただちにこれらを完全実施するための措置を講じなければならない。 法執行官への人権研修、および国内人権機関 パラグラフ6で、委員会はまず、法執行機関、また下級審を含む司法において、人権条約に関する理解がいきわたっていない状態に懸念を示し、パラグラフ7で裁判官を含め、条約の適用及び解釈に関する研修をすべきことを勧告している。これは、国際的な人権基準とあまりにかい離した日本の人権理解に対して重大な警鐘を鳴らしているものである。同時に、パラグラフ8で個人通報制度への加入を強く求め、司法の独立との関係でこれに消極的な態度を示した日本政府の態度を批判している。さらに、パラグラフ9で、国内人権機関を、パリ原則に沿って行政府から独立した機関として設置するよう求めている。「独立」の文言が強調されたことで、現在政府内部で検討されている法務省内の人権擁護委員会では、その要件を満たさないことが指摘されているものである。 公共の福祉 委員会はまた、パラグラフ10で公共の福祉の概念が人権を制限する方向で用いられていることに懸念を示し、立法による定義づけと、それが条約の許す制限を超えないよう保障することを求めている。日本では公共の福祉の概念が、表現の自由の制限の事例などに煩瑣に見られるように、人権制約の際に恣意的に用いられている点に懸念を示しているものである。 女性差別 パラグラフ11、12、13で、女性差別の問題に関して、委員会は民法改正をただちに進めるとともに、第二次基本計画、女性の労働条件などに関して、より具体的な目標を設定した措置の実施を求めた。また、パラグラフ 14で、刑法第177条の強姦罪の定義に男性に対するレイプも含めるとともに、重大な犯罪とし、被疑者側の立証責任を回避させ、合わせてこうした犯罪に対処するための特別のジェンダー研修を裁判官および法執行官に対して実施するよう求めた。パラグラフ15では、ドメスティック・バイオレンスに関しても、加害者を確実に処罰することに加えて被害者側に対するケアの対策を強調した。特に外国籍の被害者に対する特別のケアを求めている。この点は、パラグラフ23 の人身売買の問題とも関係する。 死刑制度、および被拘禁者の人権 死刑の問題に関しては、二つのパラグラフにわたって詳細な勧告がなされた。また昼夜間独居の関係でもうひとつパラグラフでも取り上げられた。 パラグラフ16では、次のように勧告された。「世論の動向にかかわりなく、締約国は死刑の廃止を考慮すべきであり、一般世論に対して、死刑を廃止すべきであるということを必要な限り説明すべきである。現段階では、規約6条の2に規定された通り、死刑は最も重大な犯罪のみに厳格に限定すべきである。死刑囚の処遇、高齢者に対する死刑執行や精神疾患を持つ人の死刑執行については、より人道的なアプローチがとられるべきである。締約国はまた、死刑囚や家族が死刑執行に絡む心理的な負担を少しでも軽くすることができるよう、死刑の執行日時に関して、十分な期間的余裕をもって事前に知ることができるようするべきである。死刑囚に対しては、恩赦、減刑、執行延期手続きなどがより柔軟に認められるべきである。」 パラグラフ17では、次のように勧告された。「締約国は、死刑事件に関しては必要的再審査手続きを設けるとともに、再審請求や恩赦の出願がなされている場合には執行停止の措置をとるべきである。恩赦の出願に関して回数制限を設けることは考慮してもよい。再審請求にかかわる弁護人との打ち合わせについては、すべて秘密接見交通が保障されるべきである。」 これらに加えて、パラグラフ21では、次のように指摘された。「締約国は、死刑囚の拘禁を原則として昼夜間独居とすることについて、そうした原則を緩め、昼夜間独居は限られた期間のみの例外的な措置とし、期間制限を設けること。保護房に収容される囚人の身体的、精神的診断を事前におこなうこと。不服申立てができずに明確な基準もなく指定される「第4種制限区分」により一定の囚人を隔離処遇することを止めること。」 パラグラフ17とパラグラフ21の勧告は、パラグラフ34において一年後の進捗報告を義務付けるフォローアップ手続きの対象とされており、委員会がその重要性に着目していることは明らかである。死刑の適用犯罪を「最も重大な犯罪」に限ることに関しては、以前の勧告内容に厳格性要件が付け加えられたことで、具体的な立法措置として死刑適用犯罪を減少させ、量刑基準も客観的かつ厳格にすることが求められているものである。また、高齢者、精神疾患を持つ人に関する死刑執行に関しても、厳格な保障手続きを設けることが要請されている。さらに、現実的に機会を奪われ、その結果再三にわたる請求を余儀なくされている再審請求や恩赦出願に関して、これらを柔軟に認めるよう求めている。また、現在検察官は死刑執行停止の手続をとっていないが、そうした手続を必要的におこなうよう求めている。再審手続に関しては、再審が実際に開始されるまで秘密接見交通が認められない現状に対して厳しい指摘がなされ、再審請求の手続に関して秘密接見交通を保障することが求められた。これは、尋問中の弁護人の立会権とともに、公正な裁判を保障する上での当然の措置だが、これがとられていない日本の現状が極めて厳しく糾されたものである。 昼夜間独居に関しては、死刑囚だけでなく、懲罰的におこなわれる隔離収容および原則昼夜間独居とされる第4種制限区分についても、懸念が示されている。 代用監獄、および捜査取り調べの可視化 パラグラフ18では、代用監獄制度(日本政府は「代用刑事施設)と呼称している)について、条約(特に規約第14条)の保障措置が完全に満たされない限り廃止せよという強い勧告となった。尋問中の弁護人の立会を認めること、起訴前保釈の導入なども求められている。この勧告も、フォローアップの対象となっている。 続くパラグラフ19では、取り調べ尋問の長さの制限とそれを逸脱した場合の罰則などの必要性も述べられている。尋問はすべて録音録画されるべきであり、弁護人の立ち会いの権利を保障するよう求めている。警察による取り調べの役割は真実発見ではなく証拠の収集に限られることが強調されたのは、捜査機関による取り調べが過剰な役割を担おうとしていることに対する重大な警鐘である。被疑者が黙秘することで不利益な判断をされることがないよう、また裁判所は自白ではなく近代的で科学的な証拠に依拠するべきであるとも指摘され、現在の取り調べが近代的でも科学的でもないと批判している。この勧告も、フォローアップの対象となっている。 刑事施設および留置施設視察委員会 パラグラフ20では、刑事施設および留置施設の視察委員会に関しては、十分な資金と権限が認められるようにすることが求められる一方、委員の選任に関して施設当局の管理者が選任することに委員会は懸念を示している。また、被留置者が受け取った申立てについて都道府県公安委員会ではなく外部専門家による独立した審査機関で判断するよう求めている。どのような申立てがあったのかなどについて、詳細な統計を示すようにも求められており、施設限りで申立てが握りつぶされることを防ぐよう意識されている。 日本軍性奴隷制 日本軍性奴隷制、いわゆる「慰安婦」問題に関しては、パラグラフ22で、法的責任を認め、公式に謝罪すること、加害者に対する処罰、教育現場での言及義務が勧告された。これまでの他の条約機関や国際機関、他国議会などからの勧告内容に加え、さらに踏み込んだものとなっている。自由権規約委員会は、これまでも審議の中で本件に触れつつも、最終見解の勧告に含めたのは今回が初めてである。戦時性暴力に対する責任追及という重大な国際的な義務を、日本が60年以上を経て未だに果たしていないことを、明確に示した勧告として高く評価できる。 人身売買 人身売買に関して、パラグラフ23で「締約国は、人身売買被害者を認定する努力を強化し、締約国に人身売買された、あるいは通過して売買された流れに関する体系的な統計を保証し、人身売買に関連した犯罪の加害者に関する量刑手続きの政策を見直し、被害者を保護する民間シェルターを支援し、通訳、医療、カウンセリング、未払い報酬や賠償請求のための法的支援、リハビリテーションのための長期支援、そして人身売買被害者の法的地位の安定などを保証することによって被害者支援を強化すべきである」と勧告された。 外国人研修生および技能実習生 パラグラフ24では、研修生問題に関して、「締約国は、法定最低賃金と社会保障などをはじめとする最低労働基準に関する国内法による保護を、外国人研修生および技能実習生に適用し、研修生と技能実習生を搾取した雇用主に対して適性な制裁措置を科すべきである。また締約国は、現行の制度を、研修生及び技能実習生の権利が十分に保護された新たな枠組みに移行し、低賃金労働者を募集するよりもむしろ能力開発に焦点をあてることを検討すべきである」と勧告された。審議の中でも、奴隷的状態にあると指摘され、国際的にも注目されている。 出入国管理 パラグラフ25では、入管法にかかわる政策に関して、拷問を受ける可能性のある国への送還を禁止する明示的な規定(ノン・ルフールマン原則)を設けることが勧告され、また難民認定手続きにおける通訳手配を含めた様々な問題の解決が指摘されている。特に難民不認定となった際に即時送還されることを防ぐよう勧告されている。合わせて、テロ容疑者を法相の判断のみで即時退去強制できる制度につき、不服申立てを実質的にできる条件を整えることを含め、情報開示と適正な手続きを設けることが勧告された。これにより、昨年11月から開始された外国人が入国する際の入国管理手続は、見直しを迫られることになる。 表現の自由 パラグラフ26の表現の自由の制限については、公職選挙法の個別訪問の禁止がこれに抵触すると懸念されたほか、政治活動や市民運動でのビラ配布行為が住居侵入罪で逮捕、起訴、処罰されている現状に懸念を示し、そのような表現の自由の制限を排除するよう勧告している。これは立川のテント村事件などでの一連の警察、検察、裁判所の判断の動きを踏まえた勧告であり、日本の人権状況が国際的に見て極めて重大な問題を含んでいることを明確に示している。 子どもの虐待、および婚外子差別 パラグラフ27で、子どもの虐待に関して性交同意年齢の引き上げが勧告されたほか、パラグラフ28では婚外子差別について国籍法第3条、民法900条4項の改正を求めるほか、戸籍法第49条1項1号で規定される出生届における嫡出の記述を無くすよう求めている。再三にわたって各条約機関から勧告されているにもかかわらず、未だに改正が進んでいない点であり、今回より詳細かつ具体的な勧告となっている。 LGBTへの差別 同性愛者や性同一性障害にかかわる差別の根絶のため、パラグラフ29で、性的指向にもとづく差別の禁止を規定するべく勧告されている。また同性事実婚カップルに対しても異性婚カップルと同様の利益措置が講じられるよう求めている。 マイノリティへの差別 年金制度に関して、パラグラフ30で国籍者以外に対する年金からの除外を是正することが勧告され、移行措置をとることが求められた。またパラグラフ31では、朝鮮学校に対して、他の私立学校と同様の卒業資格認定、その他の経済的、手続的な利益措置が講じられることが求められている。最後にパラグラフ32では、アイヌ民族、琉球/沖縄の先住民族性を正式に認め、土地権、文化権などを認めるよう求められた。日本政府が、アイヌ民族を先住民族として認めながら、国連先住民族権利宣言にある先住民族としては未だに認めていない現状に対して、強い懸念を示し、それを是正することも含めているものである。 報告期限および勧告の配布 委員会はパラグラフ33で次回報告期限を2011年10月29日に設定するとともに、今回の最終見解の内容について、社会一般のみならず、政府、行政府、司法府部内の末端に至るまで、その内容を周知徹底させることを特に強調している。日本政府の今回の審査に際しての回答が形式にとどまり、かつ前回勧告からほとんど進展がなかった点を強く懸念しての要請事項である。パラグラフ34には、パラグラフ17、18、19、21に関して一年後のフォローアップ手続を行うことが求められている。その他、以前に勧告され未だ実現していない項目についても、今後の審査における報告義務が規定された。 世論と人権保障 今回の審査に際しては、さまざま場面で日本政府は世論の動向や反対意見の存在を、改善措置をとらない言い訳として用いていた。しかし、人権の問題は、世論の動向で決めてはならない。むしろ世論や一般に広まる誤解を是正する役割や責任が締約国にあることが、再三指摘された。日本政府は、今回の最終見解を、今後の日本の人権状況を作り上げていく基礎となるグランドデザインとして受け止め、そのロードマップに従い、具体的な措置を講じることが強く求められる。 アムネスティ・インターナショナルは、日本政府に対し、今回の委員会からの最終見解を遅滞なく完全実施するよう強く求めるものである。人権の問題に国境はない。日本政府は、国際社会からの要請をこれ以上無視してはならない。 最終見解原文:http://www2.ohchr.org/english/bodies/hrc/docs/co/CCPR-C-JPN-CO.5.doc アムネスティ・インターナショナル日本発表 2008年10月31日
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