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最新の報告によると、水不足と市販肥料の価格高騰に悩む開発途上国の農民は、未処理の下水を灌漑（かんがい）用水や肥料として利用しており、その農地面積は合計でおよそ2000万ヘクタールになるという。汚い話に聞こえるかもしれないが、悪い話とは限らない。
研究チームは「このような行いは、多くの人の健康に深刻な被害をもたらす可能性があるが、貧しい都市部の農民や高価な食料に手を出せない消費者にとっては社会的・経済的なメリットがあり、マイナスの面ばかりではない」と話す。
中国やインド、ベトナム、サハラ以南のアフリカ、およびラテンアメリカに住む約2億の農民が、人の排泄物を未処理のまま利用した農地で穀物や野菜を栽培している。世界保健機関（WHO）によると、世界人口の10％がその食料に依存しているという。
研究チームの代表でスリランカに本拠を置く国際水管理研究所（IWMI）のリサ・ラシッド・サリー氏は「排水を利用した農業は、都市部に住む多数の人々を助ける可能性も傷付ける可能性もある」と語る。今回の研究は、今週スウェーデンのストックホルムで開催された「世界水週間」会議で発表された。
今回の研究報告は、都市部の貧困地域に焦点を当てている。貧しい都市では、都市の内部や近郊にある農地が比較的安価な食料を供給している。こういった農地では、ほとんどの場合、地域の川や湖から灌漑用水を得ている。しかし、先進国の都市とは異なり、貧困地域には先進的な水処理設備はなく、川が実質的な下水道となっている。
川の水を農地灌漑に利用するとき、農民は病原菌に触れる恐れがあり、作物の消費者にとっても、加熱せず洗わずに食べれば同じ危険性がある。WHOの統計によると、毎年およそ220万人が、コレラなどの下痢を伴う病気で死亡している。そして、その80％以上が、汚水との接触や適切な衛生設備の欠如によってもたらされた可能性があるという。しかし、IWMIの環境科学者ペイ・ドレクセル氏は、「人の排泄物を処理せずに農業に使用することには社会的・経済的なメリットがあり、その価値は健康上のリスクを上回る」と話す。
「健康への危険性は、農民や消費者への教育によって対処することが可能だ。下水や人の排泄物から入手できる無料の水と栄養分は、開発途上国の都市部の農民にとって貧困から逃れる手段となる」とドレクセル氏は語る。
農業には大量の水が必要であり、途上国の貧困地域や乾燥地域では、人の生活排水以外に灌漑に利用できる水がないところもある。また、人の排泄物は、灌漑だけではなく、肥料としても利用される。多くの場合、穀類の栽培で利用され、食べる際には熱処理されるため健康への危険性は低いという。
カナダ国際開発研究センターのマーク・レッドウッド氏は「場所によっては、昨年1年間で市販肥料の価格が1トン当たり約50％も上昇しており、人の排泄物は魅力的で、多くの場合必要不可欠な代替品となっている」と話す。「下水汚泥を利用すれば、高価な化学肥料を使わなくても済む可能性がある」とレッドウッド氏は語る。下水汚泥には、化学肥料と同様に、窒素、リン、カリウムなどの欠かせない栄養分が含まれているのである。
排泄物の利用にあたっては消費者と農民への教育が欠かせないが、IWMIの報告によると、途上国では排泄物の農業利用に関する公定ガイドラインを持つ国はほとんどないという。ただし、IWMIは報告の中で、「農業に排泄物が利用されていることを政府当局が知っただけでも一歩前進だ」と述べている。
最新の技術を用いなくても人の排泄物を“処理”する方法はある。IWMIは、各地で長年培われてきた方法を適切に活用することを提案している。
研究報告では、インドネシア、ネパール、ベトナムの例が取り上げられている。こういった地域では、農民は排水をため池に貯蔵して固形分や虫卵が沈殿するのを待つことにより、上澄みとして残る水に含まれる細菌量を減らしている可能性があるという。また、熱によって細菌を死滅させる堆肥（たいひ）化処理も有効な選択肢になると研究報告は伝えている。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=3948865
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