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現場発:イタリア総選挙・極右躍進の背景 急増移民にいらだち(毎日)
◇根拠ない「治安悪化」−−ローマ支局・藤原章生
【ミラノで藤原章生】4月半ばに行われたイタリア総選挙は、中道右派のベルルスコーニ前首相の勝利に終わった。目を見張ったのは、この大富豪の率いる与党連合3党の中で得票を倍増させた極右政党「北部同盟」だ。南部人、移民を攻撃するこの人たちはなぜ、受けるのか。根には、根拠のない「治安悪化」があった。
ミラノ北郊外の地下鉄駅から出ると、外国人労働者がずいぶん多い。中東、アフリカ、東欧、南米系、中国人といろいろいる。バス停で黒人女性に話しかけると、イタリア男性と結婚し8年前に来たキューバ人だった。「この町、嫌い。人が冷たいから。ローマの方がいいわよ」。何も聞かないのにそんな事を言う。近くのカフェで働くブラジル人女性、カティアさん(28)も「お金をためたら、スペインに移る。ここは人がグリージョ(灰色、暗いの意)だから」と、たまたまだろうが、似た事を言う。
嫌いな地に暮らすのはつらい。でも、人は好き嫌いだけで住み家を選ぶわけではない。先立つのは仕事だ。
バス通りから住宅街に入ると、古びた低層ビルの前に警官が4人ほどいた。北部同盟の本部である。古い役所みたいな事務所で、背の高い女性に案内され、初当選したマテオ・サルビーニ下院議員(35)が迎えてくれた。ミラノ支部長を務める元新聞記者で「同盟の論客」という触れ込みだ。
「昨日、左翼新聞レプブリカのインタビューでひどい目に遭ったんだ。言ってないのに『イタリアから移民を全員追い出す』なんて見出しにされて。ひどいもんだよ」
では、どんな移民を追い出したいのか。「まずは違法移民と、働いていない連中」。職があればいいのか、と問うと、いきなり話がそれる。「とにかく多すぎるのが問題なんだ。移民のせいで子供を地元の公立校に入れられない。うちの近所は移民が多くて、小学校の8割方が外国人。だから僕の息子は私立に入れた。イタリア語も話せない移民の子はレベルが低いから」
◇ミラノ、トリノに集中
70年代初めまで欧州や米大陸に約2000万人の移民を送り出したイタリアは、75年、外国からの移民が出国者を上回り、90年代に急増した。
英仏のように広大な植民地を持たなかったイタリアへの移民は、80年代までモロッコ、ガーナなどアフリカ、中南米、南アジアからが主だった。冷戦後はルーマニアやアルバニア人が増え、最近は中国人が急増している。移民が大企業や役所に就職できる機会はまずなく、農業や不安定な商売に就く人が多い。
内務省によると、90年に約100万人だった移民は07年末、滞在許可者だけで294万。人口の約5%に当たり、8・8%のドイツや5・7%のフランスに比べれば少ない。
だが、イタリアの場合、6割強にあたる187万人が北部、特に、産業と富が集まるミラノ(人口131万人)やトリノ(同90万人)に集まる。「なんで、ミラノにばかり来るんだ」とサルビーニさんがいら立つのは、ミラノの少なくとも10人に1人が外国人だからだ。移民の平均年齢はイタリア国民より12歳も若く、犯罪に走る少年も多い。
だが、「外国人が増えて治安が悪化し、子供の将来が心配だ」と言うサルビーニさんの言葉は、現実の一部しか照らしていない。
内務省統計によると、殺人事件の被告人数は92年の1441人をピークに減り続け、06年にはその3割、442件だった。凶悪犯罪が起こる治安状況は、明らかに改善している。
ただし内訳を見ると外国人被告は92年から02年に1・8倍になった。全体の殺人件数が減った分、外国人比率が6%から32%に増えた。国籍ではルーマニア、アルバニア、モロッコ人の順に多い。
選挙期間中、この「32%」が独り歩きした。右派のジョルナレ紙などが「治安悪化、3割が外国人犯罪」「ルーマニア人が殺人と売春でトップ」などと連日見出しを打ち、恐怖を広めた。その新聞を手にサルビーニさんは「新政権になれば、この3カ国人だけでも追い出したい」と軽率なことを言う。
◇「まるでチャイナタウン」
「殺人の実数は減っている」と進言すると、「本当?」という顔をしながらも「でも外国人が悪いのは確かだろ」と意に介さない。よく聞けば、犯罪だけが問題なのではない。中国人の犯罪はあまり聞かないと言うと「でも、彼らはとにかく数が多い」と不快そうな顔をする。
犯罪に染まらない移民ならいいのでは? 「でも、なんで自分の国で働かないんだ。ミラノの奇麗な通りはチャイナタウンになってしまった。ナイジェリア人街、イスラム街と、街はゲットー(少数民族の居住区)だらけになりそうだ。自分の国を発展させてから来いと言いたい」
国籍だけに縛られることはない。違法でない限り、どこでどう生きようと、個人の勝手だ。好きでもない国に住まざるを得ない人たちの気持ちなど、この人にはわからないだろう。
それでも雑談の中でこんな事も言う。「オーストラリアはいい国。あそこなら移住したい」。移民の気持ちもわかるんじゃないか、と言うと「でも、おれの街、ミラノだけは外国人だらけになってほしくないんだ」とだだっ子のような顔をした。
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■ことば
◇北部同盟
イタリア北部の6州を南部から切り離し、「パダーニア」という名での独立を夢見る政党で、91年に結成した。国税を無駄遣いしているとローマ以南を非難する地域主義で、移民も敵視する。
92年の議会選で得票率8・6%、96年の10・4%を頂点に落ち込み、06年は4・6%だったが今年、8%台に回復した。
ベローナで27%、ミラノで12%も得票したのは、「治安悪化は移民のせい」と訴え、主に若者の支持を得たためとみられる。今月発足予定のベルルスコーニ新政権に4閣僚を送り込む。
毎日新聞 2008年5月5日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/world/news/20080505ddm007030085000c.html