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J・トーマス・シーファー大使の読売国際経済懇話会における講演 − 米国大使館HP
http://www.asyura2.com/08/kokusai2/msg/318.html
投稿者 児童小説 日時 2008 年 4 月 24 日 17:33:03: nh40l4DMIETCQ
 

下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。質疑応答の「問い」の部分については、日本語の原発言を要約・編集してあります。
J・トーマス・シーファー大使の読売国際経済懇話会における講演

2008年4月4日、大阪市

 橋下知事、平松市長、そして、ご来場の皆様、本日はお招きいただきありがとうございます。

 私はいつも大阪を訪れるのを楽しみにしておりますが、特に本日は、読売国際懇話会に出席できて誠に光栄に存じます。日本の歴史の中で、大阪および関西地区は長年日本経済の中心でした。(日本で)最も有力な企業のうち何社かはここ関西で生まれ発展しましたが、関西の方々は商売というもの、そしてそれが地域社会にもたらす繁栄を理解していらっしゃいます。本日私は、グローバル化経済の本質と、日本と米国が双方の利益になるようグローバル経済を管理するのためにできることについて、皆様と共に考えてみたいと思います。

 グローバル化という言葉が非難するような意味で使われているのをよく耳にします。米国でも日本でも、工場が閉鎖されるとグローバル化のせいにされることがよくありますが、グローバル化による雇用創出を認める声はあまり聞きません。

 2〜3年前に私の妻の出身地であるサンアントニオ市に建設されたトヨタの軽トラック組立工場の開所式に出席したときに、このことを思い出しました。その工場は、サンアントニオの慢性的な不況地区に4000の新規雇用を創出し、グローバル化の恩恵から取り残されていると言われることが多い層に機会をもたらしました。開所式の当日、トヨタ・サンアントニオ工場ではヒスパニック系、アフリカ系、アングロサクソン系 そしてアジア系の従業員が働いていました。また、そこで創出された雇用は最低賃金レベルのものだけではありませんでした。サンアントニオの平均時給が11.30 ドル、テキサス州全体では12.27ドルのところ、トヨタの工場の平均時給は18.39 ドルでした。

 確かに、トヨタがサンアントニオに工場を建てたことには多くの理由がありました。テキサスは良好なビジネス環境を維持しています。市、郡、そして州政府が税制上の優遇措置を取り、新しいインフラも整備しました。それに、サンアントニオは米国の軽トラック市場の中心に位置しています。しかし、トヨタがサンアントニオを選んだ最も大きな理由のひとつは、メキシコにあるトヨタの工場と供給業者に近かったからだと思います。実際、北米自由貿易協定、いわゆるNAFTAのおかげで、サンアントニオ工場はメキシコ、米国およびカナダの部品や供給業者を自由に利用することができました。これらの理由により、トヨタはサンアントニオを選び、そしてサンアントニオとテキサスはトヨタに感謝するようになりました。トヨタ工場の開所式では誰もグローバル化の悪影響について話す者はいませんでした。逆に、彼らは前途有望な未来ついて話しておりました。それは当然のことです。

 要するに、日本の会社が、米国人が欲しがる製品を、米国人に販売する機会を見つけた、ということです。そのためにトヨタと供給業者は16億ドルを投資しました。その過程で、彼らは日本、米国、メキシコ、カナダの4カ国でさらに多くの雇用を創出したのです。これは、自由貿易と自由市場は喪失させる雇用よりはるかに多くの雇用を創出すると主張する人々にとっては悪くない状況です。自由貿易と自由市場には、ほかの効果もあります。競争を生み、品質を向上させ、消費者にとっての選択肢を増やし、価格を下げます。これの何が悪いというのでしょう。

 通信手段が向上し、生産性が高まり、創造性が促進されると、市場は私たちに有利に動きます。グローバル化は恐れるものではなく、管理するものなのです。米国と日本は、ほかの国と同じくらい上手にグローバル化を管理することができるのです。

 貿易あるいは外国市場が国内経済に利益をもたらすということは、今に始まったことではありません。商品は何千年もの間世界中を移動し、貿易が人々を結びつけ、人々の生活を向上させてきました。古代ローマ人が日々食べるパンは、エジプト産の小麦を原料としていました。19世紀のイギリスのミッドランド地方の織物工場は、米国産の綿花を使用して稼動していたのです。中東の石油が20世紀の経済に及ぼした影響については周知のところです。

 外国との競争が時として国内市場に生む緊張も、新しいものではありません。米国の形成期において、北部と南部の不和の多くは、貿易について正反対の見方をしていたことに起因していたと言えます。北部の小売店店主や未成熟産業は、海外で生産された安価な製品からの保護を必要としていました。一方南部は、商品を取引しなければならず、また安価な輸入品を購入したかったため、開かれた市場を望んでいました。いずれも、他方がより大きな負担を一時的に背負ってくれれば、究極的には国全体の利益になると確信していたのです。

 長い年月の間に貿易に対する私たちの基本的な理解は深まりました。しかし、多くは、貿易の恩恵を指摘していません。なぜなら、工場が閉鎖されるマイナス面に比べると、貿易の与える恩恵は複雑で説明しにくいことが多いからです。この説明不足のために、世界中の人々の間でグローバル化の影響に対する懸念が生まれています。確かに、貿易が雇用を喪失させるというよりむしろ創出するという意見は意外な印象を与えるのですが、それは真実なのです。貿易によって失われる雇用よりもずっと多くの雇用が生まれるのです。

 サービス分野の貿易の急増がその好例です。データ入力といった高い技術を必要としない職務から、ソフトウエア開発、コンサルタント業、医療サービス、研究活動といった高い技能が必要な業務活動まで、幅広い業務活動の獲得競争によって、サービス部門での雇用が驚くほど増加しました。かつて誰もが文字通り「貿易不可能」と信じてきた、さまざまなサービスが、今や毎日電子的にやりとりされているのです。

 駐オーストラリア米国大使だったとき、この事実を痛感する出来事がありました。エレクトロニック・データ・システムズ(EDS)という米国企業のアデレード事務所を訪れた時のことです。驚いたことにEDSでは、ある問題について、まず米国のエンジニアが8時間かけて作業した後、オーストラリアのエンジニアに引き継ぎます。オーストラリアのエンジニアはその後8時間その問題に取り組み、帰宅する前に英国のエンジニアに仕事を送ります。そして、英国のエンジニアが24時間体制の仕事の最後の8時間を担当するのです。こうも言えるでしょう。米国のエンジニアが翌朝出勤したときには、彼らが前夜帰宅した時点と比べると、仕事が2日分進んでいるのです。顧客のためにどれだけ生産性が向上し、時間が節約されたかを考えてみてください。そして、時間は私たちの誰もが所有する、最も価値のあるものだということを忘れないでください。なぜなら、時間はかけがえのないものだからです。この種の連携によって、ビジネスの変化のスピードが加速し続けるでしょう。

 さらに、国が農業から製造業へそしてサービス産業へと少しづつ移行する旧来の発展の枠組みは、もはや当てはまりません。世界銀行の調査によると、世界の総労働人口のうち、サービス部門就業者の比率は1995年から2005年の間に約35%から40%近くに上昇しました。一方、農業部門の比率は44%から40%に低下しました。製造部門の比率は20%強と一定でした。ここ東アジアでは、総労働人口に占めるサービス部門の比率は5ポイント近く拡大しましたが、製造部門はわずか0.2ポイント増えたのみです。中国が世界市場の製造の中心地であると言われているにもかかわらずです。

 世界銀行は、サービス部門の輸出が年間最大30%成長する可能性がある、と予測しています。すでにサービス部門が飛躍的に成長している途上国もあります。1994年から2003年の間に、インド企業によるサービスの輸出は700%近く成長しました。中国、ブラジル、アルゼンチンも、輸出が200%以上増加しました。その結果、好むと好まざるとにかかわらず、外国との競争という課題と機会に直面しているのは、もはや農業従事者と工場労働者に限りません。医師、会計士、研究員、大学教授といったホワイトカラーの専門職も、次第に世界市場で競争せざるをえなくなるでしょう。

 こうした新たな経済の動きにより、必然的に雇用保障に対する懸念が生じます。新しい企業が生まれ、加速度的に成熟し、そして消えていくでしょう。世界銀行の推定によると、多くの国で毎年新たに設立される企業および破たんする企業は全体のおよそ20%に当たり、総労働人口の10%から20%に影響を及ぼしています。この現象は、国際競争だけでなく、国内での新技術の開発と技術革新の結果でもあります。米国だけでも、過去10年間、四半期ごとに平均700万以上の雇用が失われてきました。これは恐ろしい数字です。ただし、ここから先を聞かなければ、です。すなわち、米国は失われた雇用を補って余りある雇用を生み出してきたのです。2003年以降だけでも、米国経済の雇用は800万純増しました。企業が経済へ参入および経済から退出することから生じる、この「創造的破壊」のサイクルは、主として生産性の向上と全般的な技術の進歩がもたらしたものです。

 世界経済においてサービス業に対する比重がますます高まっており、知識やアイデアが車やテレビと同様に貿易の一部となっているということは、紛れもない事実です。どんなに抵抗しようとしても、この流れは変わることはないでしょう。旧来の経済規範が存続すると期待することはできません。国際競争の脅威を嘆くよりも、グローバル化がもたらす機会に焦点を当てなければならないと思います。恐怖に屈するより、強みをさらに高めていかなければなりません。保護主義は応急処置にほかならず、こうした一時的な処置はしばしば痛みを長引かせるものです。

 グローバル化という課題に対処するつもりならば、私たち誰もが、経済に柔軟性を持たせることの利点を認識しなければなりません。米国では、この柔軟性は、生産的職業の間で絶えず転職を繰り返す、という形で現れています。米国の労働人口は男女合わせて1億5300万人です。標準的な米国の労働者は、50歳までに平均して9回転職しています。これは、たいていの場合、以前よりも条件が良い機会に巡り合ったからです。年間何百万人もの米国人が転職しますが、米国経済はとても順応性が高いため、長期失業率はほかの先進国と比較してずっと低くなっています。27週間を超えて失業している人の比率は、全失業者の約18%にすぎません。この数字はドイツの73%、フランスの62%と比較するとはるかに低いものです。

 もうひとつはっきりさせておきたいことは、企業だけでなく労働者もこの柔軟性の恩恵を受けている、ということです。米国全体の可処分所得は2001年1月以降12%上昇し、過去7年間の平均で3000ドルを超えています。さらに、労働省の調査によりますと、過去15年間の賃金が1ドル上昇するごとに67セントが昇給に、そして33セントが有給休暇、ボーナス、雇用者負担の健康保険、社会保障、メディケア、退職拠出金といった諸手当の改善にあてられました。

 グローバル化という課題に取り組む上で、教育は重要な要素です。ほとんどの人々は、グローバル化によって、雇用が、豊かな国の高給を取る熟練労働者から貧困国の非熟練労働者へ移行する、ととらえる傾向にあります。しかし現実は、先進国も途上国も同様に、熟練労働者と非熟練労働者の間の賃金格差が拡大しています。どこに住んでいようと、世界市場の要求を満たすために必要な知識や能力を身に付けた人は成功し、必要とされる技術や教育のない人はさらに遅れをとっています。

 グローバル化という課題に取り組むためのもうひとつの大事な要素は革新です。新しい発想は新たな製品を生み出し、新たな製品は新たな顧客を生み出します。新たな顧客は新たな需要を生み出し、新たな需要は新たな供給を生み出します。こうした新たな発展が無限に続くことによって、無数の新たな機会が生まれ、こうした新たな機会によって、以前は思ってもいなかった仕事が生まれます。こうした変化はすべて、国境の検問所あるいは交通の難所を通らずに、知識をある市場から他の市場に移動させることができる速度によって加速されます。小売業者であれ卸売業者であれ、また企業であれ消費者であれ、顧客同士がより迅速に接触することができ、その数が増えることによって、欲しいものをより早く、より手頃な価格で手に入れることができるようになります。これこそ、米国経済と日本経済が取り組む課題の本質です。

 こうした経済の新たな現実に直面するとき、米国と日本は、自分たちには大きな利点があることを覚えておくべきです。両国には、どのような難問にも対処できる労働者を生み出すことが可能な、高度に発達した教育制度があります。米国は、対GDP比で見た場合、経済協力開発機構(OEDC)のほかのどの加盟国よりも多くの資金を教育に投入しています。これと比べると日本の教育への投資は少ないですが、日本の大学卒業率はOECDの中でトップです。高等教育に進む日本人の91%がすべての課程を修了します。その結果、25歳から34歳までの日本人の半数以上が、大学卒業あるいはこれと同等の資格を持っています。この比率は、OECD加盟国 の平均32%をはるかに上回ります。ここ関西には大学が150校あります。大学は現代の「原料」とも言える知識を生み出しています。

 日本人か米国人かを問わず、私たちの将来の繁栄の鍵となるのは、その知識を使って、新しい世界経済で新たな顧客を満足させることができる新たな製品やサービスを作り出していくことです。競争が保護主義より多くの雇用を創出するということを理解すれば、これは可能です。

 ここ日本では、この命題の両面を体験しています。製造業の生産性は高く、日本のメーカーが世界最高級の品質の製品を製造しているということは、誰も否定できません。実際、純輸出は現在の日本の景気回復にとって重要な要素となっており、過去5年間の経済成長の約3分の1を輸出が担っています。

 一方、日本のサービス部門は、規模や日本経済全体への貢献度の割には、相対的に非効率であるということも否定できません。2007年に内閣府が経済財政諮問会議に提出した資料は、日米間で労働生産性に格差があることを認めています。運輸、小売り、ビジネスサービス、ホテル、レストランのようなサービス業における日本の生産性は、米国の約3分の1にすぎません。さらに、この格差は1990年代半ばから拡大しています。一方、多くの日本の労働者の賃金は低迷したままで、個人消費も弱く、経済成長もプラス成長を示していますがまだ緩やかです。

 柔軟性に関しては、市場のグローバル化がまだ進んでいなかった1960年代以降、日本は主要な労働法をほとんど改定していません。実際に生じた変化は、企業がけん引して少しずつ進めたものです。「非正規」労働者が日本の労働人口の3分の1にまで増加したのは、その適例です。

 労働市場の柔軟性を向上させる変化が起きると、人々が技能と能力にあった仕事を求めてより自由に移動できるようになるため、生産性を高める傾向にある、ということを心に留めておくべきです。

 米国人は、すべての選手を競技に参加させることが試合に勝つ可能性を高める、ということをずっと以前に学びました。日本にはまだ未開拓の、素晴らしい人的資源があります。それは女性です。日本人女性は世界で最も教養と技能を持つ人々の中に数えられていますが、日本ではヨーロッパや米国に比べて、出世コースをたどったり管理職に就く女性は大幅に少ない状況にあります。国の経済の観点から言えば、1人の女性が自分の才能を十分に生かせない仕事から十分に生かせる仕事へ転職するごとに、国の平均労働生産性が高まることになります。

 外国直接投資も生産性を高めます。OECDの統計では、日本に進出している外資系企業の労働生産性は日本企業より50%以上も高くなっています。サービス業の場合は、外資系企業の生産性は日本企業のほぼ2倍です。

 日本は多大な基本的資源を使って、グローバル化という課題に対処しています。日本には教養ある国民がいて、利用できる資本があり、競争する能力があることも証明されています。あとは、新しい世界経済の要求にこれらの資源を適応させる方法を見出すことです。

 なぜこれが米国にとって重要なのでしょうか。それは、日本経済の健全さが米国経済の健全さにとって重要だからです。その逆も同様です。米国の将来の繁栄が日本のそれと密接に関係していることを、私たちは承知しています。また、米国経済の低迷が日本経済に支障をきたす可能性があることも承知しています。それゆえ、私たちは規制による監視と自由貿易の精神との間で適正なバランスを取るべく、懸命に努力しています。

 米国はこれからも世界の経済成長のけん引役を担うでしょう。米国は何十年もの間、世界最大の輸入国となっています。1970年代以降、国際的に取引された全製品のおよそ5分の1は米国に輸出されています。米国経済が減速するときは、世界経済も同時に減速するということは、歴史の教訓です。一方で、再び世界同時不況が起きれば、日本に対する経済改革圧力が劇的に強まることも分かっています。私たちは、日本が世界の経済成長のもうひとつのけん引役としての潜在能力を認識することを期待します。経済改革への道をさらに進めば、日本は世界第2位の経済大国として世界繁栄の継続に大きく貢献することができます。

 労働力の流動性が向上し、生産性が高まり、資本市場の開放と規制整備が進めば、グローバル化した世界での日本の競争力は今よりずっと高まります。また、日本の農業部門の改革により、日本の消費者は今より多くの選択肢を持つことができ、価格も下がるようになります。

 この最後の点について、農業自由化が世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンドの進展と、日本の世界経済への統合の深化に貢献する、と付け加えることが重要です。ドーハ・ラウンドが成功して農業製品の国際貿易が開始されれば、日本経済の衰退部門を守るために使われている資源を使うことができるようになって、日本の繁栄が促されます。

 日本は今年G8の議長国を務め、2010年にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)の議長国を務めます。この2つのイベントは、急速にグローバル化が進む経済の課題への取り組みで日本が指導力を発揮する良い機会となります。米国も日本と共に努力していきたいと思っています。両国は、協力と協調を深めることによって、多くのものを得ることができます。米国と日本はすでに、世界のGDPの40%を占めており、世界中に繁栄を広めるために大いに貢献することができます。しかし、新たな世界経済の要求の変化に適応できなければ、両国が長年担ってきた指導的役割を失うこともあり得ることも認識しなければなりません。

 ハーバード大学教授フアン・エンリケスによると、1840年には中国とインドの2カ国で、世界貿易全体の40%を占めていました。両国は、世界最高の品質で最もぜいたくな手作り品、最も美しい絹、宝石そしてヒスイを生産していました。これらの品は人気が高く、中国やインドの人々は彼らの未来に影が差すことは決してないと信じていました。しかし、1840年の世界では別の現象が起きていました。ヨーロッパでは産業革命が始まり、機械が仕事のやり方を変えていたのです。

 米国やヨーロッパの技術のおかげで、1人で10人分、さらには100人分、1000人分の仕事ができるようになりました。その後、繁栄と貿易は中国とインドからヨーロッパと米国に移りました。それがまた元の場所に戻り始めたのはつい最近のことです。

 変化は必然的なものです。私たちが変化を管理するのか、変化が私たちを管理するのかは、私たちが選択することができます。米国も日本も、グローバル化した世界を恐れることはありません。私たちがグローバル化を後押ししたのであり、依然としてグローバル化を主導することができます。けれど、もし私たちが競争をやめ、革新や創造性よりも保護主義の方が成功する可能性を高めると主張すれば、中国やインドが19世紀の未来を失ったように、日米も21世紀の未来を失うでしょう。米国か日本のどちらかがこの選択をした場合、そのリスクはあまりにも高すぎます。

 米国が未来を恐れる理由は何もありません。日本も未来を恐れる理由は何もありません。両国は、まだ歴史の正しい側にいます。すなわち、教養があり、民主主義的で寛容な市民が、自ら、あるいはほかの人々のために正しい選択をする能力、願望、勇気を持つと言う側です。私たち皆が今やらなければならないことは、本気で仕事に取り掛かることです。そうすれば必ず成功します。ご静聴ありがとうございました。

質疑応答

問 これまで日本政府に経済連携協定(EPA)または自由貿易協定(FTA)の促進を働きかけてきた立場から、大使の自由貿易促進の考えに共感し、日米間でEPAまたはFTAが早く締結されることを望んでいます。大使は、民主党員でありながら共和党のブッシュ政権の駐日大使であるという微妙な立場にあると思いますが、一番伺いたいのは米国大統領選挙の行方です。また、ヨーロッパの一部では、8月の北京オリンピックの開会式をボイコットする動きが出ていますが、これに対する米国の考え方、姿勢を教えてください。

シーファー大使 先日、大統領は、北京オリンピックが政治の場ではなく、スポーツの場であることを望むと述べたので、大統領は開会式への参加を予定していると思います。ご質問にありましたその他の点について、いくつか触れてみたいと思います。まず、私が民主党員でありながら共和党政権の一員であることですが、これは日本の皆さんと同様にオーストラリアの皆さんにも理解しにくかったようです。米国には、特に国際問題に関しては、政権政党に属していない人間が政権に加わる場合があるという、長い伝統があります。率直に言いまして、私は大統領との個人的な関係から政権に加わっています。私はブッシュ大統領がテキサス州知事に立候補したときにも、大統領選の際にも、彼を支援しました。大統領は、私の所属政党に基づいてではなく、米国を代表する私の能力という観点から、私をまず駐オーストラリア大使に、そして次に駐日大使に任命したのです。

 これは、覚えておくべき重要なことだと思います。今年が大統領選の年ということもあり、例えば、日本に対する民主党と共和党の姿勢に違いがあると思うかという質問をよく受けます。私はそのような違いがあるとは思いません。なぜなら民主党の対日姿勢、共和党の対日姿勢といったものがあるとは思わないからです。米国の対日姿勢ならあります。これは、米国の将来は日本の将来と密接に結び付いているという米国人の認識に起因するものです。第2次世界大戦の終結以降、米国の将来が日本の将来と密接に結び付いているという状況は、ずっと変わっていません。米国人は、米国がアジアで成功したいのならば、最良の道は、強固で健全な日米同盟を維持することだと理解しています。そうなれば、あらゆることが可能になると信じています。そうならなければ、米国は、たとえアジアで成功したとしても、あまり大きな成功は望めないでしょう。来る選挙で誰が選ばれようと、その人物は必ず、米国社会にとって日本がどれほど重要かを理解しているでしょうからご安心ください。

 もうひとつの、日本との自由貿易協定の可能性の問題ですが、もし日本側が経済のすべての部門を交渉に含めることを決めれば、米国は日本との自由貿易協定の交渉に前向きになるでしょう。それはどういうことかと言いますと、つまり農業も交渉のテーブルに乗せる、ということです。率直に言いますと、米国は農業を含まない自由貿易協定は結びません。米国のこの姿勢はよく話題に上り、皆さんが私におっしゃることには―特に日本では、「日本人は食糧安全保障をとても懸念していることを理解してください」と言われます。とりわけ日本の人々が戦後、悲惨な食糧難を経験したことを考えると、それはもっともな心配だと思います。人々は国民を養うことの重要性を認識しているのです。

 ですが、私が指摘したいことは、日本人がカロリー摂取量の60%以上を外国からの食品に依存している、という点です。日本の農業従事者の平均年齢は現在70歳です。日本には、農業の担い手となる若者がいません。もし日本が外国からの農産物に市場開放しなければ、10年、20年後には国民を養うことがもっと難しくなっているでしょう。農業問題だけが、日本と米国との自由貿易協定締結を阻んでいるとしたら、本当に残念なことに思えます。

 日本の農業市場を米国、カナダ、オーストラリアの農産物に開放したらいかがでしょうか。これらの民主主義国は、食糧に関する政治的理由で、食糧政策について日本をを脅すようなことはしません。なぜならこれらの国々は、日本と同じ価値観を持ち、日本と同じように民主的プロセスを信頼しているからです。日米の経済の未来について、そして両国経済がこれまで以上に統合され協力的なものになることがどれほど大きな意味を持つかについて思慮ある議論を行えば、自由貿易協定の交渉を大きく前進させ、自由貿易協定交渉の本質に迫ることができるでしょう。そうすることが日本の利益であり、米国の利益でもあると思います。そして、将来的には、それが両国のいろいろな層の人々の目標になることを望みます。

問 グローバル化が国家間の経済の発展につながり、その中で変化に対する即応力を身に付けていかなければならない、という大使のご意見に賛成します。しかし、グローバル化していくほど、お互いに信頼感がないと衝突が起きます。そういう意味では、先般横須賀で起きた不幸な事件では、シーファー大使をはじめとする米国側の対応が適切であったため、今のところ感情的な問題に発展せずに済んでいます。

 日米安全保障条約の中で、米軍基地問題は非常に大切です。しかし、基地がある以上、事件を絶対に回避することはありえません。けれど、たとえ事件が起きてもお互いに信頼関係があれば、それをうまく解決することができます。そういう意味で、地位協定を見直して、信頼関係をきちんとつくっておくことが、今の日米関係において非常に大切ではないかと思っています。

 もうひとつは中国の問題です。中国はこれからも発展しますが、まだ成熟した国ではありません。従って、いろいろなことが起きると思いますが、その場合、日本だけの力ではそれを制御することはできません。そこで、日米に中国と韓国を入れて、経済だけでなく安全保障についても話し合う、定期的な会合の場をつくって議論する必要があると思います。対話を続ければ信頼関係を構築することができます。

シーファー大使  この数週間に横須賀で起きた出来事は悲惨なものです。許しがたい事件であり、文明社会がとても容認できるものではありません。ですが、すでにご存知のように、日本と米国はこの事件において正義が果たされるよう協力してきました。事件はまだすべて解明されたわけではありません。なぜなら裁判はこれからだからです。しかし、すべての米国人がこの出来事を遺憾に思い、日本で立派に働いているすべての米国人、軍人、民間人を問わず圧倒的多数の米国人が、当然のことながら、日本の皆さんと同じように衝撃を受け、憤慨しています。私が昨日、横須賀市長、外務大臣、神奈川県知事にお会いし、事件に対する米国側の遺憾の意を表明し、この事件において正義が果たされるよう引き続き協力することを約束したのはそのためです。とは言え、この過程において、日米地位協定がうまく機能したことを知ることは重要だと思います。私たちは過去の過ちから学んだのだと思います。最初、その人物がこの犯罪に関与していることが確認されたとき、米軍の犯罪捜査局は日本側に国と県の両方のレベルで協力を要請しました。日本側はそれに応えてくれ、両国は協力して犯罪捜査に当たりました。米国側と日本側が一緒にこの人物の事情聴取を行ったのです。最終的に日本側が決断したとき―米国側がその人物の身柄を拘束したことで、彼に対する取り調べが始まりました。米国側が彼を拘束した際には、神奈川県警と警察庁が立ち会いました。ですから、米国が単独で捜査を進めていたのではないのです。日本側と連携しながら捜査を行ったのです。取り調べが進む間、米国側はその人物の身柄を拘束していました。また、日本側の捜査にとって有用と思われる情報を提供しました。捜査についての詳しい説明は避けさせていただきますが、裁判が始まり結果が出れば、日本の皆さんは、米国が総力を挙げて捜査に協力し、支援したことを理解してくださるでしょう。そして、最終的に日本側がその人物の身柄引き渡しを求めたときには、即座に引き渡しが行われたと思います。これは、制度がうまく機能しているということであり、日本と米国はこれを誇ることができます。

 中国と韓国に関するあなたのご意見に関してですが、世界的課題を対処する場合に、ほかにも協力できる道がないかを探り、共通の手法を取ることが必要だとする意見には全面的に賛成します。米国は、中国を封じ込める必要はないと思っています。一方で、私たちが実現したいと思っていることは、中国を新たな国際秩序に組み入れ、大国としての野望を抱くだけでなく、大国としての責任を果たしてもらうことです。それはどういう意味かと申しますと、もし中国が国際体制により深く関与すれば、つまり中国が、法の支配から利益を受けること、政府の透明性から利益を受けること、国際貿易から利益を受けることを認識し、そして国際制度を構築して維持し、それが平和的な国際制度になるように統合することが自らの利益になることを認識すれば、真の進歩が見られると思う、ということです。

 先に申し上げた点に戻りますと、中国を国際秩序に組み入れるためには、強固で、健全な日米同盟が鍵となります。そして、その実現は、米国人、そして日本人と中国人が、中国を国際制度に組み入れるために役立つと考えています。

 韓国に関しては、米国、日本、韓国の協力関係が深まる新たな時代に入りつつあると思います。これは好ましいことだと思います。日米の2国間関係、そして米韓の2国間関係の状況を見るとき、日本と韓国の協力が拡大することによって、日米、米韓の関係が弱まることはない、ということを両国に請け合いたいと思います。日韓の協力拡大は、むしろ両国それぞれと米国との2国間関係を強化します。なぜなら、この3カ国が外交政策で別々の道を歩むより、連携した方が、平和、民主主義、寛容をもたらすための大きな力となるからです。

 ようやく始まった新たな時代において、日米韓が協力、協調を深めていくことを大いに期待しています。それが、この3カ国のいずれにとっても利益となると思います。

問 トヨタのサンアントニオ工場では、ほかと比べて賃金が高いという話が出ましたが、米国では、外資系企業が平均よりも高い賃金を払った場合、それによって米国企業が迷惑を被るなどという非難の言葉は出ないのですか。

シーファー大使  トヨタの従業員が、ほかの地域の賃金を50%上回る時給18ドルをもらっていても、そのような状況にはなりません。トヨタの賃金は、米国のほかの地域の自動車メーカーの労働者が稼ぐ賃金と同水準ではありません。けれども、私が言いたかったのは、人々は時として、グローバル化は低価格、低賃金の仕事をつくり出すとしか考えないが、この事例では、テキサスの時給の水準に関して、トヨタの進出によって、この地域で得ることができる条件の良い仕事が大幅に増え、だからこそ地元がトヨタを受け入れた、ということです。サンアントニオでは、トヨタは今や非常に人気のある企業です。トヨタはほかの活動もしています。地域社会の立派な一員です。サンアントニオの学校やほかの機関に多額の寄付しており、それによって地域社会の中での地位が向上しました。私が思うにその違いは―そして、日本の自動車業界全体が、米国への投資の重要性を理解したと言わざる得ません。なぜなら、ゼネラル・モーターズ、フォード、クライスラーは近年、困難な時期を過ごしていますが、もし彼らが1980年代に今の困難に直面していたなら、激しい日本たたきがあったことでしょう。米国で今起きていることは、日本の自動車メーカーが米国に多額の投資を行なってきたため、米国人がその企業で働き、米国人が買う商品を製造している、ということです。それが日本の自動車メーカーの利益、ひいては米国人全般の利益となっているのだと思います。だから、20年前だったら経験していたかもしれない日本たたきが、今は起きていないのだと思います。

問 関西地区あるいは大阪が魅力的で活力のある地域となるためにはどうすれば良いでしょうか。

シーファー大使  関西は今も非常に魅力があると思います。そして、米国企業、米国の投資、そして法の支配が行き渡っている国にビジネスをする素晴らしい機会あると考える米国人にとっては、関西だけではなく日本全部が魅力的です。米国人だからという理由で米国人が差別されることはありません。ですから、日本には素晴らしい機会があると思います。

 昼食会の前に橋下知事、平松市長とお話ししたとき、大阪の川をより魅力的なものにして、トヨタ工場が進出しているサンアントニオ市に流れるサンアントニオ川沿いの歩道「リバーウォーク」のようにする計画について説明を受けました。その計画は素晴らしいものだと思います。私は、サンアントニオの経験についてお話ししました。1960年代、私がまだ若く、テキサスに住んでいたとき、私たちはよくサンアントニオに出かけました。当時、サンアントニオ川は概して、この都市を流れるコンクリートで出来た水路でした。テキサス革命130周年を祝う1966年から1968年にかけて開催された「へミスフェアー(万国博覧会)」を機に、サンアントニオ市とテキサス州は、最小限必要な数の新しいレストランや小売店をつくって人々に訪れてもらうために、リバーウォークに投資しました。今日、リバーウォークは米国だけではなく世界でも有数の観光名所のひとつです。市長や知事はリバーウォークを見たときに受けた印象と、同様の開発を大阪で実現したいという希望について語っていらっしゃいました。

 都市の美しさや、人々が毎日暮らし、働く場所の美しさを時間をかけて改善すれば、私たちの生活を豊かにするだけではなく、ほかの人たちも訪れてみたいと思うような場所に変えることができると思います。そしてそれは、世界中のすべての都市にとって素晴らしい機会になると思います。都市がどのように計画され、どのように機能しているかは、人々がそこに住みたいと思うかだけでなく、将来そこを訪れたいと思うかを大きく左右します。大阪は訪れたいと思う素晴らしい場所です。ここを訪れるたびに楽しんでいますし、大阪の方たちが自分たちの地域社会を誇りに思っているのを見るのも楽しいことです。ここは明らかに、皆さんが繁栄を望んでいる場所であり、皆さんは地域全体の成功を可能にするために時間と労力を注いでいます。その点について、私は皆さんに敬意を表します。

http://tokyo.usembassy.gov/j/p/tpj-20080404-50.html

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