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http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090123/183682/
2009年1月29日
これでは“派遣切り”予備軍に
役所が貪る「外国人介護士・看護師受け入れ利権」
出井 康博
今日1月29日、約100人のインドネシア人介護士が、日本国内の老人介護施設に配属され、仕事を始める。彼らは、日本が初めて介護分野で受け入れた外国人労働者だ。
日本とインドネシア両政府が結んだ経済連携協定(EPA)に基づき昨年8月、ほぼ同数の看護師とともに来日し、日本語の勉強に励んできた。首都圏の介護施設に配属が決まったD君もその1人だ。筆者はD君が来日する直前、インドネシアの首都ジャカルタで取材したことがある。
いよいよ日本で介護の仕事を始める前に、D君の近況を知りたくて、2週間前に彼と会って話を聞いた。インドネシアにいた頃、D君は日本語が全くできなかった。しかし日本に来て半年が経ち、彼は日本語で次々と質問してきた。
「アパートでインターネットは使えますか」
「ヘルスインシュランス(健康保険)は入っていますか」
「モスクはありますか」
特訓のかいあって、D君は日本語で簡単な会話ができるまでにはなっていた。だが、筆者には疑問だった。果たしてこの程度の日本語で、今日から始まる介護の仕事を務められるのか…と。
インドネシア人介護士・看護師の就労が開始したのはいいが
久々に会った筆者に彼が次々と質問してくるのは、日本語ができるようになったことを示したかったからではない。
就労先の情報が、受け入れ実務を担った厚生労働省の関連団体から十分に得られないまま、配属されようとしているからなのだ。異国の地に来て、現地の言葉も十分に話せない状況では、不安になって藁(わら)にもすがりたくなる気持ちがよく分かる。
こうしたD君の様子を見るにつけ、外国人介護士や看護師の受け入れが始まったのはいいが、彼らの就労先での生活が不安になってくる。
5年後に介護職は50万人不足の予測も
D君は、もともとジャカルタで看護師として働いていた。当時の月収は日本円で1万円にも満たなかった。日本行きを希望したのは、インドネシアでは考えられない高収入に惹かれてのこと。本当は日本でも看護師をやりたかったが、経験が短く介護士で申し込むしかなかった。
インドネシアからは今年も、最大で800人近い介護士・看護師が入国する。加えてフィリピンからも、2年間で介護士600人と看護師400人の受け入れが始まる。ほかにもタイやベトナムなどが日本に受け入れを求めており、介護・看護分野の「人材開国」は今後、一気に進む可能性を秘めている。
その背景には、日本の介護や看護の現場で深刻化する人手不足がある。最近、景気悪化で日本人の雇用不安が声高に叫ばれ始めているが、一方では働き手の集まらない職種も存在する。とりわけ介護分野は深刻で、厚労省は5年後の2014年、40〜50万人もの介護職が足りなくなると予測する。
政府は、介護職の報酬を引き上げる方針を打ち出した。東京都は1月、“派遣切り”などで失職した人たちが介護ヘルパーの資格を取得する際、講座受講料を補助することを決めた。とはいえ、介護に人材が十分に回る保証はない。
そんな中、外国人労働者に期待を寄せる介護施設は少なくない。だが、肝心の厚労省は、
「人手不足解消のために外国人を受け入れるのではない」
と強調する。 では、介護士らは何のため、誰のために受け入れられたのか。
厚労省傘下の財団法人が徴収する手数料は16万円
今日から就労を始めるインドネシア人介護士は、本来であれば300人に上るはずだった。それが3分の1程度にとどまった大きな原因は、厚労省にある。同省の定める条件があまりに厳しく、受け入れに関心はあっても二の足を踏む介護施設が続出したのだ。
介護士を受け入れる施設は、彼らへの賃金とは別に斡旋手数料や日本語研修期間への支払いで、1人につき60万円近くを負担しなければならない。受け入れは2人以上が原則で、小規模な施設にとってはバカにならない金額だ。
それを山分けするのが官僚機構である。まず、日本側で唯一の斡旋機関を務める「国際厚生事業団」(JICWELS)が、手数料などの名目で1人当たり約16万円を徴収する。JICWELSは厚労省傘下の財団法人で、歴代理事長を同省の事務次官経験者が務める天下り先だ。
斡旋といっても、受け入れ施設は介護士と事前に面接すらできない。互いの名前などを伏せた簡単なデータを基に、施設側と介護士が希望を出し合い、それをJICWELSがコンピューターでマッチングするだけだ。
施設にとっては、初めて受け入れる外国人である。インドネシアでの面接を希望する施設も多かったが、現地に行けば「人買いになる」(JICWELS担当者)という不可解な理由で、面接は許されなかった。
経産省と外務省も利権に関与
一方、介護士らが来日後に受ける日本語研修も官僚機構の利権となった。研修はすべて、経済産業省と外務省の関連機関が担う。介護士らの受け入れには、今年度だけで20億円近い税金が使われるが、出所は両省の政府開発援助(ODA)予算である。つまり、金を出した役所が、関係する機関に仕事を割り振ったわけだ。
たとえ税金を使おうと、また官が外国人の受け入れ利権を独占しようとも、それが国の将来や、施設で介護を受ける利用者にとって好ましい制度になっていれば問題はない。だが、現実は違う。
JICWELSは、半年足らずの日本語研修で「小学3〜4年レベルの語学力を目指す」としていた。しかしD君をはじめ、筆者が就労前にインタビューした数人の実力は、そのレベルにすらない。
そもそも、来日前にインドネシアで日本語を勉強すれば、1〜2年かけようと日本で研修するよりずっと安く済む。その間、日本式の介護も併せてしっかり教育し、受け入れ施設にも面接してもらう。そして、一定のレベルをクリアした人材だけを日本に招いていけば、施設と介護士ともに納得できるはずなのだ。
日本人には不要の「介護福祉士」の資格取得を強制
厚労省は、インドネシア人介護士が就労を始めて3年後、「介護福祉士」の資格取得を義務づける。日本語で国家試験を受け、一発で合格しなければ、故郷に帰国しなければならない。
日本人であれば、介護福祉士の資格がなくても仕事を続けられる。看護師などの場合と違い、資格の有無によって仕事内容が変わることもない。そんな資格の取得が、外国人に限って強要されるのだ。
しかも試験は、日本人でも2人に1人が不合格になる難関だ。インドネシア人の現在の日本語レベル、さらには仕事の合間を縫っての受験勉強では、恐らく大半の介護士が試験に落ち、帰国を余儀なくされるのは間違いない。
施設としては、3年かけて仕事を教え、1人前に育てたところで人材を失うのだ。介護を受ける利用者にとっても、慣れ親しんだ相手と別れることになる。十億単位の税金をつぎ込んだ結果がこうだ。官僚機構の仕事が増えただけで、後は何も残らない。これが今の制度の実態なのである。
もちろん、インドネシアなど発展途上国には、たとえ短期間の就労であっても日本で働きたい人材は多いだろう。しかし、先進諸国で少子高齢化が進む中、若く優秀な労働力に対しては世界的な争奪戦も始まっている。日本が身勝手な受け入れ政策を続けていれば、やがては彼らからも見放されることになる。