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----産科医療のこれから から転載------------------------------------------------
http://obgy.typepad.jp/blog/2008/04/post-1341-14.html
第三次試案「医療安全調査委員会」を考える
(関連目次)→
ADRと第三者機関 目次 http://obgy.typepad.jp/blog/2007/07/adr_0636.html
各学会の反応 http://obgy.typepad.jp/blog/2008/02/post-bb70.html
(投稿:by 僻地の産科医)
長崎県の山崎先生からの投稿です!
実は雑誌投稿前の原稿を投稿していただくのは、
初めてのことでしてとても光栄です(>▽<)!!!!!
ぜひぜひ読んでくださいませ!よろしくおねがいします ..。*♡
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第三次試案「医療安全調査委員会」を考える
山崎産婦人科医院 山崎 裕充
福島県立大野病院産婦人科医師逮捕事件 http://obgy.typepad.jp/blog/2007/10/post_aeed.html を契機に、「医師法21条の異常死の届出」と「医療現場における業務上過失致死罪の適応」の問題について様々な論争が巻き起こっています。
私達、医療関係者の願いは「警察が医療現場に介入しないこと」、「医師法21条の改正」および「死因究明・再発防止のための調査機関の設立」の三点です。厚生労働省(平成20年3月29日、医療未来研究会での佐原康之厚労省医政局総務課医療安全推進室室長)によれば「医療事故の原因を究明し、再発防止を図る仕組みが必要だが、現状はこれを専門に行う機関がなく、刑事・民事手続にその解決が委ねられているので、中立的な第三者機関に届出を行う制度を創設すべく」検討がなされ、「医療安全調査委員会」の設立案が第三次試案 http://obgy.typepad.jp/blog/2008/04/post-1341-4.html として4月3日に発表されました。現在は、異常死があれば医療機関は警察へ届け出るが、新たな制度では医師法を改正し、医療機関からの届出は安全調査委員会へと一本化し、遺族からの届出も委員会が受け付ける制度となっています。
新制度では医療機関から委員会へ届け出れば、医師法21条の警察への届け出は必要ないとされていることから、私達、医療関係者が希望していた「医師法21条の異常死の届出」と「死因究明・再発防止のための調査機関の設立」の二点は達成されそうですが、「警察が医療現場に介入しないこと」 http://obgy.typepad.jp/blog/2008/04/post-1341-11.html の問題は解決されるのでしょうか。新制度になれば、遺族や第三者による警察署への告訴・告発による届け出はストップされるのでしょうか。遺族・家族が希望するのは、第一義的に医療側と同じ「原因究明・再発防止」や「自浄作用」なのでしょうか。それらは建前であって、警察に駆け込む本当の想いは「医療ミスがあったかなかったか判らないが、愛する家族が死亡した」、「あの医者を処罰して欲しい」という怒り、恨み、復讐の感情ではないでしょうか。
ここで流れをわかりやすくする為に、厚生労働省が設置をすすめている医療安全調査委員会の流れを「右の道」とし、遺族や第三者からの警察署への訴え(告訴・告発)の流れを「左の道」とします。「右の道」は「原因究明・再発防止」への道であり、「左の道」は「処罰」、「非難・罵倒」、「捜査」の道ともいえます。問題なのは今回の新しい「右の道」より「左の道」が誰でも容易に入れて、道も広くなっていることです。遺族が「右の道」へ届け出ずに、あるいは「右の道」と同時に「左の道」へ届けた場合はどうなるのでしょうか。
刑事で相手を訴えるということは、その相手を罪に問い、刑務所に入れるなどの処罰をしてもらう為になされます。この相手を訴えるやり方が告訴・告発で、警察署か検察庁にすることになっています。告訴は相手が犯罪を犯したことと、その相手を処罰してもらいたいという意思を申し出るだけでよく、告訴できる人も遺族に限らず、弁護士でも第三者の誰でもできます。警察は告訴を受けた場合は速やかに事件を検察庁に送致しなければならないとされています(刑事訴訟法246条)。
つまり、遺族や第三者から警察署に届け出がなされれば、百パーセント書類送検がなされ、書類送検がなされた時点でマスコミが事件を報道することになります。マスコミの報道はその原因が何であったのかとか、過失があったかどうかよりも、死亡の重大性のみが強調されて報道されます。「患者が死亡したのだから、マスコミの報道ぐらいがまんしなければならない」のでしょうか。医療事故の報道は、せめて検察が起訴を決めてから、ほんとうなら裁判で決着がついてから報道されればまだしも、「有罪か無罪かも判らない」、「医療ミスがあったのかなかったのかも判らない」、「あったとしても本当は軽い過失であったかも判らない」段階で、マスコミによって刑事事件として報道されるために、一般の人は「医療ミスという犯罪があった」、「人殺しがあったかも知れない」という印象や理解がなされます。マスコミの影響は大きく、報道された医療機関では患者や妊婦の受診が激減し、医療の萎縮、休業や医療機関の倒産にまで追い込まれることが多々あります。遺族や第三者が納得ができないという感情で警察に駆け込むことによって、医療機関は地域の財産 http://blogs.yahoo.co.jp/seita/21808446.html なのに、マスコミ報道がなされ、白か黒か判らない内に医療機関が崩壊していくのはあまりにも苛酷で不公平といわざるを得ません。新制度に届け出がなされてもマスコミの報道はなされるでしょうが、それは原因究明・再発防止のとり組みが始まったという内容のもので、書類送検のときのように犯人扱いする内容にはならないことが救いとなります。
医療機関の評判を落しめようと考える第三者や、賠償金や示談金を目当に遺族にたきつけて事件を公にしようと考える第三者が、警察に告訴・告発することでマスコミ報道が悪用されているかも知れません。現に、京大病院医療過誤事件(平成18年3月に脳死肺移植手術を受けた患者が7カ月後に死亡した事件で、京都府警捜査1課と川端署は、平成20年3月13日に業務上過失致死容疑で、呼吸器外科医、心臓血管外科医、麻酔科医の3人を書類送検した事件 http://plaza.rakuten.co.jp/tinyant/diary/200803140000/ )にその例がみられます。事件後に京大病院内の安全調査委員会では原因究明と再発防止の検討が行われ、「チーム内の意思疎通が十分でなく、手術中の対応に重大な過誤があった」とする調査結果を平成18年10月に発表しました。このように当該病院できちんとした対応・検討がなされていて、同年5月以降は脳死・生体を問わず肺移植手術が自粛され、担当教授は辞職し、患者ご家族に説明と謝罪がなされ、遺族とは示談が成立し、遺族による警察への訴えもなされていないのに、第三者によって告発され書類送検されています。
この事件の意味するところは大きいものがあります。どのように院内や院外の安全調査委員会で「真相究明・再発防止」が検討されても、遺族に説明や謝罪がなされても、いつでも第三者による「左の道」から事件への介入や、委員会の調査や結果の無力化が容易に可能であるということです。新制度が発足しても刑事が委員会の上に立てば、この制度は何の機能も果たさないばかりか、刑事の医療への介入を手助けする機関になってしまいます。新制度では「遺族が告訴・告発しても、警察は委員会による調査を勧めることになる」とか、「捜査に当たっては、委員会の専門的な判断を尊重し、委員会の調査の結果や委員会からの通知の有無を十分に踏まえて対応することが考えられる」と説明されていますが、これらは口約束にすぎず、法律的に担保されていません。告訴権は誰にでもあり、それがなされれば自動的に検察へ送検される制度が現存している法律です。
どうすれば「右の道」と「左の道」を合流させ「原因究明・再発防止」の目的に向かわせることができるのでしょうか。新たな制度をつくる場合には、まず医師法21条の「異常死体の範疇から診療行為に関連する死亡をのぞく、という一文を付す」(日本医学会のパブリックコメント)というように医師法の改正をすることが第一歩です。もともと医師法21条の拡大解釈により医療現場は混乱に陥っているわけですので、委員会へ届ければ警察へ届けなくても良いという条件付きではなく、拡大解釈がなされないように法改正がなされるべきです。そのうえで、日医のいうように「医療事故を犯罪捜査から切り離す」ことです。新制度では医療事故は被害者がいる犯罪であるととらえています。「患者の取り違えや投薬ルートの誤りなど初歩的な注意義務を怠った過失により、患者のかけがえのない生命を犠牲にするのは許されない」、「過失で死ぬのは許さん」という姿勢になっています。過失を肯定するわけではありませんが、どこの世界にも過失はあります。とくに医療は一定の侵襲を加えることによってはじめて成り立つ業務であり、医療における過失は「それがどんなに小さなものであれ、わずかに下手だったとか、わずかに判断ミスをした」ものであれ重大な結果(死亡)となります。新制度では「刑事処分は“重大な過失”に限定する」となっていますが、そうなればほとんどすべての過失が刑事処分になってしまいます。医療行為における過失は、被害者の救済や過失をおこした責任者の行政処分や民事賠償は必要であっても犯罪(刑事)ではありません。いつの時代から日本は患者を助けようとした者を犯罪者と同じように裁くようになったのでしょうか。捜査機関へ通知する事例は、医療水準からの逸脱の程度や、過失の重大さで決めるのではなく、犯罪性の有無によって決められるべきです。
日本産婦人科学会は平成20年2月29日に「資格を有する医療提供者が正当な業務の遂行として行った医療行為に対して、結果のいかんを問わず、“業務上過失致死罪”を適応することに反対する http://obgy.typepad.jp/blog/2008/02/post-1341-50.html 」と発表しています。交通事故などの一般的な過失と医療での過失は「応招義務と善意の行為」の点で異なります。「民事は警察では扱わない」というように「医療過失は警察では扱わない」、「警察は犯罪を扱う」という原則を確認、確立していただきたいと思います。そうすることが業務上過失致死容疑での警察の介入を防止することもなるし、遺族が「左の道」へ届け出ても「右の道」へ合流させることも可能となります。「過失は犯罪ではない」という論理や概念が欠如していれば、どのような委員会でも魂のない制度になり、医療界は不安を抱えたまま萎縮医療は続くことになります。新制度はもっと概念的に検討され、医療側と患者側が納得でき、世界に誇れるような制度になって欲しいものです。
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