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ノーマライゼーションの展望と限界
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投稿者 kanon 日時 2008 年 3 月 07 日 20:35:20: FUgy0.1v81/ao
 

ノーマライゼーションという言葉は、福祉の世界で頻繁に使われる機会が増え、教科書でもよく紹介されるようになりましたが、歴史を遡るとまだ比較的新しい概念だということが分かります。まず、この言葉が定着する歴史的背景を概観し、どのような経緯に基づいて拡がっていったのかを見ていきます。その上で、ノーマライゼーションという言葉の意味を少し掘り下げながら、間違った認識に至らないようなポイントを述べてみます。

ノーマライゼーションの思想が誕生した背景には、1950年代のデンマークでの障害者運動が、その発端となりました。かつては、弱者を社会的に保護する仕組みとして、障害者を施設に収容する方法がとられることが多く、それが一般的な施策と考えられており、これはデンマークでも同様でした。そして、保護ということを名目に、障害者を施設に収容して処遇する、いわゆる隔離政策がとられていたわけです。この施策が定着し普及すると、その影響で入所者の数が増えていき、施設の規模も大きくなっていきました。いわゆる巨大コロニーといわれる施設が一般社会から離れた郊外などに建設されるようになり、障害者はそこで生活することを余儀なくされていたわけです。例えば、日本などでも福祉施策は行政機関の措置により実施されていた経緯があるのですが、そこには対象者の意志を反映した処遇を施すことが困難というよりも皆無でした。

さて、このような背景の中で、1951年から1952年にかけて「デンマーク知的障害者の親の会」が発足しました。隔離政策により自分の子どもたちが、尊厳を保たれていない状況、つまり、保護が対象者である当事者の要求に応えられていないことに疑問を呈したことから、制度の揺らぎが起こりました。親の会が提唱したのが「障害者を排除するのではなく、障害を持っていても健常者と均等に当たり前に生活できるような社会こそがノーマルな社会である」という考え方です。つまり、こうした考え方を実現するための取り組みがノーマライゼーションと呼ばれることになり、こうした要望が、やがて政府にまで届くようになったことで、当時の社会省知的障害者担当者だったバンク・ミケルセンが共鳴することで行政側の協力も得られるように変化していき、やがて1959年の福祉法に結実していきました。

このデンマークでの取り組みはスウェーデンに伝えられると大きな影響を与えることになりました。特筆すべきものとして、スウェーデンではニルジェがこれまでの自らの取り組みや多くの交流の中から培ったものを整理して「脱施設化」を提唱し、これによってノーマライゼーションが世界中に広がっていく契機をもたらしました。また、スウェーデンでは障害者施策の法整備も徐々に進展していくことになったわけですが、具体的には、1967年の援護法(保護から援護へ、施設からグループホームへ)、1985年の新援護法(施設ケアから地域ケアへの転換を明示、知的以外の対象者枠の拡大)、1993年のLSS法(援護から権利の達成→自己決定権、「機能的な障害をもつ人」という表現で対象者枠をさらに拡大)があげられます。

これまで述べたように、ノーマライゼーションの思想はデンマークやスウェーデンなどの北欧諸国から発展してきたわけですが、1970年代に入ると、先進諸国がノーマライゼーションの思想をこぞって取り入れたことで世界中に広がっていくようになり、やがて、国連が1981年を国際障害者年とすることを決議したことで結実した形となりました。この時のテーマが「完全参加と平等」とされたことで、障害に対する考え方を「助けるもの」から「自立を支援するもの」への転換が目指されることになりました。また、1983年から1992年までを国連障害者の10年とし、福祉の理念としてのノーマライゼーションの普及とその定着が図られました。その後、インテグレーション(統合)という新しい言葉も使われていますが、それはノーマライゼーションの下位概念としての位置づけで読み取られていると解せばよいでしょう。また、近年では、アメリカのADA法(障害を持つアメリカ人法)やWHOが掲げたICFの概念など、ノーマライゼーションの思想が深化した形でそれを踏まえたものとして、制度上に新しい影響を及ぼしている時期と捉えられましょう。ここで注意を要することは、市場原理主義政策でいわれている「自己責任」とノーマライゼーションなどの福祉施策からいわれている「自己責任」とを混同してはならないことです。

市場原理主義やネオリベが提唱する自己責任についてひとことだけ述べておきますと、市場原理主義の描いた人間像が公平よりも効率を優先するのは資本の循環からも導くことができるのですが、つまるところ、資本は利潤追求を優先しますので、どうしても剰余価値を必要とします。そのために自由な競争と称して他者を手段として利用することが効率的であると錯覚してしまいます。また、このように野蛮化現象している人間社会にあっては、合理的・効率的に人間を手段として(モノ化)支配することが勝者として称えられ、それに追従しない者に対しては、努力が足りない結果だとして(例えば貧困)、それを享受することが自己責任だとすり替えられたりします。資本の軛の原因が、貨幣を介しての選択肢であり、いわゆる交換価値を得るための差異化に他ならないため、ネオリベがヘゲモニーを握る下では、グローバルで資本主義社会を強行するエコノミックアニマルたる群れの描いた自己責任論が強調されることになります。そして、それが今の現実なわけです。

話を戻しますと、ここまではノーマライゼーションの思想形成期から始まって、それが世界的に広がりを見せ、普及した経過を述べてきました。繰り返しになりますが、ノーマライゼーションの思想は、デンマークで知的障害者のある子ども達の親の会の運動の中から、隔離と収容型の福祉への批判を通して生まれたわけで、つまり、親たちにとっては、障害のある自分たちの子どもを分け隔てなく地域で生活できるようにしたいという願いがあり、いわば草の根的な運動が発祥だったことです。当事者運動の広がりが世界的に認められて、それが、世間一般の常識として認知されたことはとても重要なことだと思います。

さて、ノーマライゼーションとは何ものかをノーマルにすることであり、さらには、ノーマルであることが可能なように障害を取り除くことなのですが、ノーマルになるためには、それ自体に働きかけるのか、あるいは周囲の環境を対象者にあわせるべきなのか?

障害の有無に関わらず、すべての人たちが社会参加できるような環境を築くことがノーマライゼーションの思想なのですが、ここで、ノーマライゼーションの権利主体について考えてみますと、ある組織体において私たちが、ノーマルな社会常識を共有しているということを暗黙の前提としていて、そこで暮らしているのが普通の状態だと思います。そうであるからこそ、ノーマルな在り方に基づいて、みんなが同じであろうとし、みんなが同じでないのなら、その障壁(バリアフリー)を取り除こうと働きかけていったりもするのです。だから、組織体の一員として、組織体のノーマルな在り方に従うことで、そこでの権利性は主張され、逆にいえば、権利を獲得しているともいえます。ゆえに、この規範からはずれると権利性は逸脱されますし、そうと言ってもノーマルな在り方や判断は私たちが選びとれるものではないのです。(例えば、日本で生まれた人が日本人以外の外国人として国籍を持つことは許されません)

それは、自覚的というより、むしろ無自覚的で意識以前に存在しているものといえましょう。したがって権利主体は、その組織体の中で生まれたという事実のみにより必然的に無意識的にその枠組みに組み込まれるということになります。さらに、このノーマル化には、家族や友人、教育現場でのコミュニケーションはもとより、メディア等を通じて維持され、培われていきます。また、ノーマライゼーションの世界的な広がりから考えた場合、ある別の考え方を取り入れて(障害者の脱施設化)、それが浸透することで常識的な判断に転化することもあり得ます。だから、一方でアブノーマルな主張というのも、実はこの社会からの「贈り物」といえるのでしょうが。

 ノーマライゼーションの理念は、たとえ一次、二次障害を有していたとしても、組織体の中で生活できるようにしていくことですが、それは、直接本人に働きかけるのか、周囲の環境を変えていくのかの別はありますが、だれでもが普通の暮らしをできるようにと願う、ネーションの感情(平等の精神)がそこには宿っているといえるでしょう。さらには、国家を超えたところの人類という視点に立った場所にこそ、本当の意味でのノーマライゼーションの礎を築く必要があると思われるのです。

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