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JANJAN
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http://www.news.janjan.jp/column/0902/0901316575/1.php
2003年、朝日新聞に載った「福岡市の小学校教諭が担任の児童をいじめた」という記事をきっかけに、「殺人教師」のレッテルを貼られた教師は停職6か月の処分を受けた。両親は教師と福岡市を訴え、330万円の賠償金を勝ち取った。だが、フリーライター福田ますみ著「でっちあげ」によると、事実は報道とは全く逆で、両親こそ名うての「学校クレーマー」だったらしい。現場を踏んで真実に迫った著者は立派だ。
◆第1報は朝日
「朝日」西部本社発行版の2003年6月27日付朝刊社会面に<小学校教諭が小4児童をいじめ 家庭訪問直後から 福岡市>という見出しの記事が掲載された。全文をお読みいただこう。
<福岡市立小学校で、40代の男性教諭が4年生の男子に、「ミッキーマウス」や「ピノキオ」と称して鼻や耳を引っ張るなどの行為を繰り返し、学級担任を外されていたことがわかった。児童の親は、家庭訪問の際、教諭に、母親の曽祖父(そうそふ)が米国人であることを話したのを境に態度が変わったとしており、差別意識が背景にあると主張。学校側は「家庭訪問で『血が混じっている』など不適切な発言があった。問題になった行為との因果関係ははっきりしないが、人権意識が欠けていた」としている。
◆5つの「刑」を選択させる
学校側によると、問題が表面化したのは5月中旬。下校前、この児童にだけ10秒で荷物を片づけるよう命じ、できないと、耳を引っ張る「ミッキーマウス」、鼻をつかんで振り回す「ピノキオ」、ほおを引っ張る「アンパンマン」など5つの「刑」から1つを選ばせ、実行していた。いじめは約半月続き、児童は耳が切れて膿(う)むなどしたという。
5月末に両親が学校側に抗議し、教頭ら5人が交代で授業に立ち会うようになったが、その後も頭をたたいていたことが判明。教諭は6月23日に担任から外された。
◆「汚らわしい血が混ざった」
一方、児童の親の話では、5月12日にあった家庭訪問の際、児童の母親の曽祖父が米国人であることにふれたところ、教諭が「日本は島国で昔は純粋な血しかなかったのに、汚らわしい血が混ざった」と発言したという。「問題が起きたのはその直後。背景に外国人差別があるのは明らか」と訴える。
児童は家庭訪問の際、担任の発言を耳にし、両親に「僕の血は汚いの」と尋ねるようになったという。両親は「2つの文化にまたがる個性を誇ってほしかったのに、教諭の言動は子どもを深いところで傷つけた」と話している。
◆校長が「差別と受け止められてもやむを得ない」
校長は「教諭からは『血が混じっているんですね』と言ったとしか確認できず、耳を引っ張るなどの行為との因果関係ははっきりしない。だが、その後に問題が起きており、差別と受け止められてもやむを得ない」と釈明。教諭自身は「『汚らわしい血』と言った覚えはなく、(児童に対する行為も)差別が理由ではない。ただ、自分の行動で子どもを傷つけた責任は負いたい」と話している。>
◆ヒットラーのような教師
この記事がホントだとすれば、とんでもない教師がいるものだということになる。国粋的な人種差別主義者で、暴力を振るう。ヒットラーのような日本人が教師になっていて、教室でとんでもない蛮行を繰り返しているということになる。
朝日の報道の直後から、西日本新聞をはじめとする福岡のメディアは、激しい「追っかけ」報道を展開した。そしてついには両親が損害賠償請求訴訟を起こすことになった。
◆損害賠償請求訴訟
それを報じる読売の記事は03年10月9日付朝刊西部本社版社会面に掲載された。
<いじめ教諭を賠償提訴 小4に「生きる価値ない飛び降りろ」 福岡市含め両親ら請求 弁護士503人支援>という見出しである。これも全文をお読みいただこう。
◆全国の503人がマンモス弁護団
<福岡市西区の市立小学校の男性教諭(46)が、4年生男子児童(9)に差別発言や暴力などの「いじめ」を繰り返していた問題で、男児と両親が8日、教諭と学校を管理する市を相手取り、慰謝料など1,320万円の損害賠償を求める訴訟を福岡地裁に起こした。問題に関心を寄せる全国の弁護士503人が原告弁護団を結成し、訴状の代理人名簿に名を連ねる異例の裁判になった。
代理人の1人の大谷辰雄弁護士(福岡市)によると、精神的ショックを受けている男児を励ますために、弁護士仲間に電話やメールで参加を呼びかけたところ、1週間で500人近い賛同者が集まったという。
実際の法廷に立つのは、当初から相談を受けている福岡市内の弁護士ら数人だが、大谷弁護士は「500人もが原告代理人になった裁判は聞いたことがない。多くの仲間が見守ってくれることで、原告の心の支えになる」と評価している。
◆「生きる価値がない。飛び降りて死ね」
訴状によると、5月の家庭訪問で、男児の曽祖父が米国人と知った教諭は、「生きる価値がない。自宅のマンションから飛び降りろ」と自殺を強要。授業中に、男児の学習道具を「汚い」と言って捨てたり、「アメリカ人は頭が悪いから向こうに行け」と邪魔者扱いしたという。
また、10秒以内に帰り支度をするように命じ、できないと、「刑」と称して鼻や両耳を引っ張る体罰を1か月近く繰り返した。男児は、鼻血や切り傷、歯を折るといった傷害を負ったとしている。
両親からの連絡を受けた市教委は8月、一連の行為を「いじめ」と認定し、教諭を停職6か月の懲戒処分にした。しかし、教諭はその後も「男児が級友をたたいた」という虚偽の電話を同級生宅にかけるなどの嫌がらせを続け、男児は心的外傷後ストレス障害(PTSD)で腹痛や吐き気が続き、通学できない状態になっている、と主張している。
◆心的外傷後ストレス障害(PTSD)に陥る
男児の母親は「息子のためにも、教諭と市は、早く事実を認め謝罪してほしい」と話している。
福岡市教委は「児童への体罰、いじめはあってはならないことで誠に遺憾。訴状を見て対応を決めたい」とした。停職後の行動については、再処分が必要かどうかを調査している。
◇異常な差別行為
松尾祐作・福岡教育大学長(教育心理学)の話「事実だとすれば、教諭によるこのような異常なまでの差別行為は、全国的にも聞いたことがない。ゆがんだ社会の構造も、こうした教諭を生み出す一因になっているのではないか」>
教師による「いじめ」の内容は、大半が朝日の記事の内容と重なる。しかし「マンションから飛び降りろ」と自殺を強要したなど新しい内容も入っている。これもとんでもないことだ。
◆週刊文春からワイドショーへ
ここまでは何故か、朝日も読売も西部本社版のみの報道だったが、「週刊文春」が同年10月9日号で<「死に方教えたろうか」と教え子を恫喝した史上最悪の「殺人教師」>という記事を掲載した。学校名も教師の名も実名だった。この迫力ある記事に、テレビのワイドショー番組が飛びつき、連日、どぎつい報道合戦を展開したという。
◆朝日が全国版で報道
朝日は10月16日、東京本社発行版の朝刊第3社会面に<教諭、小4に「暴力」 担任交代、「いじめ」から40日(福岡発)>という見出しの記事を掲載した。ワイドショーが飛びついている話題を、活字で読ませようということだったと思われる。
○児童保護一番に
元中学教諭で教育評論家の尾木直樹さん(56)の話 教諭を担任から外すのは児童への影響も大きいだけに、学校側の慎重な対応は理解できる。だが、校長室や保健室などに男児を避難させるなど、教諭と引き離す手だてはとれたはずだ。教諭の処遇に気を取られるあまり、子どもを守るという一番大事な点が置き去りにされてはいなかったか。
◆5項目の処分理由
◇教諭の処分理由(要旨)
(1)両耳を引っ張る「ミッキーマウス」などの体罰を4〜6月に断続的に行った。
(2)レクリエーション時などに「髪が赤い人」など米国人に否定的な発言を繰り返し、児童に精神的な苦痛と不安を与えた。
(3)家庭訪問時に「血が混じっている」など人権感覚に乏しい発言をした。授業などで米国人に関してマイナス評価につながる発言を繰り返し、児童に差別を受けたと感じさせた。
(4)家庭訪問時に妻が販売しているダイエット食品の話題を出し、保護者の不信を招いた。
(5)校長や児童の保護者、学級の児童らに当初は事実と認めていた内容を後に否定または変更し、関係者を混乱させた。>
処分理由までつけ加えて、ていねいな記事という印象だ。しかしこの5項目はすべて、裁判の判決で否定されることになる。
◆市の損害賠償330万円で確定
裁判の請求額はその後、どんどん引き上げられ最終的には約5,800万円となった。しかし一審判決(06年7月28日)は市に220万円の支払いを命じただけ。「体罰やいじめ」の存在は認めたが、原告側が主張した被害児童のPTSDなどは認めなかった。教諭の損害賠償は認めなかった。
高裁では被告は市だけとなり、判決(08年11月25日)は330万円の支払いとなった。これに対して双方とも上告せず、判決は確定した。
◆事実上は原告敗訴
裁判の判決は形式上、市の敗訴となっているが、事実上は原告の敗北だった。何故かいじめや体罰は認めたが、報道された差別的発言▼5つの「刑」▼10秒間片付け命令▼自殺強要など、教師の異常な言動と、被害児童のPTSDはすべて否定された。メディアにとっては「大黒星」であるはずの判決となった。
◆「でっちあげ」という本
この「事件」の真相をえぐったのが
福田ますみ著 「でっちあげ―― 福岡<殺人教師>事件の真相」 (07年1月、新潮社) である。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4103036710/sr=1-1/qid=1233263581/ref=olp_product_details?ie=UTF8&me=&qid=1233263581&sr=1-1&seller=
◆両親は「学校クレーマー」
いじめにあっていたはずの子どもに問題があった。同級生に対して、ひんぴんと暴力を振るうのである。子どものしつけもできない(しようとしない)親が、「被害」を言いつのって、「教師によるいじめ」をでっち上げた。雄弁な「学校クレーマー」というべき存在になったのである。
◆クレーマーの言いなりになったメディア
雄弁な「学校クレーマー」と、口下手、人づきあいが苦手の教師、事なかれ主義の校長・教頭とその背後にある教育委員会。そういう場で、「事件」がどう展開するかは、この本を読んでほしいのだが、ともかくメディアは学校クレーマーの言いなりとなる。
◆ワイドショーの現場いじめ
私自身は見ていないが、テレビのワイドショーが乗り出していたなら、例の出退勤途中の教師にマイクを突きつけ、質問して何も答えない映像が流れ続けたのだろう。レポーターが「何も語れない人が教師をやっていていいのでしょうか」と絶叫し、スタジオにいるコメンテーターたちが「そのとおりですね」と言う番組作りである。
メディアがつくり出すこうした場面こそ、「現場いじめ」の典型であろう。一般の人は、マイクを突きつけられて、端的に自分の立場を表現する言葉を選ぶことなどできない。長々と話すと、テレビ屋さんたちは、いちばん自分に都合の良い(つまり話した人物にとって都合の悪い)部分だけを流して、「とんでもないことを言った」と非難するのである。だから「沈黙は金」に徹するのだが、その沈黙すら非難される。
◆「虚偽現実」が成立してしまう
奇妙なことに、実際に現場にいる人たちも、教委が処分し、マスコミがバッシング報道キャンペーンを展開すると、教師から距離を置くことになる。「いじめ教師」が担任していたクラスの児童もその親も、メディアの記者たちの取材に対して何も答えない。トラブルである事件に巻き込まれて、日常生活を乱したくないのであろう。
結局、「被害児童」と一緒にサッカーをやっている児童、その親など、クレーマーに同調するごく少数の人々と、学校の校長・教頭、教委の役人といった人々以外取材に応じない。こうしてメディアのキャンペーンが、「虚偽現実」と言うべきものをつくり出し、定着させてしまう。恐ろしいことだといえよう。
◆メディアスクラムの方がまだマシ
1997年の神戸・児童連続殺傷事件、児童8人が刺殺された大阪教育大付属池田小事件(01年6月)など大事件が起きるとメディアスクラム(集団過熱取材)が実現するという問題が指摘されている。しかし事件の発生という現実は確実に存在するのだから、メディアスクラムはまだマシだといえる。
この「いじめ教師事件」の場合、現実に発生した場面は誰も見ていない。事件はじっさいには存在しなかった。にもかかわらず、ほとんどのメディアが、ほとんど同じ報道をしたのである。その病弊は、メディアスクラムよりはるかに根深いものがあるといえよう。
◆権力にも活字にも弱い記者
権力に弱く、活字にも弱い記者は私の現役時代にもいた。1968年6月のことだが、大阪でパトカーと一般乗用車が衝突する事故があった。現場に行った後輩記者が電話で原稿を送ってくるのを、筆記していたのが私である。パトカーに非はないという警察の発表どおりの記事になっている。
「警察発表は当然こういう内容だろうから、もっと目撃者の証言など聞いてみてよ」と注文する。
「それは聞いています」という返事だった。
「内容はどうなの?」
「パトカーはもっとスピードを出していたように言ってます」
「じゃー、それを記事にしなければ」
「しかし、一般の人は単なる目撃ですよ。警察は計器を使って科学的に測定しますから、警察の言い分の方が正しいと思いますが」
「君が現場に行ってるんだから、それならそれでいいだろう」
私にしてはものわかりの良い対応をしたが、それは理由がある。その日は、米国で大統領選予備選の候補になっていたロバート・ケネディが狙撃され死亡した日だった。社会面もその記事で埋まっていた。この事故は、紙面に生き残ったとしても、せいぜいベタ記事だろう。「力むことはない」と判断したのである。
◆多数派は「疑う記者」
そのころもヘンなヤツはいたが、「自分で調べて納得できなければ事実じゃない」と考える、私たちの方が多数派だった。その力関係がいま逆転しているのではないか。
◆原告敗訴を伝えない報道
すでに述べたように、裁判は事実上、原告敗訴に終わった。しかし06年7月28日の福岡地裁判決を報じた記事は、東京本社版では
朝日(28日夕刊)=児童いじめで福岡市に220万円賠償命令 教諭の暴力認定 福岡地裁
読売(29日朝刊)=教師のいじめ認定、福岡市に賠償命令 児童側に220万円/福岡地裁
という見出しだった。
◆「差別・PTSD否定」は西部本社版のみ
さすがに西部本社版では、
朝日が29日朝刊に<差別・PTSD否定 福岡地裁、教諭のいじめ認めたが…>という記事を掲載。
読売は28日夕刊記事を<教師のいじめに賠償命令 市が児童側に220万円/福岡地裁>としながら<PTSDは否定>という小見出しを付けた。
08年11月26日の2審・福岡高裁判決を伝える記事は、朝日と読売で扱いが異なるものとなった。朝日西部本社版では、
25日夕刊に<二審もPTSD否定 賠償額を増額 福岡の教諭による児童いじめ 福岡高裁>
26日朝刊に<教諭のいじめ、再び認定 児童のPTSDは否定 福岡高裁>と報じた。「PTSD否定」を強調したといえる。しかし東京など他本社では26日朝刊に<児童へのいじめ、二審も賠償命令 福岡・慰謝料増額> だけだった。
読売は、西部本社版で25日夕刊に<教諭のいじめ訴訟 2審も認定 賠償増額、福岡市に330万円命令/福岡高裁>と報じただけ。一審のさい、西部本社版にあった「PTSD否定」は姿を消した。東京など他本社版には記事がなかった。
◆RKB毎日の総括
「でっちあげ」は、一審判決までしかカバーしていないのだが、地元メディアの報道の中で、RKB毎日放送の報道について「目を引いた」と書いている。
一審判決は福岡市に220万円の支払いを命じる一方で、最大の争点だった「血が穢れている」という発言はなかったと判断、PTSD発症も退けた、などと伝えた後、以下の「総括」があったというのである。
「今回の事件を巡っては、当時、ほとんどのメディアが児童側の主張に沿って報道を続け、『血が穢された』などの言葉だけが先行し、教師と児童のやり取りを客観的に判断できていたのか疑問が残ります」
「主張が違う両者の言い分をいかに客観的に報道していくのか、これは報道機関として当然のことですが、大変難しい場合もあります。私たちも肝に銘じて、今後の取材活動を続けていきたいと思います」
◆切り捨て御免の他社
こうした言葉があってこそ、真摯な報道姿勢と言えるというのが私見でもある。しかし朝日、読売ともに、類似した「総括」はしていない。「切り捨て御免」では困ったものだ。
◆1956年生まれの女性フリー
「でっちあげ」の著者福田ますみという人は、奥付によると1956年生まれのフリーだという。「あとがき」などによると、「殺人教師」トーンの記事を書こうと福岡に行き取材を始めた。そのてん末を以下のように書いている。
<私はまず、事件の舞台となったA小学校周辺で、事件についての聞き込みを始めた。しかし「知らない」「分からない」とそっけない反応を示す人が多く、はかばかしい成果はあがらなかった。
ただ1人、小さな公園で子どもを遊ばせていた主婦が口を開いた。
◆「報道とは全然違う。先生がかわいそう」
「事実は報道とは全然違いますよ。先生がかわいそうという声が大半ですよ。だいたい、あの親のいい話は聞かないですよ。(先生が)ちょっとおでこをグリグリした程度のことをあの親が大げさに言い触らしているだけですよ。マスコミが来て話が大きくなった手前、引っ込みがつかなくなったんでしょう」
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