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http://www.news.janjan.jp/column/0812/0812284350/1.php
【大気圏外】派遣拡大を容認したメディア
田中良太2008/12/30
労働者派遣法は、本来は特定業種を除き派遣労働を禁じていたが、99年に原則解禁に転じ、04年には最後の製造業までも派遣解禁となった。雇用調整の「安全弁」を拡大強化するという財界の意向を受けたものだ。当時のメディアは派遣全面解禁に有効な反撃ができず、「容認」してしまった。今日の派遣労働問題のそもそもの発端だった。
日本 雇用 NA_テーマ2
◆失職する非正社員8万5千人!
今年10月から来年3月までに職を失う非正社員は、全国で8万5千人に上る見込み! 厚労省が発表した見通しだ。この数字、11月の前回集計では3万人だったが、わずか1カ月で2.8倍に膨れあがったという。年明けの集計では、さらに膨れ上がるのだろう。
◆読売の連載「はたらく」
読売新聞が12月25日付から連載「はたらく」を掲載し始めた。冒頭、
<働く意欲も、時間も、体力もあるのに、その機会を奪われる。「はたらく」ことの意義を考える連載を始めるにあたり、序章として、働けなくなってしまった人たちの苦悩を伝える。> と宣言している。
日産ディーゼル工業上尾工場(埼玉県上尾市)の派遣社員だった佐藤猛さん(40)(仮名)や、コマツユーティリティ栃木工場(栃木県小山市)の派遣社員・小橋二三雄(ふみお)さん(49)ら、契約打ち切りで職を失った人たちのケースをめんめんと書いて、1面から社会面に流している。超大記事にして、何やら意気込みを伝えようという感じだ。
◆「09年問題」の指摘も
途中、
<「2009年問題」も人員削減の流れを加速させる。製造業への派遣は04年に解禁となり、07年3月に勤務期間が最長3年にまで延長された。延長を見込み、06年から派遣受け入れ企業が急増したため、09年に契約期限を迎える派遣が続出するのだ。「企業は今、不況に乗じて09年問題も片付けようとしている」。労組幹部は危機感を募らせる。> という文章も出てくる。
◆86年、13業種のみ解禁
労働者派遣法が施行されたのは1986年。そのときは通訳、ソフトウエア開発、秘書など13の専門業務のみを対象にしていた。専門職としての勤務を望み、会社人間になりたくない人々、とくに女性労働者が「派遣」を選んでいたのが当初の状況だった。
◆99年に「原則解禁」の大転換
施工後10年経過した96年には、新たに図書編集、研究開発など13業務が追加され、26業務に拡大した。99年には、派遣労働を原則解禁し、指定した業務に限り禁止するという法体系のコペルニクス的転換が行われた。それまで、派遣労働は原則禁止で、指定した業務だけが認められていたのである。
◆04年、製造業も解禁
そのときは港湾運送、建設、警備、医療、製造業務などが「禁止業務」とされたが、ポイントは製造業だった。製造業こそ工場労働の典型であり、労働者数も極めて多いからである。その製造業も2004年の改正で派遣解禁となった。
◆「請負契約方式」が先行
しかし「派遣禁止」を前提に、大手メーカーでは、外部の業者に生産ラインの一部を一括して業務受託する「請負契約」を結ぶという形をとった。それによって「正社員」「本工」を増やさずに、生産増を実現することができた。結果的には人件費の削減を実現することができた。
◆厚労省は「既成事実」追認姿勢
この業務委託方式は明らかに派遣法で禁止された事実上の派遣労働を採用するものであり、ほんらい労基署などで取り締まりの対象とすべきものである。ところが厚労省は取り締まりなどせず、「法律による監視対象外の業務請負契約方式がこれ以上はびこるよりも、製造業でも派遣を認める法改正を行う方がベターではないか?」と根回しを始めた。結局労働側も抵抗できず、製造業の派遣は04年に認められたのである。
◆派遣原則容認に賛同した読売
この長い経過の中で、いま「はたらく」という掲載記事を連載している読売新聞は、どういう論調を展開してきただろうか。
派遣労働が「原則禁止・指定業種だけ解禁」から「原則容認・指定業種だけ禁止」と180度転換した99年12月に「自由化を機に派遣の信頼向上を」という社説を掲げている。
◆「働き方の多様化」「市場はさらに拡大」
<対象職種の自由化は、働き方の多様化に見合った柔軟な労働市場の提供に一役買うはずだ。産業構造の変化や求職と求人のミスマッチがもたらす失業を、少しでも少なくする効果を期待したい。
派遣業界の成長はめざましい。今、派遣スタッフは全国で約90万人を数え、業界全体の年間売り上げは1兆数千億円にも達する。職種の自由化で、市場がさらに拡大することも予想される。>
◆派遣拡大を歓迎・推進
あくまで「原則賛成」で、不都合な部分だけ手直しして「信頼向上」をはかれという姿勢なのである。その後製造業の「派遣解禁」に際しては、大企業側が「業務請負委託方式」という脱法行為を実行したのに、その点を問題にする記事はほとんど掲載されていない。
端的にいえば、「派遣労働の拡大」を歓迎・推進してきたはずの読売が「はたらく」を連載して、いかにも派遣労働者の味方であるようなツラをするなんて、あきれる。「よくやるよ」と言いたいのである。
◆疑問符をつけた朝日
朝日は、派遣労働が原則解禁となる改正法案の本格審議の段階で社説「自由化は流れだが 派遣労働」を掲載した(99年4月27日付)。タイトルどおり「労働市場の自由化」が時代の流れであることを前提にしながら、
<経済界はこの規制緩和を歓迎するが、労働側は「労働者保護が不十分だ」と反発している。不安や弊害を取り除くため、じっくり審議してもらいたい。> と慎重審議を呼びかけた内容だ。
◆失業抑制の効果疑問
<一つの会社に属さず、派遣も含めて自分の生活スタイルに合った働き方を選びたい、という意識が、若者を中心に広がり始めたといわれる。両法の改正で、労働市場の流動化が進めば、失業対策、雇用増に役立つという期待もある。
しかし、本当にそうした実態や効果があるのかどうかは、吟味する必要がある。
有料職業紹介の対象は、これまでも段階的に拡大されてきた。しかし、それで求人と求職のずれが埋まり、失業抑制に役立ったという効果は、統計上でははっきりしない。失業対策として、あまり大きな期待は禁物である。>
◆安定雇用の基盤が揺らぐ
<経営者にとって、派遣は安上がりで雇用調整もしやすい労働力である。正社員を減らして派遣に代替しようという動きが広がれば、安定雇用の基盤がゆらぐ。
そこで、派遣法改正案は専門業務以外の派遣期間を一年までとした。派遣という形の働き方を臨時的・一時的な分野に限る狙いだ。派遣先会社が、同じ仕事を続けるため社員を雇うような場合は、それまで働いていた派遣労働者を正社員として雇うように、という努力義務も課している。
◆読売とは大差
だが「努力義務」では、正社員化には限界がある。戦力になり、本人も正社員を希望する派遣労働者には、その道が約束されるようにはできないものだろうか。> など派遣の拡大に疑問を呈しているから、やはり「読売とは大違い」と言える。
◆製造業に拡大のとき発言なし
しかしこの姿勢がありながら、04年の製造業派遣解禁のときは何も発言していない。
◆06年7月末から偽装請負キャンペーン
朝日は06年7月31日、「偽装請負」キャンペーンを開始した。朝刊1面に<偽装請負、製造業で横行 実質は派遣、簡単にクビ 労働局が調査強化>
2面に<時時刻刻=好況、置き去りの世代 「偽装請負」担う20〜30代半ば、固定化懸念>と<解説=「合法」なら広がる恐れ 問われる行政対応 松下系の大量出向>
社会面に<漂う若者「先がない」 偽装請負の工場 生活費は数万円、突然の解雇予告> だから大キャンペーンである。
同日夕刊でも1面に<キヤノン、偽装請負一掃へ 数百人、正社員に 社内に適正化委>
翌8月1日付朝刊1面に<松下系社員、請負会社に大量出向 違法性回避策か 偽装是正、昨年指導> と続けた。
◆職安法、派遣法に抵触
この偽装請負キャンペーンは「よくやった」とほめたい気もする。しかしキャンペーン開始時の一面記事につけられた<キーワード=偽装請負>は
<メーカーなどの企業が、人材会社から事実上、労働者の派遣を受けているのに、形式的に「請負」と偽って、労働者の使用に伴うさまざまな責任を免れようとする行為。職業安定法や労働者派遣法に抵触する。職業安定法には懲役刑もあるが、適用されたことはほとんどない。
◆「04年以降は派遣契約結ぶ必要」
製造業への労働者派遣は04年3月に解禁された。これ以降、メーカーが他社の労働者を指揮命令して使うには、労働者派遣法に基づいて使用者責任や労働安全上の義務を負う派遣契約を結ぶ必要があるが、こうした責任・義務を負わずに済む請負契約で請負労働者を使う「偽装」の事例が後を絶たない。
本来の請負は、請負会社がメーカーから独立して仕事をする。自前のノウハウや設備を持ち、そこで生産した商品を発注元に納めるのが典型だ。>
◆04年3月以前の脱法行為こそ問題
この記事では、04年3月、製造業の派遣解禁以前には問題がなかったような印象を受ける。そうではなく、製造業の派遣解禁以前に、事実上は「派遣」なのに、「請負」の形をとるという脱法行為を厚労省が黙認していた方が問題なのだ。
◆厚労省は黙認でなく「推奨」?
「黙認」どころではないかもしれない。「請負」という形式をとる事実上の派遣が増えているのだからという理由で、厚労省が労働側に製造業の派遣を受け入れさせた経緯は先述した。だから厚労省は「事実上の派遣」拡大のため、偽装請負を推奨していた可能性が高いのだ。
◆官財なれ合いこそ核心のはず
その厚労省と大企業のなれ合いをつくことこそ、偽装請負キャンペーンの核心だったはずだ。「官界と財界のなれ合い」という核心をついたキャンペーンだったら、製造業への派遣拡大そのものを撤回させることも可能だったかもしれない。
偽装請負キャンペーンは頑張ったものだっただけに、画竜点睛を欠いたのが惜しまれる。
◆「できなかった」ではなく「やろうとしなかった」?
いずれにせよメディアは、派遣労働拡大により、雇用調整の「安全弁」を拡大強化するという財界の意思に対して、有効な反撃ができなかったのである。「できなかった」は同情的な見方かもしれない。「やろうとしなかった」方が現実に近いのかもしれない。
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