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むのたけじさん:「戦争絶滅へ、人間復活へ」出版 戦後日本への「遺言」(毎日新聞)
http://www.asyura2.com/08/hihyo8/msg/384.html
投稿者 クマのプーさん 日時 2008 年 8 月 04 日 20:24:18: twUjz/PjYItws
 

http://mainichi.jp/enta/cinema/news/20080804ddm012040064000c.html

 ◇64回目の8・15

 8月15日。63年前、その前夜に朝日新聞社を去ったジャーナリスト、むのたけじさん(93)が、自ら「遺言」だという新著「戦争絶滅へ、人間復活へ」(岩波新書)を今夏出版した。むのさんに平和への思いを聞くとともに、今なお上映に対する脅しが続くというドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」(李纓監督)をめぐる状況を報告する。【沢田猛】

 ◇戦争に歯止めをかけるには、権力側が進める準備段階で計画を暴き出す以外にない

 秋田県横手市在住のむのたけじ(本名・武野武治)さんは、「戦争の世紀」とも言われた20世紀を生き、老いてもなお現役ジャーナリストとして日本各地を飛び回り、積極的な発言を続ける。「平和」が遠のく現状に警鐘を乱打してやまない。

 「堅苦しい書名となったが、戦前、戦中、戦後を生きてきた私にとって戦争は切り離せない。戦争をなくせば、人類の抱えこんでいる問題の約9割は解決できる。人類の持っている苦悶(くもん)とか間違いとかはみんな戦争とつながっている。そんな願いを書名に込めた」

 むのさんは1936年、報知新聞社に入社。翌年、日中戦争が起きた。40年に朝日新聞社に移り、42年から約1年間、従軍特派員としてインドネシア・ジャカルタ支局に勤務する。

 「このとき戦争には弾丸の飛ぶ時期と、弾丸の飛ばない戦争への準備期間があることを教えられた。日本軍がジャワ島に上陸したのが42年3月。私は軍事占領の実態と軍政を敷いた一部始終をこの目で見た。次々と打ち出される政策がその2年前に出来上がっていたことを、最高機密を独自に入手して知った。政策がその内容通りに進行している現実に衝撃を受けた。無論、当時はそんなことをスッパ抜けなかった。いま、満州事変(31年)や日中戦争前夜の状況と似ているといわれるが、私もそう思う。弾丸の飛ぶ前に手を打たなければならない。今の時代がどういうときなのかを考えてもらいたい」

 むのさんは従軍特派員を終え、国内勤務をしていたが、45年8月15日を機に、自らの戦争責任を取る形で朝日新聞を退社した。戦争を肯定し、戦争に加担するような記事を書いたことに対し自責の念に駆られたからだった。

 「戦争に歯止めをかけるのは始まってからでは遅い。戦争は始まってしまえば、戦争の論理がまかり通り、それに刃向かえば『非国民』とか『国賊』と言われ、場合によっては権力から殺される。だから戦争をやめさせようと思うなら、メディアは、権力側が進める戦争の準備段階で計画を暴き出す以外に手はない」

 むのさんは3年ほど前から「朝日を辞めるべきではなかった」と思うようになった。琉球新報が戦後60年を機に展開した連載「沖縄戦新聞」(05年度日本新聞協会賞受賞)に衝撃を受けたのだという。それは、現在の視点で沖縄戦を報じた企画だった。

 「例えば、45年3月10日の東京大空襲。当日、私は現場を取材して回ったが、本当のことは書けなかった。戦時中、書けなかったことがたくさんあった。軍部が倒れ、平和が回復した8月16日以降、私は退社を踏みとどまり、『本当の戦争はこうだった』と読者に伝え、おわびすべきだった。辞めずに正直に戦争報道を検証する記事を書き続けていれば、読者は戦争のことをもっと考えただろうし、日本の新聞報道の態度もまるっきり変わっていたと思う。私は当時、そういうことに気付かなかったし、それをいま悔やんでいる」

 書名の一部「人間復活へ」には、むのさんが敬愛する中国の文学者・魯迅(1881〜1936)の影響とみられる思いが込められている。

 「東京・秋葉原であった無差別殺傷事件に代表されるように、いまの世の中、絶望の時代。しかし絶望の中にこそ、希望はあると思う。戦争をなくすには、人間一人ひとりが戦争が起こらないよう、手に手を取り合って、そういう状況を作り出さないよう努めなければならない。現在の高校生との対話などから、私は家柄や権威、あるいは貧富とか能力とかの違いではなく、人間対人間で向き合っていくような、新しいタイプの日本人の出現を肌で感じる。これは第一歩だが希望だ。この本は私からの遺言みたいなものだ」

    ◇

 「戦争絶滅へ、人間復活へ」は、むのさんを語り手とし、黒岩比佐子さんを聞き手として編まれた。むのさんは48年、郷里の横手市で週刊新聞「たいまつ」を創刊。以来、78年の休刊まで主幹として健筆を振るった。その後も著作・講演活動を続ける。黒岩さんは58年生まれで、サントリー学芸賞を受賞したノンフィクションライター。735円。

 ◆「靖国」3カ月

 ◇脅迫電話、今も 60館で上映へ、観客動員は好調

 8月15日の靖国神社を舞台にしたドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」は、5月3日の東京・渋谷での封切り以降、全国各地で上映されているが、一部では脅迫電話が寄せられたり、上映中止も出ている。

 配給協力・宣伝会社「アルゴ・ピクチャーズ」(東京都港区)によると、7月までの上映館数は全国で40館に上り、観客動員数も同月末現在で約9万人を数え、当初予測を大きく上回る興行成績を上げている。アルゴでは、10月中旬までに計60館で上映し、観客数は十数万人に達すると見ている。また、各地の市民グループなどが企画した自主上映会も開かれている。劇場公開されていない地域を中心にした上映活動で、6月末の高知県四万十市を皮切りに3日現在で、全国37カ所(うち9カ所で上映済み)での開催が決まっており、観客数はさらに伸びるとみられる。担当者は「期限を定めずにできるだけ長く続けたい」と話す。

 7月21日に高知市の県立県民文化ホールで開かれた自主上映会。主催者側によると、同9日午前、同ホールや県庁の2カ所に「上映した場合には必ず天誅(てんちゅう)が下ります。会場を爆破します」との電話が男の声であった。主催者側は「上映中止に危機感を抱いて行った自主上映を中止させるわけにはいかない」として上映を決め、金属探知機による手荷物検査を行うなど厳戒態勢下での上映となったという。

 アルゴによると、少なくともこれまでに西日本の5館で上映中止を求める手紙が寄せられたり、要望書が出された。ただ、地元の警察と協力態勢をとったうえで上映を進めたことなどから、観客が被害を受けるなどの問題は起きていない。

 しかし、5月3日の封切り以降も映画館側の萎縮(いしゅく)が引き続きある。上映に前向きな姿勢を示しながら、観客の安全や近隣施設への迷惑を理由に上映をあきらめるケースが少なくないのだという。

 アルゴと横浜市の映画館「横浜ニューテアトル」との間で、5月中旬の上映に向けた打ち合わせをしていたところ、同館に対して上映中止を求める右翼団体が街頭宣伝活動を約30回繰り返したという。同館は「上映を強行した場合、何事もなく終了することは無理だと判断した。ただ今後も上映の可能性を探りたい」としている。

 また、複数のスクリーンを備えた「シネマコンプレックス」(シネコン)での興行は特に苦戦が続く。アルゴの岡田裕社長は「大型ショッピングセンターの一角など大勢が集まる商業複合施設に立地するシネコンが多い。施設を所有する側が、近隣施設への迷惑や安全確保を不安視するために、映画館もなかなか上映してくれない」と明かす。【臺宏士】

毎日新聞 2008年8月4日 東京朝刊

 

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