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憲法25条のエキスパート出よ - 健康で文化的な生活の守護者 (世に倦む日日)
http://www.asyura2.com/08/hasan60/msg/695.html
投稿者 あ+ 日時 2008 年 12 月 19 日 18:34:16: 8WlTWJKy3iQ86
 


All people shall have the right to maintain the minimum standards of wholesome and cultured living. In all spheres of life, the State shall use its endeavors for the promotion and extension of social welfare and security, and of public health. このような条文が日本の憲法にあることを知り、現下の派遣切りと、切られた若者がそのままホームレスになって真冬の街を放浪している姿を見た外国人は、一体、どのような感想を抱くことだろう。この憲法は悪い冗談じゃないかと思うのではないか。テレビで毎日報道されている状況は、憲法25条で掲げられた人間の権利とあまりにかけ離れた世界であり、日本がこうした規定を憲法に持った国だとは到底思えず、このような先進的な条文を掲げながら、残飯を拾いあさって路上で生きている若者の現実を平気で見過ごしている日本人を理解しがたい存在だと思うことだろう。しかも、その国はGDP世界第2位の経済大国で、外貨準備高も世界第2位の金持ち国だ。

湯浅誠は一昨日(12/15)のNHKの放送で、「これは人の生き死にの問題だ」と言った。自動車だけで1万2千人の派遣工の首が切られ、年末の寒空の路上に、蓄えを持たない大量の失業者が放り出されている。生きて行くためには食べるものが必要で、それを店で買う金を持っていなければ、どこかで何かを探して手に入れなければならない。カラスのエサでも口に入れなければならない。彼らは難民なのであり、今日明日の命がかかった難民なのだ。しかも、外国人の難民ではなく、日本国が義務教育で育てて、日本国のために働いてもらうべき日本人の若者なのである。「死ねということなのか」と湯浅誠は言った。死ねということ以外の意味はない。日本政府は、10月にはグルジアに復興援助と称して200億円を拠出した。11月には国際通貨基金に10兆円を拠出した。5月にはアフリカ開発会議でアフリカ向けODAを倍増して1800億円を出すと約束もしている。そうやって世界中に大金をバラ撒いている日本政府が、国内の若者の難民対策に1円の金も出さないのはどういうことなのだろう。

不満なのは、誰も憲法25条のことを言わないことである。一昨日のNHKスペシャルのスタジオ討論でも、司会は無論、湯浅誠や神野直彦の口からも、憲法25 条の言葉が出ることはなかった。派遣切りのニュースを伝えているテレビ報道のキャスターからも、国に早急な対策を求める主張は出ても、憲法25条という言葉が出ることはない。国会の討論でも、憲法25条を前面に立てて政府に雇用対策を迫る議員はいない。この国は本当に憲法を持った国なのか。日本人は本当に憲法の実在を信じているのか。国家の最高法規としての存在を認めているのか。9条以上に25条は無視され、蔑ろにされ、有名無実化され、空文化されている。失業者が路上で生活などすることのないように、そのような惨めな思いを国民がせずに済むように、国が国民の生活を保障するのが25条の規定ではないか。今の日本は、「嘗ては憲法を持っていたが、今は面倒なので持つのをやめてしまった国」だ。閣僚も議員も憲法25条の存在が念頭にない。厚労省の官僚も、杵築市以外の地方自治体も、そうした最高法規が行政を拘束しているという認識がない。

福井県の東尋坊では、11月に入って自殺防止のNPOが5人の元派遣社員を保護していて、うち3人が派遣切りによる生活苦を理由にした者だった。新聞記事には、「11月初めに保護した東北地方の20歳代男性は、派遣契約の更新を待たずに突然、契約解除を言い渡された。男性は『寮を追い出され、1日1500円のネット喫茶で寝泊まりしたり、友人宅へ転がり込んだりして凌いできたが、貯金も底をついた。もう限界』と涙を浮かべた」とある。胸が詰まる。本当なら、総理大臣が、国会の答弁か官邸の会見で、こう言えばそれでいいのだ。「大丈夫です。わが国には憲法25条があり、国民の健康で文化的な最低限度の生活を守るのは国の責務ですから、政府は全力を挙げて救済に動きます。どうか安心して、お近くのハローワークか自治体の窓口に相談に来て下さい」。地震や台風の災害のときは、票稼ぎや人気取りもあるのだろうけれど、首相や大臣や国会議員が、被災者に向かって似たような台詞を言うではないか。何で派遣切りのときは何も言わないのだ。何で派遣切りのときは、門脇英晴が出てきて、「グローバル経済の競争が激しいから仕方がない」で終わりになってしまうのか。

本人の責任ではなく、突然に家を失い財産を失うということでは、地震や台風の被災者も派遣切りの労働者も立場境遇は同じである。難民になり、国や自治体の支援がなければ生きていけなくなるのは同じだ。アフリカの難民を救うのも大事だが、金融破綻した弱小国を救うのも大事だろうが、まず国内で路頭に迷っている派遣切り被害者を救う方が先なのではないのか。東尋坊のNPOに手を煩わせないように対策するのが先なのではないのか。新宿のカラスの餌にまで人間が手を付けなくてもいいようにするのが政府の仕事なのではないのか。国庫にカネがあるのなら、まず国内の難民の命を助けることに使うのが当然なのではないのか。御用学者が言うように、どれほど憲法25条がプログラム規定であり、国民の具体的権利を定めたものではないと言い張っても、まさか新宿のゴミ袋の中の食べ残しで1日1回の食事をさせ、寒い地下通路で睡眠させる生活を、国が「健康で文化的な生活」を保障している状態だとは言えまい。たった一言、総理大臣が「大丈夫です、安心して下さい」と、そう言えば、元派遣の若者たちが東尋坊の断崖から海に飛び降りることはなくなるのである。IMFに10兆円も出すくらいだから、国には十分に対策に回せる資金はあるのだ。

湯浅誠は、10/14の朝日新聞の記事の中で、貧困問題について専門の研究者がもっと論壇でメッセージを発信しないといけないと言っていた。全く同感だ。今年になって、これほどマスコミで貧困問題が頻繁に大きく取り上げられる時代になっても、アカデミーの中から誰も人が出て来ない。私は、昨年の大晦日のブログの記事で、前日にテレビで報道された「貧困の問題を考える研究会」の結成のニュースについて触れ、知識人たちが立ち上がって、「25条の会」を結成してくれることを望んだ。それが昨年の記事のラスト・メッセージだった。それから1年、岩田正美が立ち上げた研究会は2月にHPを開設したが、単に定例会開催の情報だけが載っていて、具体的な研究内容は公開されていない。40名の研究者が内輪で細々と何かやっているだけのようであり、広く市民に訴えて世論を興したり、政治を動かしたりする性格や目的のものではないようである。失望させられた。大学教授の身分の人間がやらなくて誰がやるのか。最も安定した身分保障を持ち、権威と影響力のある社会的立場を持ち、実名で自由に発言できる条件を持った人間が発言せずに、一体誰がこの問題を提起して政治を動かすのか。日本のアカデミーの人々の無神経と無責任と不作為に呆れる思いがする。

特に、憲法学のところで、25条のエキスパートはいないのだろうか。憲法25条なら俺に任せろという学者は出て来ないのだろうか。憲法学者と言うと、樋口陽一を始めとして何人か左派の面々が思い浮かぶが、憲法9条の顔はいても憲法25条で固有名詞が出て来ない。これだけ憲法25条の問題が深刻で、言わば社会的需要があるときに、アカデミーから理論の提供者が出て来ないのは不審に感じる。そういう人間が出てくれば、国会討論やニュース報道も少しは違ってくるのである。憲法25条から問題を考える人間が増え、現行の法制度や行政事務や政府高官の発言がこれでいいのかという問題になるのである。社会保障についての国家の最高法規の何たるかを意識せざるを得なくなるのであり、社会保障費を削りながら防衛費を増やしている本末転倒(憲法違反)が明かになるのだ。それを直言するのが専門家である学者の仕事である。どれほど市井の人間がネットで声を上げても、保守が多数を占めてマスコミの正論を牛耳っている現在の日本では、それは「一部の左翼」の声としか扱われず、異端の主張としか認められない。この貧困問題については、社会学とか経済学の人間よりも、むしろ必要なのは公法系の論客で、優秀な憲法・労働法・行政法の学者こそ一刻も早く登場して活躍して欲しい。

それは法に抵触する行為だと、御手洗冨士夫や門脇英晴や舛添要一に法律論で説明する人間が必要なのである。

http://critic5.exblog.jp/10048306/#10048306_1  

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