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なぜゴールドマン・サックスはサブプライムローン問題で利益を上げることができたのか【中岡望の目からウロコのアメリカ】
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投稿者 ワヤクチャ 日時 2008 年 12 月 13 日 13:42:53: YdRawkln5F9XQ
 

【中岡望の目からウロコのアメリカ】
http://www.redcruise.com/nakaoka/?p=234

2008/1/23 Wednesday
なぜゴールドマン・サックスはサブプライムローン問題で利益を上げることができたのか
Filed under: 経済- nakaoka @ 1:10
サブプライムローン問題を見ていて感じたのは、金融の専門家といわれる人々も天才でもないし、特別に優れた能力を持っている人々ではないということです。市場のボラティリティが小さいときは、誰でも利益を上げることができるものです。またリスクを余地しても、現実的な対応を取ることは極めて難しいということです。今回のサブプライムローン問題で、世界を席巻していたアメリカの金融資本の実力と虚像が明らかになったようです。アメリカの金融機関が実質的に世界のスタンダードを作り上げてきましたが、これから世界の金融市場は流動化してくるでしょう。そうした中で幾つかの金融機関やファンドは利益を上げています。そのひとつがゴールドマン・サックスです。本記事は『週刊エコノミスト』(2008年1月15日号)向けに書いた原稿です。本稿ではゴールドマン・サックスのリスク管理体制、コーポレート・カルチャーを軸に記事を書きました。本稿では失敗例には触れていませんが、同社の幾つかのファンドは損失を計上しており、いつも成功しているわけではありません。

世界の金融界はサブプライム問題で大きく揺れている。世界の金融界をリードしてきた欧米の金融機関が軒並み住宅担保証券のビジネスで巨額の償却を強いられ、経営危機に直面している。モルガン・スタンレーは第3四半期に49億ドルの償却を強いられている。メリルリンチ証券も第3四半期の段階で79億ドルの償却を実施し、第4四半期はさらに追加的な償却をすると見られている。シティグループは第3四半期に60億ドルの償却を行っているが、さらに110億ドルの追加的な償却を行う。ベア・スターン証券も第4四半期に19億ドルの償却を行い、84年ぶりに赤字に転落している。欧州でもドイツ銀行やスイスのUBSなど大手金融機関が同様な状況に置かれている。

その結果、シティグループとメリルリンチ証券の最高経営責任者は責任を取って辞任に追い込まれた。さらにシティグループはアブダビの投資ファンドから75億ドルの資金を導入し、かろうじて経営危機を乗り切った。この額は同社の株式の発行残高の4・9%に相当し、今後、同社の経営にも少なからず影響が出てくると予想される。

そうした中で大きな利益を増やして注目されているのがゴールドマン・サックスである。同社は第3四半期に純益28・5億ドル、第4四半期に純益32・2億ドルを記録している。通期純益は116億ドルで、前年を22%も上回った。同社がこうした好業績をあげたのは住宅担保証券への投資で損失を回避しただけでなく、住宅担保証券の全額をヘッジするだけでなく、ポジションをショート(売り持ち)にしたからである。

しかし、同社が住宅担保債券のビジネスに消極的だったわけではない。同証券の販売では業界のトップ10位にランクされるほど積極的に取り組んでいた。同様に自己勘定での投資も意欲的に行っていた。同社は、住宅担保証券の分野では後発だったため、ポールソン財務長官が同社の会長だった頃は、先行する競争相手に追いつく意味もあり、極めて積極的な展開を行っていた。だがポールソンが06年6月に財務長官に就任した後、ブランクファインが会長に就いたころから戦略が変り始める。

具体的に動き始めたのは、06年12月である。ヴィニアー最高財務責任者が住宅担保証券を扱っている「仕組商品取引グループ」の責任者スパークスをオフィスに呼ぶところから始まる。スパークスとリスクに関する議論を繰り返した後、ヴィニアーは「住宅担保証券の残高を減らすべきだ」とスパークスに指示している。その後、スパークスも参加して週1回開かれるリスク委員会でエクスポージャーのリスクの検討が行われた。その結果、スワップを使ってリスクヘッジが実行に移され、第3四半期末には住宅関連商品のポジションはマイナス(売り持ち)になっていた。

ベア・スターンのヘッジファンドの破綻で市場に大きな動揺が走ったとき、同社の対応はすべて終わっていた。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は「絶好のタイミングであった」と書いている。07年11月にブランクファイン会長は「市場の潮目が変わる直前に市場から撤退した。しかし同じことがまた起こることはないだろう」と語っているのも、同じ思いがあるのだろう。

さらに同社が思い切ってポジションを調整することができたのは、他の投資銀行の投資額に比べれば、同社の残高は少なく、身軽さがあった。調整が容易に行われたからである。住宅担保証券の市場は流動性がなく、取引がなかなか成立しない市場である。そこで徐々にではあるにせよ、売っていくのは難しい。それが可能だったのは、まだ身軽さがあったからだろう。

優れたリスク管理体制

しかし「同社が収益を上げることができたのを幸運だけでは説明できない」(『ユーヨーク・タイムズ』紙07年11月19日)。大きな理由は、同社の経営陣がリスク管理に対する意識が極めて高いことだ。ブランクファイン会長がウォール街で最初に得た仕事はコモデティのトレーダーだった。その会社はゴールドマン・サックスに買収され、同会長もゴールドマン・サックスに移り、コモデテフィのトレーダーとして働いている。

同会長は、長年のトレーダーの経験から市場動向とリスクに対して敏感である。07年11月にニューヨークで開催されたウォートン・ファイナンス会議の席でブランクファイン会長は「わが社はリスクに関する情報が常に経営トップに届くように力を入れている」と述べている。

同社は様々なリスク関連委員会を設置している。リスク委員会の他に部門別リスク委員会、市場リスク委員会なども置かれている。メンバーはトップの経営陣から現場の担当者まで30名程度で構成され、週に一度、エクスポージャーのリスクの検討を行っている。そのことによって経営陣が現場とリスク情報を共有し、迅速な決断が行えるのである。

多くの投資銀行でもリスク委員会が設置されているが、形式的でゴールドマン・サックスのように機能していないというのが、リスク管理の専門家の評価である。

それはリスク・マネジャーの社内における地位にも反映している。同社にはリスク・マネジャーはローテーションで営業部門など他の部門の業務を経験する制度ができあがっている。机上の論議でリスクを評価するのではなく、現場の状況を知ることが重要だと考えられているからだ。またリスク・マネジャーは給与面でも営業部門と同等の扱いがされているのも、同社の大きな特徴のひとつである。

ただ、会長がトレーダー出身だからリスクに敏感になっているというだけでは説得力に欠ける。リスク管理重視の経営の背景には、同社の収益構造の変化がある。伝統的な顧問業務はもはや同社の主業務ではなくなっている。現在、収益源はトレーディングに移っている。トレーディグではリスク評価が極めて重要である。そうした必要性が、同社のリスク管理に対する考え方の背景にある。

優れたリスク管理体制と同時に「ゴールドマン・サックスと他の投資銀行の差は企業文化にある」(英『タイムズ』紙07年11月14日)。同社が公開したのは1999年である。それまではパートナーシップの伝統的な投資銀行であった。公開会社になった今も、同社にはパートナー時代の良き伝統が残っており、組織のヒエラルキーは“フラット”であるといわれる。組織を結び付けているのは、強い仲間意識とチームワークである。

チームワークこそがすべて

ブランクファイン会長は同社の強みを「優れた人材とチームワークにある」と述べている。同社の企業文化を説明した小さな記事に「ゴールドマンには“私”はない」という表題が付けられていた。すなわち同社では個人プレーは嫌われ、チームワークが高く評価される。同社の組織の特徴は「機械の各部品は必要以上のオイルを要求しない」と表現される。社員は機械のように働くことを求められているのである。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙(07年8月18日)は、スタープレイー的な存在で、高収益を上げていた部門の責任者が報酬の引き上げを求めたところ解雇された話を記事にしている。同社の社員に「高収益を上げているが会社に忠誠心のないスタッフと、あまり利益を上げていないが忠誠心の厚いスタッフのどちらが高く評価されるか」と聞けば、多くの社員は間違いなく後者と答えるだろう。同社にとって、スター・プレイヤーはチームワーク重視という企業文化には馴染まないのである。

ゴールドマン・サックスの元役員で、ニューヨーク証券取引所の最高経営責任者を経てメリルリンチ証券の最高経営責任者に就任するジョン・サインは「メリルでの最初の仕事はチームワークを導入することだ」と語っている。それほどゴールドマン・サックスで育ったスタッフにはチームワーク重視が骨の髄までしみこんでいるようだ。

同社の経営理念の中に「わが社はあらゆる面においてチームワークを重んじる。個人の創造性は常に奨励されるものであるが、最高の結果はしばしばチームワークによってもたらされる」と書かれている。
 
広範な社会的ネットワーク

同社の重要な特徴のひとつに、元社員の広範なネットワークがある。1957年に当時シニア・パートナーだったワインバーグは「在職中も退職しても企業のリーダーは自分の時間と能力を公共のサービスに提供すべきである」と語っている。その精神を受けて、多くのゴールドマン・サックスの元スタッフは経済界のみならず、政界・官界や社会団体で活躍している。

その一端を紹介する。財務省ではシティグループ会長のルービンはクリントン政権で財務長官を務めた人物である。現在のポールソン財務長官もゴールドマン・サックスの最高経営責任者であった。サブプライム問題で投資銀行救済の“スーパーSIV”の設立を取りまとめたスチール財務次官も、同社出身である。ブッシュ政権では、ボルトン主席補佐官、フリードマン前主席経済担当補佐官、ゼーリック国務副長官がいる。なお彼は副長官を辞任後、一時、ゴールドマン・サックスに戻り、現在は世銀総裁の職に就いている。

サインの後を継いでニューヨーク証券取引所の最高経営責任者になるニーダーラウアー同証券取引所最高執行責任者も同社出身である。商品先物取引委員会のジェフリー会長も、ゴールドマン・サックスの同窓会メンバーである。政界ではコーザイン・ニュージャージー州知事がいる。

元スタッフが社外で活躍すると同に、同社は多くの政府高官を受け入れている。元ニューヨーク連銀総裁のコリガンは現在マネージング・ディレクターである。元財務次官のロジャーズ、元国務次官補のホーマッツ、財務次官補のヒーリーなど錚々たる人物が同社のスタッフとして働いている。こうしたネットワークが同社の収益に直接結びつくことはないだろうが、同社の強さの源泉のひとつであることは間違いない。

社会との接点を重視する経営姿勢が、こうしたネットワークの基本にある。さらに特筆すべきは、社員の社会奉仕活動を積極的に進めていることだ。同社では04年から「公共サービスプログラム」を行っており、社会奉仕活動を希望する社員に対して1年間の有給休暇を与えている。既に同プログラムで休職を取った社員は11名に達している。

ゴールドマン・サックスは良き時代のパートナーシップの伝統を守りながら、独自の企業文化を作り上げている。だからと言って、同社が常に優れた業績を上げる保障にはならない。今回のサブプライム問題ではタイミングと状況に恵まれ成果を挙げた。しかし、そうした事態が繰り返される保証はどこにもない。同社が運用するヘッジファンドの中に損失を計上しているのもある。将来は楽観できないが、他の投資銀行が深刻なダメージを受けているなかで同社の相対的な地位が高まっていくことは間違いないだろう。

1 Comment »
中岡様 はじめまして。ブログ「シギーの金融漫談」を最近
始めてGSの人脈関係で貴ブログに辿りつきました。
先日、残っているGSの名刺などをチェックして
GSの元役員と各方面のネットワークの凄さに
今更ながら再認識しました。このエントリーで
話題になっているジョン・セインはN.Y.
ヴィニアーは東京で会いました。
金融関係の人が見ればすぐ分かるのですが
人名などはイニシャルで昔の回想を
書いています。アカデミックさはあまりないです。
よかったら寄ってください。
今後とも貴ブログを参考にさせてもらいます。
シギー

Comment by シギー — 2008年8月5日 @ 15:11

 

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