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『「強い円は日本の国益」榊原英資 著 東洋経済新報社』を読む
発効日は9月18日だが前書きが7月1日になっている。昨日紹介した浜田和幸氏の「石油の支配者」同様に、基本的にまだ経済が原油高のインフレの世界で書かれた書籍でした。
2008年に経済本を出された著者は尽く討ち死にである。2008年ほど世界観が劇的に変化した年はない。年の前半と後半は、まるで違った年であった。前半はドルの暴落基軸通貨の退出がで議論され、原油やコモディティが高騰しインフレの到来を警戒し、米国景気とBRICs経済のデカップリングシナリオたが、8月のオリンピックを境に、世界は急変してしまった。リーマンショックなど、信用危機とデフレ警戒、米ドルは反転円を除く通貨に対し急騰そして、デカップリングシナリオは否定され、世界同時不況へ突入して行った。本を執筆して製本し売り出す頃には内容が陳腐化してしまう、誠に気の毒な年ではなかったかと思います。
本を出版する以上に、企業戦略はより深刻である。今年の前半までは、キャッシュを持つと、配当を増配せよと村上ファンドのような連中が経営を批判していた。日本でも、キャッシュリッチ企業がTOBの危険性に曝されていた。現金を溜め込むトヨタや任天堂は批判され続けていた。リーマンショック以降金融危機には、米国式のレバレッジ」経営は破綻し、投資銀行やビッグスリーの以外の多くの米国大手企業も一気に経営危機を迎えているのが現状である。
さて、本の内容ですが、さすが榊原英資氏、今年前半の世界観で陳腐化した分を差し引いても、読んでみる価値はあります・・・と言いたいところだが、「榊原さん肝心の日本が保有する大量のトレジャリーボンド(米国債)はどうするのでしょうか?」日本が保有する大量の米国国債が円高ドル安となった場合の為替差損については、全く言及していない。
本書ではほとんどスルーしています。
確かに書ける訳も無い。大蔵省国際局長、財務官であったMr円こと榊原英資こそ円高阻止のために巨額為替介入をした当事者であり、過去101円〜106円でトレジャリーを買い支えた最高責任者であるのだ。当時の円高阻止は、理解できるし、よくぞ阻止してくれたとも思っているが、その榊原氏が、円高国益論に言及するにあたり、日本が保有するトレジャリーボンドに言及することなく、円高国益論は無責任すぎる。
ここで、榊原氏を非難しこの本を貶し締め括ってもよいが、Mr円の榊原氏の円高国益論のエッセンスを紹介したい。
2009年、世界経済の危機の中心は米国ではなく、新興諸国であると思います。はたして、新興諸国はこの危機を克服することはできるのであろうか?新興国に、先進国が豊かになったと同様の経済発展をして、豊かな国になれるプラチナチケットがまだ残っているのか?それとも先進国同様の経済発展過程を新興諸国が通過して豊かになれるのは幻想にすぎないのか?今のところ私にはどちらとも断言できないが、榊原氏は、グローバリーゼーションはデフレからインフレの時代に入り、いずれは新興国が先進国をキャッチアップしてくると言う、まさに、2008年前半のデカップリング的思考でこの本を執筆しています。
20世紀は日米欧で約6〜7億人が中産階級として存在してきたが、BRICs諸国で新たに仲間入りした中産階級が約20億人に増大する見込みだ。そうなるとエネルギーや食料が不足するのが目に見えている。(この本の執筆中)投機資金が流入しているとはいえ、エネルギーや食料など資源価格が上昇すると榊原氏は断言しています。(これも異議あり!)
{Ddog:私は、地球が閉じた社会である為、資源が有限であるのと同様、世界に用意された、豊かな国の椅子は有限であると考えている。}
高騰し、希少品化する資源を如何に買うか、強い円は輸出競争力を削ぐが、強い通貨は調達能力、コストを低下させることが可能となる。「強い円は、日本の国益である」(Ddog:、異議あり!巨大為替介入し保有する日本が保有する米国債の為替差損は国益とでも?)
榊原氏のこの本には、水野和夫氏の「100年デフレ」(日経新聞者2003年)の世界観が盛り込まれている。21世紀は16世紀と同様の「価格革命」が起きると予想している。16世紀と21世紀の比較は非常に面白い。
16世紀は産業資本主義が始まった世紀であり、21世紀は産業資本主義が、サブプライム問題リーマン破綻の一連の金融危機とともに終焉し、ポスト産業資本主義が始まりつつある点が興味深い。
16世紀は欧米の世界経済の支配の始まりで、16世紀の経済大国は中国とインドであった。
ゴールドマンの予測では2050年までに中国が世界第一のGDP,インドが2位か3位の経済大国となるという。(異議あり!:このまま順調に彼国は発展するわけない)
1820年の世界(1840年アヘン戦争)では中国が世界のGDP28.7%インドが16.0%を占めていた(インドは大英帝国の植民地)と推計されている。(P190)
榊原氏原文p191では「トムフリードマンのフラット化する世界」(「ぷっ」笑:原文のママ)ではグローバリゼーション1.0(1492〜1800)を大航海時代、グローバリゼーション2.0を(1800〜2000)多国籍企業の時代、グローバリゼーション3.0は個人が世界を相手に活躍する力を持つ時代)欧米の個人でなく多種多様な非欧米・非白人の個人の集団に動かされる。(トーマス・フリードマン「フラット化する世界」P20〜25より引用のようです)
16世紀ヨーロッパが持っていたのは軍事力と貿易インフラであり、アジア・アフリカ・アメリカの食料資源を支配していった。
p192〜193
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世界にはまだまだエネルギーや資源のフロンティアがあり、それをべースにしながらヨー
ロツパが世界に先駆けて産業革命を達成し、近代化・産業化を進めていったのです。短期的にはともかく、中長期的にはこの時代、資源や食糧のボトルネックはありませんでした。
それでは21世紀はどうでしょうか。再登場しつつある中国やインドは世界で最も古い文明国であり、かつての経済大国です。そこそこの資源や耕地は持っているものの、資源大国や食糧大国ではありませんし、かつてのヨーロッパのように、中東やアフリカ、あるいはアメリカ大陸といった後背地.ヒンターランドを持っていません。中国やインドの成長が持続し、経済規模が加速度的に膨張すれば、資源や食糧に対する需要は幾何級数的に増えていきます。エネルギーや食糧の供給が新たな技術革新等で急速に増加しない限り、エネルギー不足、食糧不足は16世紀に比べて圧倒的に厳しいものになる可能性があります。
それに加えて、この数百年の近代化・産業化で環境は悪化し、地球は疲弊してきています。エネルギー開発や食糧増産は、この点からも過去に比べ困難なものになってくるでしょう。
このように考えていくと、エネルギーや食糧等の資源の将来は決して明るいものではありません。そして、価格革命による原材料の価格の上昇も、かつてのものよりかなり激しくなると予測されます。地球が有限であるということはここ数十年言い続けられてきたことですが、環境の悪化を背景に、資源の有限性が経済システム内部でもいよいよ強く意識されるようになるのでしょう。
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p24
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水野和夫はこれが16世紀に地中海世界の人口が2倍になった状況と類似している点を指摘し、21世紀には16世紀と同様、「価格革命」が起きるだろうと述べています。
ちなみに16世紀には、人口増に対する相対的稀少性から小麦は6.5倍、バターは5倍雌鳥.鶏卵は4.3倍(1510〜1640年にかけての上昇率)に上昇しています。
(略)
21世紀の世界経済の趨勢的特色はハイテク製品のコモディティー化「陳腐化」とエネル-ギー・穀物の稀少商品化です。
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p55
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ちなみに、「『価格革命」が起きた『長い16世紀1477〜1650年)』(F・ブローデル)』において、英国の実質賃金は年率0.5%で下落し、最終的に当初の43%の水準にまで低下しています。現在の日本でも「5〜29人の事業所規模での一人当たり賃金は、97年をピークに07年まで14・7%下落している(年率1・6%減)。」のです。(原文のママ)
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21世紀の世界経済がそのまま16世紀の大英帝国の経済が当てはまるとは思わないが、気が重くなる16世紀の大英帝国の経済状況です。私は、 産業革命との関連で、単に第1次囲い込み運動、第2次囲い込み運動が、農民の生活を追い詰め産業革命の原動力となったとしか知らなかった。恥ずかしながら。また、21世紀の世界経済も16世紀大英帝国の国民が経験した塗炭の苦しみを味わう覚悟が必要なのかもしれません。
榊原氏は、この本中で小泉純一郎を一貫して呼び捨てにしている。ルービンやサマーズは呼び捨と財務長官と敬称をつける場合があるが、小泉は、小泉・竹中のポピュリズム政治p202と元高級官僚は小泉に対する怨念なのか正しい評価か判然としないが、この点は私と意見が一致する。
小泉が非難されているのは、本来国や公的機関が担うべき戦略性を持った国の政策を大衆迎合で切り捨ててしまったことが、もっとも非難されるべき点であるとしている。特に資源・エネルギー政策、政府系金融機関の統合、農業政策支援などを挙げています。
エネルギー(原子力)や農業技術をアジア諸国と協調して日本がイニシャティブをとって協調していくことが国益につながるとしています。この点に関しては私も同意見です。
本書は途中如何に日本は米国の圧力により為替に振り回されてきたか、急激な円高を阻止しなければならなかった、そして如何に円高阻止をし続けてきたか、経済史に財務省(大蔵省)の弁明をちりばめた文章がp60〜185まで続いた後、ようやく本論だが、結論は、
p235〜239「強い円は日本の国益」に集約されている。
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@21世紀は天然資源の時代
まず我々がはつきり認識しなくてはならないのは、21世紀に入っての世界経済の大きな構造変化です。水野和夫の言う価格革命が世界経済システムを抜本的に変えているようなのです。19世紀から20世紀は製造業の時代であり、特に、20世紀後半はハイテク商品の時代でした。そして、エネルギーや食糧等の資源は安価に大量に市場から調達できたのです。これに比して、21世紀は天然資源の時代です。かなりの乱高下はあるものの、天然資源は稀少商品化し、その価格が上がり続ける可能性があります。逆に、工業製品.ハイテク製品は陳腐化し、その価格は大きく下げていくでしょう。まさに、19〜20世紀の傾向の逆転現象が起きているのです。
A現在は円安バブル
こうした構造的要因を背景に持ちながら、今の日本経済は低金利・円安バブルの状況にあります。1971年から95年までトレンドとして上昇し続けた円は、21世紀に入って、実質実効為替レートで大変な円安に転じています。長く続いたゼロ金利と低金利、そして2003〜2004年の超大型介入がその直接の原因です。
B日本企業に忍び寄る構造変化
日本の企業も投資家もまだ円安シンドロームのなかにいて、世界の大きな構造変化と円安バブルに充分気づいていません。しかし、資源価格の高騰とハイテク商品のコモディティー化は、バブル下で好調だった企業業績を次第に虫食み始めています。また、資源価格の上昇をある程度は転嫁せざるをえませんから、日本でもインフレの気配がじわじわと強まってきています。
しかし、インフレといってもスタグフレーション状況なので日本銀行は金融正常化に踏み切れず、低金利・円安バブルは続いています。こうしたなかで投資家も過去のパターンで高金利の外国通貨建て資産への投資を続けています。
C脱・ものづくり
企業.投資家・当局ともにパラダイム・シフトをしていかないと、日本経済の先行きは大変暗いものになってしまうでしょう。まず企業。いわゆるものづくりシンドローム・売るシステムから脱して、エネルギーや農業に重点を移し、買うシステムに転換する必要があります。ものづくりについても、資本集約型から技術集約型に移っていく必要があります。大量生産の拠点は外国に移し、国内では少量生産・ブランド化を目指すのも、一つの方向でしょう。いずれにせよ、資源を有効に確保する道を急速につくっていかないと、21世紀に生き残っていくことは難しくなります。
D投資家も円安反転に注意
投資家も円安シンドロームから抜け出す必要があります。いずれ円安バブルははじけます。日本の金融資産をどう有効に投資していくかを考える時期に入ってきています。円安ではなく、むしろ、円高を背景に、いかに海外の実物資産を買い進んでいくかを考えるべきでしよう。
E金融政策も転換を迫られる
当局は、円安バブルをどうソフトランディングさせていくかを考えるべき時期に入ってきています。明確な円高政策の表明や金融正常化等、慣重に実行する必要はありますが、ここ数年余りの政策の大転換を図る必要があります。
Fエネルギー・農業に必要な政策支援
エネルギーや農業政策も大きく変更するべきでしょう。化石燃料を持たない日本の電力供給の基本は、原子力発電でなくてはなりません。政府はその安全性には万全を期しながらも、この点を明確にする必要があります。過剰なポピュリズムに陥って、エネルギー戦略を暖昧にすることは許されません。また、太陽光・風力発電についても日本は技術を持っているのですから、補助金をつけてでも、技術の広汎な利用を促進すべきです。
農業政策についても従来の防衛的スタンスを改め、積極的な自給率向上に努めるべきです。農業補助金を、当面、増やすことをためらうべきでもないでしょう。また、農地法の改正等、企業の農業への参人についても積極的に取り組むべきです。
以上、論点は多岐にわたりますが、ポイントは円安シンドロームから円高政策への転換です。「強い円は日本の国益です」と財務大臣が明確に言い切って、産業構造の大転換、投資行動の変更を強く後押しすべきなのです。為替レートがすべてを決めるわけではありませんが、為替レートに関する日本全体の考え方を変えることが、今、極めて重要になってきているのです。
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@の21世紀は天然資源の時代だが、大枠で中国インドの経済成長により資源食料エネルギーの需要が増大することは正しい。しかし石油エネルギーに関しては、前の記事のブログで照会した「石油の支配者」に書かれてあるように、石油資源の逼迫は情報操作であり、革命的技術革新によって克服される。また、リサイクルや海洋資源の開発、革新的新素材の登場によって、その他鉱物資源もクリアーできそうだ。問題の食料だが、日本の優れた技術により一定の解決は可能である、本書でも言及しているように、@は2008年のインフレ世界観で通用する過剰な危機感の可能性が高い。
A確かに円安バブルである、世界中ゼロ金利に陥る世界で、もっとも信用できる通貨としての円ではあるが、世界中がゼロ金利でスタグフレーションが続いた場合、円高は避けられないとしても、外需の減速は、日本経済に大きな打撃となり、現状では、80円台を越えるような極端な円高も考えにくい。榊原氏の円高は40.50円を考えているようだが、もしそうならば輸出産業は一斉に海外逃避してしまう。
B高金利の外国通貨建て資産への投資を続くのは必然。また国内に滞留した資金は世界経済の停滞を加速してしまうこともありうる。
C脱ものづくりは絶対反対だ。「大量生産の拠点は外国に移し、国内では少量生産・ブランド化を目指すのも、一つの方向でしょう。」正論だが、榊原氏は日本の中小企業が如何に国益となっているか、まるで理解していない。
D円高は米国の国益である。極端な考え方をすれば、大量に保有する米国債の借金棒引きになる。
Eそれもそうだが、トレジャリーはどうすんだ。
Fいかに、円高が国益に合致しようが、榊原英資の口から「円高国益論」は言ってはいけない!言うべきではない !!
【Ddogのプログレッシブな日々】
@『「強い円は日本の国益」榊原英資 著 東洋経済新報社』を読む-1
http://blogs.yahoo.co.jp/ddogs38/20684249.html
A『「強い円は日本の国益」榊原英資 著 東洋経済新報社』を読む-2
http://blogs.yahoo.co.jp/ddogs38/20684563.html