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温故知新 ラテンアメリカとフリードマン: 神話の捏造 
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投稿者 あ+ 日時 2008 年 11 月 30 日 15:41:40: 8WlTWJKy3iQ86
 

(回答先: 温故知新 新自由主義 ピノチェト(ラテンアメリカ史の重大場面を読む) 投稿者 あ+ 日時 2008 年 11 月 30 日 15:37:54)


[ 政治経済(国際) ] / 2006年02月16日
 前のエントリーで、インカ帝国滅亡後初の先住民族政権の誕生について触れました。もう少し書きたくなったので加筆します。市場原理主義を礼賛し続けてきた『朝日新聞』は、ボリビアの大統領選の結果を受けて、1月27日に「中南米 左派旋風の意味するもの」という社説を掲げ、エラそうに次のようにおっしゃっています。「…途上国側も、せっかくの民主主義という基盤のもとで過渡のポピュリズムを許せば、繁栄が遠ざかる恐れのあることを自覚すべきだ」(『朝日新聞』1月27日朝刊)。まあ、なんとも感情的で残酷で無力なコトバですこと。まるで民主的に大統領を選出するとポピュリズムになるからダメだとでも言わんばかりです。モラレス氏の選挙公約である天然ガス資源の国有化や農地改革などが「ポピュリズム」に該当するのでしょう。そして「ポピュリズム」を実施すれば、「繁栄が遠ざかる」とまでお説教を垂れるわけです。どうやら多国籍企業の利益が損なわれることを心配しているみたいですね。ボリビアの先住民たちにしてみれば、まさに「余計なお世話」です。

 そういえば、日付は覚えていませんが『毎日新聞』もラテンアメリカの左派旋風を特集して、同様な主張をしていました。毎日新聞のお説教によれば、ラテンアメリカには、新自由主義政策によって経済成長を達成したチリという模範があるのだそうです。チリという新自由主義の成功例があるのだから、それを見習いなさい。下手なポピュリズムはかえって貧困を助長させますよ、といった主張でした。(その日付の新聞を古紙回収に出してしまったので正確に引用できなくて申し訳ございません)。

 以上のようにおっしゃる「ジャーナリスト(の風上に置けぬ)」方々に是非読んでいただきたい本があります。グレッグ・パラスト著(貝塚泉・永峯涼訳)『金で買えるアメリカ民主主義』(角川書店)という本です。とくに第4章の「レクサスを売れ、オリーブの木を燃やせ」は必読です。この本から、本当のジャーナリスト魂を学んで欲しいのです。

 いま日本も悩ましている「市場原理主義のグローバリゼーション」という妖怪は、じつはラテンアメリカのチリのピノチェト独裁体制の下で誕生したものです。「市場原理主義世界帝国」の国づくりの創生神話は、米国ではなくチリにあるわけです。

 1973年、チリでCIAの支援による軍事クーデターが発生します。アウグスト・ピノチェト将軍は、民主的に選出された左派大統領のアジェンデ大統領を含め7000人以上もの市民を虐殺し政権を奪取したのでした。
 ピノチェト将軍によるチリの市場原理主義革命の実験を担ったのが、マネタリズムの教祖であるシカゴ大学のミルトン・フリードマン教授とその弟子たちでした。そして、フリードマンはチリでの実験の「成功」とされる怪しげな物語を踏み台にしてその権威を高め、ノーベル経済学賞も受賞し、ついにレーガン政権においてその教義を米国でも実施させることに成功したのです。以来、ウォール街・IMF・米国財務省は、フリードマンの教義を強制的に世界に広め、今日における世界の惨状を生み出したわけです。

 ジャーナリスとのパラスト氏はチリの「神話」のウラを知っています。なぜなら彼はシカゴ大学経済学部の卒業生で、ちょうどチリでの実験中にミルトン・フリードマン教授のゼミにいたのですから…。
 
 パラスト氏によれば、チリにおけるネオ・リベラリズムの「成功」の「物語」は、単なる「おとぎ話」であり、まったくのデマだというのです。
 実際にはピノチェトの「市場原理主義改革」によって、米国の投機家たちのパラダイスは誕生しましたが、市民生活はといえば、1973年から83年のあいだに貧困層は20%から40%に倍増し、失業率は4.3%から22%にも上昇したそうです。ピノチェトはフリードマンの助言に従って、国営銀行をはじめありとあらゆるものを民営化し、ハゲタカが乱舞するマネーゲームの楽園を生み出しましたが、結果は惨憺たるものだったのです。

 さすがの残忍なピノチェト将軍も、シカゴ・ボーイズと呼ばれるフリードマンの弟子たちを追い出して、オーソドックスなケインズ政策を多用し、ハゲタカ対策として短期的投機資金の流入を規制する法律まで作って国を立ち直らせたのでした。

 シカゴ・ボーイズによる荒廃を経て、ピノチェトがチリ経済を復興させるために役立った「遺産」が二つあったそうです。それらはいずれも、ピノチェトに殺された社会主義者のアジェンデ大統領が行なった政策でした。具体的には銅山(チリ最大の外貨獲得源)の国有化と、農地改革の二つだったのです。

 ピノチェトは賢明にも、アジェンデが国有化した銅山だけは、国有のまま死守したのです。当時のチリの輸出収入の30−70%は銅からもたらされていました。基幹産業である銅資源を国有状態に留めている国を、はたしてフリードマンの教説通りの「小さな政府・自由放任市場主義」の国と呼ぶことは可能でしょうか? 国営の銅産業の発展によって経済が回復したとして、その功績をフリードマンの市場原理主義に帰することが可能でしょうか?

 アジェンデが行なった農地改革の遺産も、クーデターを経ても多くは引き継がれたそうです。アジェンデの農地改革の結果、活力ある自作農階級が誕生し、チリ農業はピノチェト時代に大いに発展したというのです。

 つまり、殺人鬼の独裁者ピノチェト将軍と市場原理主義者フリードマンの絶妙なコンビが作り上げた「チリ経済の奇跡」と呼ばれている物語は、その多くが歴史的事実に基づかない「捏造」なわけです。「奇跡」の源の多くはピノチェトに殺されたアジェンデ元大統領にあったというわけです。

 ちょっと長くなりすぎました。以上の話はパラスト氏の著作に負っています。詳しくはぜひパラスト氏の『金で買えるアメリカ民主主義』を読んでいただきたく存じます。
 
 いま、ボリビアで社会主義者のモラレス新大統領が実施しようとしている改革は、天然ガスの国有化と、20ha以上の大土地所有を禁止するという農地改革です。日本のマスコミは、これらの政策は「ポピュリズム」であり、ボリビアを「繁栄から遠ざける」と主張するのです。そしてフリードマン流の「新自由主義」で「成功」したチリを見習えとまでお説教をたれるわけです。ピノチェト流の殺戮と独裁と強制収容所も学べというのでしょうか?
 いったい彼らはチリの銅山がピノチェト時代も国有だったことを知っているのでしょうか? チリがハゲタカ対策として短期的投機資金を規制する法律まで持っているラテンアメリカ唯一の国だったということを知っているのでしょうか? 

 あなた方にお説教されずとも、ボリビアはチリを見習おうとしているのですよ。見習おうとしているのはピノチェトとフリードマンの犯した「失敗」ではなく、社会主義者のアジェンデが実施した銅山の国有化と農地改革という「成功」なのです。
 
 チリの事例をはじめ、米帝国は数多くの「神話」を捏造し続けてきました。フリードマンのようなノーベル経済学賞の「権威」が、そうした神話の捏造に貢献してきたのです。そして、米国の経済学者の「権威」に追従するだけの竹中氏のようなお目出度い「学者」が世界中にたくさんいるので、神話は容易に普及してきたのです。

 他にも例は沢山あります。1980年代のチリ以外のラテンアメリカ各国の危機の原因は、「『大きな政府』のポピュリスト的なバラマキ政策にあり、IMFの構造調整がそれを立ち直らせた」という言説も完全にウソでしょう。
 私に言わせれば、カネ余り状態にあった米国の銀行が、70年代からラテンアメリカ各国の軍事独裁政権に強引に貸し続け、債務が膨らんだ段階で、米国が突然に金利を上昇させたので、借りた側がデフォルト(債務不履行)に陥っただけでしょう。
 「国家は破産しないからもっと貸せ!」と叫び続け、なかば無理やりに貸し続けたのは米国の銀行なのです。貸し手側の責任こそ問われるべきなのです。
 そしてIMFの構造調整が「立ち直らせた」のは米国の銀行であり、ラテンアメリカの庶民生活はズタズタに破壊されたのです。

 1997年のアジア通貨危機の際にも、『ウォールストリート・ジャーナル』などの米国メディアは、「アジアのクローニー資本主義に諸悪の根源がある」という「神話」を捏造しようとしました。『朝日』をはじめとする日本の愚かなマスコミも、当初はこの「神話」に追従して報道していたものでした。
 幸い、このときはマレーシアのマハティール首相が勇気をもって「悪いのはヘッジファンドのジョージ・ソロスでありIMFだ」と発言し、日本の大蔵省の榊原英資氏なんかも(ソロスの友人であるにも関わらず)勇気をもってマハティール発言を支持したために、日本のマスコミも途中から論調を変え、ウォール・ストリートの「神話」が「定説」になることはなかったのです。

http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/8ba0508402aab786d447c2b201aad581  

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