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[ The Economist ]
プーチン首相:クリスマス気分も吹っ飛ぶ現実
2009年01月09日(Fri) The Economist
ロシア政府が長年国民の人気取りに使ってきた「エサ」が、今、底を突き始めている。
1年余り前、ウラジーミル・プーチン氏は国中をあっと言わせた。ロシア大統領の後継者として、元弁護士で彼の腹心であるドミトリー・メドベージェフ氏が望ましいと語ったのだ。
楽観派は、まだ若く、市場に精通しており、KGB(旧ソ連国家保安委員会)出身者ではないメドベージェフ氏に締め付け緩和の期待を見いだし、喜んだ。これに対して悲観派は、メドベージェフ氏はよくて大統領の肩書きを踏襲するだけで、プーチン氏が実権を維持すると予想した。
これまでのところ、悲観派に軍配が上がっている。ロシア国内でも西側諸国でも、今は首相職にあるプーチン氏が最高権力者であることを疑う人はいない。
最高指導者はサンタの役目も果たす“ヴォロージャおじさん”
重要案件についてはすべてプーチン氏が決定を下し、予算を配分する。プーチン氏は国家指導者の役割を果たしている。そればかりか、サンタクロースの役も演じ、少年少女を喜ばせるのだ。
プーチン氏は先日、ロシアの一般大衆による視聴者電話参加型テレビ番組で、その任務を果たした。電話をかけてきたシベリア南東部の村に住む9歳の少女はプーチン氏に、魔法使いになってシンデレラのような新しいドレスをプレゼントしてほしいと頼んだ。
すると、少女とその家族が言葉を失うほど驚いたことに、ヴォロージャ(ウラジーミルの愛称)おじさんに会うためにモスクワに連れて行かれ、プーチン首相本人から直接プレゼントを手渡された。クレムリンのマスコミは、ただでさえ甘ったるいこの話にさらに甘い演出を施した。
しかし、少女がモスクワに着いたまさにその日、機動隊はロシア極東部でデモ隊と報道関係者を容赦なく殴りつけていた。抗議デモの直接的な引き金は、国内自動車メーカーの保護を目的に、ロシア政府が外国製中古車の輸入関税引き上げを決めたことだった。
極東地域に住む数千人のロシア人にとって、日本から輸入される右ハンドル車の販売(および修理サービス)は長年の生計手段だ。
輸入関税引き上げに反対するデモがプーチン退任を求める政治デモに発展
クレムリンは(警官が日本製の中古車に乗っている)地元警察の協力を期待できなかったことから、太平洋沿岸の都市ウラジオストクで起きた1000人規模の抗議デモを解散させるために、モスクワ地域の特別警官隊を飛行機で派遣しなくてはならなかった。
政府の支配下にあるテレビ局はウラジオストクでの衝突を黙殺することにしたが、それは抗議団体のさらなる怒りを買うだけだった。特定の経済対策に対する抗議運動として始まったデモは、プーチン氏の退任を求める政治的要求へと発展した。
リベラル派の政治家ウラジーミル・ルイシコフ氏が言うように、デモは経済危機ではなく政治的な措置が招いた結果であり、モスクワから遠く離れた地域の人々が感じる中央に対する疎外感を強めることになった。
ロシア内務省の高官らは、悪化するロシアの経済情勢が賃金未払い問題や解雇の脅威を巡る労働者のデモの拡大を招きかねないと認める。このリスクは「モノシティ(単一都市)」と呼ばれる、1つの大型工場、または1つの産業に雇用を依存する都市において特に高い。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/428?page=1
ロシアには、こうした地域がいくらでもある。モスクワにあるニュー・エコノミック・スクールの校長を務めるセルゲイ・グリエフ氏は、社会的不満が国中に蔓延する事態はクレムリンにとって最悪の悪夢であり、クレムリンが工業都市の状況を特に入念に監視している理由を説明するものだと言う。
ロシア政府が国の援助を受けられる企業としてリストアップした300社は、その多くが地域最大の雇用主だ。しかし、危機勃発から数カ月間で外貨準備金が約150億ドルも吹き飛んで以来、クレムリンはカネの使い方に慎重になっており、実際の支払いよりも多くの約束をしている。また、政府は銀行の連鎖倒産を防いだとグリエフ氏は言う。
経済危機でクレムリンと国民の社会契約に終止符
ロシアの経済危機がクレムリンと国民の間に存在した暗黙の社会契約に終止符を打つのは間違いない。従来の契約は実質所得の上昇と選択的抑制に基づくものだった。近年、平均して年率7%前後だった経済成長率には、今急ブレーキがかかっている。実際、工業生産の急激な落ち込みに伴い、ロシアは景気後退に陥る可能性も十分ある。
経済よりも急速に伸びてきた実質所得は、昨年11月に前年同月比6.2%減少し、賃金の未払い件数はほぼ倍増した。ルーブルは対ドルで値下がりする一方だ。ロシアが今、歴史的にも極めて厳しい時期に突入したことは明らかだ。
ロシアの不幸を願う西側諸国に抗うためにクレムリンが打ち立てた大構想の一環として、国民の生活水準の改善を描いたテレビ宣伝工作は、厳しい現実に直面して、その無力さを証明してしまった。
ある最新の世論調査によれば、この2カ月間で、経済状況に関するメディア報道の信用度が著しく低下した。今、メディアの報道に客観性があると考えるロシア人は28%だけだ(2カ月前は37%だった)。
政治アナリストのキリル・ロゴフ氏が言うように、クレムリンには今、テレビが再び政治を報道することを容認するか、デモ隊を街頭から追い払うかという選択肢がある。ウラジオストクの暴力は、政府がひとまず2番目の選択肢を取ったことを示唆している。
クレムリンに隷属的なロシア連邦議会はまるで社会不安に備えるかのように、大衆デモの組織化や反逆行為などの犯罪に対する陪審裁判を廃止する一方、反逆行為の定義を拡大した。
大統領復帰への道筋と限界
だが一方で、クレムリンは統治が難しいキロフスクの市長に以前は敵対していたリベラル派のニキータ・べリク氏を任命し、矛盾するシグナルを発している。クレムリンは最近、モスクワ中心部での人権活動家の集会も許可している。
新たな社会契約の形は不透明だが、何らかの政治的転換は避けられないだろう。これは、一部の改革派が望むようなプーチン体制の崩壊を意味するものではない。クレムリンは、まだカネをたんまりと握っており、「良き皇帝」としての信任もまだ残っている。
これまでのところ、宣伝工作を担当する側近らは、プーチン氏に責任逃れの道をつけ、代わりに恩人として描くことに成功してきた。先日、憲法改正によって大統領の任期が4年から6年に延長され、2012年(もしくはそれ以前)に2期12年の任期を持つ大統領に返り咲くという選択肢がプーチン氏に与えられた。
しかし、もし石油価格が回復する前にロシアのカネが底を突いたら、プーチン氏の魔法もすぐに効果を失ってしまうだろう。
© 2009 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.英エコノミスト誌の記事は、JBpressがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/428?page=2