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「売り手市場」はつかの間だった。「超売り手」はもっとつかの間。リーマンショック後の世界経済危機は大学生の就職も直撃する。「失われたン年」が再来するのか。うかうかしていると、ロストする。(AERA編集部・大波綾)
10月21、22の両日。大学3年生を対象に「求む クラブ・サークル積極派」と題した合同企業説明会が東京・新宿で開かれた。主催する毎日コムネットの調査によれば、大学のクラブやサークルで幹部経験のある積極参加派は非参加派と比べて、「内定を2社以上もらった」「正社員として勤務している」「上司とのコミュニケーションが取れていると思う」といった項目でいずれも優位なのだという。
三井物産、JR東海、NTTドコモ、オリエンタルランド……。人気企業のブースはどこも大盛況だった。
「大学のガイダンスで『今年は採用人数が減る。甘くかかるな。次回までに何百社もエントリーしろ』と言われました。ブランド大学ではないので、需要がないんじゃないかと心配です。会社には長く勤めたいですから」と話すのは東洋大の理系女子学生。化粧品や食品に興味があるが、足を止めたのは「離職率ゼロ」と強調していた日本ペイントだった。
「漠然とした不安はありますが、大学のガイダンスでは金融以外は大丈夫と言われました」と言う明治学院大の男子学生は、「安定している」と鉄道会社を志望。本命を金融に絞っているという法政大の男子学生は、三菱UFJ信託銀行のほかにインテリジェンス、コニカミノルタなどのブースで話を聞いた。
「ニュースを見て不安は感じます。でも、金融業界は勉強をさせてもらえる。不動産鑑定士や簿記の資格がとれるのは魅力」
◆「採用縮小」もう顕在化
リーマンショック後、就職活動への影響は、すでに顕在化している。就職情報会社エン・ジャパンが550社に行った9月の調査では、新卒採用予定人数の増減について、「減少見込み」と回答したところが5月の4.2%から17.1%に上昇。新卒採用予算の増減でも7.6%から25.1%にはね上がった。特に不動産や金融、家電や機械、自動車メーカーなどで採用縮小の傾向が出ているという。
「18歳人口が減るなかで、大卒の就職希望は横ばいなので就職の市場そのものが減少することはない。世代構成のピラミッドを守るため、バブル崩壊後のような極端な採用ストップもないでしょう。ただ景気悪化の底が見えず、採用減を判断しきれていない会社もある。影響は月を追うごとにはっきりしてくると予想されます」(同社「学生の就職情報」事業部の深井幹雄部長)
リクルートが今年4月に発表した、来春卒業予定の大学生を主な対象とした「大学生の就職志望企業」のランキングでは、1位こそ全日本空輸だが、2位に三菱東京UFJ銀行が入り、みずほフィナンシャルグループが3位、三井住友銀行が5位と、3大メガバンクがそろってベスト5入り。リーマンショック前とは言え、サブプライムローンの影響などどこ吹く風だった。
就職情報サイト・リクナビの岡崎仁美編集長はこう指摘する。「メガバンクの大量採用はここ3年が異常でした」
実際、今年4月に入社予定として発表された内定者数は、みずほフィナンシャルグループ2400人、三井住友銀行1600人、三菱東京UFJ銀行1300人と、千人以上が並ぶ。
◆昭和世代にとんぼ返り
とりわけ、早稲田や慶応、関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館)、MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)、日東駒専(日本、東洋、駒沢、専修)といったマンモス大学で、トップか上位の就職先を金融が占めたと言われる。
金融人気の裏側には、学生たちの「安定志向」も透けて見える。『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社新書)の著者で、人事コンサルタント「Joe’s Labo」代表の城繁幸さんは前著の後編にあたる『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』(ちくま新書)のあとがきにこう書いた。
〈ふってわいたような売り手市場の到来も、望まない副産物を産んでしまっている。学生の意識調査などを見れば、彼らが企業に求めるものに「安定性、終身雇用」といったキーワードが際立って目に付く。(中略)職種などにはこだわらず、大手企業ばかりエントリーして回るような若者は、既に昭和の世代にとんぼ返りしているはずだ〉
そして、こう予測する。
〈また不況が来れば、第二、第三のロストジェネレーションが生まれ、ますますこの国の人間は減る一方だ〉
昭和の時代とは、年功序列に終身雇用だった。その終わりの始まりを彷彿させる出来事は1997年、山一証券の破綻だろう。
その年の11月。首都圏の支店で窓口担当だった女性(34)は、上司にこう言われた。3連休前日の金曜日だった。
「連休中にニュースが出るかもしれませんが、大丈夫だから」
当時、新入社員。合併?くらいにしか思わなかった。その日まで、いつも通り株を販売していたのだから。
家に帰り、友達と長電話をしていた。確か、午前1時を過ぎていたと思う。
「あなたの会社、廃業だって。ニュース速報で出てる」
廃業って、お相撲さんじゃないんだからと、なかなかわがことのように考えられなかった。
◆「山一で可哀想」とゲタ
休日出勤すると、「出ちゃいけない」と言われた電話が鳴り続けた。連休が明けて支店のシャッターを開けると、顧客が長蛇の列を作り、われ先にと店に入ってきた。高齢の女性に1千万円近い額の札束を薄っぺらい紙袋に入れて渡したことを覚えている。顧客の列には、他行の社員が「営業」をかけていた。
都内の中堅私大出身の彼女は97年、山一証券に一般職として入った。マスコミ志望だったが、夏休み前に山一から内定が出て、大手なら安心だと「ひよった」のだ。一生働くつもりはなかったけれど、入ってすぐに会社が消えるとは想像すらしなかった。ただ、「30代以上の人は大変そうでしたが、20代の私たちは恵まれていました」と振り返る。すぐにあいうえお順で企業名が並んだ就職リストみたいなものができて、会社の一室が大学の就職課のようになったという。
「『山一で可哀想』というゲタも履かせてもらったし、改めて本当にやりたいことを真剣に考えるようになりました」
◆中堅私大に予備軍
同期の落ち着き先は、外資系証券会社や客室乗務員とさまざま。彼女は中堅の広告会社に就職が決まり、翌年2月、文字通り「会社都合」で退職した。
求人倍率が低調な95〜2005年あたりに大卒就職期を迎えた世代は「ロストジェネレーション(失われた世代)」と呼ばれる。リクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査」によれば、バブル崩壊直後の91年の求人倍率は2.86に達したが、山一ショックを経て、00年には0.99とどん底に落ち込んだ。
景気の回復とともに06年あたりから復調が見られ、ここ数年は「売り手市場」。だが、それもつかの間だったようだ。10年春に入社する現在の大学3年生の就職活動は、厳しさを増しつつある。
「採用活動の予算は1年前には決まっているのがふつうですが、業績が悪化してくると四半期、半期ごとに修正がかかる。リクルーターの活動費や説明会の回数など“実弾”を減らす企業が出てきます。不動産、流通、サービス業ではすでに採用規模の縮小を表明しているところもあります」
と、リクナビの岡崎さんは語る。
金融危機、世界同時株安と、不況の波が押し寄せている時期に就職活動がぶつかる大学生たちは、先の城さんが予測するように、「第2のロストジェネレーション」と呼ぶべき世代になるのではないか。
「関関同立やMARCHといった中堅私大の学生ほど、大企業志向が強い。三井物産にトヨタ、パナソニックというふうに人気企業ばかり回っている層は、不況になって採用人数が減ると一番あおりをくいやすい」
城さんはこう続ける。
「昭和的価値観に支配されている学生が相変わらずいます。社会の価値観の変遷がわかっておらず、アンテナが低いといわざるを得ない。彼らは第2ロスジェネの予備軍になりうる」
◆手切れ金話に花が咲く
当の学生の多くは漠然とした不安は抱きながらも、まだはっきりとは気づいていない。
「彼らの就職活動の主な情報源はすぐ上の先輩です。売り手市場のときに活動している人の話を聞いても、緊迫感はなかなか伝わってこない」(エン・ジャパンの深井さん)からだ。
岡崎さんは、学生たちが「チャレンジ損」を目の当たりにしてきたことが、「安定志向」の強まりに拍車をかけたとみる。
「ホリエモンがもてはやされた揚げ句に落ちていくのをリアルタイムで見てきた。ITバブルにベンチャーブーム、コンサルブームとその時々で脚光を浴びる業界が出て、3年ほどでブームが去る。希望の星だった外資系金融にまで不安要素が出てきた。新たに現れた価値軸が次々に消えていくので、学生たちもかわいそうです」
一方で、景気の悪化をものともしなさそうな学生もいる。
「Mは500万か600万らしい」
「Lは200万だって」
「100万って聞いたけど」
「でも、まだいいよ。Nなんて50万だって」
「それ、安すぎる……」
都内某所。現役の東大男子学生5人が集まると、外資系金融で相次いだ内定取り消しの「手切れ金」話に花が咲いた。日経平均株価が1万円を割る前の10月初旬のことだ。いまの時期に外資系って不安じゃない?と聞くと、外資系コンサルタントを目指している3年生は、「関係ないですね」と言い切った。景気に左右されない自信があるのだ。外資系投資銀行に内定している4年生は、こうつぶやいた。
「外銀に内定を取り消された先輩が就職浪人して受けなおすと、それは脅威になる」
東大生には、とりあえず外資系投資銀行を目指す一群がいる。彼もその一人だ。
「外銀のイメージは高給激務。だけど日系企業よりおしゃれじゃないですか。一生かはわからないけど、10年くらいは激しい環境に身をおくのもいい」
今年2月、外資系投資銀行を2社受けて、どちらも内定が出た。内定の早さも魅力だった。4月に日系の人気企業からも内定を受けたが、すぐに断った。
「同期」は東大、東工大、慶応といった限られた大学からの約30人。この夏は、インターンシップだというのに午前7時から終電近くまで働いた。内定の身分ながら予想通りの激務。でも先輩たちは稼いでいた。
◆「東大で新卒」のカード
ところがいま、その「高給」が危うい。「基本給は600万円程度。プラスアルファがあるので1年目に1千万は超えて、2年目は1500万、3年で2千万円に届くって聞いていました。でも、これからはボーナスがゼロになる可能性があるらしいです」
このまま来春入社する同期は多いだろうと見る。不況がいつまで続くかわからないし、「自分たちの銀行は経営破綻したリーマン・ブラザーズとは違う」と思うからだ。それでも、彼はあえて留年も考えている。
「高い給料がもらえないのに、『東大で新卒』という一生に1枚のカードをここで使い切っていいものか」
外資系金融の先にあるものを見据えているのだ。
城さんにこの話をすると、「ものすごくわかりますね」と苦笑した。城さんは95年東大卒だ。
「90年代半ばは官僚や弁護士を目指すのが主流でしたが、今の東大生の自尊心をくすぐるのはゴールドマン・サックスに代表される外資系の投資銀行。東大生って、受験の経験から目標を持たないと自分が落ちていく不安があるんですよ。だから、エリートであり続けるためにハイリスク・ハイリターンの覚悟もある。優秀な学生は、もはやサラリーマンを一生していちゃダメだとわかっていますから」
リクナビの岡崎さんは、「企業が新卒にどこまで求めるのかまだ見えませんが、これまで以上にグローバルに戦える人材が必要です」と予測する。
城さんはもっと辛口だ。
「東大に限らず、自分の能力が平均以上だと自負する優秀層は、リスクがあるのは当然で、そこに挑もうと考える。昭和的価値観のまま、リスクに挑まない学生たちが淘汰される時代が来るでしょう」
「優秀層」と目される前述の東大生たちに、日本のメガバンクに行く気はないかと尋ねると、強気の答えが返ってきた。
「日系は受ければ受かる。わざわざ行かなくてもいい」
寄らば大樹の陰でいられた時代が終わるとき、第2ロスジェネが現実味を帯びてくる。