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1920〜30年代におけるデフレ脱却のプロセス 【富士通総研】
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投稿者 hou 日時 2008 年 10 月 30 日 22:19:04: HWYlsG4gs5FRk
 

http://jp.fujitsu.com/group/fri/report/economic-review/200210/page12.html


1920〜30年代におけるデフレ脱却のプロセス
主任研究員 米山 秀隆

2002年10月

要旨
1920年代のデフレ
日本において過去に深刻なデフレに直面した時期として、1920〜30年代のケースがある。この時期は、第一次大戦後のバブル崩壊(1920年)を経て、金融恐慌(27年)、昭和恐慌(30年)に至った時期で、その経緯は現在と類似している。

この間のデフレの状況をみると、消費者物価は1920〜31年にかけ、累積で40%近く下落した。特に、金解禁と世界恐慌の影響を受けた1930、31年の2年間の下落率は、前年比で10%の大幅な下落となった。

物価下落の直接的な要因は、第一次大戦中のバブルが崩壊したという点に求められる。しかし、その後慢性的な不況に陥り、経済の構造転換が図られないまま、世界恐恐に直撃されたことが、物価下落を深刻なものとした。

物価を品目別にみると、農産物、工業製品とも下落したが、下落要因は両者では異なっていた。農産物については、物価下落に対し、農家が供給の増加で収入増を図ろうとしたことが更なる供給過剰をもたらし、物価下落を激しいものとした。一方、工業製品の物価下落には、需給要因のほか、価格の国際水準への調整、すなわち高コスト構造の是正という側面があった。これは現在のデフレと共通している。

高コストの要因
当時、高コスト構造に陥ったそもそもの発端としては、第一次大戦中に欧米交戦国の工業力が軍需産業に動員され、民間需要を満たすことができなくなったため、各国とも輸入を拡大させたという背景がある。このため日本でも、造船や鉄鋼に対する需要が増加し、生産が拡大した。しかしこれは、戦時下での正常なコスト競争を無視した需要増加であったため、大戦終結と同時に日本製品の競争力のなさが露呈した。

また、1920年代の為替レートが実質円高で推移したことが、日本製品の割高感を際立たせることとなった。実質円高をもたらした基本的要因は、第一次大戦中に正貨(金)が蓄積されたことであった。第一次大戦中の日本は輸出を飛躍的に伸ばし、貿易収支の大幅な黒字を達成した。しかし戦後は一転して輸出は停滞し貿易赤字となった。

これは本来であれば、為替レート減価をもたらす要因となるはずである。しかし、政府は、いずれ戦時中に停止した金本位制に復帰することを目指し、為替相場をできるだけ旧平価(金本位制停止前の為替レート)に近い水準で維持しようとした。すなわち、割高な実質為替レート、経常赤字、為替レートの減価という過程が進行すると、貿易収支の赤字を在外正貨の払い下げなどを通じて決済し、為替相場回復を図った。この結果、正貨は次第に減少していった。この点は見方を変えれば、戦時中に蓄積された正貨の蓄積が、輸出停滞にもかかわらず実質円高を維持するバッファーとして働いたことになる。

円高傾向で推移するなか、工業製品の競争力を回復するためには、価格を国際水準にまで引き下げなければならなかった。つまり、当時、実質円高で推移したことは、工業製品のデフレ圧力をより一層高めたということになる。

過去からの貿易黒字の蓄積が円高を招き、デフレ圧力となっているという点は、現在に通じる側面がある。日本は1980年代から現在にいたるまで貿易黒字、対外債権を維持しているが、これは為替レートの面では円高要因となる。しかし、その間、海外への生産移転が急ピッチで進み、産業の空洞化が進んだ。これは昨年には貿易黒字の急速な縮小という形で現われたが、本来ならばこれに伴って大幅な円安になってもおかしくはない。しかし、過去からの蓄積が大きく、容易に大幅円安に転じにくいことが、現在のデフレ圧力を高めていると理解することもできる。

高コストの調整過程
1920年代の高コスト問題は、その後、よりラディカルな形で解決が図られようとすることになる。1929年の金本位制への復帰(金解禁)である。旧平価で金解禁を行うためには、日本の割高な物価を大幅に引き下げる必要があったが、当時の井上蔵相は強力な引き締め政策でこれを実現しようとした。旧平価への復帰は、それによって企業の整理淘汰を進めることで、経済の効率化を図るというねらいもあった。しかし折悪く、金解禁が世界恐慌と重なったために、日本は昭和恐慌という未曾有の不況に突入していくことになる。旧平価での金解禁は、結果としてみれば失敗したことになる。

その後、よく知られているように、高橋蔵相による拡張政策(円安、低金利、財政支出の拡大)が展開され、この苦境を克服していくことになる。高橋蔵相の政策は、高コストの克服という点からみれば、大幅な円安によって日本の価格競争力を回復し(高コスト構造を是正し)、経済の立て直しを図ろうとする戦略ということになる。

つまり、当時の日本は、効率化を通じた高コスト是正に行き詰まり、最終的には円安によって高コストを是正した。そもそも旧平価に戻ることは、当時の経済の実力からいって無理があった。しかし、井上蔵相による引き締め政策が無意味だったわけではない。これが企業の整理淘汰を促し、その後の拡張政策を効果的にしたからである。

これは現在の日本にとっても示唆を与える。現在の経済の実力からいって、ある程度円安に向かわなければ高コストを是正することは困難と考えられる。しかし、かといって円安にばかり頼ることは、経済の効率化努力を削ぐことになる。この意味では、高コストの克服には、効率化と円安のバランスが重要と考えられる。
 

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