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金融救済策の次に来るもの――「トリプルA」大凋落、試される米国資本主義 【東洋経済ニュース】
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投稿者 愚民党 日時 2008 年 10 月 28 日 18:45:00: ogcGl0q1DMbpk
 

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金融救済策の次に来るもの――「トリプルA」大凋落、試される米国資本主義

- 08/10/28 | 07:00


 疾風怒濤のクレジットクランチ(信用収縮)が世界経済を襲っている。

 信用収縮は瞬く間にウォール街を丸ごとなぎ倒した。大立者たちの周章狼狽は記憶に新しい。9月中旬、リーマン・ブラザーズの救済を協議する席上、モルガン・スタンレーのCEOが思わず口走った。「(リーマンが倒れれば)次はメリルリンチだ」。その日のうちにメリルは全米2位バンカメの懐に飛び込んだ。

 「次は」と叫んだモルスタ自身、ヘッジファンドの“取り付け”に急襲され、ロンドン拠点の資産は一気に半減した。真っ青になったモルスタは世界のありとあらゆる有力金融機関に支援を求めたが、三菱UFJが90億ドルの出資を約束した後も、モルスタ株は続落。一時、株価は三菱UFJの購入価格の半分以下になった。

「6京円」が瓦解する

 格付け最上級トリプルAの二つの企業、一つのトリプルAの実例に沿って、破滅的なまでの信用収縮のすさまじさを再確認しておこう。まずは最大最強の保険会社AIG(2005年までトリプルA)である。

 資産1兆ドル、世界中の保険会社が仰ぎ見たAIGがなぜ、いきなり政府管理下に置かれねばならなかったのか。AIGはCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の最大の売り手だった。CDSはいわば“デフォルト保険”。CDSを買えば、さまざまな証券化商品がデフォルト(弁済不能)したとき、損失が補償される。AIGがCDSで保証した証券化商品の元本は4410億ドル(45兆円)。いずれも「スーパーシニア」と呼ばれ、AAAより安全とされたものばかり。ところが、保証元のAIGの自己資本が怪しくなった。

 最強の保証元が売った、最も安全なCDSさえ決済ができないのなら、CDSやモノライン(金融保証専門会社)の“保険”の上に成立している金融派生商品市場600兆ドル(6京円! )が一挙に瓦解する。だから、米政府はAIGを救済した。

 “経営の神様”=ウェルチが鍛え抜いたはずのトリプルA企業、GEは世界一の資産家、ウォーレン・バフェットにSOSを発信した。GEは常時、900億ドルのCP(コマーシャルペーパー、3カ月以内の債務証券)を発行し、中長期の金融事業に投資している。短期調達‐長期運用でトリプルAの格付けを最高度に活用する手法だが、もちろん、GEはCPの借り換えリスクに裸身をさらすほど間抜けではない。620億ドルのクレジットライン(銀行の緊急融資枠)を設定していた。

 それでもバフェットに30億ドルの緊急出資を要請したのは、CP市場が機能停止し、銀行すらGEのクレジットラインを実行するための資金を調達できない。つまり、インターバンク(銀行間市場)を含め、すべての短期資金市場が凍り付いている、ということを意味している。

 そして、三つ目のトリプルA。全銀行の国有化を余儀なくされたアイスランドである。2大銀行の総資産はアイスランドのGDPの9倍に達していた。00年の民営化とともに投資銀行化し、海外から膨大に借りまくって英国、デンマークに投資したのだ。世界株式市況の暴落で銀行のバランスシートにはGDPの何倍もの大穴があいている。短期の対外借り入れだけで外貨準備の15倍。「国家非常事態宣言」を発したところで、どうにかなるものではない。

市場経済の解体?

 この5月まで(!)そのアイスランドに格付け会社がAAAの格付けを付与していたのは、レバレッジ(借入金で投資を膨らます)こそグローバリズム(米国資本主義)の祝福された正しい生き方だったからだ。

 AIGが自己資本の4倍の想定元本のリスクを取ったのはかわいいほうだ。GEキャピタルサービスは9倍のレバレッジをかけ、モルスタの自己資本比率(対資産)はたったの1%だった。短期資金市場がマヒすれば、即、命にかかわる構造である。

 慶応大学の小幡績准教授はレバレッジは必然だったと言う。@運用者はバブルに乗らざるをえない。乗らなければライバルに負けるから。A乗るなら目いっぱい乗らざるをえない。B相手も目いっぱい乗ってきたら、後は、いかにより大きくレバレッジを利かせるかしかない(『すべての経済はバブルに通じる』)。

 膨れ上がったバブルは破裂するしかない。第1次世界恐慌では失業率は25%に上昇し、GDPは30%縮小した。今回もその程度は覚悟すべきかもしれない。が、それ自体は恐れるに足らない。東京大学の岩井克人教授が喝破している。市場経済は「恐慌の試練を乗り越えるごとに、ますます強靱になってきた」。「真の危機」は、恐慌ではなく、人々が「貨幣」を貨幣として受け入れることを拒否することによって起こる(『二十一世紀の資本主義論』)。

 今の状況は、世界中の銀行が貸し出しを拒んで貨幣を退蔵し、貨幣の中の貨幣、ドルを求めて狂奔している。世界中がドルへの信認、つまり国際市場経済への信認を叫んでいる。このかぎり市場経済は回転する。

 だが、岩井教授によれば、貨幣の価値を支えているのは「予想の無限の連鎖」でしかない。1ドルは明日も1ドルとして受け取ってもらえるだろう。明後日もしあさっても――という予想の連鎖。問題は、この連鎖が無限であり続けられるのか、だ。

 「不良資産買い取り法案」の7000億ドルは始めの1歩だろう。住宅ローンの不良化率は現在4%だが、第1次恐慌では40%に上昇した。もし、米政府が証券化商品の保証にまで踏み込んだら、「ヘリコプター・ベン」ことバーナンキFRB(連邦準備制度理事会)議長は、それこそヘリコプターからドル札散布を敢行せねばならない。

 FRBの資産の9割を占めた米国債の比率はすでに半分以下に低下し、銀行や投資銀行への貸し出しが急増中だ。裏付けの“不良資産”化が臨界点に達すれば、ドルの「予想の連鎖」は破断するしかあるまい。

 そのとき、人々は「争って貨幣から遁走」する。ドルは紙切れと化し、これまでと正反対に人々は商品に突進する。インフレが始まり、インフレがさらに「加速するという予想が強まると、事態は不可逆的になる」。貨幣=ドルによって結合されていた世界市場はバラバラになり、ハイパーインフレーションが激発する。市場経済そのものの解体である。

 岩井教授は8年前にグローバル市場経済の「宿命」としてのドル危機を予言した。何度も不死鳥のように危機から蘇った米国資本主義。その玉手箱には、岩井教授の予言を覆す知恵がまだ残っているだろうか。

(梅沢正邦 =週刊東洋経済)

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