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★CDSで加速する金融崩壊
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このところ、いくらアメリカの連銀(中央銀行)が、全米企業の資金難を解
消するために米大手銀行に緊急融資をしても、銀行は自行内で借りた資金を貯
め込んで他の企業に貸さず、銀行どうしの貸し借り(金融システムの中心をな
す銀行間金融)も停止したままという異常事態が続いている。
http://tanakanews.com/081008bank.htm
なぜ銀行が資金を他に貸さず貯め込んでいるのか、不思議に思っていたとこ
ろ、一つの理由が見えてきた。それは、CDS(債券破綻保険。クレジット・
デフォルト・スワップ)をめぐって銀行界の損失が一挙に拡大するおそれがあ
り、銀行はそれに備えて資金を蓄えているということだ。最大の危険は、9月
15日に倒産した大手投資銀行リーマン・ブラザーズが発行していた総額
4000億ドルの債券(リーマンの破綻後、これらの債券はジャンク債として
約10分の1の価値となっている)をめぐるCDSの清算(保険金額の確定)
が、10月10日(日本時間11日)に行われる際にやってくる。
http://www.inrich.com/cva/ric/news/business.apx.-content-articles-RTD-2008-10-09-0159.html
CDSの仕組みは、次のようなものだ。たとえばA社が発行する債券をB社
が買う時、万が一A社が破綻した場合にこの債券の損失補填をC社が行う保険
契約を、BとCの間で結ぶ。BはCに保険料(プレミアム)を支払う。CDS
は保険的な契約だが、保険の引き受けは保険会社に限らず、銀行や証券会社な
どの金融機関が幅広く行ってきた。
(とはいえ、保険会社であるAIGは、CDSの引き受けを積極的に行ってい
た。米政府がAIGを救済したのは、AIGが破綻するとCDSの保険金不払
いが先に確定してしまい、CDSの全崩壊が誘発されかねないからだったとも
推測されている)
http://articles.moneycentral.msn.com/Investing/StrategyLab/Rnd18/P3/allstarteam20081009.aspx
実際にA社が破綻した時、この債券の価値はゼロにはならず、ジャンク債と
化すので減額となる(リーマンの場合87%減額。9月初旬に破綻して国有化
されたファニーメイなど住宅金融2社の場合、政府が後ろ盾になったので減額
は10%程度)。A社の破綻後、一定期間がすぎた後、債券の減額分を確定し
てCDS契約を清算し、CからBに保険金が支払われる。米国の民間企業が発
行した債券のうち半分程度には、CDSの保険がかけられており、CDSがか
けられている債券の総額は55兆−60兆ドルと概算されている。
http://online.wsj.com/article/SB122291081371496791.html
▼リーマン・ブラザーズの負の遺産
米金融界では9月、5社の大手金融機関が破綻した。9月7日にファニーメ
イなど住宅金融2社が国有化された(CDS対象債券2千億ドル)。9月15
日にはリーマン・ブラザーズが倒産した(同4千億ドル)。9月17日には世
界最大の保険会社AIGが破綻して国有化され(同4千億ドル)、9月25日
には最大手の貯蓄組合だったワシントン・ミューチュアルが破綻し、JPモル
ガンに買収された。
米連銀は、破綻した5社の債券にかけられていたCDSの契約を清算するた
めの会合を、順番に開催している。最初は、10月7日にファニーメイなど住
宅2社の清算会が開かれた。2社は国有化されたので、債券価値の下落は最大
9%にとどまり、CDS発行者による保険金支払いは総額425億ドルと、意
外に少なかった。
http://www.fool.com/investing/general/2008/10/08/is-this-buffetts-nightmare-scenario.aspx
問題は、10月10日に行われるリーマンのCDS清算会である。リーマン
は完全に倒産して消えたので、同社の約4000億ドルの発行済み債券の価値
はジャンク化し、約400億ドルに下がっている。清算会によって、CDS発
行者はおそらく、総額3600億ドルの保険金支払いを義務づけられる。リー
マンを債券を、だれがいくら買い、そのCDSをどこがいくら分引き受けたの
か、まだ全く発表されていない。清算会の後、各金融機関や投資家の損失額や、
CDS保険支払い債務額が決定する。
3600億ドルの支払いとは、膨大だ。米金融界全体の不良債権を買い取る
資金として米政府が用意した額が7000億ドルだった。その半分が、リーマ
ン1社のCDSをめぐる損失だけで飛んでしまう。AIGが破綻に瀕したとき、
米政府から借りた資金枠が850億ドルだった。その4倍である。この
3600億ドルの支払い債務を何社で持つことになるのか、まだ不明だが、こ
れで米大手金融機関が2つや3つ潰れても不思議ではない。事実、ポールソン
財務長官は10月9日、今後まだまだ米金融機関は潰れると警告している。
http://www.telegraph.co.uk/finance/financetopics/financialcrisis/3161132/Financial-crisis-Hank-Paulson-warns-that-more-banks-and-businesses-will-fail.html
▼「金融大量破壊兵器」の大爆発
CDSの保険金支払い義務を負った金融機関(上の例でいうところのC社)
が支払不能に陥って破綻したら、リーマン債券の保有者(同B社)の損失は補
填されなくなり、次はB社が巨額の損失を抱え、破綻しかねない事態となる。
さらに、C社もしくはB社がリーマンの債券破綻のあおりで倒産した場合、
C社やB社が発行していた債券も破綻し、債券にかけられていたCDSの保険
金支払いが必要となり・・・といった具合に、破綻がドミノ倒しもしくは核分
裂的に、どんどん連鎖拡大していきかねない。
米国の有名な投資家ウォーレン・バフェットは、すでに2002年の時点で、
CDSが持つ連鎖拡大的な危険性を指摘し「金融の大量破壊兵器」と呼んだ。
当時はまだ、優良金融機関が破綻して債券のCDS保険金支払いが必要になる
などということは「あり得ないこと」と考えられていた。
http://www.fool.com/investing/general/2008/10/08/is-this-buffetts-nightmare-scenario.aspx
しかし今回、金融危機が悪化して前代未聞の事態となり、これまでの10数
年間のCDS史上初めて、巨額のCDS保険金支払いが発生することになった。
10月10日のリーマンのCDS清算会は、金融大量破壊兵器の爆発の発火点
となるかもしれない。関係者はリーマンCDS清算会の成り行きを緊張して待
っている。清算会は22社の金融機関が参加し、米東部時間の10日午前9時
45分から午後2時までの予定で開かれる。
http://www.reuters.com/article/rbssFinancialServicesAndRealEstateNews/idUSN0841811720081008
清算会によって巨額損失が確定するのを見越すかのように、10月8日も9日
も、世界的な株価の暴落が起きている。CDSの清算によってどこの金融機関
が突然死するかわからないので、銀行どうしが融資し合わないのは当然だ。
銀行が、できるだけ現金を保持しようと考え、一般企業への融資を貸し渋るの
も当然だ。
リーマンのCDS清算会の後には、10月23日にワシントン・ミューチュ
アルのCDS清算会が待っている。その後はAIGのCDS清算会も行われる
ことになっているが、時期は未定で、金融混乱が拡大した場合、かなり延期さ
れるかもしれない。
http://emac.blogs.foxbusiness.com/2008/10/07/behind-the-turmoil/
今回もまた、米当局は自滅的なタイミング合わせをやっている。米証券取引
委員会(SEC)は、9月19日から実施していた金融株に対する空売り禁止
を、10月9日から解禁した。下落防止策が解除され、9日と10日、金融株
が売られて株価が下落したところに、リーマンCDS清算会による巨大損失確
定のニュースが加わり、金融危機に拍車をかけることになる。
http://www.theglobeandmail.com/servlet/story/RTGAM.20081009.WBmarkets20081009133941/WBStory/WBmarkets
この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/081010CDS.htm
★音声訳
http://www.voice-news.net/