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日米株価暴落と公的資金投入のあり方(植草一秀の『知られざる真実』)
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投稿者 クマのプーさん 日時 2008 年 10 月 10 日 19:00:50: twUjz/PjYItws
 

http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-ef42.html

2008年10月10日 (金)
日米株価暴落と公的資金投入のあり方


株価暴落が止まらない。先の見えない不安心理が株式売却を加速させている。10月3日に米国議会は7000億ドル(約70兆円)の公的資金投入を柱とする金融安定化法を成立させた。10月8日には、世界の10の中央銀行が同時金利引き下げを実施した。英国政府は10月8日に、最大500億ポンド(約9兆円)の公的資金を銀行の資本を増強するために注入する方針を発表した。


米国政策当局がこれまでに提示した公的資金投入金額は1兆ドル(約100兆円)を突破している。それにもかかわらず、金融市場は安定を取り戻していない。NYダウは10月9日、前日比678ドル安の8579ドルに下落した。2003年5月以来、5年5ヵ月ぶりの安値を記録した。


日経平均株価は10月10日、前日比881円安の8276円まで下落した。日経平均株価も2003年5月以来、5年5ヵ月ぶりの安値を記録した。日経平均株価のバブル崩壊後最安値は2003年4月28日の7607円だが、この水準が視界に入ってきた。


問題の震源地は米国で、発端は不動産価格下落である。米国の住宅価格はS&Pケース・シラー住宅価格指に従うと、全米主要10都市の場合、1994年2月から上昇が始まり、2006年6月までにちょうど3倍になった。2000年1月を起点とすると、2006年6月までに2.26倍になった。


2006年から住宅価格は下落に転じたが、本年7月までの下落率は21.1%である。金融危機が広がって、大混乱が生じているから、不動産価格が半値、3分の1、10分の1に下落したのかと考えてしまうが、下落率はわずかに21%にすぎないのだ。


サブプライムローン残高は1.3兆ドル(約130兆円)だったから、住宅を最高値の2006年6月にすべて購入したとしても、26兆円の損失しか生まれない。住宅購入の時期はばらけているから、130兆円の評価損は限定される。


日本の1990年代では、3倍に上昇した資産価格が元の水準以下に暴落して、大混乱が生じた。200兆円融資して購入した資産の時価評価が50兆円程度になり、150兆円規模の損失処理が必要になった。その過程で、金融機関の破綻が広がった。


この日本の事例を念頭に入れたのでは、米国の金融危機は説明できない。謎を解く鍵は「レバレッジ=てこ」なのだ。「デリバティブ」と呼ばれる金融派生商品の世界が際限なく広がった。その機能を一言で説明すると、「少額の投資資金で巨額の金融取引が可能になる」ということだ。債券先物取引の例で示すと、証拠金比率1%での取引を認めると、投資家は100万円の元本で、1億円の債券を買うことができる。額面100円の債券価格が1円変動すると、100万円の損益が生まれる。100万円の元手が1日で倍になったり、ゼロになったりする。


金融工学と表現すると聞こえが良いが、金融市場が「カジノ」になったのだ。デリバティブを扱う金融マンは億円単位の高額報酬を獲得した。破綻したリーマンブラザーズの最高経営責任者は2000年以降に494億円もの報酬を得ていた。


「市場原理主義」の終着点は「カジノ経済」だったのだ。26兆円の損失が100倍に拡大されれば、2600兆円になる。最終的な損失金額は不明であるが、100兆円の公的資金では、問題処理には程遠いことを認識しなければならない。


日本の政府関係者が、日本の経験を元に、金融機関への資本注入を提言するべきだなどと発言しているが、問題の本質をまったく理解していないと思わざるを得ない。米国の不動産価格は2割下落したが、理論価格=長期のトレンド上の価格に回帰するには、さらに2割から3割程度の下落が必要である。不動産価格調整はまだ4合目に差しかかったところだ。


この意味で、今回の金融危機に対しては、強い警戒感をもって対処する必要がある。デリバティブの想定元本の全体を把握し、最大で損失がどこまで膨張するかを予測し、その予測に見合う対応策を検討しなければならないのだ。


デリバティブ金融の想定元本は600兆ドルに達すると見られている。6京円の想定元本の1%が損失になるとしても、6兆ドル(約600兆円)の資金が必要になる。手元にはデータがないから、確かな推計はできないが、問題が途方もなく大きなものに膨れ上がってしまっている可能性は低くない。


サブプライム危機で常に取り上げられるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)と呼ばれる、債務保証を商品化した金融商品だけでも、その残高は60兆ドルに達すると見られている。「市場原理主義」=「新自由主義」=「自由放任主義」は、取り返しのつかない「過ち」を犯してしまったのかも知れない。


米国の経済学者ジョン・ケネス・ガルブレイスは、著書『バブルの物語』(原題は”A Short History of Financial Euphoria”)に、「暴落の前に天才がいる」と記した。バブル生成には常に「神話の存在」と「金融の支援」が存在することを洞察した。日本のバブル生成の際も、銀行の過剰融資が存在した。過剰流動性による巨大な信用創造が生み出され、バブルが生成された。


2000年代の米国では、「金融」が「魔界」に突入してしまった。金融工学が人類の管理能力を超える「巨大宇宙」を創出し、その「巨大宇宙」で「ビッグバン」を発生させてしまった。


問題を処理するためには、巨大な資金が必要になるだろう。問題処理に際して不可欠な事項は、「自己責任原則の貫徹」と「金融システムの安定性確保」の両立だ。損失の規模によっては、「金融システムの安定確保」が困難になることも否定はし切れない。しかし、最善の努力を注ぐ必要はあるだろう。


自己資本不足に陥る金融機関は、まず自己の責任で資本調達を実行しなければならない。自助努力での経営維持ができなくなれば、「実質破たん」状態になる。そのまま「破たん」させると、「破たん」が連鎖する可能性が高まる。「破たん」を連鎖させないために、公的資金が必要になる。問題は、どのような手順、ルールに従って公的資金を注入するのかだ。


答えは一つしかない。「実質破たん」金融機関を「一時国有化」することだ。実質破たん状況に陥った時点の株価で、政府が問題金融機関を買い取るのだ。問題金融機関の株主は、株価が下落した分だけ、有限責任を負う。


国有化された金融機関に、必要な資本を注入し、経営を再建させる。これが、「金融システムの安定確保」と「自己責任原則」を両立させる唯一の方法だ。破たん金融機関の経営者は免職させると同時に、適正な私財提供を求めるべきだ。経営破たんにより、公的資金が投入されるのである。責任ある当事者が、責任能力に応じて資金負担するのは当然である。


2003年の「りそな銀行」の処理は、これとまったく違う。「実質破たんさせたりそな銀行」の株主の株式にまったく手を付けずに、2兆円の公的資金を注入して、りそな銀行を救済したのだ。もっとも大きな利益を獲得したのは、「りそな銀行の株主」だった。経営者だけは入れ替えられ、政府の近親者が新経営陣に送り込まれた。新経営陣も巨大な利得を獲得したはずである。そして、「りそな銀行」は自民党の「機関銀行」になった。この問題をスクープしたと言われる朝日新聞の鈴木啓一記者は、記事発表と同時に疑惑の死を遂げている。


米国の金融危機に直面し、「りそな銀行処理」がいかに、「欺瞞と不正」に満ちていたのかを改めて検証する必要があるだろう。詳細を拙著『知られざる真実−勾留地にて−』に記述したので、是非ご高覧賜りたい。


私は「金融システムの安定確保」と「自己責任原則の貫徹」の両立を一貫して主張し続けた。自民党政権と金融業界は「責任処理を伴わない銀行救済」を一貫して主張し続け、結局、ごく一部のスケープゴートを除けば、「責任処理を伴わない銀行救済」を実行したのである。


長銀の粉飾決算事件では、財務省から送り込まれた最高裁判事が中心になって、経営者に対する司法の責任追及を放棄してしまった。日債銀に財務省OBが天下りで送り込まれ、刑事責任を追及されている。高裁有罪判決ののち、現在上告審で係争中だ。長銀事件逆転無罪最高裁判決は、日債銀に天下りした財務省OBの刑事責任を免責にするための工作である可能性が限りなく濃い。


資本注入論議が浮上すると、金融界と自民党は常に「責任追及のない資本注入」を主張する。小泉政権は「自己責任原則」を重視すると言いながら、「自己責任原則」を放棄した。この「不正」が糺されなかったのが、「政官業外電=悪徳ペンタゴン」による利権政治=自公政権だったのだ。


米国でも金融界は「責任追及のない資本注入」を強く求めているだろう。しかし、それは「公正と正義」に反する政策対応だと言わざるを得ない。


「大火が広がっているときは消火を優先しなければならない。失火の責任を追及している場合ではない」との主張をよく聞くが、このような発言を大声で主張していた人物が、鎮火後に責任追及したことを見たことがない。


金融システムを守るために、公的資金の注入は不可欠だろう。しかし、それは、社会の「公器」である金融システムを守るための方策であって、責任ある当事者を救済するためのものではない。米国が「金融システムの安定確保」と「自己責任原則の貫徹」の両者を両立させる政策対応を示すのかどうかを注視しなければならない。


「欺瞞と不正の金融処理」を実行した日本政府に、発言権などあるはずがない。日本の事例を説明するのなら、日本政府が「自己責任原則」を崩壊させた事実を正確に伝えるべきである。


「市場原理主義」=「自由放任」=「新自由主義」は金融危機とともに終焉する。新しい時代が幕を開けるが、その前に「市場原理主義」の「負の遺産」を解決しなければならない。その目的は「罪なき国民の生活を守ること」であって、「責任ある当事者の救済」ではない。関係者の私財提供にまで責任追及が及ばなければ、問題処理スキームは動き出さないだろう。


「こづかい帳」さんが指摘するように、日本でも米国でも新しい「ペコラ委員会」を設置して、問題を総括すると同時に、問題解決の基本形を定める必要がある。
 

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