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JMM [Japan Mail Media] アメリカ金融危機は、日本経済にどのような影響を与えるのでしょうか
http://www.asyura2.com/08/hasan58/msg/707.html
投稿者 愚民党 日時 2008 年 10 月 04 日 18:21:52: ogcGl0q1DMbpk
 

                            2008年9月29日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.499 Monday Edition
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▼INDEX▼

 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』

  ◆編集長から

  【Q:930】
   ◇回答(寄稿順)
    □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
    □水牛健太郎 :評論家、会社員
    □中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
    □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
    □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
□土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部准教授
    □三ツ谷誠  :三菱UFJ証券 投資銀行本部エグゼグティブディレクター
    □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
    □北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
    □津田栄   :経済評論家

        ■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:930への回答ありがとうございました。最近、連載の原稿を書き終えても、
強烈な充実感がなくなりました。現在、文芸誌2誌に連載を持っていますが、これは
かなり大変な作業です。『半島を出よ』という書き下ろしを書き始めたころ、自分で
も興奮するようなアイデアを思いついても、あと1400枚も書かないといけないわ
けだからはしゃぐのは止めようと、決めました。以前の書き下ろしでは、箱根で、す
ごいシーンを書き終えたあと、酔っぱらって一人でカラオケでビートルズとかを歌っ
たりしていたのですが、『半島を出よ』は終始淡々と書き続けられました。

 その影響でしょうが、以前よりも淡々と書くようになって、音楽家の坂本龍一に、
それは作家としてレベルが1段階上がったんだよ、と言われたりしました。レベルが
上がったのかどうかは自分では不明ですが、強烈な充実感がないのは寂しくもありま
す。最近は、静かな充実感とともに、喜んだりはしゃいだりすることなく、淡々と執
筆することが普通になりました。

 ところで、麻生新内閣の閣僚たちは、就任の際、大臣になれると喜んでいるような
印象を受けました。財政危機で資源配分がゼロサムの時代に大臣になるのは、どんな
に良い政策を立案し実行しても、必ず国民のある層からは恨まれることを意味しま
す。どれほど高いモチベーションがあっても、大臣になるのは憂うつなものだと思う
のですが、みんな喜びはしゃいでいるような感じがしたのが印象的でした。

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■次回の質問【Q:931】

 野村ホールディングスはリーマン・ブラザーズのアジア・太平洋事業、欧州・中東
地域の主要事業を買収し、東京三菱UFJフィナンシャルグループはモルガン・スタ
ンレーに、みずほフィナンシャルグループはメリルリンチに、それぞれ出資をしたよ
うです。買収と出資では性格が違うのでしょうが、基本的に日本の金融機関は、どう
いった利益を得ようとして、そのような投資をしたのでしょうか。またこの投資には
どのようなリスクがあるのでしょうか。

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                                  村上龍
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■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く 
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 ■Q:930

 アメリカでは金融不安が続いています。この事態は、日本経済にどのような影響を
与えるのでしょうか。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 今回の金融危機は、かなり大きなマグニチュードを持っていたと思います。今年3
月以降、米国の大手投資銀行上位5社の内、既に3社が破綻や救済合併に追い込まれ
ています。さらに、今後、中小の銀行などの金融機関が破綻することが懸念されてい
るようです。こうした状況を見ると、「今回は戦後最悪の事態」という指摘も頷ける
ものがあります。

 米国の金融危機がわが国に与える影響を、短期的な視点と、もう少し長めの見方に
分けて考えると分かり易いと思います。先ず、短期的及び直接的な影響は主に三つあ
ると思います。一つは、わが国の金融機関が、米国の投資銀行などに融資していた貸
出金に損失が発生することです。現在、報道されているところでは、わが国の大手金
融銀行のいくつかは、リーマン・ブラザーズ等に融資を行っているようです。

 リーマンは、既に米国の連邦破産法11条を申請していますから、今後、債務が清
算されることになると思います。その場合、融資の一部、あるいは全てが貸し倒れに
なることが懸念されます。実際、貸し倒れになると、融資を行った銀行には損失が発
生します。それは、明らかに銀行の経営にとってはマイナスの要素になります。その
金額については、それほど多額ではなく、銀行の経営状況を大きく悪化させるもので
はないようです。

 ただ、金融機関は、貸し倒れが発生すると、どうしても信用に対する意識が強くな
り、貸出しに対するスタンスが慎重になると思います。国内の景気が後退しているこ
ともあり、金融機関の貸出姿勢が保守的になることは、経済全体にとってプラスの要
因ではないでしょう。

 二つ目は、米国の金融危機が、米国のみならず、世界の実体経済にも悪影響を及ぼ
すと考えられることです。米国経済の減速が一段と鮮明化すると、わが国からの米国
向け輸出はさらに減少することが考えられます。それは、輸出依存度の高い中国経済
にも、マイナスの効果が及ぶことでしょう。そうなると、わが国の輸出が伸び悩み、
あるいは減少傾向を辿ることが考えられます。

 元々、わが国の国内の需要項目を見ると、経済全体を押上げるようなエネルギーは
見当たりませんでした。金融危機によって、米国を初め世界経済にブレーキが掛かる
と、わが国の景気後退が一層厳しいものになる可能性が高まります。

 三つ目は、株式や為替などの金融市場の動向が不安定になることによって、投資家
のリスクテイク能力が減殺されることです。株価が下落すると、“負の資産効果”を
通じて、経済活動を低下させることが想定されます。それと同時に、金融市場が不安
定な展開になると、金融資産を保有することに対するリスク量が増加します。

 投資家は、基本的にリスクとリターンの関係を考えて、金融資産を保有するような
経済活動を行うことになります。金融市場の変動性=ボラティリティーが上昇して、
リスク量が増えると、それに見合ったリターンを得る見込みがなければ、金融資産を
保有することに尻込みをするはずです。投資家が、そのような行動様式を取り始める
と、リスクを取る経済主体が減少して、経済活動全体の水準が落ちることが予想され
ます。

 次に、今回の金融危機をもう少し深く分析します。金融危機の本源的な問題点は、
今までの米国の金融を中心としたビジネス・モデルが破綻したことだと思います。賃
金水準の高い米国では、差別化しにくい労働集約型の産業を振興することは難しいで
しょう。そこで、米国は、先進の金融テクノロジーを駆使した金融=ファイナンスに
活路を見出したと考えます。ファイナンスの分野で、世界の投資資金を吸引すること
が出来たからこそ、多額の貿易赤字を許容できたと思います。ファイナンスで儲けた
お金で、世界中からものを買って高い生活レベルを維持することが可能だったといえ
ます。

 ところが、サブプライム問題の顕在化した後、米国のファイナンステクノロジーの
多くの部分は、単に、借入やデリバティブを使うことでレバレッジをかけた運用を
行っていたことが露呈したのだと思います。レバレッジをかけて相場が思ったように
動けば、元手の資金の何倍も儲かりますが、その逆になれば、その何倍も損失が発生
することになります。それが、今回、かなり明確に表面化したと考えます。

 ということは、米国は、最も比較優位性の高い分野で失敗したわけですから、新し
いビジネス・モデルを作る必要があるでしょう。それまでには時間を要すると思いま
す。わが国としても、米国追随型の経済活動を見直すことが求められるはずです。長
い目で見ると、米国一国が、世界経済を牽引する構図は既に終焉を迎えていると考え
ます。おそらく、それに変わる、世界経済の構図が少しずつ明確になるでしょう。わ
が国も、その変化に対応することが必要になると思います。

  信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 水牛健太郎 :評論家、会社員

 アメリカの金融不安は大恐慌以来の深刻な事態と言われます。アメリカは日本に
とって工業製品の市場と資金の投資先という二つの役割を果たしています。自動車や
電機などの日本メーカーはアメリカへの製品輸出や現地生産により利益を得、その資
金のかなりの部分は金融機関を通じアメリカに還流し、金融市場に投資されていま
す。よく「アメリカは日本(それと中国、韓国)からお金を借りて豊かな消費生活を
している」と言われますが、これはこうした構図を指しています。日本メーカーは戦
後、アメリカ市場への進出によって成長を遂げた歴史があって、日本経済とアメリカ
経済は一貫して補完関係にあると言えるでしょう。

 アメリカの金融不安は、こうした構図が揺らぐきっかけになりそうです。アメリカ
の金融機関はこれまで高度な金融テクニックを発達させ、日本を含め世界中から資金
を集め、巨額の利潤を得てきましたが、今回の金融不安はこうしたビジネスモデルの
破綻を意味すると受け止められています。また消費も急速に落ち込み始めており、円
高の進行もあって、日本メーカーの業績にも早晩影響が出そうです。

 こうした状況を受け、日本はこれから製造業中心の経済観を見直す必要があると思
います。村上編集長は先週、「『「もの作り」というわけのわからない言葉が登場す
るのは90年代の後半だそうです。ソニーやホンダが生まれた高度成長の黎明期、日
本には数え切れないほどの、創意と活気にあふれた中小零細の製造業が誕生していま
したが、『もの作り』などという言葉は一般的ではありませんでした。何かが失われ
たときに、耳に心地よいだけで内実の伴わない言葉が流通することが多いようです」
と書かれていました。

「もの作り」という言葉が一般化した背後には、繊細で手先が器用とされる日本人の
民族性と絡め、日本人は製造業にとくべつ向いているのだとする考えがありました。
しかしそれはアメリカ市場が日本製品を買い続けることによりはじめて維持できる一
種のイデオロギーに過ぎず、円高が進行したら危機に瀕する程度の、実体のないもの
です。確かに日本には優れたメーカーが数多くありますが、いまや世界一の電機メー
カーは韓国のサムスンですし、世界的にみて圧倒的と言える強みを発揮しているのは
自動車産業ぐらいなものです。それとて今後どうなるかはわかりません。
 
「もの作り」という言葉を自社ウエブサイトなどで掲げる日本メーカーは必ずと言っ
ていいほど「独自技術」を誇っているのですが、技術力はかなりの程度、技術者の数
と技術開発に投下される資金という数量的な要素に還元されます。「独自技術」とい
う言葉が単にそうした技術力を指すのであれば、毎年日本の数倍の技術者が大学から
送り出されている中国やインドにいつまでも対抗していけるかどうかはおおいに疑問
だと思います。

 そもそも、かつて日本メーカーが欧米市場で頭角を現したのは、必ずしも技術が優
れていたからではないと思います。もちろん、日本は明治以来、アジアでは先頭を
切って近代教育に乗り出し、昭和戦前には中国東北部や朝鮮半島といった海外の勢力
圏で多くの技術者が働いていました。また戦争によって技術力が進歩した側面もあり
ました。これらの技術者が戦後日本の製造業の成長の原動力になりました。

 しかし、それを言うならば、戦後一貫して、一般的にはやはりアメリカやヨーロッ
パの技術の方が優れており、日本はそれを学ぶ立場にありました。それなのに欧米の
メーカーと競争して日本メーカーが成長できたのは、単に技術が優れていたというよ
りも、品質と価格のバランスが良かったからでしょう。決して最高級品ではなかった
が、値段の割にはいいものであり、何よりも壊れずに長持ちしたことが大きいと思い
ます。

 例えば日本車が売れたのは(少なくとも当初は)安いのに長持ちしたからであり、
また燃費が良かったからです。日本車が小型・軽量で燃費がいいのは、最先端技術と
いうよりは、日本の狭い道路と、税制によりガソリン代が高いことに対応したもので
した。長持ちしたのは、労働者の真面目で丁寧な仕事ぶりをうまく組織化したことに
よるものだと思います。

 かつて世界市場を席巻した日本の電機製品を見ても、最先端の技術で世界をリード
したのはコンパクトディスクぐらいで、同じソニーでもトランジスタラジオやウォー
クマンとなると、技術そのものよりも技術をどのように生かしたかという部分に成功
の要因があることがわかります。

 要するに、最先端技術により世界をリードする「もの作り」の国という日本の自己
イメージは、まるで根拠がないとは言わないまでも、大消費市場としてのアメリカの
存在をはじめとする外的要因に支えられたものだと思います。今後も技術開発に力を
注いでいく必要性は言うまでもありませんが、アメリカの消費市場が中長期的に縮小
していく可能性がある現在、「もの作り」の国、というイデオロギーに幻惑されて製
造業主体の産業構造を維持していくことに必要以上に精力を傾けるとすれば疑問です。

 9月16日の日本経済新聞夕刊に、住友スリーエム社長のジェシー・シンさんが
「日本のサービス 質の高さ再発見」というコラムを投稿していました。シンさんは
今年1月の来日以来経験した日本のコンビニ、レストラン、ガソリンスタンドなどで
のサービスが高い水準のものであるとし、サービスの質の高さは「世界の他ではみら
れない日本独自の強みである」と書いています。

「(他の国でも)日本と同水準のサービスを提供するレストランもあったが、そのよ
うな店は特別でもあり大変高級な店でもあった」「高いサービスを経営理念に掲げる
世界的なホテルチェーンがあるが、日本は国自体が高いサービスを掲げていると言え
る。世界のどんな場所でもこんな質の高い一貫した応対を受けた経験はない。日本は
卓越した技術と勤労意欲で知られる国だが、住んでみるとサービスの国であることに
改めて気づくのである」

 シンさんのお書きになっていることからわかるのは、もし日本の強みというものが
あるとするならば、それは「もの作り」ではなく、真面目で丁寧な仕事を当然のこと
として考えている勤労者のモラルだということだということです。戦後の日本ではそ
れが主に工業製品の質の高さという形で生かされていましたが、製造業に限らず、サ
ービス業であっても、一次産業であっても、同じモラルが見られます。

 日本では水や空気のように存在しているサービスが、外国では高級レストランや世
界的なホテルチェーンのものに匹敵する、つまりそれだけの経済価値を持っているわ
けですから、言わば油田を持っているようなものです。ただ石油と違い、そのまま輸
出して簡単にお金に換えることはできません。

 しかし、インターネットによる通信手段の発達や交通手段の発達により、世界はか
つてなく狭くなっているのですから、「もの作り」という枠に縛られず、様々な創意
工夫により、サービスの質の高さを海外に向けて売っていくことができる時代になっ
ているはずです。

 製造業は世界的な価格競争から逃れることができませんが、丁寧できめ細かいサー
ビスに関してはそうした心配もありません。こうしたサービスに高い付加価値を付け
ることができれば、いま若年労働者を追い込んでいる袋小路からの脱出口になる可能
性もあります。

                         評論家、会社員:水牛健太郎

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 ■ 中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト

 日本は幸いというか、バブル崩壊で苦しんだ記憶が新しいためか、金融機関がリス
ク資産への投資に慎重であったため、欧米金融機関とは異なり、サブプライム関連の
損失は比較的小さくてすみました。ですから、欧米ほどには金融面での影響は大きく
ないのですが、マーケットはグローバルにリンクしていますので、日本だけが無傷と
いうわけには行きません。

 短期金融市場はリーマンショックのあと、日銀も大量の円資金注入を実施しました
が、ニューヨークやロンドンでは短期金融市場が全く機能していないのに比べると、
落ち着いている言えます。もちろん、リーマンへの融資やリーマン債券を購入してい
た一部の金融機関が損失を被る事態になったのは事実ですが、経営の屋台骨を揺るが
しかねないほどの規模ではなかったので、短期金融市場の混乱も軽微で済んでいると
いうことではないでしょうか。ただ、リスクプレミアムが増加してますので、コール
金利が0.5%の誘導金利を維持していても、企業の短期資金調達コストは上昇して
います。

 債券市場も欧米では国債など安全資産への質への逃避が起きた結果、社債金利の急
騰が見られていますが、日本では限定的のようです。但し、全般に長期のもには投資
家の手が引いてますので、社債発行を見合わせる企業も多いようです。、企業金融面
では全体としてはまだ急激に閉まってきているというわけでは有りませんが、特定の
業界にかなり深刻な影響が出ているのも事実です。これはリーマン破綻に始まったわ
けではなく、07年夏のサブプライムローン問題がグローバルに広がったのを契機と
しています。

 すなわち、サブプライム問題の勃発で欧米の金融資本市場が機能不全に陥ったこと
から、外資系金融機関の融資スタンスが一変しました。この影響をまともに食らった
のが、建設不動産業界です。外資系金融機関からのマネーの蛇口が急激に閉められた
ために、新興ディベロッパーの資金繰りがきつくなり倒産が増加し、次は工事を請け
負っていた中堅のゼネコンが倒産するという連鎖の動きが見られました。

 株式市場はグローバルに連動していますので、米金融危機で金融株を中心にニュー
ヨーク株価が下落すれば、東京市場も連れ安となる傾向は否定できません。株価が下
がれば、企業にとり保有資産の目減りで決算に悪影響が出ます。また、市場環境が悪
ければ新規上場もできませんし、証券会社にとっても厳しい市場環境となります。

 為替市場はリーマン破綻で一時103円台までドルが急落しましたが、不良資産買
取りスキームの発表などで108円まで戻すなど、乱高下しています。しかし、ドル
があく抜けするにはまだ時間を要すると見ています。ドル買戻しのきっかけになった
不良資産買取りですが、実際、価格のついていない金融資産をいくらで米政府が買い
取るのかという実務的難問もありますし、それに加えて、買取りが成立しても、今度
は買い取り価格と簿価との差額だけ金融機関の自己資本が毀損しますので、資本不足
という新たな金融不安の火種が出てきますので、やっかいです。よって、ドルが底を
打ったと考えるには時期尚早かとみています。

 当面、内需に期待できず輸出頼りの日本経済にとって、円高の進行は輸出を抑制す
るため、短期的には日本経済にマイナスの影響を与え、企業収益の落ち込みから設備
投資の減額、雇用削減など実物経済に影響を及ぼす可能性が高いので心配です。

 マーケットの影響をつらつら書いてきましたが、ファンダメンタルズを考えれば、
日本企業の多くはもはや過剰債務、過剰雇用、過剰設備がありませんので、体力は5
年前に比べてはるかに強靭になっています。かつ、邦銀がサブプライム問題でのやら
れが小さいので、米金融危機からくるショックへの耐久力はかなりあると見ています。

 ただ、米金融危機が今後、実物経済に波及して、世界経済が深刻な景気後退、デフ
レに突入するようなことになれば、さしもの日本経済も影響を免れることはできませ
ん。よって、今回の米金融危機がそうような事態にまで進展するのか否かが最大の分
かれ目かと思われます。

               伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 まずサブプライム関連全体の損失については、金融庁が四半期毎に、「我が国の日
本の預金取扱金融機関のサブプライム関連商品の保有額等について」を発表していま
す。日本の預金取扱金融機関のサブプライム関連商品の保有額(簿価)は、2007
年末の1.5兆円から、2008年6月末に9580億円に減りましたが、2007
年4月以降の累計実現損失は7540億円に達しました。ただ、欧米の金融機関より
は桁違いに少ない損失です。

 158年の歴史をもつ米国大手投資銀行のリーマン・ブラザースの倒産は、世界の
資本市場に大きな衝撃を与えました。同じ米国大手証券会社に勤める身として、他人
事には全く感じられませんでした。9月17日付け日経は、日本の金融機関のリーマ
ン向け投融資合計は4400億円に達し、うち担保や損失回避のための取引で補えな
い部分は2300億円以上に達すると報じました。9月末中間決算を控えて、リーマ
ン関連損失から、銀行の業績予想の下方修正が相次いでいます。新生銀行は9月中間
期の純利益を、従来予想の280億円の黒字から150億円の赤字予想に下方修正し
ました。みずほ信託も、210億円の黒字予想を90億円の黒字予想に下方修正しま
した。事業会社でも、リーマン向け債権保有企業は、債務不履行で損失を被ります。
レオパレス21は16億円のリーマン向け債権、テレビ朝日はリーマン向けの仕組み
債10億円を保有していると明らかにしました。

 リーマンが発行した残高1950億円のサムライ債(無担保の円建て外債)は、過
去最大の債務不履行になる見込みで、保有している金融機関や個人は損失を被ること
になります。債券市場で投資家の信用リスク懸念が高まった結果、普通社債やサムラ
イ債の予定通りの発行ができなくなり、発行延期や減額が相次ぎ、企業の資金調達に
影響しました。リーマン倒産は民間企業だけでなく、国家財政へも悪影響を与えまし
た。リーマンが落札した国債の代金2885億円が22日の期日までに払い込まれ
ず、国の歳入計画に影響しました。

 悪い話ばかりではありません。野村ホールディングスはリーマンのアジア太平洋と
欧州部門を買収することで基本合意しました。三菱UFJフィナンシャル・グループ
は、モルガン・スタンレーへ約9000億円出資して、筆頭株主になると発表しまし
た。日本の金融機関と欧米投資銀行の人事報酬制度や企業文化は大きく異なるため、
日本の金融機関の欧米投資銀行の部分買収が巧くいくかは不透明ですが、世界の金融
システムの安定化に寄与する動きとして評価されましょう。

 個人投資家の損失は明らかでありませんが、リーマン関連商品を保有していなくて
も、市場混乱による間接的な影響が大きかったと推測されます。外債中心に投資する
投信を保有している投資家が多いため、円高や信用リスクが低い債券の下落で、打撃
を受けたでしょう。世界的に株価も大きく下落しましたので、保有株から損失を被っ
た個人投資家が多かったでしょう。今回の金融危機で世界景気が後退すれば、日本経
済や企業業績が悪化し、ボーナスをはじめとする個人所得が減ることになります。

 世界景気に大きな影響を与える米国のクリスマス商戦は、91年以来最低になると
予想されています。円高に加えて、米国での消費減退は自動車や家電をはじめとする
日本の輸出企業の業績に悪影響を与えます。日本の自動車や家電の売れ行きが悪くな
ると、日本の加工組立下請けメーカーにも悪影響を与えますし、世界の工場として機
能している中国経済も鈍化し、日本の素材メーカーの出荷も減ることになります。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 発表のたびに額がどんどん大きくなっているようですが、24日の時点でIMFは
サブプライム問題による金融機関の損失は1兆3000億ドル(140兆円)に上る
との見通しを持っているようです(ワシントン24日時事)。一年前のFRBなどの
試算からは10倍以上になっているのは、金融危機を経験した日本人にはおなじみの
事態ですが、アメリカ人はもっと上手く対処するのかと、どこかで期待していたので
失望を禁じえません。

 金融機関では、住宅ローンに金融技術を使ってレバレッジをかけ、さやを抜いて荒
稼ぎをしていた投資銀行という業態が危機に瀕しています。あまりにも広汎な損失な
ので、リスクをとった商売の宿命だと、達観するわけにもいきません。その裏にはこ
の業態を通じてファイナンスをしていた、ファニーメイ、フレディーマックの住宅金
融会社が国有化されたことに端的にみられるように、通常の住宅ローンに、支払い不
能、担保価値の下落、競売といった事態が広がっていることが想像できます。

 ここの部分の損失は、もちろん上記のIMFの損失試算と二重計上になりますが、
IMFの計算のほうが氷山の一角で、それが会計的に計上されるかどうかは別とし
て、背後にはさらに大きな損失が存在する覚悟すべきでしょう。

 アメリカ人は、クリントン政権からブッシュ政権の時代、グリーンスパンFRB議
長の任期と重なる時代に、住宅価格の上昇を担保にした消費ブームを謳歌してきまし
た。住宅価格がピークを打って値下がりが始まってからすでに3年ぐらいたっていま
すが、住宅価格を底上げして持ち上げられていた消費とそこから派生する需要増によ
り経済を支えるというトリックの終焉が、ここに来て投資銀行と住宅金融会社の倒壊
という形で一気に加速することになりました。

 感覚的に言えば、このトリックでこれまで実力以上に持ち上げられてきた、過去の
支出分を、アメリカ人はこれから何らかの形で支払っていかなければならないという
ことになります。そのツケを払うには、ブッシュ政権が検討している5000億ドル
の公的資金をしてもたぶん足らない勘定ですし、そもそも公的資金自体も税金か国債
の形でファイナンスしなくてはならないので、これから何年にもかけて重荷になるは
ずです。これは、日本の「失われた15年」の経験からの類推でもあります。

 今回の金融危機はまだ終わったわけではありませんし、その総括もまだ早いとおも
われますが、アメリカ経済がこれまでのように住宅トリックをドライバーに世界経済
を引っ張ることは、過ぎた夢となったことだけは言えるのではないかと思います。

 アメリカからの需要は、短期的にも中長期的にも落ちざるをえないでしょうし、ド
ル高を維持するのは難しい状況となるでしょうから、日本としても対米輸出に依存す
る形で経済を支えるのは困難な情勢です。必然的に内需に依存せざるを得ないでしょ
うし、輸出先としては中国やロシアなどの近隣諸国や欧州などに頼ることになってく
るでしょう。

 8月のサミットの頃は、公的資金の投入までは至らないという観測のほうが多かっ
たと思いますので、事態の急速な進展には驚かされます。アメリカは、サブプライム
問題の表面化から約1年ちょっとで公的資金の投入を決意するにまで至ったので、日
本の経験の学習効果が生きているのかもしれません。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部准教授

 アメリカ経済が風邪を引けば日本経済も風邪を引くということで、アメリカ経済の
行方を心配する向きがあります。もちろん、日本経済への影響としては、(1)金融
不安に伴うアメリカ経済での景気後退によって、日本からの輸出が低迷し(さらには
欧州や新興国の経済の成長率低下により欧州や新興国向け輸出も低迷し)、日本の経
済成長率が低下する、(2)アメリカの金融不安が世界的な信用収縮に発展し、日本
でも(深刻ではないにせよ)資金供給が鈍化して、企業の資金繰りや住宅ローンがタ
イトになり、投資が低迷して日本の経済成長率が低下する、といった実物面、金融面
からの影響が考えられます。

 今のところ、金融面での日本への悪影響は(金額の多寡は別として)要因が限られ
ていることもあり、むしろ日本の金融機関がアメリカの金融機関の救済等で出る場面
が多そうです。確かに、日本は、1990年代に住宅金融専門会社の問題、大手金融
機関の破綻とその後のコール市場の混乱、公的資金注入による破綻金融機関の国有化
を経験しましたから、今アメリカで起こっていることの多くは似た経験を済ませてお
り、その対処法も(当時は大いに悩み、苦渋の選択を迫られましたが)それなりに理
解しているといえるでしょう。

 経験したことがあるイベントなら、その失敗の教訓を適切に踏まえていればうまく
対処できるでしょう。そうできれば、日本経済への悪影響はうまく食い止めることが
できるでしょう。

 ただ、アメリカで今起こっていて日本がまだ経験していないものもあります。その
主なものは、不良な証券化商品やCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の処
理が挙げられます。要するに、高度な金融技術をからめた金融商品は、それ自体がま
だ日本の金融市場では発展途上で、取引が成熟したとはいえない状態ですが、そうし
た金融商品がアメリカで支障をきたしているのです。もちろん、こうした証券化商品
やCDSの対処は、日本のみならずアメリカでも未経験がゆえに、もしこれに端を発
した悪影響が及べば、日本経済に予期せぬ事態が起こるかもしれません。

 AIGの公的な救済をやむなく迫られたのも、リーマン・ブラザーズの破綻により
CDS市場で当局の予想を超えた過度な反応があったことも一因となっています。や
はり、アメリカとて未経験がゆえに不慣れな対応になってしまうことがあります。こ
うした金融不安の中で、日本としても、官民問わずどれだけよい知恵を世界に提供で
きるかが問われていると思います。そして、そのよい知恵が、日本経済自体をも守る
術となると考えます。

                    慶應義塾大学経済学部准教授:土居丈朗
                  <http://www.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/>

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 ■ 三ツ谷誠  :三菱UFJ証券 投資銀行本部エグゼグティブディレクター

「ドルの価値が護られるかどうか、で計る危機の深度」

 或る時代の構造を、後世の歴史家が描出するような視点で考えるならば、19世紀
後半からの世界史の構造は、いち早く「大量生産―大量消費」の資本主義的世界を実
現させ、「株式会社と大衆」によって構成される世界を築いた超大国アメリカが、軍
事的な成功にも基軸通貨としてのドルの力にも支えられて、次第にその影響力を欧州
にも東アジアにも当然米州全体にも波及させて、その繁栄を謳歌した時代として析出
されるのではないか、と思います。

 その構造の中での東アジアの役割は、アメリカの消費者が求めるモノを、一定の水
準の質と相対的に安い価格で提供する生産基地であり、その輸出によって、アメリカ
の繁栄の果実の分け前を預かっていた、という描写になるでしょう。

 そのループは、日本から、とりあえずは自由主義国家群としてあった東南アジア諸
国に広がり、やがて韓国、そして冷戦構造の崩壊に伴って中国に広がっていきました。

 勿論、市場はアメリカだけではなく、アメリカ的な生活様式自体がアメリカ的な価
値観と共に、強烈な憧れと間歇的な反発を繰り返しながら、しかし螺旋的に周辺各国
に受け入れられていく中で、結局、アメリカ的な豊かさを追う・模倣する、という意
味での市場がこれら追随国家群にも拡大し、東アジアの経済は拡大・循環していきま
した。

 しかし、いつの時代も、最大の消費国として基軸通貨を持つアメリカが君臨してい
たのは事実であり、アメリカの消費者を念頭に置いた財の提供こそが、東アジアの繁
栄の条件だったと言えるでしょう。

 つまり、だからこそでもありますが、それは「ドルの帝国」であり、残念ながらそ
れ以外のものではなかったと整理できると思います。

 しかし、20世紀をほぼ貫いた「ドルの帝国」も、70年代にはニクソンによる金
兌換停止、スミソニアン体制への移行、80年代にはプラザ合意と、危機に瀕してい
たのは、黄昏を迎えつつあったのは事実だと思います。金の錘を失ったドルを支える
ものは、或る意味「集団幻想」であり、追随する国家群が、或いは金融を司る企業群
が、そこで意思決定に介在する個々人が、ドルの帝国を護ろうと意識しない限り、支
えきれるものではありません。

 例えば我が国におけるバブル経済の発生とその破裂に伴う不況についても、プラザ
合意に伴い、ドル体制の代貸としての日本が、過剰な流動性を引き受け、その流動性
が洪水のように荒れ狂ったために起きた現象だったと考えてもいいかも知れません。

 今回の金融危機は、当のアメリカで起きているだけに事態は深刻だと思いますが、
これがどこまでの危機に繋がるのかは、アメリカだけでなく、他の国々や市場に参加
するプレイヤーが、幻想で支えられたドルの価値を、どこまで協調して護っていくの
か、いけるのか、にこそ焦点があるように感じます。また、それは短期の視点ではな
く、中期的な視点でドルのレートを追うことが重要ではないでしょうか。

 実際、巨大な損失の補填には巨額な資金が必要になるのであり、極端な話、それが
ドル紙幣の印刷で賄われるとすれば、ドルの減価は自明でしょう。そうしないために
は、国家を含む市場参加者が、いますでにあるドルに拠って事態の収拾に素早く動
き、それぞれが素早く動いている、危機を相互に認識しているという安心感が、市場
のコンセンサスとして確立することが望ましいと思います。

 勿論、モラルハザードの問題もあり、アメリカ国内の議論として、金融機関救済に
ではなく、個人の救済をこそ行うべきだという議論があるのは、理解しますが、巨視
的に考えれば、問題はドルの価値維持の問題であり、20世紀が、21世紀初頭も含
め結局はドルの世紀であり、ドルの帝国であったと考えるならば、モンロー主義的に
内を向く前に、もっとも有効な手段を打っていくことが望まれます。勿論、事態が沈
静化してからアメリカ的な健全さで、プジョー委員会のような委員会で、弾劾すべき
ものは弾劾し、余りにもカジノ化の度合いを進めすぎたウォール街自身の問題を整理
するのは正しいでしょう。

 また、結局、消費に頼る経済のありようについては、議論が必要でしょう。新しい
財や新しいサービスを作る投資と消費のバランスの中でこそ経済は発展するのであ
り、バブルをどこかに作って最終的な消費者を確保しなければ成立しない繁栄を、ど
う投資と均衡させるのか。そのためにはより個人の自由な欲望に基づく経済社会を、
市場を中心に構想すべきだという議論と、停滞しても自由を制限しても安定した社会
こそが理想と考える議論と、9.11以後、やはりそのような「大きな議論」がアメ
リカの黄昏と共に必要になってきている気が、アメリカを生きることが少なくとも心
地よい(「負け組」にとってもやはり資本主義こそが理想ではないか)と考える私で
も、しています。

      三菱UFJ証券 投資銀行本部エグゼグティブディレクター:三ツ谷誠

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 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員


 15日にアメリカのリーマンブラザーズが破産申請してから数日「リーマンが潰れ
て、私たちの生活にはどのような影響が出るでしょうか。主婦にも分かるように、易
しく説明して下さい」というような取材の質問を毎日何度も受けました。

 この質問の難しいところは、リーマンが潰れることが何らかの「原因」であるはず
だという思いこみが前提になっていることです。実際には、リーマンが潰れるに至る
ような経済状況が存在し、それが継続することは、われわれの生活にも影響する、と
いうことでしょう。つまり、リーマンの破綻も我々の生活も共に大きな原因に影響さ
れる「結果」だということでしょう。

 その大きな原因とはアメリカの不動産価格の下落です。同国の不動産価格の下落
は、一つには金融セクターでの不良債権の積み上がりと、もう一つにはアメリカを中
心とする景気の減速をもたらし、特に後者が日本の景気を後退させる方向に働くこと
になります。

 先の質問に無難に答えるなら、「日本の企業の業績が悪くなるので、ボーナスが減
る、失業が増える、就職が以前よりもしにくくなる、といったことが起こりやすくな
ります」といったところでしょう。「アメリカの不動産価格の下落はもう一年くらい
は続きそうなので、しばらくは大変だ」と付け加えると、もう少し親切でしょうか。

 予測を含むようなコメントを求められた場合は、私なら、「アメリカの不景気とい
うことですから、株価は上昇しにくいし、ドル安・円高になりやすいでしょう。但
し、物価については、景気が悪くなって需要が停滞するということなので、資源価格
の高騰も一段落するので、落ち着いてくる可能性が大きいのではないでしょうか。つ
いでに言うと、不景気ですし、不動産価格の国際的な連動性が高まっているので、日
本の不動産価格も下落するでしょう」と答えます。

 しかし、このコメントには、株価、為替レート、商品相場という何れも予測が難し
く、アメリカの景気だけでは決まらないものが含まれるので、信頼度はぐっと落ちま
す。はっきり言うと、株安、円高、物価安定となったとしても、「まぐれ当たり」だ
というくらいに考えておくのが妥当です(複数ある要因の一つについて、しかもまだ
現在の価格に不景気が十分織り込まれていないと仮定した上での仮説なので)。この
点、世間には、専門家のコメントに対する過剰な期待があるかも知れませんし、専門
家の側には、それを訂正せずに利用して商売している不誠実があるかも知れません。

 無難なコメントばかり考えていても面白くないので、もう少し考えてみましょう。

 今回の一連の金融不安に関わるイベントで最も印象的だったことは、アメリカの
「投資銀行」と呼ばれた会社が、消えるか、銀行になるかに至ったことです。4位の
リーマンは破綻し、3位のメリルリンチはバンク・オブ・アメリカに買収され、2位
と1位のモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスは銀行持ち株会社になり、
FRBの監督下に入りました。このことは、短中期的な影響(イメージとして2、3
年程度)と、長期的な影響を持っていそうに思えます。

 投資銀行のビジネス・モデルは簡単に言うと、市場から資金を調達して、リスクの
ある資産に積極的に投資するという、レバレッジを掛けたリスク投資でしたが、今
回、信用力が低下するとファンディング・コスト(資金調達コスト)が上昇する共に、
最悪の場合は、資金繰りが困難に陥るという弱点を露呈しました。

 「投資銀行」(要は証券会社ですが)が「銀行」になると、連銀からの融資を受け
られますし、また預金を集める(銀行の買収が手っ取り早いでしょうが)と預金の方
が市場からの調達(短期の調達が多かった)よりも資金として安定しています。しか
し、連銀の監督を受けると同時に、自己資本比率の規制など、銀行としての各種の規
制が適用されるようになるので、これまでのような高いレバレッジのリスク資産投資
が行えなくなるはずです。

 彼らのレバレッジが低下すると共に、ヘッジファンドのレバレッジに対しても金融
機関が厳しくなっているので、今後、経済全体でリスク資産への投資に伴うレバレッ
ジの縮小が起こる公算が大きいでしょう。これはアメリカの経済にとどまらず、日本
を含む世界の経済にも影響する可能性が大きく、株式、不動産といったリスクのある
資産に対するプライシングが大きく変わる可能性を秘めています。

 一方、世界の金融がしばらくの間、いわば真面目にデレバレッジ(レバレッジの縮
小)に向かうとしても、旧投資銀行の人材を含めて、金融界の人間の本質が変わるわ
けではなさそうです。彼らは、他人の資金を使って投資して、成功報酬(投資理論的
にはコール・オプションです)の下で、リスクを拡大する(ボラティリティを上げる
とオプションの価値は高まります)、というビジネスのうま味を手放すことはないで
しょう。

 投資銀行のビジネスモデルのもう一つの弱点は、大きな成功報酬の下では、常にリ
スクが拡大する傾向があり、時にはリスクを取る個人の行動を制御しきれないという
ことでした(業務に専門性があると経営者や監督当局を騙すことが可能ですし、監督
に回るべき経営者自身が成功報酬の下ではハイ・リスクを指向することが合理的で
す)。

 彼らは、遠からぬ将来に、また新たな種を見つけてバブルを起こすのではないで
しょうか(たとえば環境への投資や炭素ガスの排出権などは価値が曖昧で可能性が大
きく、「エコ・バブル」は有力な次のバブル候補です)。

 投資銀行が消えても、投資銀行的なリスクテイク行動は、ユニバーサルバンクの中
に取り込まれて、金融システムのより中核に近い場所に居座ることになります。他人
のお金で博打にいそしむギャンブラー達は、銀行の大金庫を背に仕事に取りかかりま
す。

 そうなると、将来起こるであろう次のバブル崩壊(今はアメリカを中心とする不動
産バブルの崩壊過程)のダメージは、今回よりもさらに大きくなるのではないかとい
うのが、悲観的に過ぎるかも知れませんが、長期的な影響です。世界の金融システム
の中核で破綻が起こった場合、もちろん、日本経済にも大きな悪影響が及ぶでしょう。

 ユニバーサルバンクをどう規制するか、あるいは再編成するかが、世界共通の今後
の重要課題でしょう。日本の金融行政は、これまで、大手銀行のユニバーサルバンク
化を漫然と目指してきたように思えます。問題の構造がはっきり見えている今が考え
時ではないでしょうか。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 ( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )

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 ■ 北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト

 アメリカの金融不安というショックが、日本経済にどのような影響を与えるのか、
「閣僚目線」で見てみましょう。9月の月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料の
最初のページに、「アメリカの金融不安の高まりに伴うリスク(主な一時的影響)」
という図解があります。閣僚は、この図解をもとに内閣府のスタッフから説明を受け
ているのでしょう。

 結論は、日本経済に対するマイナスの影響が三つ、プラスの影響が一つというもの
でした。簡単にその論理をなぞってみましょう。

 まず、金融機関の破綻、金融不安の高まりというショックをきっかけに、安全資産
への逃避と景気後退懸念の高まりから株価が下落し、日本の家計・金融機関・企業は
マイナスの影響を受けます。次に、景気後退懸念を背景に、米国では投資・消費が抑
制される結果、日本の輸出が減少し、企業にマイナスの影響が及びます。さらに、金
融機関の破綻から、日本の金融機関の保有債権には損失が発生し、これもマイナスで
す。逆に、景気後退を背景とする原油価格の下落や円高による物価上昇懸念の後退
は、日本の家計や企業にはプラスです。

 ところで、この図解では、「金融機関の破綻、金融不安の高まり」から、あらゆる
矢印がスタートする格好になっております。また、メディアの報道でも「サブプライ
ム問題に端を発する」という表現が使われることが多く、降って湧いたようなショッ
クから、全ての災厄が始まっているような印象をうけます。しかし、もともとを辿っ
て行けば切りがないのですが、例えば2004年から2006年まで続けた米国の金
融引き締めが、結果的に投資・消費の抑制、地価をはじめとする資産価格の低下を招
き、それが金融機関の破綻を通して増幅・加速されたということでしょう。

 また、景気後退懸念を背景として原油価格等が下落しているかのように解説されま
すが、むしろ昨今の世界同時景気減速の背景は、7月にかけての原油高の影響とみる
べきではないかと思います。米国のエコノミスト達の経済成長率見通しは、5月から
7月にかけて、大きく下方修正されております。この間に、米国株式相場と相関が強
かったのは、信用スプレッドよりも原油価格でした。7月1日に発表された日銀短観
の業績見通しの修正は増収・減益でした。つまり、コスト高を相当意識している格好
でした。

 いま、こうした米国の金融政策や原油価格はどうなっているのでしょうか。米国は
2007年から2008年にかけて政策金利を3%以上下げました。金融引締めが時
間差をおいて、米国経済に影響を与えたように、むしろ現在はプラスの影響を期待で
きる時間帯に入っているともいえるでしょう。実際、金利敏感な住宅セクターの底入
れを先取りする格好で、米国の住宅建設や住宅関連小売りといった株は7月以降上昇
に転じております。

 原油価格は、7月のピークから30%以上下落しました。ほんの数カ月前までは、
交易損失という言葉が注目されておりましたが、今は交易利得が期待できる状況で
しょう。原油価格の下落は新興国経済などの不振の象徴のように使われますが、それ
はマイナス側に偏った一方的な見方でしょう。

 さらに、金融セクターというのは、極めてプロ・シクリカルな分野で、悪い時には
極端に悪くなるという面があります。資産価格が少し下がると、自己資本が毀損さ
れ、自然にレバレッジが高まることになります。ここで、「健全性」の観点からレバ
レッジの抑制を強いられると、資産を売却せねばならず、その結果、さらに自己資本
が毀損され…と悪循環に歯止めが掛らなくなり、最後にはここ数週間のような事態に
陥るわけです。1998年の長銀、2003年のりそなとも、事実上の景気の底で、
金融機関の大型破綻が発生したのは、偶然ではなく必然でしょう。今回の米国も同じ
ような原理が働いているとも言えます。

「アメリカの金融不安の高まり」を起点に図解すると、内閣府の資料のように一勝三
敗で、日本経済にマイナスという結論になりますが、その起点に米国の金融政策や、
あるいは原油相場などを持ってくると、金融緩和はプラス、原油安もプラス、金融不
安はむしろそれまでの金融引き締めと原油高の結果ということで、結論も変わってく
る可能性があります。

                 JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一

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■ 津田栄   :経済評論家

 今回のアメリカの金融不安は、昨年サブプライム(ローン)問題が顕在化してほん
の1年強で、ここまで広がっています。まさか158年の歴史を持つ老舗のリーマン
・ブラザーズ証券が倒産するまで拡大するとは誰も予想していなかったでしょうが、
これまでのIT技術の進歩や市場経済のグローバル化で、瞬時に情報が伝達され、資
金が取引され移動するなかにあって、不安も瞬時に伝わり、増幅されていったという
ことでしょう。その点で、今回のアメリカの銀行、証券、保険などの金融機関の経営
問題まで波及するスピードと内容はかつての日本のバブル崩壊のケースとはケタ違い
となっています。

 さて、アメリカの金融不安の日本経済への影響ですが、一般的には、まず金融不安
により生産、投資、消費などの経済活動が抑制され、低迷することになりますから、
輸出依存経済を強めてきた日本にとって、輸出が伸び悩み、あるいは減少し、輸出企
業を中心に業績は悪化することになって、マイナスの影響を受けることになります。
まして、これまでアメリカ経済を牽引車として拡大してきた世界経済は、アメリカ経
済の伸び悩みで、ブレーキがかかることになり、そうしたなかで、中国などの新興国
やアジア諸国、あるいはEU諸国もその影響を避けられず、成長率が鈍化することか
ら、それらの地域向けの輸出で大きく伸びてきた日本にとっても、輸出、企業業績で
ダブルで痛手を受けることになります。

 それは、輸出だけではなく、設備投資にも悪影響を与え、設備投資関連企業にもマ
イナスとなります。そうした状況は、個人消費にも響いてきます。これまで日本経済
を引っ張ってきた輸出が減少し、設備投資が伸び悩むことになれば、大企業だけでな
く、そこの下請けをしている中小企業なども含めて企業業績が悪化し、それが従業員
の給与や賞与などの所得の減少につながり、消費の抑制となります。そして、6〜7
割を占めるサービス産業もその影響で伸び悩むことになり、国民全体の家計の悪化を
通じて個人消費は現状より一段と悪くなり、経済全体として冷え込む可能性が出てき
ます。

 金融面からも問題が生じています。アメリカの金融不安は、この2週間で、リーマ
ン破たんから、AIGの経営不安(結局、資金供給で政府管理下へ)、メリルリンチ
のバンク・オブ・アメリカによる買収など次々起き、危機的な状況になってきていま
すので、信用が揺らぎ、収縮を起こしています。今やそれはドル取引の停滞、ドル金
利の上昇・高止まりとなって資金調達の困難という形で表れています。それもスワッ
プを通じてドルを調達しようとして、円やユーロの金利が上昇することになって、資
金調達の困難は世界的な規模となり、これも市場経済のグローバル化の結果といえま
しょう。

 その結果として、アメリカの金融機関の経営が一段と苦しくなる一方、それをでき
るだけ防ぐために、融資を厳しくして、貸し出し金利を上昇させることになって、実
体経済を更に下押しすることも起こりえます。それは、裏返せば企業が資金繰りで困
難となり、業績が悪化するだけでなく、悪くすれば資金繰りがつかず倒産という目に
も会うということになります。個人のローンについても、同じことが言え、融資のタ
イト化で、借り入れが難しくなったり、ローン金利が上昇したりして、生活が圧迫さ
れます。それは全体として経済的にもマイナスに働きます。

 そして、それは世界的になっていて、日本でも例外ではなく、最近企業倒産が増え
ているのは、金融機関の融資姿勢の厳格化で資金繰りがつかないことも影響していま
す。特に、これまで外資の投資で潤ってきた不動産・建設関連では、外資がサブプラ
イム問題で資金が調達できず撤退していくことから、急速に売れなくなって資金の回
収ができす、経営が悪化し、金融機関からの融資ストップで破たんしていくのが目
立っています。そして、日本の金融機関のリーマンなどへの融資や投資で資金が焦げ
付いていることも響いて、今後企業への融資に一段と慎重になってくるかもしれませ
ん。もちろん、日本では金融庁が昨年夏の金融機関への審査で融資姿勢の厳格化を要
求し、その影響もあるといわれています。

 一方で、金融機関の融資姿勢の厳格化は、投資を難しくしています。最近の新規住
宅の建設は伸び悩み、また販売もマイナスとなっています。設備投資においても、同
様でしょう。そして、投資は、リスクのある株式や社債よりも、質への逃避として安
全資産である国債に向かうことになり、それが株式市場の下落、国債市場の上昇(国
債価格の上昇=金利の低下)となっています。こうした動きは、世界的に連動してい
て、現在の日本の株価の下落、国債の長期金利の低下もそうした流れとみていいで
しょう。そして、株式や社債の低迷という面からも、企業は、資金調達に支障をきた
し、経営や投資などに悪影響となっています。個人では、株式下落で資産を減らし、
消費抑制に入る可能性が高いといえましょう。

 ところで、アメリカでは、ついに、金融不安解消のために、かつて日本の金融危機
で行った整理回収機構のような、不良債権を買い取るスキームを打ち出し、動き出そ
うとしています。この金融安定化法案では、最大7000億ドルの公的資金(IMF
試算が世界規模で1.3兆ドルならほぼその半分を占める)を準備して不良債権を買
い取ろうとしていますが、その不良債権が、サブプライムローン債権を小口証券化し
た商品であるため、価格の値付けが難しく、いくらで買い取るのかが見えていない問
題やそもそもその公的資金はどこから調達するのかという問題、また買い取ったとし
てその後に起きる金融機関の資本毀損とその充実にはまた別個の資金が必要になる
が、それをどうするのかという問題、その結果としてドルが下落していくという問題
など解決すべき点が多く、紆余曲折すると思われます。とにかくそれでも、議会通過
して前進していくと思いますが、その負担は相当重く、今後のアメリカの経済力は落
ちていくものとみています。

 したがって、日本は、戦後60数年アメリカを中心とした輸出依存経済に対して、
修正を迫られることになるのではないかと思います。もちろん、現在、中国やアジア
諸国との取引が一番大きくなっていますが、それもアメリカあっての輸出です。ま
た、アメリカは簡単に世界のトップから滑り落ちるのではなく、経済力が徐々に相対
化していくのですから、アメリカとの関係は重要です。そしてこのサブプライム問題
のもとは、住宅価格の下落から始まりましたから、それが落ち着いてくれば、アメリ
カの金融不安も解消し、経済の動揺も納まってくるでしょう。その意味で、一般的な
予想のように進まないかもしれません。

 しかし、サブプライム問題を契機とした世界経済の伸び悩みのなかで内需が弱いま
までは、日本経済の状況悪化が長期化しかねません。よって、日本は、今後世界は多
極化するとみて、それに対応した経済構造を作るべきであり、世界に向けた輸出とし
て技術の高度化、優位性に重点を置くだけでなく、それにからめて内需の回復にも力
を入れるべき時が来ており、家計や中小企業、地域などの回復(道路や建物などの公
共事業ではない)を目指した大胆な改革などが求められるのではないかと思います。

 最後に、今後を見る上で二点述べたいと思います。まず、今回のアメリカの住宅バ
ブルの崩壊及び金融不安あるいは危機は、過去の日本の不動産を中心としたバブル経
済の崩壊及び金融危機と同じようにみる人がいますが、個人的には全く様相が違うと
思っています。最初にも言いましたが、規模が、経済のグローバル化で、もはやアメ
リカ一国の国内問題ではなく、世界的な問題であるという点で、日本の場合のローカ
ルな問題のようにはいかないということです。しかも、日本の場合、世界経済は堅調
で、不良債権の処理における欧米資本の進出、輸出などで景気回復が実現しました
が、今回のサブプライム問題では世界中が経済的に痛んできて、しかも巨大な経済を
持つアメリカですから、そこに大規模に手を差し伸べることが難しく、簡単にはいか
ないと思われます。

 また、内容からみても、不良債権の中身が違うことです。当時の日本は、不動産な
どの実物資産への融資が中心であって、それをもとにした不良債権でしたが、今回は
住宅ローンなどを金融技術で証券化した金融商品が、住宅価格の下落で不良化したと
いうことで、質的に違います。それは、不良債権の買い取り価格の値付けに表れ、日
本の場合、比較的明確で容易でしたが、今回は、いくらの価値があるのか明確ではな
く、その買い取り価格の値付けが容易ではないということです。そして、もう一つ、
日本の場合では規制が多く経済的に問題が多かったため、それを廃止・緩和したこと
で、民の活力を引き出し、経済活動を活発にするという小泉構造改革が行われて回復
につながった面がありますが、今回は、逆に規制をかけて問題を収束させようとして
います。それは、経済活動を抑制的にするはずです。

 次に、今回のサブプライム問題は、アメリカの住宅バブルが崩壊したことによるも
のですが、これは、そもそも、市場経済のグローバル化が出発点であったといえま
しょう。まったくの個人的な意見ですが、1980年代後半(起点は86年のプラザ
合意か?)以降、アメリカの戦略は、それまでの低迷した経済を立て直そうとして、
製品や商品の輸出ではなく、金融や特許・技術などのサービスに重点を置き、規制の
緩和と資本の自由化による市場経済のグローバル化を世界的に進めることとし、それ
を実現していったといえましょう。

 その際、アメリカは、金融工学のもと、得意とするIT技術を駆使して先物、ス
ワップ、オプションなどデリバティブを利用した証券化商品を次々開発して、世界の
資金を集めると同時にリスクの分散(実際はリスクの拡散)を図り、またそうした世
界から集めた資金をもとにレバレッジをかけて数倍から数十倍もの利益を得るという
金融を中心とした投資銀行ビジネス・モデルを確立していったといえましょう。それ
は、低金利と市場への資金供給により過剰流動性が生まれ、そこから資本が世界中に
出回り、世界経済の発展に貢献しましたが、同時にそれが行き過ぎれば、資本の暴走
となり、国の関与を拒否して膨張し、バブルを形成してきました。

 そうした投資銀行ビジネス・モデルは、LTCM破たん問題やIT株バブル破裂な
ど金融機関や株主などの限定した世界でバブルの生成と破裂、そして回復を経験する
なかで、低金利と資金供給による過剰流動性の進展から、アメリカの住宅投資に向か
い、日本の場合と同様、多くの国民を巻き込んで住宅価格の上昇を繰り返してバブル
を形成してきたといえましょう。それが、FRBの度重なる利上げで、住宅価格が上
昇から下落に転じ、サブプライムローンを組んだ国民は資金が回らなくなってスパイ
ラル的に悪化し、金融機関などはレバレッジが逆にかかって損失が雪だるま式に膨ら
み、投資銀行ビジネスモデルは崩れてしまったといえます。

 今回は、こうしたアメリカ国内の住宅バブルが問題となっていますが、実はこうし
た投資銀行ビジネスモデルを利用した証券化商品を通じて世界もバブル経済的になっ
ていたのかもしれません。それが限界となって世界経済がおかしくなった今、世界的
に規制の強化につながれば、もはやレバレッジがかけにくくなった分、世界経済は、
今後落ち着いても大きく拡大することはなく、次のバブルが起きる時までゆるやかな
成長に転じることになりましょう。

                             経済評論家:津田栄
                    
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。○○●
          ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JMM [Japan Mail Media]                 No.499 Monday Edition
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
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