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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20080924-00000000-newsweek-int から転載。
戦犯、その名はグリーンスパン
ニューズウィーク日本版9月24日(水) 17時25分配信 / 海外 - 海外総合
金融緩和を推し進めて規制を敬遠、住宅ローンバブルの最中もリスクを黙認−−「市場の神様」はこうしてウォール街を炎上させた
マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)
アメリカ経済を大恐慌以来、最大の混乱に陥れた張本人は誰か。責めるべき人はたくさんいるようだ。
「ある意味で完全犯罪だ。いったい誰を捕まえればいいのか」と、オハイオ州カヤホガ郡のジム・ロカキス出納官は言う。「住宅ローン業者を逮捕すれば、道義上、銀行と格付け会社の関係者を逮捕しないわけにいかない」。多くの州の金融当局者は、混乱は何年も前から始まっていたが、FRB(米連邦準備理事会)が無視してきたと考えている。
責任の大部分は結局のところ、サブプライムローン(信用度の低い個人向け住宅融資)を証券化したきわめて複雑な金融商品を売り込み、自らも大金を投資してきた金融業界のCEO(最高経営責任者)たちにある。
実際、サブプライム問題の「パイプライン」に連なる誰かを名指しして責めることはできないという空気が広まっている。「すべての人を責めるべきであり、誰も責めるべきでない」というのが学者の一般的な見解だと、ドレクセル大学(ペンシルベニア州)のジョセフ・メイソンは言う。
しかし、そうだろうか。とくにウォール街の貪欲さに主な責任があるという考え方に、私は賛同しない。共和党の大統領候補ジョン・マケイン上院議員は貪欲なウォール街を「治す」と言うが、貪欲さをどうやって治すというのか。
ウォール街は自由放任のもと、常に本能的な貪欲さに駆り立てられて機能してきた。だから金融バブルが次々に生まれて消えていくし、それは今後も変わらない。
一連の混乱は基本的に、規制の大失敗だ。そして責任の大部分は1人の男に帰する−−アラン・グリーンスパン前FRB議長だ。
定評ある市場「感覚」で神様ともてはやされたグリーンスパンに対し、多くの人が、金融緩和が住宅ローンバブルを加速させた責任を問う。しかしはるかに大きな問題は、彼が「最小限の規制」を信奉したことだ。
FRBは94年に住宅ローンを監督する権限を与えられたが、グリーンスパンはあらゆる規制を先送りにし続けた。事態が深刻になりはじめていた05年4月でさえ、サブプライムローンは公益にかなうだろうと語り、政府の介入は必要ないとした。「貸し手は融資案件の個別のリスクをきわめて効率的に判断できる」と。
新しい規制ができたのは、市場が大打撃を受けてからかなり後の今年7月。後任のベン・バーナンキFRB議長が、返済能力を十分に証明する書類のない融資を禁止するなど、貸し付けに関する情報開示の常識的なルールを定めた。
■国レベルでリスク軽視
グリーンスパンは、退任後に金融機関が次々に破綻しても、自己弁護を続けてきた。しかし昨年のCBSのインタビューで、「(サブプライムローンのような)融資慣行が多く行われていることは承知していたが、重大さはかなり後まで認識していなかった」と認めた。かつて私に、経済リポートの最高の楽しみ方は浴槽で読むことだと語った男が、そう言ったのだ。
3月の証券会社ベアー・スターンズと、7月の政府系住宅金融大手、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の救済に続き、9月16日にFRBは米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に最大850億ドルを融資すると発表した。
自由市場絶対論の伝道者グリーンスパンも、ようやく最悪の悪夢に気がついただろう。彼は1933年に始まったニューディール政策以来、最大級の市場介入を導いた張本人なのだ。
もちろん、FRBだけの責任ではない。州の金融当局者は市場は万能ではないと考えていたが、「国レベルでは、リスクの多様化はいいことで、市場は大半のことを解決できるという考え方が広まっていた」と、クリーブランド州立大学(オハイオ州)の金融の専門家キャスリーン・エンゲルは言う。
アイオワ州のトム・ミラー司法長官は、通貨監督庁(OCC)は州との縄張り争いに必死で、銀行によるサブプライムローンの証券化にほとんど注意を払わなかったと語る。「規制に関して州の権限が強すぎると言い続け、銀行には『(州当局ほど)強硬には出るつもりはない』と言っていた」
これに対しOCCのロバート・ガーソン広報官は、「全国の銀行が(不動産を担保とする信用度の低い)略奪的貸付の問題をかかえているわけではないことは、ほぼすべての人が認めている」と弁明する。そうかもしれないが、実際にどの銀行も、略奪的貸付業者がつくりだした証券を大量に買い込んできた。
■証券細分化の落とし穴
とはいえ、これらの連邦機関には言い分もある。サブプライムローンの証券化ブームは、細分化されていた金融部門のかなり多くにまたがっていたため、後れを取らずに対応し、総合的に規制することは誰にもできなかった。
証券取引委員会(SEC)は「公募」証券を監督するが、サブプライムローンに基づく債務担保証券の大半は「私募」だから規制できないという主張もわかる。OCCが監督するのは銀行で、サブプライム問題の最大の犯人とされることの多い貸し手はノンバンク系だ。貯蓄機関監督庁(OTS)も貯蓄機関に対する権限しかない。
つまり、住宅ローンをめぐる新しい事態の全体を監督する権限と能力があったのは、FRBだけだったのだ。そして積極的に行動するバーナンキの登場まで、FRBは事実上、何もしなかった。
ウォール街の70階のオフィスにいるようなエリートにとって、住宅価格が上昇を続けるかぎり、誰もが勝つゲームだった。彼らは自分たちが火遊びをしていることを理解していなかったかのようだ。しかも証券を細分化することによって、リスクを誰も感じないほど分散していると思っていた。格付け会社も、信用度の低い債権という長い「しっぽ」をぶら下げていないかのように、優良の部分だけに「トリプルA」の評価をつけた。
しかしリスクは「しっぽ」に凝縮されているにすぎなかった。06年に住宅市場が下落しはじめると、「しっぽ」が証券全体の価値を引き下げた。金融機関も格付け会社も投資家もそろって判断を誤り、惨事を加速させたのだ。
とはいえ、誰よりも事態を把握するべき立場にあったのは、グリーンスパンだ。カヤホガ郡のロカキス出納官が嵐の始まりに気がついたのは00年のこと。郡内で抵当が流れる住宅ローンの割合が、1年で2倍に増えた。これはかなり早い段階で、融資慣行が無責任になりつつあり、詐欺的行為に近いことを示唆していた。
00年10月にロカキスはクリーブランド連邦準備銀行に助けを求めた。何度も訴えてようやく、連邦準備銀行は01年3月に「住宅市場の略奪的貸付」と称する会議を開いた。
「行動を起こしてほしいと頼んだ」と、ロカキスは言う。しかし何もなされなかった。「わかったのは、連邦準備銀行の食堂のランチがおいしいということだけ。彼らはわれわれを守るためにいるのではなく、銀行を守るためにいる」
その銀行が、公的資金という名の巨額の税金を欲しいままにしている。ミスター・グリーンスパン、きみは老後を楽めばいい。
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