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【経済コラム】金融市場の大崩壊がもたらす5つの恩恵−M・ルイス
9月18日(ブルームバーグ):どんな悪い事態のなかにも明るい一面が、どんなに素晴らしい展開にも何らかのマイナスがあるというのが人生の法則だ。米金融システムの大崩壊も例外ではない。金融界が絶望に見舞われるなかでも、見回せば多くの恩恵が見えてくる。
ニューヨーク・マンハッタンの真ん中の魅力的なオフィススペースがたっぷり空いたこともその1つだ。米政府が借金しながらも利息をもらえるようになったことも挙げられる(財務省短期証券の利回りが実質マイナスなのだから、政府は急いでもっともっと借金をするべきだ)。
モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックス・グループの最高経営責任者(CEO)が防戦に忙殺されている間に、私たちはのんびりと危機の恩恵に浴そうではないか。
恩恵その1:ウォール街の大手証券会社の中身が初めて見えた。リーマン・ブラザーズ・ホールディングスの破たんについて、私たちはその引き金が何だったのか、根本的原因が何なのかを知ることはないだろう(引き金については、どこかの政府系ファンドがリーマンに金を貸すのをやめたらしいという憶測はあるが)。しかし、ニューヨークの裁判所では今、資産と負債の山がじっくりと検証されるのを待っている。
資産にはもちろん、米サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン担保証券を筆頭に、リーマンの期待ほどの価値がなかったいろいろな代物が並んでいることだろう。想定元本にして7000億ドル(約73兆7000億円)超のデリバティブ(金融派生商品)を含む負債の方はさらに興味深い。その一部はリーマンが販売した同業他社のデフォルト(債務不履行)に備える債務保証契約だ。
当然の疑問
リーマンの清算価値は数千億ドルのマイナスということもあり得そうだ。その場合、当然のこととして浮上するのは、同じような商売をしていたモルガン・スタンレーとゴールドマン・サックス・グループの状況がどれだけましかという疑問だ。
恩恵その2:金融市場の明日のスターが誕生する。誰もがアラン・グリーンスパン前連邦準備制度理事会(FRB)議長を信じていた時代を覚えているだろうか。今年の大統領選挙の共和党候補ジョン・マケイン氏は2000 年の選挙の際、グリーンスパン氏が亡くなったら、はく製にして「飾り議長」を続けてもらうと語った。ところが、グリーンスパン氏が表舞台を去り回顧録を出版した途端に、同氏が築き上げた金融システムは崩壊した。グリーンスパン氏が残したのは大混乱ばかりではない。空虚感だ。われわれは皆、何も考えずに崇拝できる人間を当局の中に必要としている。
政府による民間企業救済ほど、そのようなヒーローを生み出すのに適した環境はない。62歳のポールソン米財務長官は恐らく歳を取り過ぎている。ブッシュ米大統領やゴールドマンとの関係もマイナスだ。しかし、47歳のガイトナー・ニューヨーク連銀総裁は、米国民が今後の金融システムを託す相手として理想的だ。
「こっちを救え!」
「こっちを救え。違う、そっちではなく、こっちだ!」と叫んでいるガイトナー総裁が本当によく分かってやっているのか私には分からないが、とにかく大変な局面で陣頭指揮を執っていることは確かだ。すべてが終わったときには誰よりも真実を知る人間になっているだろう。米国の金融システムがどうなるにしても、よりひどい状態にならなかったことを感謝する対象が必要だ。ガイトナー総裁のやっていることを誰も理解できないので、当然の成り行きとして同総裁が感謝されることになる。
恩恵その3:普通の米国人が金融についての教訓を学んだ。専門家に金を払って市場を出し抜こうとする私たちの傾向は、大きな問題だ。それがウォール街の商売の機会を支えてきた。今回の騒ぎのおかげで、大きな顔をして他人の預金についてアドバイスするウォール街の連中は、好意的に見ても「おバカさん」だということが分かった。
メリルリンチとモルガン・スタンレー、シティグループをはじめ各社はこぞって、優良顧客に入札方式証券(ARS)を現金と同じようなものと言って勧めていた。顧客はもう二度と、疑いもなくブローカーの言葉をうのみにすることはないだろう。顧客の多くは、金を取り返し次第、チャールズ・シュワブに口座を作ろうと決めているに違いない。メリルリンチを買うことにしたバンク・オブ・アメリカ(BOA)はすぐに、メリルのブローカー軍団と顧客の関係がかつてとは様変わりしていることに気付くだろう。
払うのは私じゃない
恩恵その4:新築の家が増えた。そのすべてに人が住んでいるわけではないのは残念だが、大きな問題ではない。何より素晴らしいのは、多分誰も住宅に金を払わなくて済むということだ。米政府は近いうちに、ウォール街が貸し込んだすべての不良住宅ローン債権を保証するところへ追い込まれると私はみている。
納税者が払うことになるのではないかという声が聞こえてきそうだが、それは余りに悲観的だ。確かに、将来のある時点で納税者の負担になるかもしれないが、米政府がお得意の手法で外国人から金を借り続けてくれれば、今ここにいる米国民は何も払わなくて済む。
恩恵その5:ウォール街の幹部に子育ての時間ができる。ここ何年も、ウォール街は余りにも好景気だったので、精力と野心のある人には私生活などなかった。彼らのサービスを必要とする市場が消えてしまった今、家に帰って、あたりを走り回っている子供のうちどの子が自分の子なのかを覚える暇もできる。
未来の金融界に君臨するのは
やがては、わが子を愛することを学び、子供も親を愛してくれるようになるかもしれない。そうすれば、子供たちは親から知識と経験を吸収し、いつの日かウォール街のトレーダーやバンカーになる可能性だってある。そして、高等な金融の世界に君臨しているであろう融資担当者の下で働きながら、親たちの時代の付けを払うための金を、ゆっくりと稼ぐのだ。(マイケル・ルイス)
(マイケル・ルイス氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコラムの内容は、同氏自身の見解です)
更新日時 : 2008/09/19 13:28 JST
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=90003001&sid=a.MEHTXNooS4&refer=commentary