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黒字倒産したアーバン社にいびつな財務が発覚 売上を凌駕する棚卸資産は危険信号だった
公開:2008年09月04日16時00分
事実上の経営破綻に追い込まれたアーバンコーポレーション。従業員、平均年収ともに右肩上がりだった同社に何が起こっていたのか。
著作・ビジネスリサーチ・ジャパン(ビジネスリサーチ・ジャパン)
■経営破綻したアーバンコーポレーション
これはある企業の年収と従業員数の数字だ。
06年…614万円(従業員261人 平均年齢33.42才) 07年…687万円(同293人 同33.6才) 08年…789万円(同342人 同34.7才)
どの企業かお分かりだろうか。答えは不動産会社のアーバンコーポレーション。同社は年々従業員を増やし、その平均年収も右肩上がりで伸ばしてきた。だが、去る8月13日、同社は民事再生法の適用を東京地裁に申請し受理されたと発表した。事実上の経営破綻。負債総額は2558億円だった。
それ以前の6月から7月にかけても、スルガコーポレーション(負債総額620億円)とゼファー(同949億円)が民事再生法の適用を受けており、8月末には創建ホームズ(同338億円)の経営破綻も明らかになった。4社とも不動産開発や住宅分譲を手がける企業。米国発のサブプライム問題が国内に波及、不動産不況の深刻化が倒産ラッシュを呼んでいる形だ。
ただし、4社の中でもアーバンコーポレーションの突然の倒産に驚いた投資家も少なくないはず。いわゆる「黒字倒産」。売上、利益とも順調に伸ばし、08年3月期は売上高2436億円、当期純利益311億円をマークしていたからだ。1株当たり配当は25円。社外取締役1名を含む9人の取締役には総額6億5300万円の役員報酬も支払われていた。1人当たり平均7682万円(社外取締役は0.5人分として計算)だった。
「継続企業の前提」に対する重要な疑義、いわゆる、1年以内に経営破綻するリスクを抱えている、との監査法人による指摘もなされていなかった。
投資先を選定するとき、対象企業の決算状況を確認しない人はいないだろう。その決算書から何も読み取れないとあっては大問題。下記のアーバンコーポレーションの有価証券報告書の本文1ページ目を、何も説明せずに税理士など何人かの専門家に見てもらった。
アーバンコーポレーションの有価証券報告書
[引用に際し、割愛いたしました]
「業種は何?」 上記の有価証券報告書を見せて、皆真っ先に質問してきたのはこのこと。そこで、「不動産・経営破綻」を明らかすと、「そういうことね」と納得顔。それでは専門家の解説をまとめてみよう。投資に役立つ、決算書の簡単な読み方である。
下記の表はアーバンコーポレーションの主要な経営指標をまとめたものだ。ほとんどの科目は、前頁の有価証券報告書で確認できるものである。
06/3 07/3 08/3
売上高 643 1805 2436
営業利益 120 612 696
経常利益 106 563 616
当期純利益 78 300 311
有利子負債 896 2944 4078
棚卸資産 737 2930 4377
総資産 2029 4433 6025
実は「業種は何?」と質問してきたのは、報告書の「総資産額」の大幅な伸びに着目したことにほかならない。棚卸資産、つまりは在庫の拡大が、総資産の増加につながっているのではないかとめぼしをつけ、その主たる在庫の種類と質を探ることで、倒産に至った要因を読み取ろうとしたわけだ。
自動車や電機などの製造業にしても、部品や製品在庫が増えることで棚卸資産は膨れ上がる。しかし、多くは自社の体力の範囲内にとどめたり、減産による調整も可能だ。
それに対して、不動産の場合は、売れるまで待つしかない。あるいは、在庫不動産を大幅に値下げして処理するかだ。とくに新興企業の場合は、自社体力の何倍、何十倍の仕入を、それも借金による資金調達で手がけることが一般的なため、販売の停滞による在庫の積み上がりは致命傷になりかねないという宿命を抱える。専門家は、決算書の数字からそう読んだわけだ。
専門家の推察は的中――。アドバイスに従って、貸借対照表(B/S)から棚卸資産と有利子負債の数字も抜き出し、それを加えて上記の表を作成しているが、売上高をはるかに上回っていることが明白。有利子負債とは、返済を要する借金。その借金で不動産を新たに仕込んだものの、それがそっくり在庫になっていると見ていいだろう。棚卸資産と有利子負債は、ほぼ同一の線を描いている。
不動産業者の実態を丸裸に
では同業他社である「ゼファー」、「スルガコーポレーション」などはどうなっているのだろうか。見ていこう。
下の表はキャッシュフロー計算書(CF)をまとめたもので、こちらも1頁目の有価証券報告書にすべて記載されている。
[引用に際し、割愛いたしました]
CFは現金、あるいはそれらに近いもの(現金同等物)だけにスポットを当てたもので、会社の1年間のキャッシュの流れを見るもの。「営業活動によるCF」「投資活動によるCF」「財務活動によるCF」の3つの部門にわかれており、それぞれで入金が出金を上回れば「○」、出金が入金より多ければ「△」と表示してある。期末現金は「現金及び現金同等物の期末残高」である。
「○」と「△」では、どちらがいいのか――。
借金による入金が返済のための出金を上回れば、財務活動によるCFが「○」となり、成長をめざして設備投資を積極的に実行すれば、投資活動によるCFが「△」になるケースが多いように、「○」と「△」ではどちらがいいとは一概に判断できない。ただし、会社本来の営業活動を通じどれくらいの資金を獲得したかを示す、営業活動によるCFは「○」が望ましいことはいうまでもない。営業活動によるCFが「△」、つまりはマイナスということは、キャッシュを稼ぎ出すパワーが不足していることを意味する。
アーバンコーポレーションは、営業活動によるCFが3期連続(実際は5期連続)で「△」、逆に財務活動によるCFは「○」を示している。損益計算書(P/L)で示される利益とは裏腹に営業活動によるキャッシュの獲得が少なく、財務からのキャッシュ(借金ないしは増資)を利用して、投資に回していたことが見て取れるといっていいだろう。ゼファーやスルガコーポレーション、創建ホームズもほぼ同じ構図である。
期末現金残高の減少も共通点。アーバンコーポレーションの08年3月期末419億円は前年同期比180億円のマイナス。同じように、ゼファーは138億円、スルガコーポレーションにいたっては300億円を超えるマイナスだった。
消えたメガバンクの名前
スルガコーポレーションの場合、07年度の1年間に実際に返済した借入金はおよそ800億円。売上高1258億円に対してのこの金額だ。不動産の倒産ラッシュは、新規借り入れや借り換えに応じないどころか、資金を引き上げている銀行が引き金をひいているとの指摘にもうなずけよう。そういえば、アーバンコーポレーションの主要借入先からは、みずほ銀行や三菱東京UF銀行といったメガバンクの名前が消えていた。
参考までに、期末現金残高の変動で目についた主要会社を列挙しておこう。直近の年間決算で前期比100億円を超える現金残高の減少は、三井不動産、住友不動産、東急不動産、日本綜合地所、ゴールドクレスト、明和地所、エフ・ジェー・ネクストなど。直近の決算が最終赤字のアゼル、ダイア建設、ダイナシティ、シーズクリエイトも50億円から80億円近い減額だった。逆に、期末現金残高を100億円以上増やしていたのは三菱地所とNTT都市開発である。
http://moneyzine.jp/article/detail/89048