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(回答先: 動き出した原油とドル相場は新たな局面へ! 投稿者 Ddog 日時 2008 年 8 月 13 日 02:01:33)
原油は安い方が本当に望ましいのか?
ある程度の原油高は、経済活性化のエンジンとなる
2008年8月4日 月曜日
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080801/166937/
(BusinessWeek誌、ワシントン支局上級記者)
2008年8月4日発行号カバーストーリー 「The Real Question: Should Oil Be Cheap?」
米ルイジアナ州アミテで操業する鋳造・機械加工メーカーのアミテ・ファンドリー・アンド・マシンは、米製造業の屋台骨を実直に支えている企業の1つだ。同社の敷地では、廃棄された大量のくず鉄を1500度の溶鉱炉で溶かし、トラックの部品や油田掘削装置、その他重機部品へと再生させている。ニューヨークの世界貿易センター(WTC)に使用されていた30トンの金属を米海軍のドック型揚陸艦「ニューヨーク」の艦首としてよみがえらせたこともあった。
だが、業績好調だったアミテ・ファンドリーも、製造業が生産拠点を海外に移転するのに伴って、雲行きが怪しくなった。同社の不振と歩調を合わせるかのように、ニューオーリンズの北約100キロに位置するアミテの町は時代に取り残されたかのごとく、古びたメインストリートや、薄汚れた白い羽目板の壁に覆われた教会ばかりが目立つ、寂れた町になってしまった。
「原油高は我々にとってメリットの方が多い」
しかし、その衰退に歯止めがかかった。2007年、アミテ・ファンドリーの受注はプラス25%、さらに今年は現時点で既にプラス30%と大幅に増加。受注増を受け、同社は新たに数十人の従業員を雇った。
なぜアミテは復活を遂げることができたのか。その答えは原油高だ。原油価格が1バレル=120ドルを大きく上回る状況で、新たな供給源や代替燃料、エネルギー効率化に関連したビジネスが活況を呈している。
その良い例が、カナダで産出されるオイルサンド(油砂)である。オイルサンドブームで掘削用トラックの需要が発生し、米建設機械最大手キャタピラー(CAT)の積載量380トンを誇る鉱業用トラックの販売台数が大幅に増加。そしてキャタピラーは、トラック生産1台当たりにアミテの鋳鋼材を50トン近く使用しているのだ。
エネルギーコストや原料コストの上昇に伴い、鉄鋼製品の生産・出荷コストも上昇しているのは確かだと、アミテの親会社である米アメリキャスト・テクノロジーズのロイ・ルークス営業部長は語る。だが「原油高は我々にとってメリットの方が多い」。
市場原理が働かずに原油安が続いたため、今は過去のツケを支払っている
エネルギーコストの高騰が米国の人々に多くの苦痛をもたらしているのは明らかだ。特に住宅資産価値の下落や食料品価格の上昇が日々の暮らしに重くのしかかる現状にあっては、なおさら痛みは大きい。だが、いずれの苦痛もすぐに解消することはないだろう。
「今後は光熱費についても考えなければならない」と、米国エネルギー効率経済協議会(ACEEE)のR・ニール・エリオット氏は警告する。この秋から冬にかけて、暖房用灯油や天然ガス、さらには電気代まで大幅な値上げが予想されるというのだ。
しかし、アミテ・ファンドリーの復活は単なる一例ではなく、原油高を奇貨として多くの企業が経済的メリットを享受している。エネルギー価格の上昇には多くのプラス効果がある。石油価格が上昇すると人々は消費を控え、代替品を探し、新たな供給源を開拓しようとする。こうした効果はまさに経済原則そのものだ。
現在、原油高の打撃が大きく感じられるのは、過去20年にわたって原油安が続いていたからだと多くのエコノミストは指摘する。これほど長期にわたって安値が続いた一因として、環境汚染などの“外部不経済”のコストが原油価格に十分反映されていなかったことが挙げられる。つまり、エネルギーの効率的利用を促す市場原理が働いていなかったのである。
仮にそうした外部不経済のコストを含んだうえでの価格設定がなされていれば、米国はもっとうまく今日の原油価格高騰に対処できただろうし、将来的な世界の原油生産量の減少にも備えることができただろう。
そうした背景もあり、左派・右派の政治思想に関係なく、税金を使って原油価格を下支えする施策への関心が高まっている。一定の価格水準、仮にそれを90ドルとして、その価格を上回っていれば税金はかからないが、世界的な市場価格が90ドルを下回ると税金が価格に上乗せされ、エネルギーの利用者が差額を負担する仕組みだ。
高いエネルギーコストは強力な薬だ。服用時は苦くてつらいが、長期的に見れば、体内の様々な病気を治していく。エネルギーコストが高ければ、企業も消費者も自動車の利用を減らさざるを得ないし、SUV(多目的スポーツ車)も手放さなければならない。もっと省エネ効果の高い暖房装置に交換しようという意識も働く。米メーン州バンゴアにある東メーン医療センターはまさにそうした省エネの取り組みを行った実例だ。同医療センターは2年前、設備を一新して年間100万ドルの経費節減を実現した。
エネルギーコストの高騰により、米国はスプロール開発で交通渋滞が郊外に広がるという悪しき伝統からようやく脱却し、自動車に依存しない“コンパクトシティ”へと移行し始めた。例えばユタ州では、州政府主導の自転車通勤促進プログラムを実施している。
「全米で最も保守思想の強いユタ州の共和党州知事が、自転車通勤を好ましい交通手段として奨励しているのだから、市民がいかに価格シグナルに敏感になっているかが分かる」と、米ユタ大学のキース・バーソロミュー教授(都市計画論)は指摘する。
自動車通勤から自転車通勤に変え、16キロ減量できたのもガソリン高のおかげ
こうした変化は人命を救うことにもつながっている。自動車の利用が減ることで、交通事故の死者が減少し、健康増進にも寄与している。米ワシントン大学(セントルイス)の研究調査によれば、1980年代以降に肥満人口が増加した原因の8%は安いガソリン価格であり、人々が徒歩や自転車の利用をしなくなったり、レストランでの外食が増えたりしたためだという。
シリコンバレーで働くエンジニアのアンディ・キングさんは、通勤手段をシボレーの大型オフロード車「サバーバン」から自転車に切り替えたことで、2月以降約16キロの減量に成功したという。「自転車通勤は、身体的にも精神的にもいい」とキングさんは言う。
さらに、エネルギー高は技術革新という花に水を与え、代替エネルギーへの開発投資が実を結び、燃料技術の開拓に活力を与える。米軍は研究資金を拠出し、植物からジェット燃料を抽出する技術の研究を行っている。トヨタ自動車(TM)や米ゼネラル・モーターズ(GM)は、電気のみで約64キロ走行できるプラグインハイブリッド車(プラグインHV)のテスト走行を重ねている。
砂漠地帯に設置した無数の鏡で太陽光を集め、蒸気を発生させて発電する太陽熱発電の研究を行っている企業もある。また、遠方から家庭や企業の消費電力を抑制する新たなシステムや、都市部の住宅を断熱する取り組みも行われており、省エネ効果とともに雇用創出効果も期待できる。
米国では、住宅の暖房や工場の稼働、乗用車・トラック・飛行機の燃料に使われる原油量は1日当たり2000万バレルを超えている。この消費量を、省エネ促進策を講じることで、「今後10年で1日当たり400万から500万バレル削減することも可能だ」と、米スタンフォード大学教授で、同大学付属のエネルギー問題協議機関エネルギー・モデリング・フォーラム(EMF)の事務局長を務めるヒラード・G・ハンティントン氏は語る。
富が産油国に流出せず、国内にとどまるというメリット
そして石油消費の削減によるメリットは大きい。大気汚染は軽減されるし、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の排出量も削減できる。世界の原油流通を確保するため軍事力に頼る必要性も減少する。また、中東やロシア、ベネズエラといった原油産出国へのドル流出を抑えることができる。必ずしも米国に友好的とは言えない原油供給国に大量のドルを流出させず、国内にドルをとどめておくことができるのだ。
その効果は、原油価格を下支えする税制措置を講じることで一層高まり、原油需要を抑制する。世界の市場価格と下限価格との差額は税収として米国内にとどまり、国内投資の拡大に用いることができる。
「ベネズエラのチャベス大統領やロシアのプーチン首相、サウジアラビアに何十億ドルものカネが流れるのを阻止し、米国から海外に輸出できる製品やサービスの開発に結びつくならば、その方が我々にとって好ましい。この点に異論を挟む人はいないだろう」と、米ミシガン大学のアンドリュー・J・ホフマン教授(持続可能企業論)は語る。
かつても米国はこうした局面を経験している。米国はエネルギーコストにあきれるほど無頓着だったが、1970年代の石油ショックで大きく変わった。「何もかもが安価なエネルギー資源に依存していた事実に、国民は全く気づいていなかった」と、コロンビア大学の教授で『Crabgrass Frontier: The Suburbanization of the United States(クラブグラス・フロンティア:アメリカの郊外化)』の著者でもあるケネス・T・ジャクソン氏は語る。
“エネルギー資源は無限”という神話は、原油価格の高騰で崩壊した。1980年に原油価格は1バレル=103ドル(現在のドルの価値で換算)に跳ね上がったが、この価格高騰で米国は変わった。小型車を購入し、一段と厳しい燃費基準を受け入れ、産業界はエネルギー効率化を推し進め、油田の探鉱・開発に次々と乗り出すなどの対策を講じた。米国民は、国内総生産(GDP)1ドル当たりのエネルギー消費量を石油危機以前の半分に抑える術を学び、大きな恩恵を得ることができた。
「1980年代にエネルギー依存低下に向けて実施した様々な取り組みによって、今日のエネルギー危機に耐えるための力は強まった」と、タフツ大学の経済学者、ギルバート・E・メトカーフ氏は語る。
しかし、エネルギー効率化を目指す意欲は次第に薄れていった。1980年代の5年間で原油の需要が大きく落ち込んだため、世界中で原油がだぶついてしまったのである。サウジアラビアは原油生産量を1980年の日量990万バレルから1985年には340万バレルに縮小、それでも価格下落に歯止めがかからず、1986年には1バレル=11ドル(現在の22ドルに相当)を下回った。
その後20年間、原油価格はかなり低い水準で推移し、当然予測される事態が相次いだ。米国ではSUVが飛ぶように売れ、代替燃料、油田探鉱・開発、省エネ対策への投資は次第に影を潜めていった。米国立再生可能エネルギー研究所も水中の藻からバイオ燃料を抽出する研究事業を中止した。
「米国では、原油価格が高騰すると人々は躍起になって対策を講じるが、いったん価格が下がると“のど元過ぎれば熱さ忘れる”といった状態になってしまう」と、フロリダ州メルボルンのバイオベンチャー企業、ペトロアルジーのフレッド・テナント事業開発担当副社長は語る。
今回の原油高では“見えざる手”が強く働き、ガソリン消費量が減少
原油価格は再び暴騰し、“見えざる手”が変化を強く促している。米国民は自動車の運転を控え、7月初旬のガソリンの消費量は前年同期比で5.2%下落した。米フォード・モーター(F)の長年売り上げトップのピックアップトラック「Fシリーズ」の国内販売台数は今年22%減少。一方、リッター当たりの走行距離が約14キロの低燃費を誇るホンダ「フィット」の販売台数は69%増加した。
ガソリン価格の高騰により、ミシガン州アナーバーで自動車修理工場を営むディクラン・カーニアンさんはある転機を迎えることになった。愛車だった大型ピックアップトラック、シボレー「シルバラード」は後部に追加座席があり、「『レイジーボーイ』のソファのようなくつろげるシートで、ハイパワーも実に気分爽快だった」。だがそんな自慢の愛車が昨年、事故で廃車になった時、ショックを受けるとともに一種の安堵感も覚えた。
事故をきっかけにカーニアンさんは、以前から目をつけていた、燃費がリッター当たり約10キロのホンダの中型SUV「エレメント」にさっそく買い替えた。「シルバラードの大型エンジンが大好きだったが、そんな想いもいつかは断ち切る必要があったんだ」。
カーニアンさんは自動車での外出も控え、食料品を買いに行く際は、スーパーマーケットに使用済みのペットボトルやビンを持参してリサイクルに出し、無駄に往復しないように心がける。車のアクセルも強く踏まないようにしている。「僕の運転の仕方を見て友達がしみじみと『ディック、君の運転はまるで老婦人みたいだ』と言うからこう答えた。『足先の力を少し抜くだけで20%も燃費を節約できるんだ。知らなかった?』ってね」。カーニアンさんの現在のガソリン代は月200ドル、シルバラードに乗っていた頃の3分の1になっている。
長期的な先行きは不透明
カーニアンさんのように燃費の良い車に乗り換えるドライバーは数百万人いる。さらに、電子機器の輸送を航空便から船便に切り替えたり、国際貨物大手の米UPSのように航空機の待機時間を減らす新しい運航管理システムを導入したり、米ソフトウエア大手アドビシステムズ(ADBE)のように必要ない駐車時のエアコンを停止したりなど、無数の小さな改善の取り組みが行われている。
そこに世界的な需要の減少と、カナダのタールサンド(高粘度の油分を含む砂岩)での石油生産や、OPEC(石油輸出国機構)加盟国などの増産による供給増加という要因が加わる。
その結果は誰の目にも明らかで、ウォール街も分かっている。石油の需要が減少し、供給は増加するとの見方から、原油価格は7月11日につけた最高値の147.27ドルから20ドル以上下がった。
「原油価格がこのまま高止まりするとは誰も考えていないだろう」と、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者A・デニー・エラーマン氏は言う。
1980年代後半と1990年代に原油価格が下がり、原油高の持つプラスの側面が失われたのと同様に、価格が下がり得る兆しが見えただけで、エネルギー効率を高めようとする市場圧力が低下している。行動を左右するのは実際の価格ではなく、長期的な価格水準の見通しなのだ。
そう考えれば、数年前にガソリン価格が高騰したにもかかわらず、米国で消費量が減らなかったのも納得できる。米ジョージア州立大学経済予測センターのラジーブ・ダーワン所長は、「ハリケーン『カトリーナ』に襲われた後、ガソリン価格は1ガロン(約3.8リットル)=3ドル近くまで上がったが、その後落ち着いた」と話す。価格が4ドルの壁を越え、不安を打ち消す要素が見当たらない状況になって、ようやく人々は目を覚ましたのだ。
せっかく危機感が生まれたが、価格の先行きがはっきりしないため、その危機感も消えてしまいそうだ。原油価格は1バレル=200ドルに達するという専門家もいれば、75ドル以下になるという予想もある。結果として、1バレル=100ドルで経済的価値を持つような技術には投資されなくなっていると、ベンチャー投資家のビノード・コスラ氏は指摘する。米高性能サーバー大手サン・マイクロシステムズ(JAVA)の共同設立者で、現在は代替エネルギー関連のベンチャー企業を支援するコスラ氏は、「高い原油価格と低調な投資という“悪いとこ取り”の状況になりつつある」と言う。
それゆえ、コスラ氏のほか、多くのエコノミストやエネルギー問題の専門家が、課税による原油の下限価格の設定に賛成している。原油価格が比較的高い水準を維持することが明確になれば、将来それより大幅に価格が上がるのを避けるため、代替エネルギー、エネルギー効率向上、新たな供給源の開発に向けた十分な投資を呼び込めるとコスラ氏は主張する。
課税策を導入しても新たな痛みが生じることにはならない。課税が始まるのは、現在の価格水準を緩和し、消費者や企業に対する十分な恩恵をもたらした後になるからだ。本来なら何十年も前に課税して、米国民のエネルギー倹約意識を高めておけばよかったのだが、それは政治的にほぼ実現不可能だった。外的要因によって意識が高まっている今、税金による下限価格の設定は次善の策として適切だとエコノミストは言う。
もちろん、事はそれほど単純ではない。エネルギー価格を上昇させる政策によって損害を受ける業界もある。航空会社、運送会社、製造業者、公益事業など、エネルギー消費を簡単に減らせない業種すべてだ。また、化石燃料のうち石油だけに課税されることになれば、天然ガスや石炭の需要が増える歪んだ状態になる可能性もある。
そのため、新たな課税はもっと広範なエネルギー政策の枠組みの中で検討すべきだとするエコノミストもいる。地球温暖化への懸念が広がっていることを考えれば、二酸化炭素の排出に対して課税するのが最も合理的だ。
米政府が新たな税収を浪費してしまう危険もある。エコノミストの間でも、石油の代替エネルギーに投資すべきという意見もあれば、所得税の減税などの形で国民に還元すべきという意見もある。消費を抑制したいもの(石油)には税金をかけて価格をつり上げ、拡大したいもの(成長や生産性)には資金助成してコストを下げるためにその税収を使う。この考え方は経済学の基本だ。議論になるのは、このような税金を転嫁する政策のプラス効果が、政府の介入によって技術革新が阻害されるマイナス効果よりも大きいかどうかだ。多くのエコノミストは、悪影響は比較的少ないだろうと考えている。
「全く悪影響を伴わないわけではない。だが、それに見合う価値があるのは明らかだ」と、米スタンフォード大学の経済学者ローレンス・H・グルダー氏は言う。
自動車の交通量が減り、電車通勤をする人が増える
カナダのブリティッシュコロンビア州は、課税策が政治的に実現可能だということも示している。同州では7月1日、二酸化炭素排出のコストとして、ガソリンに対して少額の税金を加算した。この税収は、所得税や法人税の減税という形で還元される。導入時の打撃を和らげるため、州政府は6月末に100ドルの小切手を全住民に送った。エネルギー価格の高騰に苦しむ低所得者層を支援するためだ。
エネルギーに課税して、歳入増加分を別の形で市民に還元するというのは「まさに経済学者の夢だ」と、米シンクタンク、未来資源研究所(RFF、ワシントン)のイアン・パリー上級研究員は話す。
米政府がエネルギー価格を高値で維持するという難しい政策を実現させたら、どんな未来がやってくるのか。例として、ケリー・ホックゲサン弁護士(32歳)と一緒にジョージア州アトランタのアトランタ都市圏高速交通局(MARTA)の公共交通機関に乗ってみよう。
愛車の日産自動車(NSANY)のSUV「エクステラ」で通勤する費用が月460ドルに膨らんだことから、ホックゲサン弁護士は6月下旬から電車通勤に切り替えた。同弁護士は、「それまで電車通勤はやたらと時間がかかり、辛いのではないかと思っていた」と話すが、実際は違った。約40キロの通勤に、車では1時間20分かかっていたが、電車なら45分で着く。渋滞を避けて走っていた時間に、読書もできるようになった。「自分の時間を新たに持てるようになった」。
ホックゲサン弁護士のような新規利用者のおかげで、6月と7月のMARTA利用者数は昨年同期比で13%も増加した。MARTAのビバリー・スコットCEO(最高経営責任者)は、「ガソリン代が上がって、大喜びしているのは君だけだと、私の夫にからかわれる」と話す。
ジョージア州運輸省(GDOT)の技官、マーク・デミドビッチ氏によると、アトランタ周辺のラッシュ時の交通量は15%近く減っている。「自動車の台数に換算すると、1日1万台から1万2000台減っていることになる」(同氏)。
「車の利用に主眼を置いた郊外の都市計画を進める時代ではなくなったのではないか」
変化はすぐに起こるわけではない。米ノースカロライナ大学グリーンズボロ校のチャールズ・J・コートマンシュ教授(経済学)は、ガソリン代が高くなったからといって、すぐに町の中心部や電車の駅の近くに引っ越す人などほとんどいないと言う。
だが、ほかの理由で引っ越すことになった時に、転居先の選び方が変わってくる。コートマンシュ教授自身がそうだった。教授は5月に、職場まで車で30分かかるミズーリ州セントルイスの郊外から、自転車で10分で通勤できるグリーンズボロの中心部に引っ越した。
メリーランド州のモンゴメリー郡都市計画委員会のロイス・ハンソン委員長は、「車の利用に主眼を置いた郊外の都市計画を進める時代ではなくなったのではないか」と言う。
エネルギー高が痛みを伴うものであることは誰もがよく分かっている。だが、価格の高騰は利益ももたらし得るのだ。米ニューヨーク・タイムズ紙によれば、10代の若者が車を乗り回す行為は全国的に減っている。米家電大手ワールプール(WHR)は、水とエネルギーの両方を節約できる資源利用効率の高い洗濯機の売り上げが伸びていると言う。
米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)では、再び藻類を使ったバイオ燃料の研究が始まった。今回は米政府ではなく、米シェブロン(CVX)と米コノコフィリップス(COP)が研究資金を提供している。両社ともバイオ燃料を精製所で利用できる。ワシントンでは、“廃車促進”税額控除でSUVを減らし、その鉄廃材を燃費の良い車に作り替えるなどの賢明な政策案も出始めている。
米メーン州エネルギー安全保障対策局のジョン・ケリー局長は、同州で「エネルギー効率の向上や代替エネルギーに投資する人が急に増え始めた」と言う。「エネルギーの価格は、経済を動かすエンジンになると考えている」。
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米国立研究機関は、強力で現実的な施策が石油対外依存からの脱却に有効と指摘
米国が原油輸入を完全に打ち切るのは無理かもしれない。しかし、米エネルギー省傘下の米オークリッジ国立研究所(ORNL)は、「石油対外依存脱却のコストを大きく抑えることで、米国の経済・軍事・外交政策に影響が生じないようにできる可能性もある」とする調査報告を発表した。
報告書の著者は、寡占的な市場支配力を持つ海外産油国から原油を輸入することで、米国はGDP(国内総生産)の約5%に相当する経済的負担を強いられていると論じた。自動車の燃費効率基準の引き上げ、バイオ燃料の利用増加、国内油田開発の推進、排出ガスへの課税といった「強力だが現実的な」対策によって、米国はこの経済的負担を2030年までに1%未満に低下させることも可能だとしている。