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「中国が笑う日本の資本主義」を読む: 将来に対する唯ぼんやりとした不安A
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投稿者 Ddog 日時 2008 年 8 月 21 日 00:56:52: ZR5JcjFY1l.PQ
 


「中国が笑う日本の資本主義」跡田直澄 著 ヴィレッジブックス新書

1990年バブル経済の崩壊の始まりに小室直樹先生の名著「社会主義大国日本の崩壊」は今日の日本を既に読みきっていた。日本の官僚は大日本帝国陸海軍のように組織が物化(フェアザファルンク)されたために、増殖し組織が動脈硬化を起こし、やがて組織は枯死することを指摘していた。帝国陸海軍人は去っても官僚は残った。現代(1990年)の日本はかくも多くの規制が存在するがゆえに、日本はまさに社会主義的である。と、小室先生は喝破していた。

「中国が笑う日本の資本主義」においても、日本が自由な資本主義国家ではなく、官僚主導の規制国家であることを強く憂い、その対処方を本書で論じています。中国も社会主義を基点とする官僚主導規制国家である点は似ているが、日本をじっと観察している。今の中国は自国の20年後を今の日本を反面教師とした国づくりをしているのではないかと著者は観察しています。『中国が笑う日本の資本主義』という書名は、「社会主義的な資本主義」が一番成功していた日本という逆説的な意味で使われています。

第一章:年収600万円の人が1億円の借金
60兆円の国家予算で1000兆円の借金のことを個人に例え論じています。私(Ddog)は国家財政赤字を個人の借金に例えるこの論理は、例えとして使えないと思っています。なぜなら、その個人の600万円は自分で印刷して自分で貰っていることと、けして死なない個人であることなど、財政赤字解消派の論理の矛盾を感じています。

とはいえ、日本の国の借金総額1,100兆円という危機的な財政状況具体的な郵政民営化や年金問題、また夕張市や大阪府を始めとする地方自治体の財政立て直しなど、放置しておくわけにはいけません。本書(中国が笑う日本の資本主義)では個人の会計、つまり家計簿の感覚で国の財政状態を比喩的に例えることにより、実感としては分かりやすく例えてあります。家庭の会計に例えると年収が600万円であればローンでマンションを購入するとしても5倍の3,000万円くらいしか貸して貰えないところを、この家庭の夫婦は見栄っ張りで8倍の5,000万円ほどのマンションを購入し、さらに浪費癖があり、車や教育費などで、彼方此方に借金をこさえ1億円ほどの借金を持ったといわれれば。
個人と国では根本的考え方が違うが、実感はわきます。ちょいと憂鬱な気分になる。

本書では、1500兆円ある個人金融資産より1100兆円借金を抱えているので、差し引き400兆円、30兆円づつ借金が増えるとあと10年ちょいしか持たないとの説だ。
私(Ddog)はこの財政改善派のレトリックには乗らない。なぜなら1500兆円はあくまでも個人の金融資産であって、法人が保有する莫大な資産はまるで勘定に入っていない。なによりも政府資産(埋蔵金)が勘定に入っていない。さらに日本近海に眠っているメタンハイドレードを国富として勘定した場合、財政改善派のレトリックは完全に崩れる。
なおP36における跡田博士の個人国債の認識は完全に誤認しています。もう一度証券会社の店頭でアルバイトのお姉さんから説明を聞いたほうがいいでしょう。(跡田博士に敬意を表し誤認部分の本文は貼り付けません。)

第二章:借金1100兆の内訳
一般会計と特別会計の巧妙なからくりを暴露、夕張方式の短期借り入れ繰り返し地方交付税特別会計を暴露。国債の60年ルール(国債は60年で償還しなさいというルール)のおかげで、毎年60分の1(1.7%)づつ確実に返している。これだけは守られている。800兆円×1.7%=14兆円 毎年35兆円だと思っていた赤字は21兆円である。

第三章:天下りは悪では
天下りは組織を活性化するにもけして悪くはないが、「特権」を与えられ天下っていくから弊害がでる。天下りを認めても公務員の特権は剥奪するべきであろうとの結論。

第四章:こんなにひどい日本の食料政策 P101
{{{引用----------------------------------------------------------------------------
日本が「食糧自給率40%」という危ない国になってしまったのは、食管法によって米だけをあまりに過保護に育てた政府の失策によるものです。一方では高度成長により、農地が宅地化されてしまった。農水省は何とかしなければならないのに、相変わらず自らの権益を守ることばかりにエネルギーを注いでいます。巨額の予算を投じて農道を作ったり、農道空港という名の不可思議な空港を作ったり、下水道にも口を出して国土交通省と張り合っています。その管轄下にあるJAは、もはや農家に対する単なる金貸しになってしまいました。ここまで来たら、日本農業の復活は政府に任せてはおけません。農家の若き後継者の中には、「いまこそチャンスだ-」と感じ、仲問と農業法人を組織、JAに代わる業務を自らスタートさせた者たちもいます。ネクタイを締めた大卒農業法人経営者。彼らが新しい日本の農業を引っ張れば、食糧自給率40%の日本も救われるかもしれません。
政府は、虚心坦懐になって彼らに力を貸すべきでしょう。
}--------------------------------------------------------------------------------------}}
第五章:首都東京のムダはこんなにある
思考停止他力本願の地方自治体批判はいいが、跡田博士が提唱する、東京大学を北海道に移転させろだの各省庁を地方移転させろだの四国読売ジャイアンツの与太話はあきれた。大阪大学の教授というより、新天地の串揚げ屋で酔っ払っているオヤジの方がもう少し気が利いた話をするだろう。くだらない1章でした。飛ばして読みましょう!

第六章:巨額の資産をためこむ日本政府 P140
{{{引用---------------------------------------------------------------------------------
多額の借金を抱えている政府は、売れるものはすぐにでも売ってもっと身軽になるべきで
す。・・(略)・・約90ある国立大学も民問に売却。広大なキャンパスは破格値で売っても10兆円は下らないはずです。首都機能の移転にともなって、霞が関にある6つの省庁はビルごと売ってしまう。となれば公務員宿舎も不要になるわけですから、政府の台所事情も好転するでしょう。不要なものはまだまだあります。羽田空港も地方空港も売れるし、有料道路も売却できる。首都高速もリニューアルさえすれば買い手は付くはずです。リニューアルをPFIでするのも一案。そして霞が関に埋まっている埋蔵金。10兆とも40兆円とも言われる埋蔵金も、政府の借金返済のために使うべきではないでしょうか。
------------------------------------------------------------------------------------}}}
5章に続き与太話だが、政府資産の売却で埋蔵金をひねり出す案は賛成だ。

第七章:社会問題保障はこうすれば解決するP157
{{{引用---------------------------------------------------------------------------------
国民皆保険制度がスタートしたのは1961年。当時は「お上の言うことには従う」という
戦前・戦中の教育を受けた人が多かったため、なんとか船出をすることができました。
しかし、政府が主導すると船はなかなか順風満帆とはいかない。途中、航路変更を繰り返しましたが、結果的には全員加入どころか、医療保険制度で抜け落ちた人がおよそ200万人。
年金制度については、1000万人もの人が抜け落ちていると言われていて、どちらも大赤字
です。年金制度に関しては、政府は基礎年金だけを担当し、それ以外は民問に委ねる形で「個人年金」を国民白ら実行してもらうしかない。医療費に関しては、包括医療の実施によって医療も処方される薬の量も減らし、現場の医師をしっかりと確保すべく医療現場関連のルール作りが急がれます。
-------------------------------------------------------------------------------------}}}

第八章:日本の借金を半分にする
{{{引用--------------------------------------------------------------------------------
インフレになると物価の上昇にともなって貨幣の価値が下落する。借金も、実質的に目減りすることになります。計算上は、5%のインフレになると1100兆円の借金が1年で950
兆円になる。その状態が10年も続けば630兆円まで目減り。20年も続けば、日本政府の借金は半分以下になります。
そこで、財政赤字をなんとかするために、ゆるやかなインフレを引き起こす。これは赤字財政に苦しんだ多くの国々が実行してきた財政政策の一つでもあります。
理想的なのは、みんなが一生懸命働いた結果として給料が上がり、モノをたくさん買うようになる。その結果マーケットが品薄状態となってモノの値段が上がるという形のインフレです。しかし、日銀主導で市中の貨幣流通量を増やすという方法も必要です。基本は国債の買上げという買いオペ政策でしょうが、量的緩和政策も否定すべきではありません。日銀には積極的に政策を発動してもらいたいものです。
--------------------------------------------------------------------------------------}}}
少し暴論が多い本でしたが、日本をなんとか建て直そうと、無い知恵を絞ったことについては評価したい本だと思います。しかし、本書を読むと、こんなことしか日本には残された対処療法しかないと、ますます「将来に対する唯ぼんやりとした不安」は増すばかりです。

【Ddogのプログレッシブな日々】
http://blogs.yahoo.co.jp/ddogs38/15430072.html
 

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