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「経済コラムマガジン08/8/11(539号)
・投資ファンド資本主義
・V字型回復の可能性
サブプライムローン問題に端を発する米国の金融不安と経済の不調はなかなか底を見せない。本誌がずっと主張しているように、サブプライムローンだけがバブルだった訳ではないのである。サブプライム問題は金融バブルの最後の方に登場し(一番最後は原油などの商品市場であり、現在バブル崩壊中)、派手にバブル崩壊したため目立つだけである。
住宅融資としては良質のプライムローンを主に扱う住宅公社ファニーメイとフレディマックでさえも多額の貸倒損失を計上し、公的資金の投入が必要な事態に追込まれている。ところで信用度でプライムとサブプライムの中間にオルトAと言われるローンがある。このオルトAクラスの住宅融資を多く手掛けいるのが中堅・地方銀行であり(住宅公社二社も少し扱っているいるが、これからの撤退を表明)、ここに信用不安が広がっている。
サブプライムローンは低金利の猶予期間は2年であるが、オルトAはオプションで低金利期間を選べる。平均的なオルトAの低金利猶予期間は5年くらいと言われている。オルトAローン残高は約1兆ドルと、サブプライムローン(1.5兆ドル)よりやや少ない程度であるが、巨額であることには違いがない。サブプライム問題発生後、中堅・地方銀行の破綻は既に8行になっている。しかしオルトAローンの問題が大きくなるのはこれからである。
信用不安のカギを握っているのが住宅価格の動向である。5月のシラー米住宅価格指数(10都市)は対前年同月比で16.9%の下落である。依然下落率は大きくなっている。住宅価格のピークは06年6月でありサブプライムローンの最後は06年8月である。つまり今日ピーク時から2年経つことになる。
したがって住宅価格の下落率がそろそろ小さくなっても良い時期に来ている。8月のシラー米住宅価格指数は10月の末に公表される。筆者はこの下落率がある程度小さくなっていると予想している。しかしもし逆に下落率が大きくなっているようならば、米国の金融は本当に危機ということになる。
今年の1月に、FRBが大幅な政策金利の引下げを決め、政府が15兆ドルの減税を決めた。当時、米国経済の年後半のV字型回復を予想する声が多かった。しかし本誌はこれを強く否定した。筆者は、米国経済の回復する力はとても弱いものと見ている。
ここ数年米国の経済成長率は先進国の中で一番大きかった。しかし07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」で述べたように、これはバブルだったことが明らかになってきている。しかし経済成長のためにもう一度意図的にバブルが起こす訳には行かないし、また起ることも考えられない(不良債権処理に追われている金融機関がどんどん貸出しを増やすはずがない)。経済がV字型回復するには次の成長セクター、つまり大きな需要項目が必要である。しかしこれが簡単には見つからないのである。
15兆ドルの減税の効果が薄れる秋には米国の経済は一段と後退するという観測がある。今のところ筆者もこれに賛成する他はないと考える。ただ奇跡が起る可能性はゼロではない。
米ドルレートの動きを見ていると、産油国やアジアの資金が再び米国に流れているようだ(中国も外資規制の影響か人民元安が続いている)。また今日、原油市場や商品市場から資金が逃げている。ポイントはこれらの資金の行き先である。筆者はこれらが米国の株式市場に流入する可能性があると見ている。もしこれらの資金が株式市場に流れれば、不況下の奇跡的な株高ということもあり得る。もっとも株高による資産効果くらいしか今の米国経済には期待できるものがないのである。
・ろくでもないこと
一時は米ドル安による輸出増が期待された。しかし米国の製造業は既にGDPの11%ととても小さいものになっている。また米政府は原油高を警戒し米ドル安を牽制している。これではとても輸出が飛躍的に伸びることはない。米国社会は製造業というものを育てようという気がない。バブル崩壊後、輸出に活路を見い出そうとした日本と違うところである。
先月、日本から米国にガソリンが輸出されるという奇妙な事があった。しかし車社会の米国では、ガソリン製造装置が十分備わっているはずである。またガソリン高の元でガソリンの需要が伸びたとは考えにくい。おそらく米国のガソリン製造装置が老朽化してうまく稼動しないのであろう。
新規の設備投資がない米国の製造業はボロボロである。これは株主が設備投資より目先の配当を求めることが原因と考えられる。株主の代表を自称して企業に圧力を掛けるのが投資ファンドである。たしかに石油の分解装置への投資は一千億円単位になる。半期や四半期で成果を求められる投資ファンドにとって、利益を生むかどうか不明な設備投資は好ましいものではない。まさに米国資本主義は投資ファンド資本主義になってしまっているのである。投資ファンドに良い事は米国社会にも良い事だという倒錯した考え方がまかり通っている。このような環境では米国の製造業が再生することはない。
米国において金融業の付加価値はGDPの9%(NYダウの構成比は15%)であるが、金融に携わる弁護士や会計士などの周辺部分を含めると20%になる。既に11%まで縮小した製造業を大きく引き離している。米国の基幹産業は15%の医療(日本は7〜8%と先進国で最低)と20%の金融業(周辺部分を含む)と言える。その他で日本と比べ突出して大きいのは軍事費(米国の5%に対して日本の1%)である。
バブル崩壊の過程で、基幹産業であるこの金融機関が「ろくでもないこと」をずっと続けてきたことが明らかになっている。最近では、大手金融機関が流動性が乏しいARSという金融商品を、投資家に「安全性が高い」と嘘を言って販売していたことが問題になっている。これは一種の詐欺であり違法行為である。司法当局は、シティやメリルリンチなどほとんどの大手金融機関(欧州の銀行も同じことをやっている)にこれらを買戻すよう指導している。各行とも1兆円前後とかなりの金額である。
このように欧米の金融機関は詐欺まがいの商行為で大きな利益を上げてきたと言える。サブプライム問題にしても手っ取り早く利益を上げようという考えが背景にあった。つまり欧米の金融機関自体が投資ファンド化しているのである。
投資ファンドが大きな利益を得るには、経済がバブル状態になっていることが好ましい。しかし筆者は米国経済がバブルがなければ成長できないものになっているとさえ思っている。このように欧米の金融機関には産業を育てるという発想がない。この投資ファンド化した金融業が国の基幹産業だというのだから救いがない。しかしつい最近まで日本には、このような欧米の金融機関を理想的と讃える風潮があった。
GMやフォードといった名門企業が苦境に陥っている。景気後退や信用収縮に加え石油高が追撃ちをかけている。ところがブッシュ大統領はこれらを救済する考えがないことを表明している。
GMは大型車にこだわった。大型車の一台当たりの利益が大きいからである。しかしここまで石油が高騰するとは考えなかったのであろう。またGMは株主配当ではずっと優等生であり、投資家にとって好ましい企業であった。しかし内部留保が少ないことが信用不安を招いている。GMの経営危機はある意味では米国の投資ファンド資本主義を象徴している。ただ負債額が20兆円もあることが無気味である。
来週から3週間夏休みで休刊である。次回号は9月8日を予定している。」
http://www.adpweb.com/eco/eco539.html