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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080725/166240/
David Henry (BusinessWeek誌、シニアライター) Matthew Goldstein (BusinessWeek誌、シニアライター) 2008年7月28日発行号カバーストーリー 「How Bad Will It Get on Wall Street?」 世界的な信用市場の深刻な状況が最初に表面化してから1年、米証券大手ベアー・スターンズが破綻同然となってから4カ月という月日が流れたが、依然として暗い状況は続いている。 米地銀インディマック・バンコープの破綻や米証券大手リーマン・ブラザーズ(LEH)の株価急落。さらに、住宅ローン大手の米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ、FNM)と米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック、FRE)への米財務省の支援策に対しても、市場の失望感が広がった。危機は去ったという楽観的な見方が間違っていることが、改めて鮮明になった。 「昨年の夏、誰もが実態の深刻さを過小に評価していた」と、かつてウォール街でデリバティブ(金融派生商品)のトレーダーをしていた米サンディエゴ大学法科大学院のフランク・パートノイ教授は話す。 まさにその通りだった。7月に入って立て続けに悪いニュースが生じたのは、多くの人が考えているよりも、信用収縮の打撃がずっと広範に及んでいる事実を示している。トレーダーや投資家、銀行家、エコノミストは、大恐慌以来最悪の現在の金融危機からウォール街が立ち直るまで、あと数年はかかる可能性があるとも考え始めた。さらに、危機の発生源はウォール街だったにせよ、その影響は銀行や一般企業、消費者にものしかかってくるとの認識が広がりつつある。 信用市場が回復に向かわないのはなぜか確実に言えることが1つある。今後の経済環境は、以前と比べて厳しいものになるということだ。銀行の規模は縮小し、行数も少なくなる。資金供給を受けるのに苦労する消費者や企業も出てくる。しかも、ウォール街での力関係の変化によって、良くも悪くも、監督当局に厳しく規制されないヘッジファンドやプライベートエクイティ(非公開株)投資会社が、資金供給で一層大きな役割を果たすようになるだろう。なぜ信用市場は回復に向かわないのか。答えはレバレッジ、つまり借り入れをてこにした資金運用の仕組みにある。銀行は顧客に資金供給する際だけでなく、自行の利益拡大にもレバレッジを活用している。レバレッジは強力だが危険な手段だ。うまくいけば時には夢のような膨大な利益をもたらし、失敗すると目も当てられない事態を招く。 銀行はこうした資金の運用で商売をしている。利益を出している時は、レバレッジを増やし、より多くの資金を回転させて、さらに利益を上げられる。住宅ブームの頃は、住宅ローンの資金供給が拡大し、住宅価格を押し上げた。だがやがて、借り手は借金が手に負えなくなり、バブルがはじけた。すると、銀行は損失によって体力を奪われ、自らの借り入れを減らさざるを得なくなり、その影響が今も広がっている。 影響はどこまで拡大するのだろうか。単純計算で言えば、銀行の自己資本が1ドル失われるごとに、政府の監督規制を受ける商業銀行は貸出債権を10ドルほど削減しなければならない。投資銀行の場合、圧縮しなければならないリスク債権は30ドルにも達する。 今後の信用収縮の規模は、起点となる銀行の損失額によって変わってくる。損失額を正確に把握するのは難しく、今も増え続けている。最新の数字では、信用市場全体の損失額は4000億ドルとされる。だが、国際通貨基金(IMF)は、総額が1兆ドルまで膨らむ可能性もあるとしている。レバレッジ比率を10倍や15倍にして計算すると、数字はいよいよ厳しいものになる。 米証券取引所ナスダック(NDAQ)のロバート・グレイフェルドCEO (最高経営責任者)は、「経営者の世代交代が進み、今回の辛酸を味わっていない世代が経営の舵取りを担うようになるまで、レバレッジ増加には慎重な状態が続くことになるだろう。厄介なのは、レバレッジを控えることが経済全体にどのように波及していくのかという問題だ」と語る。 損失を恐れる金融機関7月の途方もない事態を、底が見えてきた証拠と考えたくもなる。確かに、本記事の執筆時の7月16日の状況を見ると、米株式市場は、まもなく底を打って回復する可能性もあるように思える。だが、長引く不況の中で、最初に何度か訪れる底値の兆候に釣られて投資しても、大損をする場合が多い。この1 年、低迷する金融市場が反転すると目論んで、多くのプロの投資家が手痛い目に遭ったのを見れば分かるだろう。さらに重要なのは、株式市場と信用市場の動向が完全に一致することはめったにないという点だ。過去を振り返ると、信用市場は「底を打ったとしても、回復の速度は遅く、長い時間がかかる」と、金融システムの動揺が経済に与える影響について教科書も執筆している米コーネル大学のトッド・A・クヌープ教授(経済学)は指摘する。約10年前の低迷期、株式市場が急速に回復した後も、信用市場は低調なままだった。 米ニューヨーク大学で経済学と金融史を教えるリチャード・シラ教授は、「金融の数百年の歴史を見ると、今回のような金融危機が起こるたびに、銀行は融資に後ろ向きになった」と話す。 これまでに出ている数字から判断すると、今後数年間は非常に厳しい状況になる恐れが強い。英調査会社ロンバード・ストリート・リサーチのレイ・スキーン氏によれば、銀行は6月中旬までの3カ月間で、年率に換算して9%も与信残高を減らしている。これは過去35年間の調査で最大の下げ幅だ。米調査会社ディーロジックによると、今年の住宅ローン担保証券(MBS)とジャンク(投資不適格)社債の発行高は、それぞれ87%減と63%減になっている。 住宅ローン関連の融資による損失だけで、米経済における信用供給は1兆ドル減少するという研究が最近発表された。著者の1人、米シカゴ大学のアニル・K・カシャップ教授は、銀行は「事業規模を縮小せざるを得ない」と言う。 たとえ銀行がすぐにレバレッジ余力を回復できたとしても、リスクの引き受けを増やすことに投資家の支持は得られないだろう。米資産運用会社フリッドソン・インベストメント・アドバイザーズのマーティン・フリッドソンCEOは、「市況が上向きの時は、銀行は積極性が足りないと投資家から批判される。市況が悪くなると、保守的になるようプレッシャーをかけられる。金融機関は損失を恐れ、事業を縮小するようになる」と話す。 破綻が懸念される金融機関のリスト金融監督当局が規制を強化することで、レバレッジ解消の流れに拍車がかかる可能性がある。既にスイスの金融当局は、同国の金融大手UBS(UBS)の巨額損失を受けて、基準を厳しくした。米連邦準備理事会(FRB)が、投資銀行に対する窓口貸し出しを認めるのと引き替えに、貸し出しを受けた銀行が利用できるレバレッジの量に上限を設定することも考えられる。英投資顧問会社フォックス=ピット・ケルトン・コクラン・キャロニア・ウォーラー(FPK)の上級アナリスト、デービッド・トローン氏は、「新たな規制が導入されると、次の信用創造の循環が阻害される恐れがある」と警告する。 だが、当局も苦しい状況にある。金融機関がこれ以上不良債権を増やす事態は避けたいが、経済にとって必要な信用創造を妨げることも避けたい。 住宅市場の活性化や、ファニーメイとフレディマックの支援を目的として、現在審議中の法案や新たな規制を例に挙げれば、借り手が差し押さえを受けずに済むような方策に加え、好ましい融資を圧迫することなく不適切な貸し付けを阻止しようとする野心的な規定が盛り込まれている。安全性の確保と成長促進に向けた取り組みのバランスを取るには、微妙な舵取りを求められる。 7月11日のインディマックのように、政府があからさまに銀行を接収することで、信用創造に関する別の問題も見えてきた。金融機関の接収は長期的に見れば費用が少なくて済むし、パニックが広がるのを防ぐためにも大概は必要な措置だ。 だが、同時に融資能力も制約を受ける。銀行が政府に接収されると、通常は株主が損失をかぶることになる。銀行の自己資本は消滅し、それに伴い新規に融資をする能力も失われる。さらに、米連邦預金保険公社(FDIC)の監督下で再建する際にも、融資は以前より慎重に行われることになる。 今後さらに、銀行の破綻や政府接収が起こる公算は大きい。FDICは、現在経営に問題があるとしてリストアップしている銀行は90行ほどあると述べている。2年前の2倍に達する数だ。関係者によれば、財務省も経営危機に陥っている銀行を100行ほどリストアップしているという。 こうした銀行のリストは公表されていないが、ウォール街の投資家は独自に判断を下している。最近では、米ワシントン・ミューチュアル(WM)、米ナショナル・シティ・コープ(NCC)、米ワコビア(WB)、米ソブリン・バンコープ(SOV)、米コロニアル・バンクグループ(CNB)、米ジオンズ・バンコープ(ZION)の株価が急落している。 経済全体に波及する問題世界市場の方向性を予測することなど、しょせん無理な話だ。好材料であれ悪い材料であれ、状況を一変するどんな変化が待ち構えているか、誰にも予見できない。例えば不況の真っ只中にあった1992年、インターネットの可能性に気づき、期待に胸を膨らませた人が果たしてどれだけいただろうか。ウォール街は既に、理論上、金融システムにレバレッジを復活させ、資産価値を再び高める可能性のある新たな仕組みをつくり出そうと懸命になっているのは確かだ。たとえウォール街の試みがうまくいかなくても、時間がたてば信用市場の傷は癒やされていく。 問題は、その傷が癒えるのにどれだけの時間がかかるかだ。 米資産運用会社ロード・アベットの上級エコノミスト兼市場ストラテジスト、ミルトン・エズラティ氏は、「最悪の時期は過ぎた」と確信している。FRBが昨年9月から行ってきた利下げなどの措置が功を奏し、景気はもうすぐ上向くというのだ。ただし、信用市場がすぐに活況を取り戻す兆候はない、とクギを刺す。 もっと悲観的な見方をする向きもある。金融危機に関する著書が数冊ある米マンハッタン大学のチャールズ・ガイスト教授(金融論)は、米国は銀行による「大恐慌〜1950年代」以来最悪の「資本ストライキ」の時代に入りつつあると語る。今回は大恐慌の頃ほどひどくならないと見てはいるが、「現在の問題は経済全体に波及し、誰もが打撃を受けている」と指摘する。 ニューヨーク大学のシラ教授は、今回の危機と、1989年にジャンク債市場の崩壊で始まった前回の大規模な米信用危機との共通性を見いだしている。前回の信用収縮では経済への悪影響は少なくとも3年以上続き、そのせいでジョージ・H・W・ブッシュ元大統領は再選を逃した、と同教授は語る。 1994年には、信用市場は正常に戻ったが、再び活況を呈したのは1990年代後半になってからだった。今回の信用収縮の影響はさらに長期化する恐れがあるとシラ教授は懸念する。「歴史的に見て、金融危機は1年経てばほぼ終息することが多かった。今回は1年経っても全く終わっているように見えない」。 淘汰されるウォール街の金融機関実際、銀行の資本増強で信用収縮の流れを一気に変えるという、最も効果的な手法もあまり見込めなくなってきている。1990年代初め、サウジアラビアのアルワリード・ビンタラール王子が破綻の危機にあった米シティバンク(C)に巨額の出資をしたことは記憶に新しい。その後シティ株は急騰した。今回の苦境下で同様の成功を狙う投資家もいるのは確かだ。しかし今のところ、政府系ファンド(SWF)やプライベートエクイティ投資会社による出資の多くは成果を上げていない。米投資会社TPG(旧テキサス・パシフィック・グループ)を中心とする投資家グループは今年4月、ワシントン・ミューチュアルに70億ドルを出資した。それでもワシントン・ミューチュアルの株価はさらに60%下落した。こうした失敗事例を目の当たりにして、投資家はこれ以上リスクを取ることには尻込みするかもしれない。 一部の銀行は、痛みを伴うレバレッジ解消プロセスを、何年もかけて自力で行う可能性もある。そうした銀行は健全な資産を可能な限り売却し、経費削減のために競合他行と提携しようとするだろう。そうした中で破綻する銀行も当然出てくる。 米債券調査会社クレジットサイツの上級アナリスト、デビッド・A・ヘンドラー氏は、ウォール街は新しい時代に突入しつつあるのかもしれないと言う。投資銀行の数は減り、残った投資銀行の規模も縮小する新たな時代だ。 投資銀行に代わり、ヘッジファンドやプライベートエクイティ投資会社の市場での存在が大きくなる。もちろん、レバレッジ解消の後遺症があるため、企業にふんだんに資金供給できるようになるまでには時間がかかる。だが、投資ファンドの中には、投資銀行と同様に、増資を目指す企業と出資する投資家を結びつける役割を持ち始めたものもある。 「ウォール街の金融機関は、軒並み市場シェアを失うだろう」と、米資産運用会社スティルウォーター・キャピタル・パートナーズのマネジングディレクター、ジョナサン・カンターマン氏は予想する。 投資ファンドの勢力拡大で新たな問題が生じる可能性も私募証券市場の成長に伴い、多くの企業がウォール街の証券会社を介さずに、ヘッジファンドや年金基金などの大規模な投資家から資金を直接調達できるようになってきた。米プライベートエクイティ大手コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)は昨年、自社が株式の非公開化を手がけた企業の株式を大量に購入する機関投資家を探すため、専門のチームを立ち上げた。これは従来、ウォール街の証券会社が担ってきた仕事だ。専門チームを設けたことにより、KKRは、第三者割当増資を検討するほかの非公開企業向けのサービスの提供も可能になった。 ヘッジファンドやプライベートエクイティ投資会社は、新株予約権付社債などのいわゆるメザニン(中2階)ファイナンスも多く手がけるようになってきた。 瀕死状態の証券化市場の再生に乗り出すファンドもやがて出てくるかもしれない。例えば、米ヘッジファンド、シタデル・インベストメント・グループ(本社:シカゴ)は最近、米JPモルガン・チェース(JPM)の幹部を引き抜き、自社の「証券化商品」部門責任者として迎えた。 だが、大手ヘッジファンドやプライベートエクイティ投資会社が存在感を増すことにより、新たな問題が生じる恐れがある。 米証券取引委員会(SEC)と自主規制機関の米金融取引規制機構(FINRA)は、投資銀行に対する一定程度の監視を行っている。FRBも監視強化の姿勢を強めている。 それに対し、ヘッジファンドはほとんど規制されておらず、投資家以外には情報を公開する義務もない。しかも投資家に公開される情報でさえ不十分なことが多い。ヘッジファンドが伝統的なコーポレートファイナンスの領域に進出することになれば、現在のウォール街よりも状況が不透明になる。 「1つの問題が別の問題に移行するだけだ」と、マンハッタン大学のガイスト教授は言う。 リーマン・ブラザーズの苦悩ウォール街がどれだけ深刻な泥沼にはまりこんでいるかは、リーマン・ブラザーズの現状を見るだけで十分だ。投資家はリーマンを見限り、大挙して株を手放した。突然の破綻や、米ゴールドマン・サックス(GS)のような競合大手に安値で買収されることを懸念したからだ。現在の株価は16ドルとこの1年の最高値から74%下落。市場価値は120億ドルをわずかに下回る水準まで落ち込んでいる。リーマンはこのところ、必死でレバレッジ解消に取り組んでいる。同社のレバレッジ比率(自己資本に対する負債の割合)は5月末現在で24倍と、2四半期前の31倍に比べて大幅に低下した。 住宅ローン関連事業はほとんど手がけなくなった。5月末までの6カ月間に取り扱った住宅ローンの総額はわずか20億ドル。前年同期は320億ドルだった。商業用不動産の取り扱いも40億ドルと、前年同期の320億ドルを大幅に下回った。 「リーマンはレバレッジを活用して高リスクの証券化商品を買ったが、その賭けが外れた」と、米資産運用会社クリストファーソン・ロブのポートフォリオマネジャー、ブラッド・ゴールディング氏は言う。同氏はリーマン株をポートフォリオに入れていない。「リーマンは、分不相応の家を購入したサブプライムローン(米国の信用力の低い個人向け住宅融資)の借り手と同じだ」。 ウォール街のほとんどの金融機関は、リーマンと同じことをしていた。つまり、レバレッジを効かせて取得した住宅ローン債権を証券化し、投資家に販売していたのだ。 米証券大手メリルリンチ(MER)が2007年に発行を引き受けた債務担保証券(CDO)480億ドル相当は、ほとんどが債務不履行に陥っているか、陥る寸前である。 メリルのジョン・A・セインCEOは、経営判断の失敗によって生じたバランスシートの大きな穴を埋めるために、同社の保有する最優良の物件を切り売りに出す羽目に追い込まれている。デリバティブ(金融派生商品)コンサルタントのジャネット・タバコリ氏は、「まさに身から出たサビ」と手厳しい。 住宅市場を崩壊へと導いたことで、ウォール街は経済全体にも打撃を与えた。住宅の資産価値が下落して困窮する消費者は、ガソリン高で追い打ちをかけられている。 その結果、住宅の差し押さえはさらに増え、銀行の損失も増加。銀行は一層のレバレッジ解消を図る必要に迫られ、貸し渋りがさらに強まる――。この悪循環はそう簡単には断ち切れそうにない。 © 2008 by The McGraw-Hill Companies, Inc. 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