★阿修羅♪ > 国家破産57 > 551.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
「経済コラムマガジン08/7/21(536号)
・相場の流れの転換か
・住宅公社二社の信用不安
主な米大手金融機関の4〜6月の決算が出た。今週は残りのバンク・オブ・アメリカとワコビアの決算が公表される。5月の後半から米国の信用不安が再燃し、世界の株価は2ヶ月間ほど下げ続けた。本誌08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」」で述べたように、大手金融機関の4〜6月の決算が出るまでは市場は不安定な動きをすると筆者は予想していた。米国のこの信用不安の再燃によって、日本を除く世界の株価は年初来の安値を連日記録した。しかし先週の後半から欧米の株価は一斉に上昇に転じた。
反転のきっかけは13日の日曜日の当局(FRBと財務省)トップの会見と、その後の信用不安に対する対抗策の発表である。3月の株式市場の反転も日曜日の当局の会見(ベア・スターンズへの救済策の発表)がきっかけとなった。今回も日曜日の当局の緊急会見とそれに続く一連の政策が市場の流れを変えることになりそうである。
13日の会見は、住宅公社二社の信用不安に対する対策の公表であった。FRBは融資枠の設定であり、財務省は公的資金による資本注入の検討であった。住宅公社二社とは米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)である。
両社が保有したり保証している民間の住宅ローンの総額は5兆2千億ドル(550兆円)である。米国の住宅ローン(総額11兆ドル)の半分弱を両社が買取ったり保証している。両社はこれらを債券化して世界中に販売している。さらに両社は1兆6千億ドルの社債を別に発行している。とにかく金額がばかでかい。日本の金融機関、政府、投資家も25兆円の両社の債券と社債を保有している。
両社が買取る民間の住宅ローンは基本的にプライムローンである(ただしサブプライムローンを投資目的で少し保有している)。しかし米国の住宅価格の下落が続き、プライムローンにも焦付きが波及してきたのである。リーマン・ブラザーズのリポートでは両社は750億ドル(8兆円)の増資が必要とされている。総資産額の1%くらいと小さく感じるが、事業規模が莫大なため、損失額も大きくなる。
住宅価格が上昇している時には、焦付きが発生しても担保権を実行すれば貸し倒れ損失は発生しないか、あるいは少額にとどまった。しかし住宅価格が下落している今日、どうしても貸倒損失が膨らむ。さらに景気低迷も加わりプライムローンであっても、返済の延滞率が徐々に大きくなっている。
ファニーメイとフレディマックは公社(ファニーメイは68年に民営化、フレディマックはファニーメイを補完する目的で70年に設立)であるが、株式を上場している。サブプライムローンが問題になって以降、両社の株価は下落を続けていた。しかし今月7日のリーマン・ブラザーズのリポート(前述)をきっかけにさらに暴落したのである。両社が発行する債券と社債は政府が保証するかもしれないが、国有化された場合、両社の株式は紙屑になるというので不安が起ったのである。
7月中旬の大手金融機関の4〜6月の決算を控え、ただでさえ株式市場は不安定な動きを続けていた。ここに住宅公社二社の信用不安が加わったのである。日曜日の当局の緊急会見は、この二社に対する信用不安を打消すことと、翌14日に控えたフレディマックの資金調達のための入札を睨んだものであった。
・峠を越すのは10月頃か
14日の資金調達の入札は無事終了したが、両社の株価はさらに下落した。両社の株価下落につられ、米国の金融機関の株価下落は火曜日まで続いた。しかしそこに飛出したのがSEC(米証券取引委員会)の「カラ売り規制」である。
ファニーメイとフレディマックを含めた19社の金融機関の株式に対するカラ売りを規制するというものである。この中には米国でADRを上場している日本のみずほ銀行も含まれている。21日から現物を確保していない株式のカラ売りを29日(最大30日間まで延長可能)まで禁止するというものである。日本なら当り前の規制であるが、米国でのカラ売りは野放しになっているのである。
16日から米国の株価は急反発に転じた。21日からのカラ売り規制を見越した買戻しが入ったからである。ただ大手金融機関の4〜6月の決算が出たら、一旦株価はある程度戻るという雰囲気は元々あった。決算が予想より良ければ株価は素直に上がるし、悪くてもこれによってアク抜けしたと上がると思われたのである。実際、メリルリンチは予想よりかなり悪く、決算発表翌日である18日の株価は大きく下落してはじまったが、引けにかけプラスに転じた。
「カラ売り規制」が実施される21日以降の株価の動向が注目される。株価の下落が信用不安を煽っていた面がある。当局(FRBと財務省)としては何とか金融機関の4〜6月の決算の公表に合わせ、株価の反転を狙っていたと思われる。SECの「カラ売り規制」は明らかにこれに連携するものである。
株価の上昇に合わせるかのようにニューヨークの原油先物価格(WTI)が下落に転じた。本誌がずっと述べているように、今日の原油の高値は根拠のないものである。世界中どこにも石油不足が起っていないのに価格だけが上昇してきたのである。
IAEAの需要予測(世界で1%の増加)は、価格がもっと安い時に予想したものである。しかし石油消費節減に無頓着であった米国国民さえも、これだけ石油価格が高くなってはさすがに消費量を落としている。米国の石油消費は対前年比で2%強減少している。筆者は日本や欧州はもっと消費を落としていると見ている。新興国の需要が例え増えても、石油の需要がIAEAの予測に達するとは思われない。
注目を集めていた米大手金融機関の4〜6月の決算が出揃っても、米国の信用不安が峠を越したとは筆者は思わない。今回の住宅公社の信用不安のように、次々と新たな信用不安の種が現れる。今日、新たに起っているのが地方銀行の破綻懸念である。
米国には8,500行も地方銀行がある。大半が資産規模が10億ドル以下の小規模なものである。日本で言えば信用金庫よりずっと小さい規模である。米当局はそのうち90行が破綻の懸念があると見ている。これらの地方銀行は大半の資金運用を住宅融資で行っている。米国の住宅価格の下落はまだまだ続く。したがって破綻懸念の地方銀行の数はもっと増えると見てよい。
サブプライム問題発生以降、全米で5行の地方銀行が破綻した。つまり5行でペイオフが行われたことになる。米国のペイオフは10万ドルである。10万ドルを越える預金は切捨てられる(残余の資産があれば少しは戻ってくる)。地方銀行が破綻が続けば、米国国民の間にも不安心理が広がる。そのうち米国政府は、ペイオフラインの引上げや預金保険機構への資金拠出に迫られると思われる。場合によっては預金の全額保証に踏出す可能性もある。
筆者は、米国の信用不安が峠を越すのは3ヶ月後の10月頃と見ている。理由の一つは、サブプライムローンのピークが06年の8月であり、2年後の08年8月がサブプライムローン破綻のピークと見ていることである。また地方銀行の信用不安もこれからもっと大きくなる。さらに改定会計基準が7月から適用され、次の7〜9月決算から大手銀行のSIVが連結される。このSIVは大量にサブプライムローン関連証券などの不良資産を抱えている。
SIVは大手銀行の特定目的会社であり、実質的に銀行の投資部門を担ってきた。しかしこれまで銀行は実質的に子会社のはずのSIVを連結決算から外していた。親銀行はSIVの損失分をこれまでも償却してきたと思われるが、完全に償却してきたとは市場は信じていない。この市場の不信を払拭するには10月の決算を待つ他はないのである。
来週は今週の続きである。」
http://www.adpweb.com/eco/eco536.html