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【日経ビジネス】ニュースを斬る:幻想の「AAA」国家、米国の憂鬱――サブプライム、GSE、そしてドル
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080716/165545/
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幻想の「AAA」国家、米国の憂鬱
サブプライム、GSE、そしてドル
2008年7月17日 木曜日
倉都 康行
マーケット GSE サブプライム ファニーメイ フレディマック 格付け
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すべては、「高格付け」−−AAA/Aaa(トリプルA)という記号が作り上げた世界であり、現代の金融関係者たちはそこに安住してきた。映画「マトリックス」の中でネットに接続され、眠り続ける人間たちのように。
● 「高格付けだから大丈夫」と信じて目をつぶってきたが
そしていま彼らは、世界に抱いてきた信頼を次々と裏切られ狼狽している。サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)をベースにした証券化商品から始まって、取引相手としての金融機関、保証会社としてのモノラインと次々に不安は広がり、米国政府による大手証券、ベアー・スターンズ救済で一服した。
と思ったのも束の間、シティグループなどの損失穴埋めの大型増資に不安が募り、米大手地域金融には破綻も出始めた。金融不安はついに米国政府との関係の深いGSE(政府支援機関)である、連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)にまで達した。
が、それは、高格付けという神話を安易に受けいれてきた「他人任せのツケ」でもある。
自ら考えることせず、他人の評価を鵜呑みにして、レバレッジをかけて(元手の多くを借金で調達して)急膨張させてしまった投資。それを解消したら、どれほど悲惨な結末を生むのか。その姿を未だに想像し得ないことも、市場が激しく動揺し続けている一因だろう。未来が見えない限り、不安は収まらない。
未来を占うためには、過去を知ること。金融市場のマトリックスがどう崩れていったのかを、その世界に生きている市場関係者の目をハックして振り返ってみよう。視点は、この幻想世界を構成する「高格付け」への信頼、に据えて。では映画に習って、三幕構成で−−。
● 「AAA」が支えてきたマトリックスは、こうして崩壊した
ベアースターンズ破綻で昨年夏のサブプライム問題の幕が上がった時、金融市場は米金融当局と同様に、「これはサブプライムという、特定の分野の問題だ」という誤った認識を抱いた。特に株式市場は「グリーンスパン流の処方箋」つまり市場におカネを流し込むこと(流動性供給)と金利の引下げで対応可能と考えていた。
だが金融機関本体の“別働隊”“トバシ先”との批判もあるファンド、SIVなどの簿外取引を含めると、サブプライムを組み込んだ証券化商品の評価損は想像以上に巨額になることが見え始め、「各金融機関の損失がどこまで増えるか解らない」という恐怖感に包まれた。これが第一幕。「そんな商品に、なぜAAA/aaaが付けられていたのか?」−−高格付け神話の揺らぎである。
そして次に、金融商品を保証する会社であるモノラインへの戦慄が走る。米国地方債と証券化商品にわたるその保証残高は2兆4000億ドルと言われる。サブプライム問題をキッカケにモノラインへの格付けが下がることになれば、そこが保証する商品への「AAA」が怪しくなり、評価損は更に拡大する。金融機関だけでなく、機関投資家にも大きな影響を及ぼすかもしれない。「高格付け神話が揺らげば、世界的な金融システム不安を引き起こす可能性がある」という警戒感が強まっていった。これが第二幕である。
それでも市場にはFRBやECB(欧州中央銀行)が何とかしてくれるだろう、という期待感が残っていた。
● 不信は徐々に広がり、ついに本丸に
そこに思惑通りの「幕間」が入った。米財務省とFRBがサブプライム問題に起因する不良債権増加で再起不能に陥ったベアー・スターンズの救済に踏み切ったからである。3月中旬以降、市場はやや落ち着きを取り戻したかに見えた。
しかし、手持ちの金融商品の格付けがいつ崩壊するか分からなくなったことは、経済に大きな影響を与えずにはおかない。互いに相手を「実は深刻な損失を抱えているのでは」と考えて信用しにくくなったことから、銀行間の資金のやり取りは凍りついたままになり、経済面でも消費減退、企業業績悪化につながった。格付けへの疑義は、企業買収に使われるLBOローンから自宅の値上がり益を担保にした融資(ホームエクイティローン)まで、幅広い分野に拡大するとの警戒感が生まれ、市場不安は拡大していった。
そして、「おカネは有限である以上、シティグループがやったような、損失を増資で埋める『金融再生増資』には限界があるのではないか?」と、市場関係者は薄々と気付き始めていく。損失拡大→増資→環境悪化→損失拡大、の輪廻がエンドレスに続きかねない状況で、本当に再生などできるのかという猜疑心が芽生えていった。
格付けの穴から漏れていく信用。これをつなぎとめようとFRBは、投資銀行の受け皿構想や低利融資の続行を検討し始める。不動産市況の悪化で、地域金融機関の破綻懸念も強まり、金融機関のアナリストは、他の金融機関の損失予想や増資の必要性を執拗に主張するようになる。欧米金融への出資に当初は熱心だったSWF(ソブリン・ウェルス・ファンド=政府系投資ファンド)も、それどころではないのでは、と一斉に沈黙してしまった。
第三幕の幕開けである。主役の中にGSEが見える。
● まっとうな現場感覚を失っていた市場関係者
この段階でようやくGSEが主役として登場してきたということ。これこそ、現代の金融ビジネスが、如何にリスクの本質を見ないで単純拡大し続けてきたか、を端的に示している。格付けや数学的リスク管理法などの「制度的セーフガード」に過度に依存してきたことが「金融のアマチュア化・無防備化」を促進したと言い換えてもいいだろう。
住宅問題を源とする金融不安が最終的にGSEへと伝播することは、ほぼ自明だったのだが、金融市場の参加者たちは、どっぷりと「AAA」の記号で埋め尽くされたマトリックスにはまり、「信用の自壊プロセス」を予測する、まっとうな現場感覚すら失くしてしまったのである。
ならば、どうすれば幻影ではない「信頼」を市場関係者に取り戻せるのか。
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080716/165545/?P=2
GSE、すなわちファニーメイとフレディマックが発行する債券残高は世界中に5.2兆ドルという巨大な規模で存在しており、その経営不安への恐怖感は、年末年始に市場を騒がせたモノラインの比ではない。2社が実際に債務超過であるかどうかについては異論もあるようだが、これに対する不安を放置すべきでないことは間違いない。
また住宅政策上、GSEの経営破綻も有り得ない選択である。
約12兆ドルの全米住宅金融のほぼ半分を、GSEが融資や証券保有・保証といった形でバランスシートに載せて支えている。この構造は、GSEが民間企業でありながら「暗黙の」政府保証があるという慣行的な認識=まさに幻影、に寄り掛かった制度であり、従前、日本の自治体による資金調達が「暗黙の政府保証」で支えられていた構図−−夕張市の破たんでウソが露呈した−−とよく似ている。
「持ち家推進」を国策としてきた米国に、この「金融的な神話」は必要不可欠であった。政府は直接関与しないが、「暗黙の政府保証」という非合理的な市場機能を上手く利用することで、政府は財務負担無しに大規模な住宅金融市場を構築してきたのである。今回のGSE経営不安は、そのスキームに限界が来たことを示す。
今回米財務省とFRBが取った政策は国有化ではないにせよ、ベアスターンズ救済に続く実質的な「公的資本投入」である。現在の全米住宅金融が政府の支援無しには成立しないことを、米政府が正式に認めざるを得なくなったということだ。
もはや、保証は「暗黙」ではなくなったのである。先ほどの問いに答えるならば、市場不安を最終的に抑えることが出来るのは、「国家」だけである。
● 高格付けの幻想から目覚められるか
だが、その「国家への信認」に絶対的なパワーがある訳ではない。米財務省が2社の国有化を避けたのは、米国政府の潜在的負債額が5.2兆ドル分増えて米国自体の国債のAAA=最高格付けが怪しくなることを回避する為だろう。
つまり、「国家の信任」こそ、格付け神話の崩壊で揺らぐ市場を安定化させる源泉であり、従って米国もその高格付けに依存せざるをえない、というトートロジーを孕んでいるのである。
金融市場の力を武器に海外からの資本を引きつけ、国内の赤字を埋めてもらっている米国は、金融が格付けに依存したように、国家すらも格付けに依存せざるを得ない。従って、市場不安が今後、民間金融から米国の財務体質へと裾野を広げる可能性もないではない。格付け神話の崩壊による津波は、FRBへ、米国債へ、そしてドルへと波及していくシナリオも有り得る。
FRBといえども、オールマイティな存在ではない。ベアスターンズやGSEへの救済策が仮に失敗すれば、財務省がFRBの損失を補填するしかない。その補填原資は税金である。税収にも限界があり、不足分は借金、つまり国債で賄う。海外から借りるならその通貨はドルである。逆に言えば、通貨、国債、FRBへの信認がなければ米国金融自体が成り立たないところまで来ているのである。
だが市場にとって、高格付けという「リスクフリー(リスクゼロの資産)」は幻想でしかないことが明らかになった。米国も「AAA」を頼りに信認を維持することは難しくなるだろう。信認を改めて裏付けするにはGSEや金融機関への支援策では足りない。米国がバブル的な消費経済から一線を画し、バブル的な金融モデルから脱却し、健全な経済成長をコミットすることだ。今回の「マトリックス」にエンドマークを打つのは、米国自身の「健全化宣言」以外にない。
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「信用貨幣を経典としつつ、金利を賛美歌としながら、中央銀行が教会の役割を果たしている」金融システムは、今回のサブプライム問題を契機に大きな転機を 迎え、我が世の春を誇った投資銀行のバブルは終わった、と著者はみる。著者は東京銀行、チェースマンハッタン銀行での経験を踏まえ、邦銀が目指してきた憧 れの投資銀行ビジネスの脆弱さを「レバレッジ経営の末路」「クレジットという幻想」「バブルは金融の友か」などの独自の観点から検証する。
『投資銀行バブルの終焉 サブプライム問題のメカニズム』倉都康行著、日経BP社、1700円(税別)
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