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当面の内外経済金融情勢の展望
NY株価が6月6日に大幅に下落して以降、内外株式市場で先行き不透明感が強まった。米国金融市場では昨年半ば以降、サブプライム金融危機が顕在化して、米国金融市場の混乱が長期化、深刻化するとの見方が広がってきた。
本年3月に米国で大手証券ベア・スターンズ社の経営危機が表面化して金融市場の緊張感が高まった。FRBは290億ドルの緊急融資を実施した。実質的な公的資金による金融システム安定化策が示されたことで、金融システム不安に対する警戒感が大幅に後退した。
NYダウは5月1日に本年1月3日以来4ヵ月ぶりに13,000ドルを回復した。金融不安が最悪期を脱したとの見方が広がりつつあった。ところが、NY株価は5月2日以降、再び下落傾向を示し始めた。6月6日には、NYダウが前日比395ドル下落して、12,209ドルまで下落した。6月11日には12,083ドルと12,000ドル割れ目前まで株価調整が進んだ。
株価下落の主因は米国のインフレ懸念である。原油価格が6月6日に1バレル=139ドル台にまで上昇した。米国大手証券モルガン・スタンレーが同日、1ヵ月以内に原油価格が1バレル=150ドルまで上昇するとの見通しを発表したことがきっかけだった。6月6日、原油価格は前日比10.75ドル上昇し、1日の値上がり幅として史上最大を記録した。
原油価格高騰が持続し、インフレ圧力が強まれば、FRB(連邦準備制度理事会)はこれまでの金融緩和政策を見直さざるを得なくなる。インフレ圧力に対する警戒感はグローバルに拡大しており、ECB(欧州中央銀行)も7月3日の金融政策決定会合で利上げを実施する可能性を示唆し始めている。
米国政策当局は米国の金融緩和政策がドル下落とインフレ率上昇予想を生み、世界の投資資金が原油市場に急激にシフトして、ドル下落と原油価格上昇=インフレ率上昇を加速させる悪循環に対する警戒感を急速に強めたと考えられる。この状態を放置し、原油価格上昇、ドル下落、インフレ率上昇が強まれば、FRBの強力な金融引き締め策が必要になる。
米国政策当局はこれまでの「サブプライム金融危機対応優位」から、「インフレ心理払拭優位」に政策のプライオリティーを変更したと考えられる。私はこの判断が正しいと考える。
米国のサブプライム問題は、昨年年初から広く指摘されていた問題だった。不動産価格がすでに下落に転じていたことが背景だった。不動産格下落−不良債権増加−景気悪化−金融問題拡大の悪循環が警戒された。
昨年夏になり、サブプライム問題に伴う金融機関の巨額損失が表面化し始めた。しかし、FRBは金融緩和政策実行に躊躇した。原油価格が上昇し、インフレ警戒感が残存していたからだ。FRBは昨年8月から12月にかけて、慎重に金融緩和政策を始動させた。
ところが、昨年末から本年年初にかけて、サブプライム問題が急激に拡大する様相を示した。株価急落は世界市場に波及した。FRBはサブプライム危機に伴う金融システム不安回避にプライオリティーを与える方向に政策方針を転換した。FRBは大幅利下げとベア・スターンズ社問題処理によって当面の危機回避に成功した。
しかし、当初から、急激な金利引き下げがインフレ心理拡大を招く恐れが存在しており、この問題が本年5月以降に顕在化した。米国はドル下落圧力、原油価格上昇、インフレ圧力を抑制する方向に政策の舵を大きく切り替えつつある。この方針転換に伴い、景気悪化懸念が広がることは予想されるが、これを想定に入れつつ、新しい政策方針が示されていると考えられる。
ターゲットは原油市場である。原油市場には大量の投機資金が流入していると考えられる。原油価格ピークアウトが確認されれば、短期的な利ざやを追求する投機資金は一斉にポジション解消に進む。そうなると原油価格は予想以上の下落を示す。原油価格が大幅に反落すれば、金融市場のインフレ警戒感は大幅に後退する。
米国の政策当局がどこまで先行きを洞察していたのかは不明だが、米国政策当局の問題への対応順序は適正であったと考える。金融市場の混乱は、金融市場の機能不全リスク=システミックリスクが顕在化する場合に最大化する。政策当局が明確な行動によってこのリスクを排除すれば、不必要な金融市場の混乱を回避することが可能になる。
2002年から2003年にかけての日本では、逆に政策当局がシステミックリスクを煽動し、その結果として不必要な株価暴落が引き起こされた。経済、金融の混乱拡大による国民の犠牲は計り知れないものになった。この混乱で巨大な利益を獲得したのが外国資本であった点に、2003年日本金融市場混乱の黒い陰影が刻まれている。
6月13日発表の5月米国消費者物価コア指数(食品・エネルギーを除く指数)前月比上昇率が+0.2%にとどまったことを反映して、同日、NYダウは前日比165ドル上昇して12,307ドルに反発した。米国株価の調整が完了したと判断するのは時期尚早だが、今回の調整の主要因はインフレ懸念であり、インフレ懸念が後退すれば、不安心理は大幅に緩和されると考える。
米国経済が減速することはすでに予想されており、問題は景気後退とインフレの同時進行という「スタグフレーション」が現実化してしまうかにある。FRBはインフレ警戒の政策運営が短期的には景気心理を冷却化させても、中長期的な経済運営の視点からは、インフレ圧力を確実に遮断することが優先されるべきとの判断を堅持していると考えられる。
米国のサブプライム危機が2008年後半にかけて一段と深刻化するとの予測が金融市場では多数派であるが、私はこの見解に与していない。不動産価格下落−不良債権増加−経済悪化の悪循環が発生する典型的な不動産金融不況に対して、米国政策当局はこれまで極めて巧みに対応してきたと判断している。
リスクは原油市場にある。原油価格高騰が持続する間、金融市場の不安定性は根強く残存するだろう。株価下落、米ドル下落、長短金利上昇の反応が生じやすい。
CNNの報道によると、サウジアラビアのヌアイミ石油相は6月15日にジッダで国連の潘基文事務総長と会談し、来月から原油を日量20万バレル増産する計画を表明したとのことだ。同報道はさらに、22日にジッダで開かれるエネルギー価格高騰への対応策を協議する産油国と消費国の会議終了後に、産油国全体で日量50万バレル前後の増産が発表される見通しだと伝えた。
原油価格高騰に歯止めをかけようとする米国の行動が本格化し始めている。FRBはインフレ警戒に金融政策の軸足を移動させている。7月3日にECBが金利引き上げに踏み切ると為替市場ではユーロ上昇圧力が生じ、米国の利上げが迫られることになる。米国が実際に金利引き上げを実施すれば、金融市場には大きな影響が生じると考えられる。
原油価格高騰、インフレ警戒感、米ドル下落懸念、金融引き締め観測などが残存する間、金融市場は不安定な推移を示すと考えられるが、米国の経済政策が問題に適正な手順で対応していることを踏まえると、中期的には楽観し得る状況が生まれつつあると考える。
日本では、経済活動がピークアウトし、緩やかな景気後退が始動していると考えられる。内閣府は6月9日、景気動向指数において重視する指標をDIからCIに切り替えた。また、4月の一致指数について「局面変化」との基調判断を示した。2002年2月に始動した景気拡大局面が後退局面に移行した可能性が示唆されている。
6月16日の月例経済報告で、政府は日本経済の景気基調判断を3ヵ月ぶりに下方修正する見通しだ。生産指数、住宅着工が減少し、消費者態度指数も大幅に悪化している。6月11日に発表された2008年1−3月期の実質GDP成長率が年率4.0%に上方修正されたが、4−6月期についてはマイナス成長に転じる観測が強まっている。
米国株価調整、日本経済停滞、企業収益悪化は株価下落要因だが、昨年7月から本年3月にかけて日経平均株価は35.5%下落しており、日本の株価に割高感は存在しない。
米国のドル下落回避策検討、FRBのインフレ警戒姿勢などを背景に緩やかな円安傾向が観察されていることも、日本の株価支持要因になっている。日本の物価上昇率も上昇傾向を示し始めており、日銀による金利引き上げ観測が再び表面化するリスクもあるが、外国人投資家の日本株に対する投資意欲も拡大しており、日本の株価が3月安値を下回る可能性は低いと考える。
問題は日本経済のなかのばらつきが残存されたままであることだ。福田政権の経済政策は格差拡大にまったく対応を示していない。大企業の企業収益は史上最高水準にあるが、中小企業の大半は依然として厳しい景況感の下に置かれている。非正規雇用の下に働く労働者は多く、格差は一向に縮小しない。高齢者、母子世帯、非正規雇用労働者、障害者などの社会的経済的弱者に対する政府支出切り捨ての政策方針が堅持されている。ミクロの経済政策に大きな問題が残されている。
2008年6月16日 (月) 内外政治経済金融情勢
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