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消費税は逆進性で所得の少ない者ほど税負担率が大きくなるとこれまで言われてきた。ところがこの定説に異論を唱える、消費税増税論者にとってまことに都合のいい論者が現れた。政府税調・専門委員の大竹文雄阪大教授である。
大竹教授の所論に対して「しんぶん赤旗・経済時評」はこう反論する。
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http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-05-29/2008052904_03_0.html
2008年5月29日(木)「しんぶん赤旗」
経済時評
消費税に“新説” 逆進性ない?
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政府は十九日、消費税増税を財源にした基礎年金の全額税方式の試算を社会保障国民会議に示しました。
早速、これに呼応して同日、日本経団連の御手洗冨士夫会長が記者会見で、消費税を基礎年金などの財源として社会保障目的税にした場合、将来は税率が10%を大きく上回るとの見通しを述べました。
基礎年金財源の問題や道路特定財源の一般財源化の問題をからめて、「税制抜本改革」の名目で、いよいよ消費税の増税戦略が本格的に動きはじめた感じがします。
消費税は生涯所得に比例的だと言うが…
ところで、最近の消費税論議で見過ごせないことは、政府税制調査会の専門委員のなかに、「消費税は逆進的でない」などという新説を主張する経済学者が現れていることです。消費税増税派にとって、この新説は、それこそ願ってもない援軍です。
周知のように、消費税の逆進性とは、消費税の負担率を所得階層別に計算すると、低所得者ほど負担率が高くなり、高所得者ほど低くなるという消費税の不公平な特徴、最悪の大衆課税としての本質を示しています。
「消費税は逆進的でない」という新説を主張する大竹文雄阪大教授(政府税調・専門委員)は、こう述べています。
「私が調べたところでは消費税にはほとんど逆進性がありません。確かに、1年間の所得だけを見て高所得者と低所得者の消費税負担率を比べれば逆進性はあります。しかし、一生のうちに得る『生涯所得』で比較すると、『生涯消費税支払額』は『生涯所得』にほぼ比例しているのです。…この考え方は、今年5月に開かれた政府税制調査会でも報告しました」(『通販生活』〇七年秋冬号)
消費税の逆進性を否定する大竹教授のキーワードは「生涯所得」です。若年・壮年期には老後のために貯蓄をするので消費は所得に比べて少ないが、老齢期にはそれを取り崩して消費に回すので、生涯を通じてみると所得と消費は等しくなる、だから「生涯所得」でみると、消費税は比例的だというわけです。
しかし、大竹教授の新説には、二重、三重に首をかしげざるをえません。
消費階級別データから生涯所得のデータを求めるのは、理論的にも統計的にも無理
第一に、貯蓄された所得も将来は消費に回るという仮説(「生涯所得=生涯消費」)の前提となっているのは、近代経済学の「ライフサイクル仮説」(注1)です。
この仮説は、生計費として消費される勤労所得の場合には、ある程度あてはまっても、利潤や利子、配当などの資本所得には、多くの場合あてはまりません。高額所得者の資本所得は、その大部分は消費に回らずに金融資産として投資されて新たな資本所得を生み、しだいに累積して遺産として相続されていくからです。
第二に、大竹教授は、「全国消費実態調査」の未公表の基礎データを「特別集計」して消費階級別データを求め、それをもとに生涯所得階級別データを算定したと述べています。
しかし、「全国消費実態調査」は、もともと「生涯所得」を調査するための統計ではありません。年間収入の調査は、全世帯を対象にしていますが、家計支出は九〜十一月の三カ月間という限られた期間の調査です。
大竹教授の「特別集計」の詳細は明らかにされていませんが、消費階級別データで序列化した所得階級別データを「生涯所得」とみなすことは、「生涯所得=生涯消費」の仮説を前提としており、統計的に無理があります。
第三に、大竹教授の言うように「生涯消費税支払額」が「生涯所得」に比例的になるためには、税率も「生涯税率」として固定されていなければならないでしょう。
もし税率を引き上げると、年齢別の「生涯消費税支払額」が変化し、世代間の比例性が崩れてしまうからです。同じ年齢、同じ「生涯所得」の場合でも、所得の獲得時期は同じとはかぎらないので、税率が変化すると「生涯所得」にたいする消費税の比例性は崩れてしまいます。
消費税の逆進性の根源には、消費されない資本所得には課税しないしくみがある
消費税の逆進性の根源には、消費する時点で勤労所得には根こそぎ課税して、消費されない資本所得(利潤、利子、配当など)にはまったく課税しないという不公平なしくみがあります。これこそ大衆課税としての消費税の階級的本性です。
消費税の逆進性を否定する理論的根源には、「生計費として消費される勤労所得(賃金)」と「消費されずに資本へ転化する所得(利潤)」とを同じ所得とみる経済理論があります。
マルクスは、『資本論』のなかで、俗流経済学者は賃金も利子も地代も同じ所得とみなすことによって、搾取のしくみを隠ぺいし、資本主義体制を弁護すると述べています(注2)。
現代の体制派の経済学者も、十九世紀の俗流経済学者と同じように、賃金と利潤の違いを隠すことにおいては、いささかも変わりません。さまざまな仮説、高等な数式、複雑な統計を使って庶民をけむに巻くだけ、かえってたちが悪いといってもよいでしょう。(友寄英隆)
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(注1)「ライフサイクル仮説」とは、「現在保有する資産+生涯所得=生涯消費」となるように毎年の消費額が決まるという仮説
(注2)『資本論』第三巻第七篇第48章「三位一体的定式」