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金融機関の隠れ損失はどこにある---【サブプライム禍、連結はずしに疑心暗鬼】---(日経NB-online)
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投稿者 ミスター第二分類 日時 2008 年 3 月 31 日 21:50:55: syFUAx3Wc1pTw
 

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金融機関の隠れ損失はどこにある---【サブプライム禍、連結はずしに疑心暗鬼】---(日経NB-online)

2008年3月31日 月曜日 杉田 庸子

 3月中旬に破綻した米投資銀行第5位のベアー・スターンズの救済に、当初のJPモルガン・チェースに加わり、ニューヨーク連銀も乗り出した。再建策ではベアーの不良資産を切り離して、JPモルガンが出資する不良資産の受け皿会社を設立、不良資産の買い取り資金をニューヨーク連銀が融資する。不良資産を切り離されたベアーはJPモルガンが吸収合併する。これにより創業1923年の歴史ある投資銀行は幕を閉じることになる。

 ベアー・スターンズは2007年6月に傘下ヘッジファンドの巨額損失を報告し、米国内におけるサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題の皮切りになった銀行である。同社はMBS(住宅ローン担保債権)の組成に関してトップの位置を維持してきた経緯から、信用収縮で時価が暴落したCDO(債務担保証券)の残高も他行に比べても非常に高く、ゆえにサブプライム問題の影響を一番強く受けていた。

 ベアーの破綻を受け、FRB(米連邦準備理事会)は300億ドルの特別融資枠を設け、ニューヨーク連銀を通して具体的に融資の実行に乗り出した。底なしの様相を見せているサブプライム問題に対して、金融政策にとどまらず個別具体的な対策に当局自ら乗り出していく姿勢を見せることで、市場の混乱に歯止めを図ろうとしている。


□大手金融機関の決算では、取りあえず爆弾は出ていないが

 問題はベアーに対する救済策の実施だけで、本当に爆弾が取り払われたかだ。この2月から3月にかけて、大手金融機関が巨額の損失を次々と計上していることは、市場にとって不安要因であることは間違いない。

 2月下旬、世界最大の保険会社大手であるアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)は、2007年10〜12月期決算で110億ドル(1兆1000億円)の債権関連損失を計上するとの報告を行い、52億9200万ドル(5292億円)の大幅赤字に転落した。

 AIGは、サブプライムローンで債務不履行が発生した投資家への支払いを肩代わりする保証業務であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)に注力しており、2007年12月31日時点で5270億ドル(52兆7000億円)のリスクエクスポージャーを抱えていた。その時価評価で115億ドル(1兆1500億円)もの評価損失を計上した。

 また、3月中旬には米プライベートエクイティのカーライル・グループ傘下のカーライル・キャピタルが、債権者との協議で合意に至らず清算を決定した。カーライル・キャピタルは住宅ローン担保証券(MBS)の投資から多額の損失を計上しており、債権者から担保の差し押さえ処分を受けていた。

 一方、3月半ばに発表された大手投資銀行の第1四半期決算を見ると、ゴールドマン・サックスとリーマン・ブラザーズの決算(2008年12月〜2008年2月)は、市場予想を上回り、株価は過去最大の上昇率を記録した。ついで発表されたモルガン・スタンレーも予想を若干下回ったものの黒字決算を達成している。


□関連損失額は120兆円とも

 しかし、これで市場が安定したと言い切ることはできない。ここ最近、米ゴールドマン・サックスのアナリストは世界全体でサブプライム関連の損失が1兆2000億ドル(約120兆円)に達するとの試算をまとめた。

 ゴールドマンの試算では米系金融機関の損失は4600億ドルに上るとされているが、これまで米金融機関が発表した評価損は1200億ドルに過ぎず、かなりの潜在損失がみこまれている。

 損失の内訳は、住宅ローン関連証券の評価減が最も大きく、商業用不動産ローン、クレジットカードローン、自動車ローンのほか一般事業会社の社債の焦げ付きなども見込まれている。

 このようにサブプライム関連の焦げ付きがズルズルと長引いているのは、信用不安が金融商品の評価にネガティブなインパクトを与え、金融機関の決算を悪化させ、さらなる信用不安を生むという負の連鎖が起きていることによる。

 金融機関に関連損失を発生させているCDO(債務担保証券)やCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)、そしてレバレッジドローンと言われる金融商品は、信用収縮の影響を受け時価評価額が低迷しているため、決算ごとに多額の評価損が発生している。また、そういった金融商品を連結対象外の投資事業体に持たせ、損失を隠しているのではないかという疑念をマーケットが持っていることも、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が回復しない理由の1つと言える。


□「損失飛ばし」は健在なのか

 米国の会計設定の主体であるFASB(米国会計基準機構)は、エンロン事件の反省を受け、連結されない事業体に損失を飛ばすことを規制し、実質支配関係にある特別目的会社(SPE)のような特殊な会社の連結はずしを防ぐことを目的とする改定を行った。

 具体的には、「変動持ち分事業体の連結」(解釈指針第46号修正版、FIN46R)というものだ。解釈指針(FASB Interpretation)とはFASB基準書などについて詳しく解説するもので、FIN46Rは会計研究広報51号(ARB51)「連結財務諸表」を補足している。

 従来の会計基準は「過半数の議決権を有していること」を持って支配関係があるとし、連結対象とすることを要求していた。そのため、直接過半数の議決権を有しないSPEに関しては連結対象外となり、エンロンのように多額の損失をSPEに「飛ばす」処理が横行したわけである。

 FIN46Rでは、議決権以外の支配概念を導入し、持ち分投資総額が不十分で、他社からの追加的財務支援がなければその会社の活動資金を調達することができない事業体、あるいはその事業体に対する持ち分投資家が、支配財務持ち分という議決権を通じて当該事業に関する重要な意思決定を行う能力、ないしはその事業体の予想残存利益を受け取る権利、及びその事業体の予想損失を負担する義務を有していない事業体をVIE(変動持ち分事業体)と定義している。


□新たな抜け道投資会社の実態

 VIE に対して資金調達に必要な追加的支援を提供する投資家が、変動持ち分保有者と呼ばれる。変動持ち分保有者は、その事業体の予想損失の大部分を負担する、予想残存利益の大部分を受け取る、あるいはその両方に該当する変動持ち分保有者がいる場合、当該保有者は「主たる受益者」と見なされ、その VIE を連結しなくてはならない。

 このようにFIN46Rの施行によって、SPEの連結範囲は大幅に拡大された。しかし、それでも銀行は「連結しなくていい」投資事業体の仕組みを開発している。例えば、2社や3社でジョイントベンチャー形態のSPEを作った場合、結果的にどの変動持ち分保有者からも連結されないという場合が生じ得る。

 こうした抜け道をかいくぐって設立された投資事業体が、上述したCDOやレバレッジドローンなどのリスク資産やデリバティブを保有し、そこからも多額の焦げ付きが生じているのが、今回のサブプライム問題を深刻化させている要因になっている。焦げ付きによって事業体の支援が必要になった場合、連結をしていない投資家も損失を補填する必要が生じ、予想していなかった損失が発生する可能性があるからだ。

 VIEの一種である仕組み投資会社(SIV)に関しては、昨年末にかけてHSBC、シティバンクなどの大手金融機関が連結対象とし、シティバンクは590億ドル(5兆9000億円)の追加資産を計上した。SIVは資産担保コマーシャルペーパー市場などでの起債を通じて短期資金を低コストで調達し、モーゲージ債などの高利回り債券に投資していたが、信用収縮に端を発した資金繰り難から保有資産を一斉売却しなくてはならない恐れが生じた。

 資産の投げ売りが起これば債券の価格は暴落し、市場全体で損失が発生しかねない。大手金融機関はSIVへの支援を表明することで資産価値の急落を防ぐ代わり、「主たる受益者」の要件を満たすこととなり、自らの連結対象とせざるを得なくなったわけである。連結したハイリスク資産の価値が下落すれば決算に直接影響する。


□VIE関連の損失は9兆円に迫るという報告も

 調査会社クレジットサイツは2008年2月、金融機関はVIEによって新たに880億ドル(8兆8000億円)の損失を被る恐れがあると発表しており、各金融機関の連結対象となっていないVIEの「隠れ損失」に注目が集まっている。

 SIVに関しての連結がなされた後も、シティバンクは3563億ドル(35兆6300億円)もの資産を連結対象外の重要なVIEに保有している(2007年12月31日現在)。シティバンクの総資産1兆8843億ドル(188兆4300億円)と比較しても小さな数字ではない。

 FASBは「連結はずし」に目を光らせており、現在、連結対象となっていないスキームに関しても、現行ルールを変更し連結対象とするか、開示を充実させるかの検討を行っている。


□厳格な公正価値評価と金融界からの緩和を求める声

 各会計事務所の金融商品に対する監査も今年は例年以上に厳格なものとなった。このサブプライムローン問題と金融商品の公正価値に関する新しい基準、財務会計基準書(FAS) 157号「公正価値」の金融機関への適用初年度が重なったこともあり、会計事務所の対応は慎重なものにならざるを得なかった面がある。

 上述したAIGの巨額損失に関しても、監査人であるプライスウォーターハウスクーパースの厳格な対応があったもようと伝えられている。

 こうした会計監査の厳格化の動きに対し、金融界からは

「厳格な公正価値評価がいっそう金融危機を深刻なものにしている」
「市場を規制するルールが新たなパニックを作ることは無意味だ」

としてルールの緩和を求める声が上がっている。

 3月18日にはAIGのCEO(最高経営責任者)であるマーティン・サリバン氏がドバイで行われている保険業界会議において、時価評価の短期凍結を求める旨を公言した。

 「AIGは債券を満期まで保有するのに十分な資金力を有しており、現在の流動性の低い市場での時価で金融商品を評価することに意味はない」ことを、その理由として挙げている。

 SEC及びFASBは現時点で既存ルールを改定する予定はなく、この3月の四半期末にも公正価値評価を徹底すべし、という書簡を各金融機関に向けて発送する予定とのことである。SECのスポークスマンは、上述したAIGのサリバン氏の発言に関してもコメントを拒否しており、金融界とは全面対決の様相だ。


□健全な資本市場を守るのに必要な態度とは

 市場の流動性と時価評価の問題については、日本でもかつて同様の見解があった。日本では金融商品の時価会計は2001年、デフレ真っ只中に導入されたが、日本の産業界からは、金融収縮が起きている時期に時価会計を導入すると決算を悪化させ、それがさらにデフレを招くという趣旨の意見が出されていた。

 そうした意見にもかかわらず日本で時価会計を導入したのは、米国で導入されている時価会計を日本にも拡大することで米国の投資家を保護する側面もあった。その状況を考えると、今の米国の投資家などから出されている時価会計に対する懐疑論は、あまりにも皮肉と言える。

 私見を述べれば、リスクの所在が隠されるような会計基準の変更は、許されるべきではない。そもそも、ここまで信用不安が拡大した今、金融機関など投資家の財務諸表から損失額を消したところで、市場がその決算を信用するとは考えられず、ルールの変更が市場の安定に寄与するとも思えない。

 一連の問題の根本的な原因は、サブプライムローンの不適切な融資慣行、証券化金融商品のリスク評価が不十分だったことがある。そうした面を根本的に改める原動力になるのは、リスク評価などの基準を厳格にすることであって、会計基準を緩めることは将来に禍根を残すような混乱をもたらす可能性すらある。

 会計の透明性を高めることこそ、市場のパニックを防ぐ最良の処方箋であるという意識を市場参加者である各金融機関には持ってもらいたい。

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