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日銀総裁人事 3つのシナリオ〜手詰まりの背景をどう読むか〜第一生命経済研究所
発表日:008年3月26日(水)
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 熊野英生(пF03-5221-5223)
総裁空席は、打開が見えない。蓋然性のあるシナリオを考えると、(1)白川代行がそのまま総裁昇格、(2)財務官経験者が就任、(3)福井総裁の再任、という3つの可能性がある。日銀総裁人事は、意思決定が何にプライオリティを置いているかが見えない点がもどかしい。過去からの財金分離を巡る政治的思惑が、見えない意図の背後にあると解釈できる。
○起こってしまった総裁空席
日銀総裁が空席という異常事態のまま、3月20日からの白川方明代行体制が始まった。早くも3月25日の衆院財務金融委員会では、白川・西村清彦両副総裁が経済・金融政策に対する答弁に立つこととなった。
現状の国会運営では、野党がガソリン税の暫定税率の修正協議に応じず、交渉決裂の様相を呈しており、日銀総裁人事についても前進が期待しにくい。このままだと、次回金融政策決定会合の予定される4月8・9日にまで正式な日銀総裁不在が続く可能性がある。
そして、4月中旬にはワシントンでG7開催が予定される。そうした重要イベントまでに日銀総裁という責任者が決まらなければ、金融政策が内外の経済政策と連携してしっかりと動くことができない。
以下では、衆参両院が折り合えるような次期日銀総裁の人選について、その蓋然性が高い3つのシナリオを考えてみた。ここに挙げたシナリオは、日銀総裁人事を巡って、利害が複雑に絡み合った与野党の思惑がある程度満たされるシナリオだけをピックアップして検討したものである。
ケース1:白川代行から総裁へ
当面、日銀総裁の空席が続くとなると、白川副総裁が総裁代行を務める期間も長くなる。そうすると、与野党がともに白川副総裁の答弁や采配に注目が集まる。
そうなれば、白川副総裁への信頼感が増して、副総裁から代行へ、そして総裁への就任と移行していく可能性が高まる。白川副総裁の場合、与党が初めに名前を挙げたということ、野党が参議院でも副総裁就任に賛成した、という経緯がある。
野党は、総裁昇格に反対しないだろうし、与党は主導権を握っているという印象を守れるので、与野党が合意に動きやすい。与野党の面目が双方とも守れるのが、このシナリオである。利害調整の容易さについて蓋然性が高いシナリオとみられる。
さらに、白川副総裁が昇格すると、抜けた副総裁ポストに財務省出身者を送り込みやすいという別の思惑もある程度満たされる。白川副総裁が58歳ということで、副総裁として送り込まれる財務省出身者の年次も白川副総裁と同じ年齢か、より若い人を推しやすい。
与党にすれば、総裁を補佐する副総裁のポストであるので、野党からの財金分離が守られないという批判は当てはまりにくくなる。日銀の体制が大きく若返ることもアピールできる。
ケース2:財務官経験者の総裁
与党が田波耕治氏を二番目の日銀総裁候補として挙げる前に、鳩山幹事長は、黒田東彦アジア開銀総裁か、渡辺博史国際金融情報センター顧問という財務官経験者の名前を、容認できる人選としていた。
ところが、野党が挙げた名前に与党が追随することはなかった。従って、今度は与党がそれに同意すれば、このシナリオになる。
なお、財務官出身者の若すぎる年次が、財務省OBのメンバーから受け入れられなかったという見方もできるが、その点はあまり本質的とは言えない。
また、このシナリオは、与党にとって野党の人選を認めるというばつの悪さが残るかたちになるが、それを甘受すれば日銀総裁の空席を高い確率で回避することができる。各方面から総裁空席への批判が強まるほどに、与党は次の人選を手堅くしようと考えるので、そのときは財務官経験者が推される可能性は高まる。
現状、副総裁の両名は理論家なので、国際畑に強みがある元財務官の起用は、ある意味でバランスがよいということになる。
ケース3:福井総裁の再任
福井前総裁を再任するアイデアは、実は田波氏が正式な候補者として挙げられる前段階で、与党から野党へと打診された人選である。しかし、野党は村上ファンド問題がネックになって、福井前総裁を容認できなかったのだろう。
福井前総裁ならば、即戦力として力を奮えるし、海外当局者に対して存在感で負けることはない。
難点は、野党が村上ファンド問題を材料に福井総裁に色のよい返事をしなかったことにこだわるかどうかだ。今後、野党が総裁空席リスクへの批判を強く受けるようになると、過去の経緯を水に流して福井総裁の再任で話をまとめる可能性は高まる。
このシナリオは、野党が一歩引いて、与党が主導権を発揮した印象になる点で、与党に都合がよく、野党にはやや不都合な面がある。
手詰まり感の背景
最後に、そもそも日銀総裁人事に関して、なぜこれほどもめるかを考えてみたい。
筆者のように経済分野に身を置く者としては、政治のプライオリティが全く見えない点がもどかしい。空席リスクを回避することが重要であることは言うまでもないが、ベストな人選をすることが最優先である。
ベストな人選のために、野党がNOを突きつけているのならば、しかるべき候補者を立てない与党に問題がある。 しかし、現状はそうではなさそうだ。与党には、総裁候補に財務省出身者に対する強烈なこだわりがあるように感じる。
反対する野党にしても、財務省出身という出自が先に来て、人物の見識がその次に置かれている。これは順序が逆ではあるまいか。野党の優先順位には、財務省出身者を日銀総裁につけないことが最前列にある印象がある。
一方、野党側には同じ財務省出身者であっても、主計局出身は財金分離の観点から問題があって、国際畑の財務官経験者はそれに該当しないという説明もある。だが、この理屈はもっとよく理解できない。
少なくともバブル生成以降の金融政策は、国債管理政策に釘づけになって機動的な政策運営ができなかったのではなく、国際協調に縛られて機動性は発揮できなかったというのが多くの先行研究が示しているところだ。
筆者は、野党が財務省出身者を敬遠することの背後に、10数年前にあった「財金分離」を巡る思惑があると思う。
今は、大方の人が財金分離とは、財政政策と金融政策の利益相反が懸念されることを指していると考えているが、10数年前に用いられた「財金分離」という用語は、大蔵省解体論の主張の中で、金融行政を財政運営との関係から切り離すという意味で使われていた。
1996年12月には当時の与党3党が検査・監督機能を大蔵省から分離する方針で合意し、省庁再編を経て現在の金融庁ができた。
大蔵省には住専処理などの批判が集中し、大蔵省のあり方を見直してその権限を弱めるという政策意図が政治的に強まった。日銀法が改正されたのも、その脈絡から始まった。
現在の日銀総裁人事は、10数年前から脈々と生き続けてきた政治的な意図と同根の思惑が働いていると理解できる。これは、政治サイドの呪縛とも言える。
仮に、日銀総裁人事のプライオリティがそうした政治的意図に基づくのであれば、金融政策の本筋とは随分と違っていることになる。
皮肉な話であるが、健全な金融政策の運営よりも、政治的意図が優先されるのであれば、まさしく財金分離が守られなかったときの弊害と同じようなことが起きてしまう。すなわち、金融政策の独立した運営が阻害される弊害である。