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「経済コラムマガジン08/3/3(517号)
・米国経済の行方
・第二ステージの始まり
金融市場の撹乱要因であったモノライン問題にも一応の解決の道筋(モノライン大手の格下げは延期されたが、救済策はまだ揉めている)が見えてきたとして、株式市場も一時的に落着きを取戻した。しかし2月末から市場が再び大きく動揺し始めた。きっかけはバーナンキFRB議長の議会証言である。「大手金融機関は大丈夫であるが、中小の銀行の破綻は有りうる」と述べた。
この発言を受けて2月29日のニューヨーク株式市場では、ダウ平均が316ドルマイナスと大幅に下落した。本誌は「今回の米国経済の危機はサブプライム問題に端を発した。しかしとてもこれだけでは収まらない。」とずっと主張してきた。おそらく市場参加者も薄々そのことを承知していたはずである。バーナンキFRB議長は恐れていた現実を人々の前に示したことになる。サブプライム問題に端を発する一連の出来事(欧米金融機関の巨額な損失の発生やモノライン会社の格下げ騒動)が第一のステージなら、これから第二のステージが始まる。
08/1/28(第512号)「戦争をしている国」http://adpweb.com/eco/eco512.html で述べたように、米国経済が抱えているのは「金融不安」と「マクロ経済の失速」の二つの問題である。モノラインの格下げ延期によって、一旦「金融不安」の方は去ったような印象を受けたが、実態はそうではなかったことが明らかになった。バーナンキ議長は「今後金融不安が起ってもこれは限定的」と言いたかったのであろう。米政府とFRBが一番恐れているのは、「金融不安」と「マクロ経済の失速(実態経済の悪化)」が相互作用して、米国経済がスパイラル的に落下することである。またバーナンキ議長は政府系ファンドの米金融機関への出資を容認する発言を行っている。政府系ファンドに懐疑的だったFRBも、そこまで追い詰められているという印象である。
第二ステージで印象的なのが為替の動きである。米ドルの全面安が急速に進んでいる。2月29日の米国の為替相場の終値で103円台後半まで米ドル安・円高が進んだ。しかし筆者は米ドル安への転換がちょっと遅い印象を受ける。FOMCが大幅な利下げを決めたのは、1月の半ばから末にかけてである。一ヶ月以上前のことである。筆者はずっと何故米ドル安が起らないのか訝しく思っており、本誌でもこのことを取上げる矢先であった。
米ドル安は長期的な流れに沿ったものと考える。だいたい「強い米ドルが米国にとって利益」というこれまでの米国政府首脳の発言はばかげており異常だったのである。この場合の米国とは、米国民ではなく、米国の一部の者や一部の企業にとって都合が良かったに過ぎない。長年の米ドルの過剰評価によって、米国の製造業は既にボロボロになっている。たとえ米ドル安が進んでも、米国は輸出するものがないという状態になりかねない。ただ米国の輸入は確実に減り、貿易収支は多少改善するであろう。
ただし今回の急激な米ドル安を演出しているは投機筋である。今後、米国の金利が引下げられるということがはっきりしている以上、米ドル売りにリスクは小さいと判断したのであろう。筆者は、きっかけは投機筋の米ドル売りであるが、米ドル安の流れは当分続くと見ている。
今回の米ドル安で面白い現象が起っている。低金利の米ドルを売って、オーストラリアなどの高金利の国の通貨で資金運用するという動きである。円キャリー取引の米ドル版である。たしかに米国の金利は日本を除けば世界で一番低くなる。したがって米国で資金を調達し、他国で運用するというこのスタイルが定着する可能性がある。しかしこれによって米ドル安がますます進むことになる。
・経済の牽引役の消滅
今週の本題は、今後の米国経済の行方である。少なくともここまでは「米国経済は今年の前半は低迷するが、経済対策が効果を発揮し、年後半には回復する」と一般に言われている。中にはV字回復を予想する向きもある。しかしこれらの意見に筆者はずっと懐疑的であり、米国の経済はもっともたつくと見ている。もちろん米国政府や金融当局(FRB)がどのような追加対策を行うかによって状況は変わってくるが。
筆者の考えには二つの根拠がある。一つは米国の住宅価格の下落がまだまだ続くことである。先日公表された、昨年10〜12月のシラー住宅価格指数は、対前年同期で8.9%下落した。08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」で「主要10都市の住宅価格は昨年10月まで15ヶ月連続で下落し、値下がり率が7%に達した。」とシラー教授の発言を引用したが、直近の住宅価格の下落率はもっと大きくなっていることが分る。
筆者は、住宅価格の下落が続く限り、経済対策の効果も限定的と見る。そこで問題になるは「いつまで住宅価格が下落を続けるのか」と「その下落スピード」である。少なくとも下落スピードは前述したように加速している。
住宅価格の下落は当分続くという他はない。おそらく適正価格近辺まで下落は続くと見る。バーナンキFRB議長までも、議会で「住宅価格の下落は来年あたりまで続く」と証言しているくらいだ。逆に住宅価格の底入れは米国の経済活動の活発化とも密接に関係するので、米国当局の今後の経済政策に負う部分が大きい。もし日本のバプル崩壊時のように構造改革派が台頭(橋本政権時代の行財政改革運動など)して、経済政策が混乱すれば住宅価格の底入れはどこまでも遠のくことになる。
筆者は少なくともV字回復は無理と考えている。米国は長い間、先進国の中で高い経済成長を続けていた。したがって情勢が落着けば、また高い経済成長が復活するという人が多い。しかし筆者はこれは錯覚と考える。
筆者は、米国の経済成長が高かった大きな理由は、ヒスパニックなどの移民の経済活動が活発だったことと理解している。具体的には住宅建設である。まさに今日問題になっているサブプライムローンによる住宅投資がかなり米国経済を引張っていたのである。07/11/5(第503号)「米国のサブプライム問題」http://adpweb.com/eco/eco511.html で述べたように、「内なる新興国」、つまりヒスパニックを中心とした移民社会の活発な経済活動によって、米国経済は高い経済成長率を実現してきたのである。
一国の経済が成長するには、貯蓄を投資や消費に使う主体(具体的には政府、民間企業、家計など)が必要である。米国では「内なる新興国」が住宅投資を活発に行ってこの貯蓄を使っていた。また高い経済成長に引かれ、日本やアジアそして産油国から大きな資金が米国に流入し、これが住宅や不動産の次のバブルを形成した。
しかし経済の牽引役だった「内なる新興国」は消滅したのである。これがV字回復は無理という二つ目の理由である。サブプライムローンが復活しない限り(このようなことは非現実的である)、おそらく「内なる新興国」は復活はしない。つまり米国は経済成長の大きな要素がなくなったのである。また民間企業の投資の増加も期待薄である。米国企業が投資を増やすとしても、国内ではなく海外である。したがって貯蓄を使う主体は政府しかない。このような状況ではV字回復なんてとても考えられない。
本誌はずっと構造改革派の主張を論理的に否定してきた。来週は、それに加え構造改革派と言われる人々の卑怯さを指摘する。 」