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ニューヨーク・伴百江(08/2/15)
米国のヘッジファンド業界で昨年最も関心を集めた商品のひとつに「サブプライム逆張り投資ファンド」がある。信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)関連の証券化商品をカラ売りして「値下がり益」を得る投資手法を取り入れたファンドだ。サブプライム危機が深刻になればなるほどもうかる仕組みで、巨額の運用収益を上げたファンドも少なくない。ところが、こうした逆張り派の一部が、早くもサブプライム後をにらんで動き出しているという。
「ポールソン・クレジット・オポチュニティーズ2」ファンド。ヘッジファンド運用会社(本社ニューヨーク)のポールソン・アンド・カンパニーが昨年1月に新規設定したこのファンドは「逆張りファンド」の代表格。米ヘッジファンド業界雑誌「アブソルート・リターン」の07年に最も成功したファンドにも選ばれた。
運用開始時に1億3000万ドルだった運用資産は年末に24倍の32億ドルに膨らんだ。1年間の総収益率(証券の値上がり益と金利の合計を元本で割った比率)は実に350%。運用収益の拡大につれて投資家の資金が殺到した。
「サブプライム逆張りといっても、言うはやすく行うは難し」――。あるヘッジファンド運用会社のトレーダーは言う。少なくとも2年ほど前まで、ポールソン社が設定したような逆張り投資は存在しなかった。住宅物件や住宅ローン債権をカラ売りする市場はあり得ず、住宅ローン担保証券(RMBS)を株式のように空売りすることも難しい。カントリーワイド・ファイナンシャルなど住宅ローン会社の株式をカラ売りするくらいしか逆張り投資の手段はなかった。
金融テクノロジーが「サブプライム逆張り投資」を可能にした。06年に米金融情報サービス会社マークイット・グループがサブプライムRMBSの指数であるABX指数を開発。同指数が店頭市場で取引されるようになり、株式と同じように複数のサブプライムRMBSをバスケット売買できるようになり、この指数のカラ売りを通じて、サブプライム関連証券の逆張り投資ができるようになった。同時に経営の悪化した企業の社債投資の際に一種の保険として開発されたクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が普及。住宅ローン会社のCDSに投資して逆張り投資する道も開けた。
資産担保証券投資専門のヘッジファンド、MKPキャピタル・マネジメント。同社はポールソンと並んでサブプライム危機を投資の好機に転換した数少ない運用会社の1つだ。運用する5本のファンドのうち、昨年年間の総収益率は最大で40%を確保した。
「米住宅市場の異変を最初に感じ取ったのは05年終わりのこと」。MKPのプリンシパル、アンソニー・レンブキ氏は、住宅価格の上昇ペースが鈍り始め中古住宅販売が突然減速したのをきっかけに住宅市場の先行きに懸念を抱き始めたという。06年に入って売れ残り住宅在庫が急激に増えるにつれ、住宅価格が下落して1番痛手を被るのはサブプライムローンの借り手だと認識。06年半ばあたりからモーゲージ会社のCDSへの投資やABX指数の空売りを始めたという。
レンブキ氏は、“モーゲージ証券の産みの親”と呼ばれるルイス・ラニエリ氏が80年代に活躍した旧ソロモン・ブラザーズの住宅ローン担保証券事業部門出身だ。このモーゲージのプロは「住宅ローン価格が底をつけるのは早くて09年。ローンのデフォルト(債務不履行)とそれらのローンからの損失はあと3年超は高水準が続く」と悲観的だ。
そのレンブキ氏が予想外の言葉をつぶやいた。サブプライムRMBSの中にはかなり価格が下落したものもあり「そろそろ買い時だ」というのである。サブプライム逆張り派による住宅ローン市場の見通しはサブプライム証券市場の行方を占う上で重要なサインになる。ただ弱気見通しが長引けばサブプライム逆張り投資もしばらく続くと思うのは素人判断のようだ。同氏は「サブプライム証券の空売りで儲けられる余地はもう限られてきた」と指摘する。
ABX指数の値動きをみてみよう。06年前半に組成されたサブプライム住宅ローン(格付けトリプルB)で構成するABX指数は直近で16前後。06年7月には100まで上昇したことを踏まえれば、まさに「サブプライム証券の価値は劇的に下がった」(レンブキ氏)といえる。
レンブキ氏の側近に聞くと、逆張り派が次に注目しているのはディストレスト(デフォルトや経営悪化などで価格が急落した証券)投資だという。倒産した企業の社債や値下りしたサブプライム関連の一部証券などが対象で、いわば底値買いの順張り投資といえる。MKP以外にも「同商品に目を付け始めたヘッジファンドが何社か出てきている」という。
市場のゆがみをいち早く察し、誰よりも早く潜在成長力のある投資先をみつけるのが役割のヘッジファンドは「逆張り投資」の賞味期限をかぎ取って、すでにポスト・サブプライムに照準を定め始めたようだ。