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2008/2/12
「政策協調よりも資本増強 東京G7 〜ポールソン財務長官の自信は本物か〜」----(第一生命経済研究所)
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/kuma_index.html
Financial Trends 経済関連レポート
政策協調よりも資本増強 東京G7 発表日:2008年2月12日(火)
〜ポールソン財務長官の自信は本物か〜 第一生命経済研究所 経済調査部
東京で8年ぶりに開催されたG7では、具体的な政策協調は議論されず、金融機関の情報開示と資本増強が謳われた。
議論を主導した米国は、自助努力ができる範囲で頑張って金融システム不安を乗り切ろうという構えである。
資本増強が、事後的にうまく行けば、信認の回復がドル高につながるが、反対に資本増強を手当てできない金融機関が現れれば、ドル不安を誘発する。
G7の通貨外交は、不安定な信認の基盤の上に立たされているように見える。
○政策協調への見方
G7の共同声明は、冒頭「世界はよりチャレンジングで不確実な環境に直面している」と、前回「世界の経済成長は、力強い成長が5年目に入っている」(2007年10月ワシントン)との認識から大きく下方修正された。
さらに、先行きについては「我々は、依然として下方リスクが存続していることに留意」と警戒色を強めている。
先進国の景気減速が新興国には波及しないというデカップリング(非連動)の見方に関しても、さすがに「新興市場国は、やや減速しつつも、底堅い成長を続ける見通し」と前回G7よりもトーンダウンしている。
今回のG7で注目されていたのは、日米欧が政策協調して金融危機に当たるかどうかであった。
しかし、額賀財務大臣と福井総裁の会見では、インフレと景気のリスクのどちらを採るかは「各国がそれぞれの状況に応じて最も適切な政策を採る」と協調行動とは距離を置いた。
欧州サイドも、今のところ「景気刺激策を打ち出した米国と共同歩調を取る必要はない」と冷ややかだった。
米国だけが大統領選挙を前に、1,500億ドルの減税政策と年初来▲1.25%の利下げと矢次早に対策を打っている。日本と欧州と米国の間には、三者三様の温度差がある。
声明文には、「個別にあるいは共同して、適切な行動をとっていく」と表現されていても、実際のところ政策協調の現実味は感じられない。
協調行動の範囲は、欧米の短期金融市場への流動性供給のレベルに止まるのが実情のようだ。
○欧州の金融政策とユーロドル
政策協調の可能性が焦点になっていたのは、日米欧のうち欧州の金融政策に変化が窺われるからである。
ECBのトリシェ総裁は現時点で「中央銀行の責務は物価安定だ」と金融政策のスタンスに関してはあくまでタカ派姿勢を崩さないが、景気認識に絞ると「金融市場でリスクの見直しが行われ、これで異例の不透明感が生じている。
リスクは下向きにある」と素直に悪化リスクを認めている。
最近の為替市場では、ユーロドル相場が1ユーロ=1.50ドルを目前にして、これまで高くなりすぎたユーロがピークをつけた印象がある(図表)。
このユーロ高修正の背景は、ECBが認めなくとも、今後景気の下方リスクの認識が深まって、早晩利下げに追い込まれるという読みがあるのだろう。
G7におけるトリシェ総裁以外の欧州首脳たちの発言にしても、その流れを否定するものではなかった。
特に、ドイツのシュタインブリュック財務相がG7後、サブプライム問題に関する損失(直接償却)が4,000億ドル(約43兆円)に及ぶとG7が推計したのは少し驚かされる。
この数字は、これまでOECDが発表した3,000億ドル、IMFの最大2,000億ドルよりも大きい規模だ。
仮に、欧州が景気悪化に直面し、ECBの利下げが現実味を帯びてくると、ドル円相場についても、ユーロ高が是正された後で、潜在的なドル安の圧力が円の方に向かってこないかが気掛かりとなるだろう。
○自信をうかがわせた資本増強
今回のG7は、議長国が日本であったので、日本のリーダーシップの発揮が期待された。しかし、声明の内容などからは、米国主導の色彩が強かったように思われる。
とりわけ、声明文で、金融機関が
「必要に応じ資本増強策を講じることは、重要な役割を果たす。我々はこのプロセスが継続することを推進する」
としているのは、米国の方針そのものを代弁している。
米国が主導するG7のメッセージは、各国間の政策協調よりも、金融機関に対する情報開示と自助努力の要請であった。
ポールソン財務長官自身の発言に注目すると、資本増強の自助努力を求める言葉の端々には自信のほどが感じられる。日本においてポールソン財務長官がマスコミと交わしたインタビューでは、「私が強調したいのは(金融機関が)損失を素早く明らかにし、資本を調達することだ。我々は外国からの対米投資を歓迎する。外国からの投資は(米国に対する)究極の信任投票だ」と話していた。
筆者にはまだ現時点で、こうした個別の資本増強策が万事うまくいくかどうかは半信半疑のところがある。
当面、3月上旬まで続く欧米金融機関の決算で、本当に資本増強がうまくいくかどうかを見極めたい。
もしも、ポールソン財務長官の自信の裏側に、水面下での交渉があって、金融機関の自助努力が実り、首尾よく金融危機を封じることができるのならば、そのことは事後的にドル高として相場形成で好感されることになるだろう。
逆に、米国財務省の自信が根拠のないものだという評価が下れば、ドル安を加速させてしまう。
米国の通貨外交は、危うい信認の基盤の上に立たされているようにも見える。
ところで、ポールソン財務長官が明快に公的資金の活用を否定するのであるが、その点についてはどう理解するべきだろうか。
まず、米国は大統領選挙のタイミングであることから、軽々に公的資金を認める訳にはいかない事情がよくわかる。
筋論から行けば、民間同士の自助努力が尽きた後で、公的資金の選択肢が浮上する手順になる。
ポールソン財務長官は、まだ自助努力の可能な範囲内であるとの認識なのだろう。
一方、筆者は米国が公的資金を封印し続ける対応には限界を感じる。
日本の不良債権処理の教訓は、民間部門で誰もリスクをとれなくなる局面に追い込まれる前に、事前的に公的資金の活用をしておいた方が長いスパンで不良債権コストを小さくできるということであった。
今、米国の金融システムが直面しているのは、バブル崩壊による連鎖危機である。
モノラインの危機は、預金保険制度が保険料だけで損失を穴埋めできなくなった構図に酷似している。
米国では、クレジットカードなど消費者信用に損失拡大の波及が広がりつつある。セーフティネットの接着剤が切れたとき、投資家心理は最悪をイメージして株式市場をはじめマーケットが大混乱するだろう。
危機の連鎖が先見的には抑止できない可能性があるので、事前的に公的資金の活用が合理的選択になる。
筆者の見方が杞憂で終わり、ポールソン財務長官の方策が成功を収めることが願うばかりである。
○進んでいく規制強化による健全化路線
前々からG7の主要な議論として、ファンド規制があった。今回は、その問題意識が、金融機関の損失開示へと移っている。
G7の声明では、(1)金融機関による金融仕組み商品の情報開示、(2)オフバランス機関の開示改善(SIVファンドの内容開示)、(3)格付け会社における利益相反への対応、などが挙げられた。
これらの点は、金融安定化フォーラム(FSF)の中間報告を踏まえた内容である。
そもそも、こうした規制論は、金融危機の伝播を食い止める対応という性格のものではなく、平時のルール作りという違った次元の議論である。
しかし、G7の論法では、厳格なルールを改めて確認し、個別金融機関が潜在的損失をすべて表面に出し切ることで、金融市場の不信感を断ち切ることができるということになる。
G7で資本増強が謳われるのは、資本不足で潜在的損失をすべて出せないことがないように、という脈絡になる。
G7の認識は、暗黙のうちに潜在的損失の大きさが、金融機関の自助努力で穴埋め可能という前提に立っているのが特徴である。
つまり、危機が連鎖的なものであり、事後的に手が付けられなくなるシステミックリスクに発展しないという結論が議論の前提にあると理解できる。
しかし、筆者は、今が事前的に公的資金が必要かどうか、判断の分かれ目なのかもしれないと感じる。